山海経 ロア遭遇編   作:。ばーしぱす

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アブノーマル・アサルトⅢ 終曲無間

「――行ってきます」

 

 床に()いつくばる霊異を足蹴にしながら、カグヤがバスの後方へと歩き出す。

 

 ミナは左手を高く振り上げることでそれに応える。

 

 

 ――バババババッ!!

 

 …静から動へ、バス中央で素早く射撃体勢をとり、カグヤは最後尾の霊異を狙う。

 

 放たれた銃弾はその狙い通りに霊異の頭に直撃するかに思えたが、すんでのところで頭巾から飛び出した白いナニカの束によって防がれてしまった。

 

「なるほど……バスを這うアレは貴方の頭髪なのですね。――ハアッ!」

 

 その距離からの射撃が効かないとみたカグヤが、即座に霊異の方へ駆け出す。

 

 

 ダッ! ダッ! ダンッ!

 

 後部座席に到達する寸前に前方へと跳躍し、空中で回転しながらの回し蹴り。

 

 霊異は先のように頭髪でガードしようとするが、カグヤは後ろ脚で座席を蹴りつけることで、白髪ごと霊異の頭に足をねじ込む――。

 

 微動だにしなかった霊異の体勢が大きく崩れる。

 

 そのとき、霊異がここにきて初めて、その手でカグヤの足を防御するために(つか)んだ。つい掴んでしまった。

 

 

「勝機!」

 

 

 これがカグヤの狙いであった。

 

 カグヤは足を掴まれると逆さの体勢から床に背を着け、銃を構える。

 

 ババババババッ!!

 

 足元からの超至近距離射撃である。

 

 ただし照準の先は霊異ではなく()()()()

 

 

「喰らいなさい!」

 

 ――霊異が足元から常に前方に伸ばしていた白髪だ。

 

 カカカカカッ!

 

 座席の足元の隙間で放たれた銃弾が縦横無尽に跳ね回る。

 

 当然それは射撃しているカグヤ自身にも当たるが、カグヤは決してトリガーを緩めない。

 

 

 ――カチッカチッ

 

 装弾が尽きることで射撃が止む…。

 

 前方を覆う白髪と霊異とを結ぶハブは限りなく断ち切られていた。

 

 ……逆に言えば完全に断ち切ることは出来なかった。

 

 

 霊異は床で傷だらけになったカグヤを白髪で縛り付けると、首のみをぐにゃりと傾け、カグヤの顔に近づける。

 

 その青白い光は何を見つめているのだろう。

 

 小刻みに揺れているのは失敗したカグヤをあざ笑っているのだろうか、それとも初めて自分を害する存在が出たことに震えているのだろうか。

 

 「ぐうっ………………!」

 

 巻きつけた白髪がゆっくりと、破裂しないよう慎重にカグヤを締め上げていく……。

 

 

「おい、化け物!」

 

 その瞬間、カグヤを拘束する白髪へ弾丸が飛んでくるとともに、バスの前方でひと際大きな声が響いた。

 

 霊異はカグヤを締め付けるのを止め、ゆったりと前方に顔を向ける。

 

 そこに見えたのはバス中央に(たたず)む、手負いの近衛ミナ、

 

  ――そして、その後ろで激しく燃え上がる白髪の巣であった。

 

 

「お前のコレはやっぱり髪らしいな!私がドジで引火したときと同様によく燃えるようだ!」

 

 ミナの左手には銀色の()()()()が、小さな炎を揺らめかせながら握られていた。

 

 生理的本能からか、身を後ろにそらす霊異。

 

 ミナはライターを前に持ち、このカラクリを話し始めた。

 

 

「お前に言葉が通じるのかは知らんが種明かしをしてやろう。私たちの目的は最初からお前のこれを燃やすことだったのさ――」

 

 

 ミナは霊異の出すナニカが可燃性であるという疑いを持ったのは、霊異に引っ張られて外に放り出されそうになったときだった。

 

 偶然発見した、カグヤの銃撃によって破られた白髪の端に焼け焦げた跡。

 

 近距離から銃弾が発射された場合に弾丸に残る発射残渣(ガンパウダー)

 

 これによって銃弾を(かす)めた部分が焼け焦げていたのだ。

 

 その後、ミナはいつも持ち歩いているライターの存在を思いついたのだった。

 

 

「ただ、燃やすにあたって2つ懸念があってな。1つはお前が髪を操作することで、ライターをはじくといった妨害をしてくる可能性、もう一つはお前たちが私を直接潰しにくる可能性だ。だからカグヤ部長に、お前たちへの牽制(けんせい)と挑発を頼んだ!」

 

 カグヤが足の曲がった霊異を蹴ったのも、霊異相手に接近戦を選択したのも、全ては霊異どもを押さえつけ、その注目を一身に集めるためであった。

 

 事実、カグヤとの戦闘で霊異は髪を自衛目的に操作しており、懸念は現実であったといえる。

 

 

「いいか?よく聞け。私はこの髪が燃え尽き次第、バスを停車させてお前を燃やしに行く……。カグヤ部長を締め上げようなどとは考えるなよ。それよりも私がお前を燃やす方が速い……!」

 

 炎が封鎖された窓を伝い、後部座席へと燃え広がっていくのに合わせて、ミナはライターを左手で持ちながら、ゆっくりとバスの後方へと歩を進めていく。

 

 追い詰められた霊異は小刻みに揺れるのを止め、立ち上がる。

 

 その青白い光を片時もミナから外さずに。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 バス全体に巣くっていた白髪の形がいよいよ崩れ始め、燃え落ちようかという頃。

 

 ミナはバスの中腹まで進んでいた。

 

 この時、ミナは心のどこかで、このまま燃え尽きるまで霊異が動かないことを期待していた。

 

 いくら霊異の忌避する火種を持つミナに利があるとはいえ、左腕一本でカグヤを開放しつつ、霊異を制圧できるイメージが湧いてこなかったからだ。

 

 ――そこが隙となる。

 

 

「ミナ執行部長!両横から伸ばしてます!」

 

 カグヤに言われて、ミナはバスの壁面に意識を集中させる。

 

 そこでは、霊異がバスの座席で隠すようにして白髪を前方に伸ばしていた。

 

「クッ……小賢しい!燃え移るのが怖いんじゃなかったのか⁉」

 

 ライターと拳銃を素早くスイッチして、白髪を目掛けて弾丸を撃ちこむミナ。

 

 しかし、片腕では右にしか対応できず、左側の白髪……運転席側との接続は許してしまった。

 

 接続した白髪を伝って、急速に炎が駆け上っていく。

 

 

 ()()()

 

 

 その瞬間、車内の重力は90度切り替わる。

 

 ミナが後ろに目を向ければ、炭化寸前の白髪が急ハンドルを切り、進行方向を変えていた。

 

 バスは今までの舗装された公道から一転、未舗装の山道を走り始めた。

 

 ガタンガタンと悪路を走る中で、壁に押し付けられるミナ。

 

 銃の照準を断ち切り損ねた白髪に合わせようとするが、炎は白髪を燃やし切って霊異本体にまで到達しており、次点の目標である本体との射線は座席によって遮られてしまっていた。

 

 本体の炎上によって拘束が解かれたカグヤが霊異から距離を取る。

 

 すると、バスの正面窓を()っていた白髪だったものが完全に崩れ落ちたのが見えた。

 

 そして、霊異が延焼のリスクを負ってまで目指した目的地も、目と鼻の先に迫っていた。

 

 

「―――!どこか捕まりなさい!」

 

「…………⁉」

 

 

 体が浮いている。

 

 バス内に突如として生まれる浮遊感。

 

 今、二人が見ている光景を表現するならば、バスは()()()()()()()

 

 

「――バスが落下します!」

 

 やがてバスの正面風景は曇り切った夜空から、バスのライトにほんのりと照らされた一面の黒。

 

 ――水面に切り替わった。

 

「こいつ……バスごと消火するつもりか……!」

 

 重力の均衡が崩れる寸前、カグヤはサブマシンガンを即座リロードし、押し付けられながらもバスの背面窓に向かって撃ちこむ。

 

 

 バシャアアアァァン…………ッ!

 

 

 夜の水面に巨大な水柱が上がった。

 

 全速力で崖から飛び出したバスが、垂直に水面に突き刺さったのだ。

 

 大きな衝撃と同時に、バス内に大量の水が流れ込む。

 

 

 

 ―――飛び込んでなお水底を目指して進み続けるバス。

 

 傍から見れば、それは沈みゆく棺桶のようにも見えるだろう……。

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