―――バス水没から2分後。
水面に二つの影が浮上してきた。
「「ブハァッ……!」」
――ミナとカグヤは生きていた。
もっとも、ミナは浮いているのが精一杯で、カグヤに抱えられている。
2人はそのまま、晩秋の冷雨に
岸に上がる二人。
カグヤは自分のスマホを確認するが、水没の影響で電源はつかなかった。
だが、乗ったばかりの頃と違って、カグヤは携帯をなじる気にもなれなかった。
2人は休息をとれるところを探して付近を探索する。
探索開始から5分後、ついにミナが雨風をしのげる洞穴を発見した。
暖を取れるライターも水没時に落としてしまった二人は、身を寄せ合って互いに温め合う。
そして黒雲から透けた淡い月光を頼りに、カグヤは水の入ってしまった銃を点検を始めた。
片腕しか使えないミナはそれを手伝うこともできず、せめて寂しさだけは無くなるようにと、カグヤに話しかけていた。
私たち……よく生きてたな
……そうですね
あの白い化け物はどうなったかな……
……できれば水の底に沈んでてほしいですね
……一緒に戦ってくれてありがとう……正直…助かった―――
……
――空が色づくその時まで、洞穴には銃を点検する音と話し声だけが響き続けた。
◇
「これからどうしますか?」
一夜明け、準備を整えたカグヤがミナに問いかける。
「どうって……、玄龍門にコンタクトをとるために、先ずは居住区に出るところからじゃないか?」
洞穴の周りはまだ薄暗く、加えて多少霧が立ってはいるが、2人は行動することに決めた。
暗いうちは分からなかったが、2人が落下した場所は巨大なため池だった。遠目に人工的なダムの壁が見える。
そのため、壁の方へ向かえば人がいるかもしれないと思ったのだ。
洞窟から出る2人。思えばここまで様々なことがあった。
関係の不和、未知の現象、新たな脅威。
この体験を報告し、脅威に備えなければならないというある種の危機感が、2人の間には生まれていた。
2人は朝方の、まだ乾ききっていない雑草を踏み分けて移動していく。
不意にミナが、添え木で補強した右腕を抑えて立ち止まる。
「……?やはり痛みますか……?」
「まあ、折れてるからな……。―――正直言うとこうやって歩いているだけでも、ぶらぶらと揺れて痛むんだ。」
ミナは急な告白をしたうえで、カグヤに聞く。
「その……だな。このまま私がついて行っても足手まといになるだろうから、人を探すのはお前ひとりの方がいいんじゃないのか?」
カグヤは激情気味に答える。
「そのような薄情な提案は拒否します!待ってる間、貴方に何かあればどうするのですか⁉」
「私のことはいい……自衛くらいはできるつもりだ。……頼む。バスが落ちたのも、元はと言えば私がヤツを詰め切れなかったからなんだ。もう……これ以上みじめになるのは耐えきれないんだ……!」
ミナのその言葉には自戒の感情が詰まっていた。
また同じく忠義に生きる者として、自らの過ちで迷惑をかける惨めな気持ちが理解できないカグヤではなかった。
――カグヤはミナの提案を受け入れた。
「……わかりました。ただこれだけは約束してください。私は貴方を見捨てるために置いていくのではありません。貴方に義を重んじる心があるのであれば、私の貴方を生かすという義を軽んじないでください。……死なないでくださいね」
「……フッ、当然だ」
ミナの言葉を聞いて、カグヤは歩を速める。
カグヤは決して後ろを振り向かなかった。
振り帰ることで歩みを止めることは救援を遅らせるのと同義であったから。
……そして何よりもミナの義を重んじる心を信じたかったから。
◇
カグヤの姿が見えなくなるまで見送ると、ミナは体を翻す。
そしてミナは洞穴――ではなく霧に包まれたため池に向き合った。
バスの中では使い物にならなかった
周囲の霧が濃くなってきた。
――理解を越えて不可解なほどに。
誰に聞かせるわけでもなく、ミナが
「……この世で一つだけ、確かなことがある。歴史もそれを教えてくれている。それは殺せない存在などいないということだ」
ミナの眼前、水面に立ち込めた霧が次第に晴れていく。
――そこには
破裂音とともに、一発の弾丸が飛び出していった。