のんのんびより おとなりさん   作:斎藤純哉

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れんげさん!?


第5話 れんげが甘えてきた

「颯真お兄ちゃん、私に英語教えてー」

 

「? しおりちゃんにはまだ早いんじゃないの?」

 

「学ばねばならぬ理由があるのですー」

 

「じゃあ休み時間終わるまでな。ちなみに理由って何?」

 

「気分です」

 

「気分かよ。……じゃあ俺は立つからしおりちゃんは俺の椅子に──」

 

「えーっ、颯真お兄ちゃんのお膝じゃダメー?」

 

「あ、そう? そっちがいいなら。じゃあ……ほれ」

 

「わーい、お邪魔しまーす」

 

「んな……っ!?」

 

「ん? どした、れんげ?」

 

「……な、何でもないのん」

 

「颯真お兄ちゃん、早くー」

 

「ああ、わりいわりい。じゃあまずアルファベットから──」

 

 ◇

 

「れんげ、さ」

 

「なんなのん?」

 

「いや、最近俺とふたりで遊んだり勉強したりすることばっかだな、って」

 

 俺の自室にて、ふたりで宿題中の俺とれんげ。

 

「嫌なのん?」

 

「ぜんぜん。むしろ嬉しいし超楽しいんだけどさ」

 

「だけど?」れんげが首を傾げる。

 

「俺が来るまでは夏海とかと遊んでたんだろ? そっちはいいのかな、って」

 

 俺の言葉にれんげは、そんなことなんな、とひとつため息をついた。

 

「ちゃんと遊んだりはしてるのん。それに隣の家に同じ分校に通う颯にぃがいれば一緒にいる時間が増えるのは当然のことなん」

 

「あー。だよな……」

 

 そこからしばらく、お互いに言葉少なになり、鉛筆とペンの音が静かに部屋の中を包む。

 

「終わったん」

 

「お、おつかれー。俺はまだだからのんびりしてなよ」

 

 れんげは鉛筆とプリントを仕舞うと、机に身を乗り出して俺のノートを覗き込んできた。

 

「見ていいのん?」

 

「もう見てるじゃねえか」

 

「何やってるん?」

 

「英語。しおりちゃんに教えろって言われた時はびっくりしたぜ。はは」

 

 俺が「しおりちゃん」って口にした途端、れんげの表情が曇ったのが間接視野で分かった。

 

「……喧嘩でもしたのか?」

 

 ふるふる、と首を横に振るれんげ。すると……。

 

 れんげは四つん這いになって机を回り込み、俺の腕をくぐって……俺の膝の上にすっぽり収まった。次いで、れんげは俺の胸に頭を預ける。

 

「……いらっしゃい。猫みたいな動きだったな、今の」

 

「どっちかっていうと蛇なん」

 

「完全に捕食者じゃねえか」

 

「……」

 

「……」

 

「……しおりちゃんのこと、颯にぃ、今日、お膝に乗っけてたん。だから」

 

「ッスウ──……」

 

 変な声が出た。れんげのやきもちだ、これ。直感で分かった。見てたもんな、俺がしおりちゃんをお膝に乗っけた時。

 

「ウチは」

 

 れんげがぽつりと話し始める。俺は一旦ペンを止め、れんげの話を聞くことにした。

 

「ウチは、お姉さんになったん。2年生になって、しおりちゃんが入学して、かすみんも生まれて」

 

「……そっかあ」

 

「だから、皆がいる前じゃこんなこと到底出来ないのん。ウチはお姉さんとして、自分を律する必要があるん」

 

「……ごゆるりでいいと思うが」

 

「ダメなのん。しおりちゃんに『お姉ちゃん』って呼ばれた時、本当に本当に嬉しかったのん。だから、せめて」

 

「せめて?」

 

 れんげは身体を起こし、俺に向き直ろうとする。俺は座ったまま人ひとり分下がって、れんげに向き直らせてあげた。そして、「……一度しか言わないん」と言葉を続けた。

 

「ウチとこうしてふたりの時は、ふたりでいられる間は。今みたいに、甘えさせて欲しいのん」

 

 俯いてて。上目遣いで。唇も少し震えてて。この言葉がれんげにとって本当に大きな意味を持つのだとよく理解できた。

 

 俺ははっきりれんげを見据えて、誠意をもって言葉を返す。

 

「……いいよ。当たり前だろ。それと、誰にも言ったりはしなごぶッ!?」

 

 れんげが胸元に飛び込んできた。慌てて受け止め、頭を撫でてやる。

 

「……嬉しいのん」と少し震えた声のれんげ。緊張からの解放がそうさせたのだろう。

 

 そのまま、しばらく。するとれんげが頭を起こし、「……それと、これはこれから先何度でも言うつもりなん」と俺に語り始める。

 

「え、なになに?」

 

「ウチは颯にぃのお嫁さんになるん。今改めて決めたのん」

 

「ふええ!? 将来設計早すぎね!? 早すぎ早すぎ!」

 

「断るのはダメなん! 決めちゃったことはもう変えられないん!」

 

 やきもちの件といい君結構ヤンデレの素質もあるな、とは言葉にしないであげた。

 

「……はは」

 

 笑みが溢れる。れんげの頭に手を添える。

 

 ……そうだな。れんげが大きくなって、添い遂げる人を選ぶ時が来たのなら。

 

「そのときも、俺を想ってくれてたらな」

 

 そう俺はもう一度、れんげの頭を優しく撫でたのだった。

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