『理想郷』を求めて   作:hobby32

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11話:2回目のアスカード人間牧場~決着~

砂漠の街トリエットの宿屋の男部屋に全員が集まって、各々が自分の要の紋のついたエクスフィアを取り外して、その宝石のように光る石をじっと見つめた。

 

ジーニアスがポツリと呟く。

「このエクスフィア……名前も知らない誰かの命なんだね」

 

ロイドは悲しげに呟く。

「じゃあ俺のエクスフィアは、母さんの命なんだ……俺が使ってもいいのか?」

 

クラトスが聞き咎める。

「どういう意味だ?」

 

ロイドは悲痛な表情で叫ぶ。

「だってこんな、人の命をもてあそぶようなもの……!」

 

クラトスは冷静に告げる。

「だが、これがなければ、我らはとうに負けていた」

 

ロイドは叫び返す。

「わかってるよ、そんなことは!」

 

クラトスは動じずに訊ねる。

「ならばエクスフィアを使わずして、この旅を完遂できると思っているのか?」

 

ロイドは大声で叫ぶ。

「わかってる! 理屈ではわかってる! これが無けりゃ、俺たちはただの弱い人間だ! だけど、エクスフィアが誰かの命を食らって生きていることも変わりないだろ!」

 

クラトスは頷く。

「そうだな。しかし、エクスフィアによって犠牲になった者たちも、エクスフィアに命を吸い取られることも、その挙げ句に捨てられることも望んでいるわけではないだろう」

 

ロイドは、「それは……」とうつむく。

 

クラトスはさらに言葉を紡ぐ。

「私たちはエクスフィアをいつでも捨てられる。だが今は、エクスフィアの犠牲になった人々の分まで戦う必要があるはずだ」

 

しかしロイドの表情はすぐには変わらない。

「……ダメだ。クラトスの言い分が正しいのはわかる。けど、まだ心の整理が追いつかないんだ。しばらく1人で考えさせてほしい」

 

ロイドは思い詰めた表情で、宿の外へと出て行った。

その後を追うように、少し間を空けてからクラトスも出て行った。

 

 

 

リフィルが残された5人で話し合いを再開する。

「さて、クラトスにはいてほしかったんだけど、仕方ないわね。また改めて人間牧場に入らなければならなくなったけれど、前回のようにはいかないでしょうね」

 

ジーニアスも頷く。

「タバサドラゴンもバレちゃったろうし、もちろん正面突破できるはずもないし」

 

ここでしいなが提案する。

「それなら、ルインの街の人たちが匿った、牧場から脱出した人に話を聞くのはどうだい? ピエトロって名前で、確かハイマにいるはずだよ」

 

リフィルが頷く。

「なるほど。良い考えね。さっそく明日行ってみましょうか。あとは……」

 

リフィルはタバサに目を向ける。視線を向けられたタバサは緊張する。

「な、なんですか、先生?」

 

するとジーニアスが苛立って言う。

「『なんですか』じゃないよ。向こうはタバサへの対策を徹底的に打ってきたんだよ! 機械で狙ったり、他のディザイアンを伏せてクヴァル1人でやって来たり。それへの対策をこっちも考えないといけないってこと!」

 

タバサは、ああ、なるほど、と今さらながらそう思った。どうにも自分のことになると鈍いタバサであった。

 

リフィルが追随する。

「あの残忍で狡猾な男がこれ以上、何をしてくるのかわかったものじゃないわ。教師としては、狙われているとわかっている教え子は置いていきたいんだけど……」

 

タバサは、ブンブンと首を振る。

「いえいえ、置いていかないでくださいよ! わたし、なるべく頑張りますから」

 

タバサの必死の形相に、リフィルは、そうよね、とため息をつく。

「とにかく、あなたの魔法は全体掃討に向いているのが、ディザイアンたちにとって警戒対象になっているのよ。普段は控えめなあなたがイセリア人間牧場を壊滅させる自信があれほどまでに強かった理由がわかったわ。あなたの魔法は『イオナズン』にせよ、『ヒャダルコ』にせよ、敵集団をまとめて相手にするのに異様に向いているのよ」

 

しいなが苦い顔で言う。

「このあたしがろくろく近づけもしなかったのは、コイツの爆発魔法のせいだしね」

 

ジーニアスが提案する。

「まだあんまり使っていない呪文で勝負するのはどうかな? それとボクの魔法を合わせれば十分ディザイアンたちに対抗できると思うし」

 

リフィルは、弟はタバサのことになるとやたら頭が回ることに感心する。

「とにかく、クヴァルがまたどんな対策をしてくるのかわからない以上、タバサは攻撃魔法より補助魔法の方を優先して相手を惑わす、というのは良い考えかもしれないわね。……まあそういうデータもいずれ他のディザイアンと共有されるのかもしれないけれど」

 

タバサは、「はい、わかりました」と頷いた。まだ使っていない手持ちの魔法はいくつかあることを思う。

元の世界では『伝説の勇者』たる双子の兄が狙われまくっていたので、自分が狙われていると言われても未だイマイチ、ピンと来ないタバサであったが。

 

 

 

翌日、ロイドは、自分なりのエクスフィアに対する答えをみんなに表明した。

「母さんも本当はもっともっと生きたかったに違いない。だからこの左手に宿る分も、俺は生きてやる。そして、この悲しみの連鎖を断ち切るんだ!」

 

タバサたちはそんなロイドを称賛し、神妙な顔で頷いた。

 

それから一行は、『ルーラ』でルインにまで飛んでから、牧場の脱走者のピエトロが向かったという冒険者が集う街ハイマに向かった。

街全体が急斜面にあるようなところで、赤土の地面が印象的であった。

結構な高所につき、ジーニアスは高所恐怖症のタバサが怖がる前にタバサの手を握って安心させた。タバサはジーニアスから手を握ってくれたことに内心だけで大喜びした。

 

一行はまず宿屋を訪ねたが、そこでソフィアという女性から「ピエトロは亡くなった」という言葉を受けた。

しかしピエトロのお墓を詣でようと墓地まで赴いたところ、片言でしか話せないピエトロが登場して、ソフィアの話はウソだと判明した。

しいなはソフィアを問い詰め、彼女から人間牧場に潜入する方法とそれに用いるためのディザイアンオーブをもらう代わりに、ピエトロの呪いを解く治癒術をマナの守護塔で入手してほしいという取引に応じた。

 

 

 

それから『ルーラ』でアスカード人間牧場に戻り、ピエトロが言っていた裏口にある巨大な岩にディザイアンオーブをはめ込んで、一行は再び人間牧場に潜入した。

 

入ってすぐのところにある大きな端末をリフィルが操作し、牧場の全景図を空中に広げた。

それからリフィルは、クヴァルがいると思われる場所に行くためには、ガードシステムを解除する必要があると告げた。

“ガードシステム”が何なのか、クラトス以外にはピンと来なかったが、とにかく2つの解除スイッチを押せば良い、ということがわかった。

 

リフィルは端末からさらに情報を得ようとしたところ、警報装置がけたたましく鳴り響き、部屋全体が赤く照らされた。

 

リフィルが顔をしかめる。

「まずいわね。メインコンピュータにアクセスしたのがバレたようだわ」

 

ロイドは、「どうすりゃいい?」と訊ねる。

 

リフィルは落ち着いて提案する。

「こうなったら、システムの解除班とクヴァルの討伐班に分かれましょう。クヴァルを相手にするから、解除班は3人、討伐班は4人の方がいいわね。ではコレット、あなたに組み分けを任せます」

 

話を振られたコレットはビックリする。

「えっと、なら……ロイドに任せます」

 

ロイドは「俺かよ!」と叫んだ後、

「しょうがねぇなぁ。……まず俺は母さんの仇を討ちたいから討伐班に入る。後は……」

 

ここで珍しくクラトスがせがむ。

「ロイド、頼む。私も討伐班に入れてくれ!」

 

ロイドは不思議そうな顔をするが、頷いた。

「わかった。クラトスがそこまで言うのなら」

 

しいなも、「ルインの街の人たちの仇を取らせてくれよ」ということで討伐班に加わった。

 

さらにジーニアスは、「クヴァルはタバサを狙ってるんでしょ。じゃあ何とも思われてないボクが攻撃魔法役として参加するのが道理だよね」と言って加わった。

 

ということで、残ったコレット、タバサ、リフィルが解除班ということになった。リフィルは、「戦力的にバランスが取れているわね」と評した。

 

コレットは手を振る。

「じゃあね、ロイド。無茶しちゃダメだよ」

 

ロイドは「わかってる。前みたいにカッカしたりしないで、冷静に戦うよ」と返した。

 

タバサはジーニアスと離れることに唇を噛んだが、顔を整えて笑顔で「頑張ってね、ジーニアス」と告げた。

 

するとジーニアスがむくれる。

「頑張るのはそっちの方でしょ。ディザイアンがタバサを狙ってどんなワナを仕掛けているかわからないんだから、ちゃんと部屋に入る度に上下左右死角なく見渡すんだよ。わかった?」

 

タバサは「う、うん、気を付ける」と頷いた。最近のわたしは、ジーニアスを怒らせてばっかりだな、と心の中で落胆する。

 

リフィルとしては、とりあえずこの組み合わせなら、しいながコレットの側にいて寝首を掻くことはできないから安心していた。まだ若干、しいなのことをリフィルは疑っている。とはいえ暗殺者にしては、あまりにも感情的過ぎて、正直すぎて、卑怯なまねをしたりはしない性格だとも思っていた。その意味で、戦力差は抜きにしても、しいながコレットを殺すことは結局のところ難しいのではないか、とこの時点で見抜いていた。

 

 

 

まずシステムの解除班は、警備ロボのレイビットばかりがうろついていて、ほとんどディザイアンの姿の見当たらない牧場内をわりとスムーズに探索した。

 

それから途中で牢屋に囚われていた人間たちを解放し、彼らを牧場の外に誘導してから、2つの解除スイッチを押して、クヴァルの部屋へ続く扉を開いた。

 

一応各部屋に入る前に、天井に設置されている機銃をタバサの魔法で破壊したりしたが、設置台数が少なすぎるようにリフィルには思われた。

 

「まずいわね。クヴァルは私たちの再潜入に備えてディザイアンの兵士や機銃を自分の部屋の近くに配置しているように思えるわ」

 

コレットが不安げな顔つきとなる。

「それはつまり、ロイドたちが危険ということですか?」

 

タバサはうつむく。

「やっぱりわたしは無理してでも、討伐班に入った方が良かったでしょうか?」

 

リフィルは首を振る。

「今となってはもう仕方なくてよ。とにかく牧場に囚われていた人たちを外に出しましょう」

 

コレットとタバサは、「はい」と同時に頷いた。

 

 

 

一方のクヴァル討伐班は、大量のディザイアンと機銃の猛攻に晒されていた。

 

しいなは素早く武器のお札を駆使してディザイアン1体を吹き飛ばしながらも叫ぶ。

「ちっ! あのクヴァルって奴は用心深いねぇ!」

 

クラトスは落ち着いて、向かってくるディザイアンを捌きながら言う。

「慌てるな。そなたは一人一人確実に仕留めていけ」

 

ロイドは双剣を振るいながら、自分に言い聞かせるように言う。

「ここで負けたら、母さんの仇は取れない」

 

「………………」

ジーニアスは冷静に思考する。

 

「タバサ対策」はボクたちにも当然通用するが、敵は少し方針転換したようだ。本来は大量の敵兵を小出しにして、タバサの魔力をちまちまと削ってから、魔力切れを誘ったり、あるいは詠唱中のタバサを襲うつもりだったのだろう。

しかしタバサが来なかった場合は、物量作戦でこちらを押し潰して一気に攻撃していく。そんな腹づもりなのだろう。タバサが来るか来ないかは、原理は不明でも投影機で一目瞭然だっただろうし。

 

こちらもそういう作戦を取ってくるだろうと予想していたからこそ、迂闊に部屋に入らずに、部屋の入り口で敵を絞らせて1体1体確実に仕留めていく戦略を取っていた。

 

ジーニアスはまず、部屋の入り口近くに設置されていた機銃を『サンダーブレード』で破壊した。本来なら、天から地面に剣を突き立てる雷の魔法であるが、ジーニアスは逆に剣が天井に突き刺さるように調整したのである。それからは『イラプション』や『アイストーネード』といった中級魔術を駆使して、次々と部屋から流れ出てくるディザイアンたちを攻撃し、前衛3人に休息を与える役割に徹していた。

 

(やれやれ。全体掃討のできる魔法が使えるのはタバサだけだと思っていたら、後悔するよ)

ジーニアスは、部屋に入ってからが本領発揮だと捉えていた。

 

それから部屋からディザイアン兵が出て来なくなるのを確認すると、天井の機銃を取り除かなければならなかった。正直なところ、部屋のどこにいても紫色の弾は飛んでくるし、未だに魔術を操るディザイアンたちを中心に部屋の中で待ち構えていた。

 

ジーニアスはクラトスに考えていた作戦を告げて了承を得た後、クラトスに守ってもらいつつ、入り口から部屋の全景を確認する。あれだけ倒したのにまだかなりのディザイアンがひしめいているのに驚いた後、クラトスとジーニアスは部屋の外に出た。

 

物覚えの良い脳で一瞬にして部屋全体の風景を覚えたジーニアスは、長い詠唱をする。

「滄溟たる波濤よ、戦禍となりて、厄を飲み込め! ……『タイダルウェイヴ』!」

 

ジーニアスのけん玉を向けられた部屋の中は怒濤の洪水で満たされた。大量の水に巻き付かれて部屋の中はディザイアン兵の阿鼻叫喚の悲鳴で満たされてゆく。そうして、大量のディザイアンをまとめて一掃し、昏倒させた。

 

これぞ修行の成果である。去年タバサの『イオナズン』を目の当たりにしてから、毎日毎日隙間時間を縫ってジーニアスが磨いてきた魔法の特訓が今日ようやく結実した。これほど大規模な魔法はまだ一種類しか使えないが、これからどんどん数も増えていくだろう。

 

ジーニアスはもう一度『タイダルウェイヴ』を天井に向けて唱える。そして、天井に設置されていた機銃をまとめて落としていった。辺りはバチャバチャと機銃が水たまりに落ちる音が響く。

 

ロイドが水浸しとなった部屋の中を確かめて、立っているディザイアン兵も、天井の機銃もないことを確認してから、ジーニアスに白い歯をむき出しにした笑顔で振り返った。

「よくやった、ジーニアス! さあ、先に進もうぜ!」

 

4人はそのまま駆けていく。

 

 

 

ベルトコンベアを止めた先にあるワープ装置に入ってから、ロイドたちはクヴァルを発見する。

 

しかしそこにいたのは、クヴァルだけではなく、投影機に映った緑色の髪の女の姿もあった。

 

女が先にロイドたちを発見する。

「クヴァル。客人のようじゃぞ。迎えてやらなくてよいのかえ?」

 

クヴァルはロイドたちを一瞥したあと、投影機の女に振り返る。

「ちっ、プロネーマ。もっと私のエンジェルス計画の研究データを盗み出した件について聞きたかったのですが」

 

プロネーマと呼ばれた投影機の女は鼻で笑う。

「まあ、ロイドから例のエクスフィアを回収してからでも遅くはあるまい。ではな」

 

プロネーマは一方的に通信を切って姿を消した。

 

クヴァルは舌打ちしたあと、微笑んでロイドたちに振り返る。

「ずいぶんと人の牧場を荒らし回ってくれたようですね。その罪を死をもって贖いなさい!」

 

クヴァルは刃のついた杖を取り出した。それと同時にクヴァルを護衛するように3体の機械エナジーストーンが脇から現れた。

 

 

ロイドは、やはり母を殺された怒りから、猪突猛進クヴァルに向かって駆けてゆく。だが双剣による斬りつけをクヴァルは杖で防ぐ。

クラトスとしいなは、まず小さな雷を落とす『ライトニング』を唱えるエナジーストーンを処理することにする。

 

「『タイダルウェイヴ』! ……あっれー?」

ジーニアスは、もう一度水の激流をもってエナジーストーンをまとめて処理しようとしたが、想定とは全然違う結果となった。

 

エナジーストーンは全く怯むことなく、『ライトニング』を詠唱し続けた。だが、クヴァルは水の激流に呑み込まれ、金属製の固そうな壁に叩きつけられた。

 

「おのれ……くっ!」

顔を歪めながら立ち上がったクヴァルが、ジーニアスを睨みつける暇も無く、敏捷に走ってきたロイドの剣を防がねばならなかった。

 

ジーニアスは、これで今しばらくはクヴァルをロイドに任せられるかな、と思い、敵のデータを一瞬で分析するスペクタクルズをエナジーストーンに用いた。

すると、この機械群は物理攻撃以外全ての属性を無効化することがわかった。

 

攻撃魔法にはたいてい属性が付与されている。ジーニアスの天敵とも言えるものであったがーーそれでもジーニアスは妖しく微笑んだ。

「なら、これはどうかな? ーー『グラビティ』!」

 

ジーニアスは真っ黒なドーム状の加重力空間を生み出して、3体のエナジーストーンを覆う。

すると、詠唱をしていたエナジーストーンの動きが止まり、ミシミシと押し潰されるような音が聞こえてきた。

 

『グラビティ』の恩恵を受けたクラトスとしいなは、それぞれ剣とお札で易々とエナジーストーンを切り裂いてゆく。残ったエナジーストーンも2人の挟撃であっという間に倒された。

クラトスもしいなもそれを確認してから、ロイドとクヴァルの方へ走る。

 

ジーニアスはこれでもう大丈夫かな、と思いながら詠唱しつつ、戦況を見守っていると、

 

「護法陣!」

かなり切り刻まれたクヴァルは、自らの周囲を暗黒空間で包みこみこみ、エネルギーの弾を浮き上がらせる技を用いてきた。

これには、ロイド、クラトス、しいなも予見できず、まともに食らってしまい、3人とも隙ができてしまう。

 

ジーニアスは、そううまくはいかないかと思い、クヴァルの追撃を防ぐ魔法の詠唱を開始する。

「『アドプレッシャー』!」

 

こちらは地属性だが、地面に引き込むような強烈な引力をもって攻撃する。

まともに喰らったクヴァルは、細目をクワッと開けてジーニアスを睨みつける。

「おのれぇ……ぐうっ!!」

 

この間に体勢を立て直したロイドたちが、クヴァルを囲んで容赦なく切り刻んでいく。

クヴァルの体はあっという間に限界を迎えて、投影機の前で倒れこんだ。

 

ロイドは左手の甲に装着したエクスフィアに語りかける。

「母さん……仇は取ったぜ……」

 

 

それとほぼ同時に、コレット、タバサ、リフィルがワープ装置から姿を現す。

 

リフィルが、武器を収めた4人と、倒れたクヴァルを見て言う。

「終わったようね。……牧場に収容されていた人たちはルインに戻しました。いま私たちは『ルーラ』で戻ってきたところです」

 

ロイドが振り返って言う。

「よし、先生! ここを前みたいに爆破できないかな?」

 

リフィルは周囲を見渡しながら言う。

「ここは司令室ね。おそらくできるはず……」

 

リフィルの言葉はコレットの叫びによって遮られた。

「ロイド!」

 

「え?」

 

ロイドがコレットの素早く駆け出す動きを目で追うと、いつの間にかロイドの背後に接近していた怨念の込められた形相のクヴァルが、刃のついた杖をロイドに対して振り下ろすところであった。

 

ロイドが、当たる、と思った瞬間、コレットがロイドを庇った。

そしてコレットの背中から赤い鮮血が飛び散る。

 

ロイドは思わず叫ぶ。

「コレット!?」

 

しかしこの期に及んで、コレットは自分のことよりもロイドのことを案ずる。

「ロイド……だいじょぶ?」

 

だが、かなりのダメージのはずなのにコレットが倒れることはなかった。

 

ロイドは、ほうほうの体で逃げようとするクヴァルを睨みつける。

「てめぇ!!」

 

クヴァルが逃げようとした所には、しいなが先回りしていた。

 

クヴァルが思わず振り返ると、その腹部にロイドの剣が入った。間髪を入れずに、クラトスの剣にも貫かれる。

 

2人が剣を抜き、クヴァルは冷酷なほど落ち着いていた表情とは打って変わって、もはや凄まじい形相となってクラトスを睨みつけた。

「クラトス……この、劣悪種がぁっ!!」

 

それから、クラトスからは普段見ることのない、爆発したかのような凄まじい怒りの声が上がる。

 

「その劣悪種の痛み……」

クラトスは、クヴァルの胸を長剣で袈裟斬りをする。クヴァルはもはや悲鳴を上げることすらできない。

 

「存分に味わえ!」

クラトスはとどめとして、逆袈裟にもう一太刀浴びせた。クヴァルは誰が見ても、明らかな致命傷を負って背中から床へと倒れる。

 

「地獄の業火でな!!」

クラトスは、クヴァルが死してなおも鞭を浴びせるかのごとく、その死体に言い放った。

 

 

 

タバサとしては、クラトスのクヴァルに対する壮絶な憎悪の根源が気になったが、今はコレットの方が優先である。

 

タバサはコレットに急いで駆け寄った。

「コレットさん……大丈夫なんですか?」

 

「うん……だいじょぶだよ」

コレットは笑顔を絶やさずに頷いた。そうはいっても、唇の色は紫色になっていたが。

 

しいながそれを見て叫ぶ。

「大丈夫なわけないよ! 先生! アンタ早く回復を……!」

 

しかしここで、ロイドが叫ぶ。

「コレット、俺はもう我慢できないからな。……みんな、聞いてくれ! コレットには今、感覚が無いんだ」

 

ジーニアスが、信じられないという目でロイドを見つめる。

「……どういうこと?」

 

ロイドが苦悶の表情で叫ぶ。

「コレットは天使に近づいている。目は良くなった。耳も辛いほどよく聞こえるようになった。だけど、眠ることもできない。暑さも寒さも痛みも何も感じられないんだ! 天使になるっていうことは、人間じゃなくなるっていうことだったんだよ!」

 

一同の表情が驚愕に変わる。誰もが言葉を失ってコレットを見つめる中、コレットだけは笑顔を崩さない。

「ロイド、いいんだよ。私ならだいじょぶだから……。それよりもまずは、この牧場を何とかしよう?」

 

ロイドは見ていられないという風に、リフィルの方を向く。

「先生、前みたいにここを爆破できないかな?」

 

リフィルは、すぐさま大きな端末に近づく。以前のように牧場に残っている人間がいないかを確かめてから、リフィルは10分後に自爆装置を作動させるように設定する。

 

「やったわ。ーータバサ、『リレミト』を」

 

タバサは頷いた後、みんなを周囲に集めて『リレミト』を唱えた。

 

 

 

それからアスカードの街に『ルーラ』で飛んで、すぐさま宿屋へと向かう。

 

しいなはロイドの説明を受けて、顔を歪める。

「……つまりコレットは、封印を解放して天使に近づく度に、人間らしさを失っていくのかい?」

 

ジーニアスは恐る恐る訊ねる。

「……じゃあ、最終的にはどうなるの?」

 

ロイドは俯く。

「最終的には、か。どうなるんだ、本当に……」

 

リフィルが「それは……」と説明しようとするが、それをコレットが止める。

「先生、いいんです。」

 

リフィルはなおも「でも……」とためらうが、コレットは頑なに首を振った。

 

タバサは、その2人の様子から、旅立ち以前には想定していなかった最悪の想像をした。

しかし、まだ憶測。そんなことがあるわけがない。神さまがそんなことをするはずが……。

そう思いこんで、最悪の想像は胸の奥深くに沈めた。

 

コレットは、やはり笑いながら言う。

「みんな、心配かけてごめんね。今はしんどいけど、完全に天使になったら、過ごしやすくなるかもしれないでしょ。だから、だいじょぶ」

 

だが、しいなはコレットのことを思って叫ぶ。

「だけどつらいんだろ! 疲れたら眠りたいし、大好きな食べ物だって食べられないんだろ! 人の温もりも何も感じられないなんて……。世界再生なんてやめちまいなよ!」

 

リフィルは思わず苦笑した。この女は本当に感情的で、目の前のことに右往左往してしまう。だからこそ、コレットの寝首を掻くことなどあり得ないと信頼できるのだが。

 

コレットはしいなにお礼を言う。

「ありがと、しいな。でも、ここでやめちゃったら、世界中の苦しんでいる人が救われないから。私は世界再生のために生まれたんだから、自分の務めを果たすよ」

 

タバサは、先ほど想像した最悪の結末が結局フタを開き、コレットの気丈さに思わず落涙する。

見ていられなくて、とっさに宿を飛び出した。

 

「あ、タバサ」

ジーニアスは反射的に彼女を追いかける。

 

 

 

果たして、タバサは宿屋のすぐ前にいた。まあ、高所恐怖症の彼女が切り立つ崖の上にあるこの街をあまりうろつくことはないと、ジーニアスは見込んでいたが。

 

ジーニアスは、さめざめと泣いているタバサに、なるべく優しく声をかける。

「タバサ、大丈夫?」

 

「ジーニアス……うん……えぐ……」

 

タバサの泣き顔を見るのはこれが初めてだ、とジーニアスは思い、ポケットから綺麗なハンカチを取り出す。

タバサはそれを受け取って顔を拭った。その間、ジーニアスは顔を逸らした。

 

タバサが少し落ち着いたと見ると、ジーニアスは近くのベンチに手招きした。タバサは素直に応じる。2人して座った。

 

ジーニアスは、しんみりと言う。

「辛いよね。きみにとってのお姉さんがあんな風になるなんて」

 

タバサは、コクリと頷いた。

「うん……。わたしが『リレミト』や『ルーラ』を使う度に、むしろコレットさんの天使疾患を早めたかと思うと……」

 

ジーニアスは首を振りながら口を挟む。

「それは違うよ。きみの『リレミト』や『ルーラ』が無ければ、コレットは辛い状態で魔物の巣くう迷宮を逆戻りしないといけなかったり、砂漠や岩の上で野宿をしないといけなかった。コレットが天使疾患で苦しむ度にちゃんと宿のベッドで休めたのは、きみのおかげだよ」

 

タバサは、「ジーニアス……」と彼を見ながら呟いた。

 

ジーニアスはちょっと迷ったが、思いきってタバサの頭を撫でた。

「元気出して……は無理だね。コレットがどんどん辛くなっている状態なんだから。でも、きみの魔法はちゃんとコレットの役に立っているよ。それだけじゃなくて、きみの存在自体もコレットにとっては側にいてくれるだけで嬉しいと思っているに違いないよ」

 

「うん……」

タバサは、人の頭を撫でたことの無さそうなジーニアスの撫で方に不器用さを思ったが、それでも心の中は急速に安心感が広がっていくのが感じられた。

やっぱり、ジーニアスはどこまでも優しい……。

 

しばらく頭を撫でられた後にタバサは訊ねてみる。

「そういえば聞きそびれたけれど、また人間牧場を破壊して、ハーフエルフたちを倒してジーニアスは辛くなかった?」

 

ジーニアスは真顔になって答える。

「同族って言っても、ディザイアンはやっぱりボクや姉さんとは違うよ。あんなに残酷なことはボクらにはできない。同族だから仲間っていうわけじゃないし、むしろ同族だからこそ人間を苦しめて殺すことは許せないと思う。ああいうのは、ハーフエルフの恥なんだよ」

 

タバサはジーニアスの言葉を聞いて、やっぱりジーニアスはジーニアスだと強い安心感を覚えた。

たとえわたしが間違ったとしても、ジーニアスは間違った道を歩まないと、そう確信できた。

 

ジーニアスはベンチから立ち上がってから、タバサに手を伸ばす。

「さあ、戻ろう。コレットたちが心配するといけないから」

 

「うん」

タバサはためらいなくジーニアスの手を握った。

 

その後、ロイドとリフィルとクラトスが、アスカードの町長に、ルインの街にいる人たちに埋め込まれたエクスフィアについて、イセリアのダイクに相談して欲しいと頼みこんだ。町長は当初難色を示したが、エクスフィアを無理やり剥がされると怪物化するというクラトスの説明を受けて、急いで対処すると確約してくれた。

 

 

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