『理想郷』を求めて   作:hobby32

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12話:世界の真実とユニコーン~板挟み~

ロイドたちは、マナの守護塔で光の封印を解除した。

例によって、仕掛けを解除して先へと進み、最上階で封印を守護する魔物を倒したのだ。

 

この際に光の精霊ルナが姿を現して、

「アスカはどこ? ……アスカがいなければ何もできない。契約も誓いも……」

と謎めいた言葉を言い残して消えていった。

 

一行が何だったんだろうと考える間はなかった。

例によって天使レミエルが降臨して、コレットを労い、また天使化を促進する力が与えられた後、レミエルは浮かない顔をしているコレットに満面の笑みで告げた。

「喜ぶがいい! 今こそ救いの塔への道は開かれる! 救いの塔を目指すのだ! そこで再生の祈りを捧げよ! その時、神子は天の階(きざはし)に足を乗せるであろう!」

 

コレットは、「レミエル様の御言葉のままに」と厳粛に返すと、レミエルはこう言葉をかけた。

「最後の封印で待っている。そこでそなたは、我と同じ天使となるのだ」

 

レミエルはそう言い残して、天へと上った。

 

しかしロイドたちの中で喜ぶ者は、誰もいなかった。

 

それから『リレミト』で一度塔の外に出て、マナの守護塔の1階の本棚でボルトマンの術書を回収して読むと、ピエトロの治療にはユニコーンの角かマナリーフという薬草を煎じたものが必要だと判明した。

 

それからマナの守護塔を出て、『ルーラ』で再びアスカードの街の宿屋へと戻る。コレットの天使疾患に備えるためだ。

 

やはり宿に着いて間もなく、コレットが床に膝をついた。

ロイドがすぐさま駆け寄ったが、コレットは自分の首に手を当てて、不思議そうな顔をするばかりであった。

 

タバサもコレットの側に跪いて訊ねる。

「コレットさん? どうしたんですか?」

 

しかし、コレットは口は開けど、何も言えない。

 

クラトスが見抜く。

「声を失ったのではないか」

 

ジーニアスが、「そんな!」と絶望的な表情となる。

 

コレットも、しばらく大きく目を見開いたままであった。

 

 

 

それからロイドたちは、宿屋の女部屋に集結した。しかしもはや、全員が声を失ったかのようにしばらく黙したまま座っていた。普段は気にも留めない時計の針の動く音だけが響いてゆく。

 

そんな重苦しい空気を破ったのは、立ち上がったしいなの声であった。

「みんな、ちょっといいかい? ーーどうしてあたしが神子の命を狙っていたのかを話したいんだよ」

 

リフィルは視線をしいなに向ける。

「聞きましょう。この世界には存在しない、あなたの国のことを」

 

しいなは「知ってたのかい!?」と大声で叫ぶ。

 

リフィルは首を振った。

「いいえ。あなたが言ったのよ。シルヴァラントは救われるけどって。ということは、あなたはシルヴァラントの人間ではないのでしょう」

 

しいなは、「ああ、そうだったね」と感心した後、

「その通りさ。あたしの国は、ここシルヴァラントにはないんだ」

と告げた。

 

ロイドが不思議に思って「どういうことだ?」と訊ねる。

 

しいなが覚悟を決めたかのように告げる。

「あたしの国は、『テセアラ』って呼ばれている」

 

ジーニアスが驚く。

「え、テセアラって月のこと?」

 

しいなは軽く笑って首を振る。

「違うよ。確かに地上にある国のことさ。あたしにも詳しいことはわからないけれど、このシルヴァラントには寄り添い合うもう一つの世界が存在する。それがテセアラ……あたしの世界なのさ」

 

リフィルが「寄り添い合うとは?」と訊ねる。

 

しいなは答える。

「2つの世界は常に隣り合って存在している。ただ互いに『見えない』だけなのさ。学者たちいわく、空間がズレているらしい。2つの世界は見ることも触ることもできないけれど、確かにすぐ隣に在って、干渉しあっているのさ」

 

タバサは首をかしげる。

「見ることも触ることもできないのに、干渉し合っているってどういうことですか?」

 

ここでしいなは、恐ろしいことを告白する。

「マナを搾取し合ってるのさ」

 

ジーニアスは目玉が飛び出そうなほど驚愕して、「ウソでしょ!?」と叫んだ。

 

すぐにはピンと来なかったロイドが、「どういうことなんだ?」と訊ねる。

 

しいなは淡々と答える。

「片方の世界が衰退するとき、その世界に存在するマナはもう片方の世界に流れ込むんだ。だから、一方の世界は繁栄して、もう一方の世界は衰退する。砂時計のようにね」

 

ロイドは真剣な口調で確認する。

「ということは、今のシルヴァラントのマナは、テセアラっていう世界に注がれているってことなのか?」

 

しいなは静かに頷く。

「その通りさ。だから今のシルヴァラントは衰退している。マナがないと、農作物は育たないし、魔法も使えなくなっていく。この世界は滅亡へと突き進んでいってるのさ」

 

リフィルはすぐさま気が付く。

「なら、神子による世界再生とは、2つの世界のマナの流れを逆転させる作業なの?」

 

「そうさ。神子が封印を解放すると、マナの流れが逆転して封印を司る精霊が目を覚ます。あたしはこの世界再生を阻止するためにテセアラから送られてきたのさ。テセアラを守るために」

 

リフィルは換言する。

「ということは、シルヴァラントをますます衰退させるため、ということになるわね」

 

ここでしいなが怒鳴る。

「そうは言うけど、あんたたちが世界再生をおこなうっていうことは、あたしたちの世界のテセアラを滅ぼそうとしているってことなんだからね! やってることは同じなんだよ!」

 

ジーニアスが慎重に訊ねる。

「何か証拠でもあるの?」

 

しいなは答える。

「そうだね。例えばあたしは、この世界にはない召喚の技術を持っている」

 

コレットは、しいなに絶望的な視線を向ける。

 

しいなは、その視線に耐えきれない。

「そんな目で見ないどくれ、コレット。あんたがそんなつもりじゃないことはよくわかってるさ。あたしだって、どうすりゃいいのかわかんないんだ。テセアラを守るために来たけど、この世界は貧しくて、みんな苦しんでてさ。だけど、あたしが世界再生を許しちまったら、テセアラがここと同じようになっちゃうんだよ」

 

リフィルは言う。

「けれど、今はコレットに協力してるわよ、あなた」

 

しいなは心の底から嘆く。

「でも、テセアラを見捨てることだってできないんだよ! あたしだって他の道を知りたい! シルヴァラントもテセアラも、コレットも幸せになる道を!」

 

リフィルは、突き放すように言う。

「そんな都合のいい道は、ないのではなくて?」

 

ここで今まで沈黙していたクラトスが口を開く。

「我々に今できることは、現在危機に瀕しているシルヴァラントを救う以外ないのではないか」

 

タバサはここで違和感を口にする。

「待ってください。世界再生の旅が両世界のマナの流れを逆転させる作業というのは、どうにも人工的で作りものめいている感じがします。正直なところ、これまで見てきた封印解放の儀式自体、例えばコレットさん以外の人が封印を守る魔物を倒しても天使レミエルは降臨されたように、あまり格式張ったものではなく、どこかわざわざ人工的に儀式を作り上げている印象を受けました。神さまの力というような超常的なものではないのなら、どこかに何か両世界のマナを根本的に逆転させる人工的な仕掛けがあるのではないでしょうか?」

 

ジーニアスは、けっこう慌てる。

「タバサ。きみの言ってることは、マーテル教の教えを真っ向から否定して、みんな作り話だって言っているようなものだよ」

 

タバサは苦虫をかみつぶしたような表情となる。

「ごめんね、ジーニアス。わたし、神さまは信じているけど、どうしても宗教的なことは受け入れがたいところがあるから」

 

タバサとしては、元の世界で『光の教団』が、子どもだった父親を含めて奴隷を集めて、たくさん虐殺したあげく、巨大な神殿を作り上げさせたり、その実、魔界の魔物たちの地上を征服するための出先機関でしかなかったりと、ちっとも良い思い出がない。

本物の神さまであるマスタードラゴンさまは、基本的に人間に干渉したりしない。ましてや人間を天使にして苦しめるような所業は絶対にしない。

 

リフィルはタバサの意見を評する。

「鋭い意見だけど、今の私たちにその巨大な機関、天使レミエルが言っていたクルシスと交渉する手だては無くてよ。仮にあなたの言うように、クルシスがみんなみんな人工的に作り上げた茶番劇だったとしても、両世界のマナを根本的に逆転させるなんてこと、クルシスの中枢に潜り込まないかぎり、不可能なことなんじゃないかしら?」

 

タバサはここでニヤリと笑う。

「いえ、『在る』とわかればひとまず十分です」

 

クラトスは、怪しいタバサに釘を刺す。

「タバサ。無駄死にするような真似は慎むことだな」

 

タバサは簡単な言葉だけ返した。

「そうですね」

 

ジーニアスは、またタバサが何かをやらかしそうだとその顔つきから思ったものである。イセリアの人間牧場を壊滅させた時のように。

しかしふだん控えめで怖がりな少女が見せるいたずらっ子のような笑顔は、ジーニアスの視線をしばらく釘付けにするほど、なまめかしく魅力的だった。

 

ここでコレットが立ち上がり、ロイドの手を取る。

「どうした、コレット? レ、ミ、エ、ル……? ああ! 手に文字を書いてくれるんだなーーレミエルさまに、お願い、してみる。2つの、世界を、救う方法がないか……」

 

ここでしいなが、刃のような鋭い目をコレットに向ける。

「もしも上手くいかなかったら、あたしはやっぱりあんたを殺すかもしれない」

 

コレットはそんなしいなの眼差しを受けた後、ロイドの手文字で返答する。

 

ロイドが読み上げる。

「その時は、私も、戦うかもしれない。私も、シルヴァラントが、好きだから……」

 

しいなは諦めたように溜め息をつく。

「……わかったよ、もう」

 

タバサは、そんな一同の様子を見渡した後、冷静に思考する。

(とにもかくにも、今はまだ戦力も手がかりも少なすぎる。コレットさんの完全天使化は避けなければいけないと思うけれど、とにかく情報をどこまで引き出せるかが今はカギとなりそう)

 

タバサはこの世界に来てから幾度となく、『伝説の勇者』たるお兄ちゃんを『ルーラ』で連れて来ようかと思った。しかしながら、本当に必要なら、マスタードラゴンさまはわたしだけではなくお兄ちゃんもこの世界に召喚するだろうこと、そして元の世界に『ルーラ』で帰った時、わたしが読めるこの世界の文字がお兄ちゃんには読めなかったので話し言葉も通用しないのではないかと思われることから、今のところはわたし1人でどうにかしようと考えていた。

とはいえ、マスタードラゴンさまはお兄ちゃんを連れて来てはいけないとも仰らなかったから、最後の切り札として常にお兄ちゃんの存在はタバサの頭に入れていた。

 

 

 

ピエトロの呪いを解くためのユニコーンの角がどこにあるのかと言われたら、アスカードの北に位置するユウマシ湖ではないか、とリフィルが答えたので、一行はさっそく向かった。

湖を覗いてみると、水底に倒れこんでいるユニコーンがいた。

 

以前の旅のように、トロッコで湖に沈んだ天空城で近づくような手段は無さそうだと思ったタバサは、どうしたものかと思案した。

 

ここでしいながアイディアを出す。

「こっちの世界にいるはずのウンディーネを召喚して、水のマナを操ればいいんだよ。……あたしは一応、召喚もできるからさ」

最後の言葉は尻すぼみであったが。

 

他にアイディアも無さそうなので、一行はタバサの『ルーラ』で水の封印のあったソダ間欠泉にまで飛んだ。

 

さっそく水の封印のあった最深部まで赴くと、青い靄のようなものが浮いていて、近づくと水の精霊ウンディーネが登場した。一見して青い髪の優しげな風貌の女性であった。

 

ただ契約をしたいと申し出るしいなに対して、ウンディーネは拒絶した。

「このままでは……できません。私は既にミトスと契約を交わしています。二重の契約はできないのです」

 

ミトスの正体がカーラーン大戦の勇者のあのミトスなのか、一行が議論しそうなところをリフィルが抑える。

 

どうすればいいのかと混乱するしいなに、クラトスが助け船を出す。

「前の契約者が精霊との契約の際の誓いを破っていたり、亡くなっていたりする可能性がある。そなたは試しに過去の契約の破棄と自分との契約を望めばいい」

 

それを聞いたしいながさっそく試してみる。

「ウンディーネ、我が名はしいな。ウンディーネがミトスとの契約を破棄し、私と新たな契約を交わすことを望む」

 

するとウンディーネは応じた。戦うことを条件に。

 

精霊との戦いといっても、魔物やディザイアンとの戦いとさほど変わらなかった。ロイドとクラトスとしいなが前衛でウンディーネを押さえている間に、コレットが天使術、ジーニアスとタバサが攻撃魔法を放ち、リフィルが傷ついた仲間を回復する、というふだんのパターンと変わりなかった。

 

ウンディーネは、間欠泉のように水を噴き上げる『スプレッド』を連発し、追い込まれると『タイダルウェイヴ』でロイドたち全員を苦しめたが、リフィルの『ナース』が間に合って態勢を立て直し、勝利することができた。

 

戦闘終了後、水浸しとなった一行にウンディーネは目を向ける。

「見事です。では誓いを立てなさい。私との契約に何を誓うのですか?」

 

しいなは水滴をしたたらせながらも、毅然とした表情で答える。

「今、この瞬間にも苦しんでいる人がいる。その人たちを救うことを誓う」

 

ウンディーネは応じた。

「わかりました。私の力を契約者しいなに」

 

ウンディーネはそう言うと、青い光の渦に巻かれて消えていった。

一行は、口々に(コレットは手文字で)しいなを祝福して、彼女の顔を赤く染めていった。

 

はしゃぐ一行を尻目に、リフィルはクラトスに目を向けた。

「あなた、精霊についてずいぶん詳しいのね」

 

クラトスは表情を変えずに答える。

「精霊については、少々詳しい知り合いがいただけだ」

 

「……そう」

リフィルは納得しなかったが、それ以上の追及は避けた。

 

 

 

それから一行は、タバサの『ルーラ』でユウマシ湖に戻る。

ユニコーンは清らかな乙女しか近づけないとのことで、コレットとタバサとしいなだけで水を渡ることとなった。リフィルは「大人だから」ダメらしい。

 

しいながウンディーネを召喚して、3人はユニコーンに近づいた。すると水底に沈んで倒れていたユニコーンは急に起き上がり、静かに水面へと浮上した。美しく真っ白な体躯と優しげでつぶらな眼差しが、3人に息を吞ませた。

 

ユニコーンは、声を失ったコレットの声を理解した。

しかし、コレットに対して「マーテルか?」と訊ねた。

 

コレットが無声で違うと言うと、ユニコーンはこう答えた。

「マーテルではない……と? この気配、このマナ、この病……。盲(めし)いた私でもはっきりとわかる。おまえはマーテルだ」

 

タバサは少し口を尖らせる。

「コレットさんであって、マーテルさんではありませんよ」

 

ユニコーンはその言葉を聞いても動じない。

「そうか。今はコレットというのか。私が生かされたのは目覚めたマーテルの病を救うため、おまえと同じ病を救うため」

 

タバサは首をかしげる。

「病? マーテルさんも天使になる病気に苦しんでいたのですか?」

 

ユニコーンは否定する。

「違う。彼女の病は……なに、そのことはいいと?」

 

ユニコーンはコレットの方を向く。どうやらコレットは、無声でユニコーンの説明を拒絶したようだ。

「それよりも、約束を交わした人間を助けてほしい、と。……よかろう。私の角を持っていくといい」

 

白く輝く角がコレットの手に渡ると、ユニコーンの輪郭は急に曖昧になる。

 

しいなが慌てて「どうしたんだい!?」と訊ねる。

 

ユニコーンは安心させるように答える。

「案ずるな。私の役目は終わったが、私からまた新しい命が誕生する。そうやって、我らは永遠に生き続けるのだ」

 

そう言い残してユニコーンの姿は完全に消失した。

 

 

戻ったコレットがユニコーンの角をリフィルに渡すと、受けとったリフィルは角を抱き、体と同化させて『レイズデッド』を習得した。これでピエトロを治すことができるらしい。

 

タバサは、コレットにユニコーンの言っていた「病」について訊ねたが、コレットは首を振るばかりであった。

 

 

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