『理想郷』を求めて   作:hobby32

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15話:ゼロスとプレセアの登場~激怒と落胆~

翌朝、宣言どおりしいなは、ミズホの里に報告すると言って、ひとまず一行から離脱した。

 

ロイドたちはメルトキオの街の一番上にそびえ立つ王城を目指して歩き出す。

 

しかしその途中の広場で、前方から真っ赤な髪に白いハチマキを頭に巻いた端整な顔立ちの男が、大勢の女を引き連れて歩いてくるのが見えた。

ロイドたちは避けようとするも、コレットが赤い髪の男と衝突してしまう。

 

赤い髪の男が「おおっと!」と言った瞬間、男ではなく取り巻きの女たちが騒ぎ出す。

「あ、危ないわね!」

「どこ見て歩いてんのよ!」

 

すると男はヘラヘラと笑いながら女たちをなだめる。

「まあまあ、抑えて俺さまの可愛いハニーたち♡」

 

それから男はコレットに、キザったらしく声量を落として訊ねる。

「そこのクールな彼女ーー怪我はない?」

 

しかしコレットは沈黙したまま反応しない。

そしたら、取り巻きの女たちが「んまああああ~!!」と声を揃えて叫ぶ。あまりにもうるさくて、ロイドたちが思わず手で耳を塞ぐほどに。

 

女たちは口々にコレットを非難する。

「せっかくゼロスさまが声をかけてくださったのに、なにこの子!」

「信じらんない、このブス!」

 

この世界での可愛いお姉ちゃんをブス呼ばわりされて、タバサがキレる。

「厚化粧で誤魔化している人たちが、何を言ってるのですか!」

 

女たちはまた「んまああああ~!!」と口を揃える。

「なにこのクソチビの言葉遣い! どんな教育を受けてきたのよ!」

「お灸を据えてやりますわ!」

 

取り巻きの女の1人がタバサに近づこうとするのを、ゼロスと呼ばれた赤い髪の男が止める。

「まあまあ、落ち着けって」

 

そして、赤い髪の男の目がタバサを捉え、体を屈めてささやくように話しかける。

「やあ、可愛らしいお嬢ちゃん。きみは将来すてきなレディーになるね。その時に俺さまのハニーに入れてあげるよ。よし、約束したぜ」

 

「いえ、別にけっこうですけど……」

とタバサがジト目で断った時には、ゼロスはコレットの方に向かっていた。

 

ゼロスは、さっそくコレットにもナンパを仕掛ける。

「きみ。さっきはごめんね。ねえ、笑ってみて。そしたらヒマワリみたいに可愛いと思うよ」

 

タバサは、視線をロイドとジーニアスに移した。2人ともゼロスに戸惑っているようだが、体を張って止めようとする気配はない。何をしてるんだ。こういう時パッと女の子を庇うのが男の子の役目でしょうが、とタバサは2人を睨みつけた。

 

すると、突然取り巻きの女たちが、「きゃああああっ!! ゼロスさまぁ!」と悲鳴を上げた。

タバサが振り返ると、ゼロスは完全天使化したコレットによってぶん投げられたようである。

 

しかしゼロスは軽やかに空中で体勢を立て直して、石畳の上に両足で着地する。

「うお~! 天使ちゃん強いね! 俺さま超ビックリ!」

 

その華麗な身のこなしに目を見張ったロイドが、戸惑い気味に訊ねる。

「あ、あんたはいったい……」

 

しかしゼロスはその問いかけを無視する。「野郎はどーでもいいや」とすげなく言って。

 

それから何事もなかったようにゼロスは、リフィルにナンパし始める。ハイテンションで。

「うおお~!! ゴージャス! ビューティフルなあなた。お名前は?」

 

リフィルは表情を変えずに言う。

「人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るべきではなくて?」

 

ゼロスは一瞬キョトンとする。それからまたヘラヘラとした顔に戻ったが。

「おっと、俺さまをご存じない? これはこれは、俺さまももっと努力しないとな」

 

そのうちに取り巻きの女の1人が「ゼロスさま。早く行きましょうよ~」とおねだりするような声で言ってきた。

 

ゼロスは女たちに振り返る。

「おっと、そうだな~。んじゃ、またどこかで。美しいお姉さま♡と可愛い天使ちゃんと、キュートなお嬢ちゃんと、その他大勢さんよ~」

 

ゼロスは、取り巻きの女たちと一緒に人ごみの中に消えていく。

 

ロイドとジーニアスは、「まったく、なんだったんだよ」とか「変な奴。バッカみたい!」とゼロスを散々にけなしていたが、

タバサがそんな2人に怖い顔で声をかける。

「ねぇ、お二人さん。どうしてわたしたちがナンパをされていた時、全然動こうとしなかったのですか?」

 

ロイドとジーニアスは、ギクッとした表情となる。

「いや、うん、そうだったな。次からは気を付けるよ」

「ごめん、タバサ。今度は体を張って止めるよ」

 

「まったくもう」

何のための男の子なんだかとタバサは大いに失望しながら、慌てふためく少年2人に背中を向けた。

なお普段はそんな様子を微塵も見せないが、タバサは異世界の王女さまなのである。守護してくれるナイトが頼りないと、人一倍不満を覚える女の子なのである。

 

 

 

その後、王城まで辿り着いたが、国王陛下は病気とのことで門番から謁見を断られた。ロイドが粘ってもダメだった。

それで門番から言われた「今、マーテル教会で陛下の快復を祈願する準備をしているようだから、祭司にでも頼みなさい」という言葉を受けて、一行は教会に向かった。

 

そして、祭司に声をかけようとしたとたん、背後から重たい物を引き摺るような音が聞こえる。

するとジーニアスとタバサと同じくらいの体格のピンク色のツインテールの髪の女の子が、かなり重たそうな木を片手で引き摺っていた。黒いワンピースから、白い肩と脚を露出させていた。腰にはナイフを差している。二の腕まで覆う灰色の手袋と、頑丈なブーツを着用していた。お洒落に無頓着で、機能性を重視する服装であった。

 

祭司は女の子に気さくに声をかける。

「おお、プレセアか。祈祷は陛下の寝所で行われる予定だ。神木は城へと運んでくれ」

 

プレセアは「……はい」と微かな声で言って教会から出て行った。

 

その時、タバサの耳が「かわいい」という声を捉えた。

それは果たしてジーニアスの声で、何を突然そんなことを! と口角を上げつつ驚いて振り返ったが、ジーニアスの目線はタバサに向いていなかった。

今しがた教会を出て行ったプレセアというピンク色の髪の女の子に向けられていた。

 

それに気付いた途端、タバサはキレた。

「ジーニアス!!」

 

我に返ったジーニアスは、タバサの般若のごとき形相にうろたえる。

「うわぁ、た、タバサ、どうしたの?」

 

タバサはジーニアスを食い殺さんばかりの勢いでその両肩をつかまえる。

それから、泣き出しそうな顔でジーニアスの体を激しく揺さぶった。

「わたしはこの1年ジーニアスと過ごして、1回もかわいいなんて言われたことがない! なのに、通りすがりの女の子に『かわいい』って言うのはおかしいでしょ!」

 

ジーニアスは自らの失言に顔を青くする。それから慌てて言い繕う。

「ああ、ごめん、タバサ! タバサのことはいつもかわいいって思ってるよ。うん、ホント、ふだんは恥ずかしくて言えなかっただけで……」

 

しかし怒れる王女さまはなかなか鎮火しない。

「それでも、ジーニアスの口からどうしてわたしじゃなくて、他の女の子が先に『かわいい』って言われるの? ジーニアスにとってわたしはその程度の女の子なの!?」

 

ジーニアスは激しく体を揺さぶられ、「えっと、あの、ごめん……」としどろもどろに謝っていると、リフィルが2人の頭にポンと手を置いた。

「コラ、2人とも。ここは教会よ。騒いでもいい場所じゃないわ。祭司さんが困っているでしょう」

 

それでどうにかその場は収まったのだが、タバサの泣き出しそうな怒りの顔は元に戻らず、ジーニアスはどうしよう、どうしようと慌てふためいていた。

 

12歳の子ども2人は今はダメそうなので、ロイドとリフィルが困惑顔の祭司と話をする。

 

リフィルが、すみません、と一言謝った後、祭司に訊ねる。

「祈祷とは、国王陛下の病気快復を祈るというものですか?」

 

祭司は戸惑い気味に頷く。

「え、ええ。神子さまと教皇さまが陛下の御前にて祈祷を行い、マーテル様のお力添えをいただくのです」

 

ロイドが確かめる。

「祈祷は国王の寝所で行われるんだよな?」

 

祭司は「そうですが」と頷いたあと、ロイドは祭司に礼を言ってから、教会の端っこにみんなを招いて小声で話をする。

リフィルはふつうの状態だが、タバサは腕組みをしてジーニアスからそっぽを向いて怒ったままだった。ジーニアスは申し訳なさそうにチラチラとタバサを見ていた。

 

ロイドは2人の子どもにはあまり頓着せず、悪戯っ子のような笑みを浮かべて提案する。

「みんな、国王に会う方法が見つかったぜーー神木を運ぶフリをして潜入するんだ。さっきのプレセアって子に協力してもらって」

 

タバサが「プレセア」という名前に反応して、肩をピクンと揺らす。1ミリたりともジーニアスをプレセアに近づけたくないと思い、深く考えることなく「えー、やだ」と唇を尖らせて拒絶した。

 

リフィルはそんな怒っているタバサを静かに諭す。

「落ち着きなさい、タバサ。いま優先すべきはコレットを治すことよ。プレセアとだって、そんなに長い時間、一緒にいるわけじゃないわ」

 

タバサは、「う~」と唸った後、しぶしぶ、「わかりました」と頷いた。

 

 

 

教会を出ると、教会の前で太った男がプレセアと話していた。

「じゃあ、頼むぜ。この仕事の後は神木をアルタミラまで運んでくれ。俺はロディル様に報告するから」

 

プレセアは小さく頷いた。それからまた神木を城へと引き摺ろうとする。

 

太った男が去っていくのを確認したあと、ロイドはプレセアに声をかける。

「なあ、ちょっといいか。……えっと、プレセア」

 

プレセアは振り向かなかったが、足は止めた。

 

ロイドはひとまず自己紹介をする。

「俺はロイド。こっちはコレットにタバサにジーニアスにリフィルって言うんだ」

 

タバサは、ジーニアスが顔を赤くしてプレセアをじっと見つめている姿に、彼の足を思いきり踏んづけてやりたくなった。かろうじて自重したが。

 

ジーニアスはプレセアになるべく優しい声を出そうとして、その結果、上ずった声で問いかける。

「あ、あの、ボクたちに神木を運ぶのを手伝わせてくれないかな?」

 

しかしプレセアは無視して、神木を城の方へと引き摺っていく。

 

リフィルが慌てて取りなす。

「待ってちょうだい。急にごめんなさい。実は私たち、陛下にお渡ししたい手紙があるのだけれど、王様は病気で謁見してもらえないから難儀しているのよ」

 

ロイドは畳みかけて懇願する。

「仲間の命がかかってるんだ。頼む! 俺たちを運び屋として使ってくれるだけでいいんだ」

 

プレセアは振り向くことなく、10秒ほど考えこんだが、やがて小さな声で「わかりました」と言った。

 

それから神木を引き摺る持ち手から手を離す。

「それ……運んでください」

 

ロイドが「よし、任しとけ!」と威勢よく叫んで神木をジーニアスとふたりがかりで持ち上げようとしたが、ビクともしない。

プレセアは振り向くと、神木を片手で引き摺っていく。

 

タバサは多少落ち着いて、エクスフィアで体を強化していても、プレセアの華奢な体格ではこれほどの力は出ないはず、と思った。

まあそれはそうと、こっちの男性陣の情けなさを嘆いたが。

特にジーニアスを軟弱者と罵りたい気分であった。

 

 

 

それからプレセアのおかげで、ロイドたちは王城に入ることができた。交代したばかりの門番は、最近の木こりは女や子どもばかりなのか、と怪訝な顔つきであったが。

 

プレセアが神木を所定の位置に置いた後、ロイドたちは王様の寝所を探そうということになった。なお、彼女にだけ帰られても不自然なのでプレセアにも一緒についてきてもらうこととなる。ジーニアスが思わず笑顔を浮かべた姿を見て、タバサはまたお腹の底からムカムカしてきた。

 

それから王様の寝所を見つけ出し、見張りの兵士をロイドが「悪い」と謝りながらみぞおちを殴って気絶させた後、一行は王様の寝所に入っていく。

 

すると豪華な法衣をまとった男が「何者だ!」と咎めの声を上げる。

 

しかしロイドたちはその男よりも、振り返った赤い髪の男ーー街でこちらの女性陣をナンパしてきたゼロスの方に目が向いた。

 

ロイドが思わず声を上げる。

「あんたは、街で会った……」

 

豪華な法衣の男ーー教皇が訊ねる。

「神子、知り合いですかな?」

 

ゼロスは困惑顔で言う。

「知り合いっつーか、なんつーか。……おまえら何でここにいるの?」

 

リフィルがここで勘づく。

「あなた、テセアラの神子だったのね」

 

これにはロイドとジーニアスとタバサが声を上げて驚く。清楚なコレットとは180度違う神子だったがために。

 

ゼロスが聞き咎める。

「テセアラの……とは引っかかる言い方だな」

 

教皇が険しい目つきとなる。

「まさか、おまえたちはシルヴァラントの人間か?」

 

ロイドが「その通りだ」と肯定する。

 

それからゼロスがロイドの名前を聞きだした後、ロイドはしいなからの国王宛の手紙を預かっていると言うと、国王が手紙を渡すように、と告げる。ロイドが手紙を渡すと、しばしの別室での待機を命じられた。

 

通された貴賓室で、ロイドたちはずいぶん長らく待たされる羽目となった。

それはタバサの思考を無駄にネガティブな方向に落とすのに十分な時間であった。

部屋に案内された直後、まだ怒っていたタバサはジーニアスが隣に腰かけても、プイと彼から顔を逸らした。

 

しかしまあ、だんだんと自分のこれまでの行いを顧みて、自分はジーニアスに好かれなくて当然なんじゃないかと思い始めたのである。

 

魔法で敵を吹き飛ばしたり氷漬けにしたりして、可愛い女の子とはほど遠いことをこれまでおこなってきた。

ジーニアスはそんなわたしを見て、可愛くないと思ったに違いない。

仲間たちとの会話で差し出がましく意見を挟んだり、高所恐怖症でジーニアスに手を繫がせたりして、生意気で怖がりな女の子だと思われたりして……!

さっきも突然怒ったりして、うっとうしい女の子だな、と思われたりして……!

そうだ、自分は女の子としての可愛らしさをみんな投げ捨ててきたじゃないか!

それなのにジーニアスに好かれようなんて、なんと虫の良いことを夢想していたんだろう!

 

ジーニアスの好みの女の子は自分の背中に常に隠れてくれて、女の子らしく撫でたり、誉めたり、甘えたり、そんな甲斐甲斐しい女の子が好みなんだ。

わたしみたいどっちつかずで、どう評価していいのかわからない女の子なんて、ジーニアスは困るだけなのだ。

 

うぅ……でも……。

マスタードラゴンさまから命じられたことは、この世界の被害を軽減するようにであって、決してジーニアスと仲良くなることではない。

そのために、自分の力を微力ながら発揮しなくてはならなかった。

男の子と甘い時間を過ごすことは、マスタードラゴンさまの命令に含まれていなかった。マスタードラゴンさまは全知全能の神さまなのに、言及されることさえなかった。

 

だから……つまり……。

わたしはジーニアスと結ばれる運命にないんだ。ただ、この世界の被害を減らすことを目的に遣わされたただの戦士。

わたしは……わたしは……男の子にギューッと抱き締められるタイプの女の子じゃないんだ。

 

ジーニアスに好かれようと色々がんばったつもりだったけど、それはジーニアスの心を引かせるだけのただの忌避的行為に過ぎなかったんだ。

 

もうわたしなんて、わたしなんて、大嫌いなラインハット王国のコリンズ王子しか引き取り手がいないんだ。グランバニア王国の王位はどうせ『伝説の勇者』たるお兄ちゃんが継ぐ。お父さんもお母さんも口には出さないけど、わたしがラインハットに嫁げば都合がいいと思っているに違いない。

わたしなんて、わたしなんて、それくらいの価値しかないんだ。

 

ジーニアスはプレセアっていう可愛い女の子と結ばれるんだ。

わたしの夫としてグランバニア王室に入ってくれるなんてことはあり得ないんだ。

 

そういう運命なんだ、わたしは……。

 

と、タバサがガックリと俯きながら勝手に闇の思考に沈んでいっているうちに、ようやく部屋がノックされた。

 

扉が開かれると、そこには教皇とゼロスと厳めしい甲冑姿の兵士数人がいた。

 

タバサはハッとしてイスから立ち上がる。それから体に染みついた動きで、急いで臨戦態勢にいつでも入って良いように構えた。

そんないつものタバサの勇ましい姿に、隣に座っていたジーニアスが目を奪われていることに気付くことなく。

 

ロイドは用心深く話しかける。

「手紙は読んでもらえたのか?」

 

ゼロスが口を開く。

「シルヴァラントの神子を助けるために、俺たちテセアラ人の技術を借りたいって話か」

 

ロイドは頷く。

「コレットは心を失っている。このままじゃ人間としての命も失っちまうんだ」

 

だが、教皇は無慈悲に宣告する。

「しかしシルヴァラントの神子が生きている限り、我々の世界は滅亡と隣り合わせだ」

 

兵士たちが槍をコレットに向ける。

 

教皇が言い放つ。

「かかれ!」

 

しかし、教皇が言うが早いか、

「『ヒャダルコ』!」

タバサの十八番の氷の呪文で、武装している兵士たちはまとめて氷漬けにされて一斉に倒れ伏した。

 

教皇がタバサに異様に鋭い目を向ける。

「魔術だと!? まさか貴様、ハーフエルフか?」

 

これにはジーニアスが庇う。

「違うよ! タバサは人間だ! エルフの血を継ぐボクならわかる!」

 

ゼロスは呆れたように言う。

「教皇よ~。俺さまみたいに人間でも魔法を使える奴を知ってんだろうが。魔法使えるだけで決めつけんなよ」

 

タバサは教皇とゼロスのやり取りから、テセアラでもハーフエルフの差別があるのではないか、と察しがついた。なるほど、結局ジーニアスとリフィル先生は肩身の狭い想いをしなければならないのか、と思う。

しかし、話はそちらには流れない。

 

ハーフエルフであるリフィルがここで前に進み出る。

「どうかしら、取引をするのは?」

 

教皇は険しい顔つきをリフィルに向ける。

「取引、だと?」

 

「コレットが心を失ったのは、天使として生まれ変わりシルヴァラントを救うため。逆に言えば、コレットが天使にならなければシルヴァラントは救われない」

 

ゼロスは、ほうほう、と納得顔で頷く。

「つまり、俺たちがシルヴァラントの神子を助ければテセアラも救われるってことか」

 

教皇は信じられないという表情で、リフィルを見つめる。

「ということは、おまえたちはシルヴァラントを見捨てるということか」

 

リフィルはためらいなく頷く。

「ええ、そうなるわね」

 

ロイドが驚愕の声を上げる。

「先生! 何言ってんだよ!」

 

タバサも一瞬驚いたが、しかしすぐにリフィルの話はこの場を凌ぐための方便に過ぎないことを悟る。

テセアラの人間からすれば、自分たちの繁栄が続けばそれで良いのだから。

 

ジーニアスもそれに気付いたのだろう。

「ロイド、ここは姉さんの言うとおりにしよう」

と提案した。

 

ロイドは不承不承であったが、「……わかった」と頷いた。

 

ゼロスはある意味で感心する。

「へ~、女の子1人救うために自分たちの世界を見捨てるなんてねぇ。豪気なこった」

 

ロイドは問いかける。

「コレットを救う方法を教えてほしい」

 

「しかし……」と渋面を崩さない教皇に、ゼロスは提案する。

「なあ教皇。コイツらがシルヴァラントに戻らなければ、どうせ向こうの世界再生の儀式はできないんだぜ。だから俺さまがコイツらの監視役になるってことでいいんじゃねぇの?」

 

教皇はここで頷く。

「神子がそこまでおっしゃるのなら、彼らにテセアラを旅する許可を与えましょう」

 

ゼロスは、「よ~し!」と威勢よく言う。

「決まりだな。んじゃ、俺さまは旅の準備をしてくるから、マーテル教会の大聖堂で待ち合わせな~」

 

そう言って、ひらひらと手を振ってゼロスは去っていった。

ジーニアスは思わず、「軽いヤツ」と吐き捨てるように呟いた。

 

 

 

マーテル教会でそんなに見た目は変わらないゼロスと落ち合い、やはり彼の女尊男卑の性格が改めて浮き彫りとなった。

「野郎2人はどうでもいいとして、ゴージャスな美人がリフィルさまで、クールな天使ちゃんがコレットちゃんで、今も十分可愛くて将来美人さんになるのがタバサちゃん……そんで、そっちのおチビちゃんは?」

 

ジーニアスが紹介しかけたが、タバサの反応が怖いので自重した。代わりにロイドが紹介する。

「プレセアだよ。城に入るとき協力してくれたんだ」

 

ゼロス、つーことは、と言う。

「おチビちゃんはシルヴァラントの人間じゃないってこと?」

 

プレセアは相変わらず微かな声で答える。

「……オゼット」

 

ゼロスがかなり驚く。

「オゼット! あのいなか……じゃなくて、森の奥の村か!」

 

リフィルは念のため訊ねる。

「あなたは私たちの監視役になるみたいだけど、プレセアまで監視する必要はないわよね?」

 

ゼロスはリフィルの言葉に大仰に何度も頷く。

「わかってますよ~、リフィルさま♡。これから行く王立研究院もオゼットも海を越えた向こうの大陸にあるんだ。ついでに送ってっていこうや」

 

プレセアにも異存は無さそうなので、行き先は王立研究院のあるサイバックとオゼットに決まった。

 

あれ、すぐにプレセアと別れるのなら、まだ望みがあるのかな? とタバサは微かな期待を抱いた。

 

 




……まあこの二次創作の構想を思いついた段階で、この場面でこういう展開になることは予想できてましたけどね。タバサ、かわいくてかわいそう。
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