『理想郷』を求めて   作:hobby32

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17話:フウジ山岳~回復~

再び入ったフウジ山岳は急斜面が多く、おまけに道も狭い山道なので、『ルーラ』で到着した途端、タバサは真っ先にジーニアスの左手を握った。

ジーニアスは、タバサから手を繫いでくれたことに、嬉しさいっぱい幸せいっぱいとなり、自然と笑みがこぼれる。

 

もちろんそんな状態だったから2人の魔法は絶好調であった。

ゾンビはジーニアスの『イラプション』で足下から焼き払われ、キメラはタバサの『イオラ』で吹き飛ばされて気絶しながら滑落していく。

ゼロスとプレセアの加入で前衛にも安定感ができ、比較的余裕を持って山道を登ることができた。

 

さすがに戦闘経験はシルヴァラントから戦っている人間の方が上回っている。だが、ゼロスとプレセアの戦闘経験の未熟さを、ロイドとしいながカバーして、後衛から攻撃魔法と回復術でカバーすれば、急ごしらえのパーティーとしては悪くなかった。

 

そんなわけで、わりと短時間でロイドたちは、レアバード4台が未だに煙を上げている山頂部に辿り着けた。

 

ロイドはゼロスの方を向く。

「んで、ゼロス。どうやってレアバードを運ぶんだ?」

 

ゼロスは手招きする。

「おう、こっちこっち! まずは奥に落ちているやつから……」

 

ゼロスの手招きに皆が応じて近づくと、突然地面からオレンジ色の魔法の檻が出現し、最後尾にいたコレット以外を捕らえた。

 

ここで急にユアンが、レネゲードの兵士たちと共に姿を現す。

 

ユアンは怒ったような表情で言う。

「まんまとワナに嵌まったな、愚か者が!」

 

ユアンは愚か者「たち」とは言わなかったので、ロイドたちの冷たい目線は一斉にゼロスに向く。

 

ロイドは冷ややかに言う。

「愚か者だってよ、ゼロス」

 

ゼロスは露骨に肩を落とした。

「俺さま、ガックシ……」

 

ユアンはレネゲード兵に指示を飛ばす。

「おまえたちは、レアバードを運べ」

 

レネゲードの兵士たちは、テキパキと何か小さな袋みたいなもので、レアバードを小さく吸い込むように仕舞っていく。

 

タバサは、ゼロスもあの袋のようなものを持っていたのだろう、と思った。道中、「秘密秘密♡」と言っていたが、残念ながらサプライズ失敗のようである。

 

もちろんタバサはただ等閑視しているわけではない。長めの詠唱を開始して、『イオナズン』を檻に向けて放つ。

 

しかしユアンは嘲けるように言う。

「無駄だ」

 

タバサの『イオナズン』の大爆発が炸裂したが、オレンジ色の魔法の檻は消えなかった。さすがにこれくらいの対策はしているか、とタバサはため息をついた。

 

ユアンはロイドに向けて言い放つ。

「今度こそ貴様をもらい受けるぞ、ロイドよ!」

 

タバサは、なんでこの人はこんな恥ずかしい発言しかできないんだろうかとやや呆れながら聞いていた。

しかしユアンが檻を解除するのが隙になると思い、タバサは再び詠唱を開始する。

 

ここで急にユアンの背後から、緑色の髪をした露出度の高い服を着た濃い化粧の中年のおばさんみたいな女が姿を現した。

 

ジーニアスが即座に思い出して言う。

「あの人、アスカードの人間牧場の投影機に映っていた……ハーフエルフだ」

 

その言葉を裏付けるかのように、ユアンが女に大声で叫ぶ。

「プロネーマ! 貴様らディザイアンは、衰退世界を荒らすのが役目だろう!」

 

プロネーマと呼ばれたハーフエルフは飄々と言う。

「私はユグドラシル様の勅命にて、コレットを回収しに来ました。こちらにお引き渡しを」

 

ユアンはためらいなく頷く。

「構わん! だがロイドはこちらでもらい受けるぞ」

 

プロネーマは興味なさげに言う。

「そやつに関する命令は受けておりませぬゆえ、ユアン様のご自由になさってください」

 

ここでロイドが憤りの声を上げる。

「ちくしょう! テメェら勝手に人の行き先を決めてんじゃねーよ!」

 

プロネーマはロイドの言葉を無視して、浮遊しながらコレットに接近する。

ロイドが「コレット!!」と叫ぶも、やはりコレットは何の反応も示さない。

 

プロネーマは嘲笑う。

「ホホホ。無駄なことよのう。心を喪失した神子におぬしらの言葉は届かぬぞえ」

 

それから、コレットのネックレスに目を落としたプロネーマが表情を変える。

「……なんと、クルシスの輝石にかように粗雑な要の紋とは? ……くだらぬのう。このような粗悪品、取り除いてくれようぞ」

 

プロネーマは何のためらいもなく、コレットのネックレスを引きちぎろうとする。

 

しかし、その時ーー

 

「や、やめてっ!! これはロイドが私にくれた誕生日プレゼントなんだから!!」

 

懐かしい、あるいは初めてのコレットの声がロイドたちの鼓膜を揺らした。

 

ロイドは思わず笑みを浮かべる。

「コレット! 声が戻ったのか?」

 

コレットはオレンジ色の魔法の檻に入っているみんなを見て、不思議そうに首をかしげる。

「あれ? みんな、どうしてそんなところに入っているの?」

 

どうやら天使化していた時の記憶が曖昧になっているらしい。でも、久しぶりにコレットの肩の力が抜けるような声が聞けて、タバサたちは思わず微笑んだ。

 

ユアンも驚愕の叫びを上げる。

「バカな! あんな子供騙しの要の紋でクルシスの輝石を抑えられるわけが……」

 

そこには理屈を超えたものがあるのかもしれない、とタバサは確信する。その名前は言わないけれど。

 

プロネーマはしばらく驚愕の表情で固まっていたが、やがて憎々しげな目を向ける。

「ふん、所詮は粗悪品に過ぎぬ。長くは保つまい! とにかく来やれ!」

 

プロネーマがコレットの腕を強引に引っ張ろうとすると、コレットが「離して!」と叫んで振り払い、その途端、尻もちをつく。

 

「……あ」

そこに偶然、檻を作動させていたスイッチがあったらしく、転んだコレットは思わず押してしまった。檻が消失したため、ロイドたちは一斉に解放される。

 

コレットは慌てて立ち上がって、煙を上げているスイッチを見つめて慌てふためく。

「ど、どうしよう~! 壊しちゃった~!」

 

ゼロスは大笑いする。

「なっはっはっは! コレットちゃん、やるじゃないの~! 俺さま惚れちゃいそ~!」

 

しいなが苦笑しながら呟く。

「悪夢がよみがえるよ……」

 

ロイドは「コレット!」とさっそく叫んで駆け寄る。

 

コレットは実にウキウキしながら喋る。

「ロイド! あのね、ネックレスの飾り付け、ありがとう! ホントに嬉しかったんだけど、あの時はどうにもならなくて……」

 

ロイドは笑顔で言い切る。

「いいって、そんなの」

 

タバサは、のほほんとする2人に叫ぶ。

「ロイドさん、コレットさん、武器を構えて!」

 

2人が振り返ると、もはや憤怒の形相と化したプロネーマの姿があった。

 

コレットは思わずロイドの背中に隠れる。それは逃げるためではなかった。

 

「わらわをこけにしおって……! 覚悟をし!」

プロネーマは一行に襲いかかる。

 

とはいえ、少し大変な思いをしたのは前衛だけであった。

 

ディザイアン五聖刃の長であるプロネーマは、杖を振り回し、即席の魔方陣のようなもので自らを囲う前衛には対応できた。

 

しかし、

「『ヒャダルコ』!」

「くうっ!!」

タバサがプロネーマは寒そうな格好をしているからと、敢えて氷漬けにしてみるとプロネーマは露骨に怯み、

 

「『エアスラスト』!」

「うぬあっ!」

そこにジーニアスの放った大気の刃で体中を切り刻まれ、

 

「『フォトン』!」

「ううっ……!」

リフィルの光の玉で相手を拘束する魔法で、プロネーマは一度倒れ伏した。

 

そこに容赦なく前衛の攻撃が入る。ロイドの双剣が、ゼロスの長剣が、しいなのお札が、プレセアの斧がプロネーマの体を斬り裂いてゆく。

 

そしてトドメに、

「『エンジェル・フェザー』!」

コレットのピンク色の光輪を何本も飛ばす天使術がきまり、プロネーマは傷だらけの体で宙に浮かび上がる。

 

「おのれ……この屈辱、何倍にもして返してやろうぞ!」

そう一行を睨みながら言い捨てて、傷だらけの体で空へと飛び去っていった。

 

プロネーマが飛び去るのをただ見つめていたユアンは、そのままロイドの接近を許し、剣で切り裂かれそうになった。

「これで終わりだ!」

 

しかし、カチーンという金属音ともにロイドの剣は弾かれてしまう。

気付いたユアンはとっさに距離を取り、ロイドの剣を防いだ男を見つめる。

「クラトス! 貴様、何をしに来た!」

 

白を基調とする軍服を身にまとったクラトスは、長剣を鞘に収めつつユアンに静かに告げる。

「退け、ユアン。ユグドラシル様がお呼びだ」

 

ユアンは顔を歪めた。

「……神子を連れて行くのか?」

 

クラトスはさらりと言う。

「いや、一時捨て置く。例の疾患だ」

 

ユアンはそれを聞いて即座に納得する。

「なるほど。ではロイド。勝負は預けたぞ」

 

するとユアンは、背中から紫色の羽を広げて、空へと飛び立っていった。

 

ロイドが双剣を持ったまま追いかけて、「待て、ユアン!」と叫んだところ、クラトスは厳しい口調で問いかける。

「おまえは何をしている?」

 

ロイドはうろたえる。

「な、なんだと?」

 

「わざわざ時空を飛び越えてテセアラまでやって来て、何をしているのだと聞いている」

 

ロイドは、何とか答えを絞り出す。

「それは……コレットを助けるため……」

 

「神子を助けてどうなる? 結局二つの世界がマナを搾取し合う関係なのは変わりない。ただ再生の儀式で立場が逆転しただけだ」

 

しいなは驚愕の声を上げる。

「テセアラは衰退しはじめているのかい!?」

 

クラトスは否定する。

「まだこの世界からも救いの塔が見える。あれがある限り、ここはまだ繁栄時代にあるということだ。もっとも、神子がマーテルの器となったら、繁栄時代も終了することになるだろうがな」

 

ロイドは苛立たしげに叫ぶ。

「どうにもならないのか!? この歪な世界をつくったのはユグドラシルなんだろ!」

 

クラトスは淡々と答える。

「ユグドラシル様にとっては歪んでなどいない。どうにかしたければ自分で頭を使え」

 

ロイドは熱くクラトスに宣言する。

「ああ、やってやる! 神子を犠牲にして互いの世界のマナを搾取し合うなんて仕組みは、俺が変えてやる!」

 

クラトスは、ここで微かに笑う。それが嘲りではないようにタバサには思えた。

「せいぜい頑張ることだな」

 

そう言い残して、クラトスもまた、水色の天使の羽を広げて空へと飛び立っていった。

 

 

 

また戦闘になるかと思いきやそんなこともなく、タバサとしては肩透かしを受けた気分であった。

 

それはそうと、気になる言葉があった。

タバサはコレットを心配そうに見つめる。

「クラトスさんの言っていた“例の疾患”とはどういう意味でしょうか? もうコレットさんは、声も感情も戻りましたよね。それともまだ別の天使疾患が続いているのですか?」

 

コレットは、ぶんぶんと首を振って、安心させるようにニッコリと笑う。

「ううん。久しぶりにお腹もすいてきたし、特に体がヘンだっていう感じはしないよ」

 

タバサは、「そう、ですか」と納得しがたい顔を俯いて隠した。

 

しいなは憎々しげに言う。

「ユアンの奴、反クルシス組織のレネゲードの党首のくせに、天使の羽を生やしていた。やっぱりアイツもクルシスと関係があるようだね」

 

ロイドは頭を掻きむしりながら叫ぶ。

「もう、ややこしいなぁ! 要するに、アイツら全員まとめて敵ってことでいいんだろ!」

 

タバサは言いにくそうに首を振る。

「いえ、ロイドさん。……差し出がましいようですが、クラトスさんに関しては“保留”にしてください。救いの塔での戦いもそうですが、クラトスさんならここにいる全員をまとめて倒すことができたはずなのに、それをしなかったわけですから」

 

リフィルも、そうね、と頷く。

「確かに、クルシスにとって、私たちは邪魔者以外の何者でもないはずなのに、クルシスの幹部であるクラトスがわざわざ見逃しているあたり、彼は微妙な立場だわ」

 

ロイドが「う~ん」と腕を組んで考えこむと、ゼロスが口を挟んでくる。

「まあまあ、ロイドくん。こんな山の上で考えるこたぁないでしょうよ。もうちょっと落ち着いたところに行こうぜ」

 

しいなは「落ち着いた所ってどこにあるのさ?」とゼロスに訊ねたところ、タバサが挙手をする。

 

ジーニアスが笑顔で訊ねる。

「ん? どこか良いところでも知ってるの、タバサ?」

 

タバサは緊張気味に首を縦に振る。

「……皆さんの混乱に拍車をかけるようで申し訳ないのですが……わたしの実家に『ルーラ』で帰って休息を取ろうかな、と思いまして」

 

ジーニアスが首をかしげる。

「実家? イセリアのニックスさんところ?」

 

タバサは首を振る。

「ううん、違うの。わたしの実家は、シルヴァラントにもテセアラにもない。本当の意味での異世界にあります」

 

タバサの言葉にしいなは目を丸くする。

「どういうことだい? そんな世界は聞いたことないよ」

 

タバサは、静かに言う。

「論より証拠。行けばわかります。たぶん言葉は通じないと思いますが、あんまり驚かないでくださいね」

 

タバサは詠唱を開始して、いつものように『ルーラ』を唱えた。

 

ーーまさかこの行為が、クルシスも、レネゲードも、ありとあらゆる組織の行動を一変させることになろうとは、この時のタバサは想像だにしなかった。

むろん、全知全能のマスタードラゴンは、このことを知っていた上でタバサをこの世界に召喚したのだが。

 

 

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