『理想郷』を求めて   作:hobby32

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2話:マーテル教会聖堂~神託~

そして神託の日ーー

いつものように学校で、暖色の服に黒のズボンと落ち着いた雰囲気を醸すリフィル先生の授業を受けていると、突然窓から眩いばかりの白い光が射し込んできた。

 

「な、なんだ!?」

今日も水の入ったバケツを両手に持って立っていた真っ赤な服と黒のズボンに身を包むロイドの驚いた声を皮切りに、教室中が騒ぎ出す。

 

リフィルはとっさに、静かに、と厳粛に告げる。

「どうやら神託が下るようね。私は聖堂の様子を見てくるから、みんなはここで自習をしていること」

 

すると神子であるコレットが席を立つ。彼女は純白な服に黒のストッキングを着用していた。

「先生! なら私も一緒に……」

 

リフィルは首を振る。

「いいえ、コレット。神託なら、祭司の方々がこちらにいらっしゃるはず。ここで待機していなさい」

 

それでコレットは、はい、と言って着席した。

 

そうしてリフィルが去ってしばらく経った後、ロイドがさっそく教室を抜け出そうとする。

 

その姿を見てジーニアスが咎めた。彼は白の文様の入った水色の服をまとう半袖半ズボン姿であった。

「ロイド! どこに行くの?」

 

タバサも本から2人の方へと目を向ける。

 

ロイドは好奇心のうずきを抑えきれないようだ。

「いや、気になるじゃん。予言の日にはコレットが再生の神子として神託を受けるって言われているけど、何が起こるのか全然知らないし」

 

「姉さんの言いつけを破るつもり?」

 

「固いこと言うなって。おまえも来いよ、ジーニアス。コレットもタバサも」

 

突然話を振られた2人は困惑する。

 

コレットが自分を指差す。

「えっと……私も?」

 

ロイドは呆れる。

「あのなー! おまえが当事者なんだぞ!」

 

タバサは、ロイドが「当事者」という言葉を知っていることにビックリした。

 

コレットは、ロイドとジーニアスとタバサの顔をキョロキョロ見てから席を立つ。

「そだね。みんなが気になるなら付いていくね」

 

ロイドは笑顔となる。

「よーし! タバサも来るよな?」

 

タバサはため息一つついてから言う。

「どうせ止めたってムダなんでしょ。なら行くわ」

 

タバサはこの1年を通してわかったが、自分の家族たちと比べるとこの3人だと戦闘力がおぼつかない。聖堂は村の外にあるのだが、外の魔物なら何とかなるだろうけれど、聖堂内部の魔物は未知なので、少しでも戦いに慣れている人間がいた方が良いと判断した。まあ自分も他の家族と比べたら大したことはないのだけど、とタバサは卑下するが。

 

ロイドは白い歯をむき出しにする。

「よしよし。魔法剣士さまがいてくれりゃ、百人力だぜ!」

 

ジーニアスは目を丸くする。

「ロイド、“百人力”なんて言葉を知ってたの!? すげー!」

 

そしてむくれたロイドからジーニアスは頭をペチンとはたかれた。

「イテッ!!」

 

 

 

4人が学校から出ると、村は不気味なほど静まりかえっていた。いつもなら畑作業や洗濯に精を出している村人たちが、本当に誰一人としていない。

 

「どうしたんだろ? 誰もいないよ」

コレットが不安げに、心持ちロイドの方に寄り添う。

 

そこにコレットの父親のフランクがやって来て、安堵の表情を浮かべる。

「君たち、無事だったんだね!」

 

タバサは、フランクの言葉に不穏なものを感じ取る。

「どうしたんですか?」

 

フランクは途端に険しい表情となる。

「つい先ほど、ディザイアンが不可侵契約を破って村の中に入ってきたんだ。まあ、この村を素通りしていって、村人に被害はなかったんだが……」

 

ロイドは眉をひそめる。

「アイツらが村を襲わない代わりに人間牧場に関わるなってあれか」

 

タバサはここでジーニアスに目を向ける。ジーニアスも困ったように頷いた。

以前にタバサは、人間牧場や不可侵契約についてはジーニアスから聞いていた。しかし、「神子は女神マーテルの試練をこなすとディザイアンを封印できるのに、どうしてディザイアンは不可侵契約で肝心の神子に手を出さないようにするのかな?」とタバサは疑問を呈したことがある。

 

ジーニアスは、「それは、イセリアが貢ぎ物をしているから……あれ……?」と答えた後に言葉に詰まった。“貢ぎ物程度”でディザイアンが人間を襲わなくなるのなら、もっと大きな街のパルマコスタとかはどうなるのだ、と自然に思考がそこに至ったのだ。小村のイセリアよりもずっと大量の貢ぎ物ができるに違いないパルマコスタでは、人間の拉致や殺害が無くなったとは全く聞いていない。

 

だからこの不可侵契約は、いつかの罠か不意打ちのための布石ではないかと2人の話し合いは進んだのである。

 

ジーニアスは、「こういう時のためなのかなぁ。でも……」とつぶやいた後にうつむいた。

 

タバサはジーニアスの思考を想像する。

「だったら、どうしてもっと早く、コレットが幼いうちにディザイアンたちは仕掛けなかったのだろうか」と彼も思ったのだろう。未熟で幼い頃から災いの芽は摘んでおく、というのはよくある話である。実際にタバサの元いた世界で魔物たちが、『伝説の勇者』であるお兄ちゃんを狙ってあちこちの子供を攫っていった話を聞いたことがあるタバサであった。さらに、大昔の『伝説の勇者』も人里離れた村で鍛錬の日々を送っていたところを、魔物たちの襲撃を受けて村ごと滅ぼされたと伝え聞いている。勇者は地下の倉庫に匿われて無事だったが。

 

しかしながら、事態は冷静に思考する暇を与えてはくれない。

 

コレットが父親に問いかける。

「お父さま、おばあさまは?」

 

フランクは答える。

「お義母さんは儀式の準備のために聖堂にいるよ」

 

ロイドは訊く。

「ファイドラばあさんが聖堂に? でもディザイアンも行ったんだろ」

 

フランクは安心させるように答える。

「祭司の方々も一緒だ。心配しなくて大丈夫だよ。それよりコレット……」

 

コレットは普段とあまり表情を変えずに頷いた。

「わかってます。神子の使命、必ず果たしてまいります」

 

フランクは悲しみを隠しながらも頷く。

「がんばるんだよ」

 

それからフランクは、ロイドとジーニアスとタバサに家に帰るよう告げたが、3人は口々にコレットに付いていくと行った。フランクはそれに「ありがとう」と弱々しい笑顔で言ってから去っていった。

 

 

それから4人は、螺旋の渦を巻きながら眩い光を天へと噴き上げているマーテル教会聖堂の近くにまで至った。

しかしその神聖な雰囲気を切り裂くように悲鳴が響いてきた。

その途端に、法衣をまとった老人が聖堂へと続く階段を転がり落ちてきた。

 

コレットがとっさに叫び声を上げる。

「祭司長さま!?」

 

4人がすぐさま地面に膝を付いて倒れこんだ祭司長を囲うも、彼が手で押さえている胸のあたりから大量の出血が止まらなかった。

 

祭司長はコレットに気が付くなり、最期の力を振り絞って声をかける。

「神子さま! ディザイアンが急に聖堂を襲いまして……早く神託を……」

そう言い残して、祭司長は事切れた。

 

祭司長の脈を調べたロイドは険しい顔で首を振る。

「ダメだ……もう死んでいる……」

 

タバサは思わず口元を両手で覆った。

「そんな……」

彼女が人の死を目の当たりにするのは、魔界で祖母のマーサが祖父のパパスの手を取って、天に召される姿を見て以来である。

 

コレットは決然とした表情で立ち上がる。

「私、行かなくちゃ」

 

ジーニアスが大声を上げる。

「コレット! あそこにはディザイアンがいるんだよ!」

 

しかしコレットは譲らなかった。

「わかってる。けど、予言の日に神託を受けるのは、神子である私の役目だから……」

 

ロイドも立ち上がる。

「俺も行く。おまえひとりで行かせられるかよ」

 

コレットが「いいの?」と複雑な表情で問いかける。

 

ロイドは「ドワーフの誓い第1番、平和な世界が生まれるようにみんなで努力しよう、だ」と返した。

 

ジーニアスも「姉さんが心配だから」と付いていく。

 

タバサは、「みんなが心配だから」と言って立ち上がる。目線は死んだ祭司長に向けたままであったが。

 

コレットは笑顔となって「ありがとう、みんな」とお礼を言った。

 

そうして4人は、ところどころに赤い血が染み込み始めている石の階段を上っていく。

 

(マスタードラゴンさま。ひょっとして、とんでもない世界にわたしを召喚されましたか?)

タバサは階段を上りながら思う。

 

昨日までは確かに平和な日常が続いていた。なのに、今日は明らかに一変していた。

 

 

 

階段を上り終えると、聖堂前の広場で祭司たちが死屍累々と倒れ伏していて、4人は顔色を変えずにはいられなかった。

立っているのは武装した人ばかりである。リーダー格の灰色の軍服をまとった厳つい顔の男以外は、全員ディザイアン特有の目まで覆う兜をかぶっている。

 

リーダー格の男が巨大な曲刀を突きつけてコレットの祖母ーーファイドラに問いかける。

「神子はどこだ?」

 

それに答えるようにコレットは叫んでしまった。

「おばあさま!」

 

ファイドラは鋭い声を上げる。

「コレット! 早く逃げるのじゃ!」

 

しかしコレットは逃げなかった。逃げたら祖母の身が危うくなると思ったのだろう。

 

ディザイアンの1人が呼びかける。

「ボータ様! あの少女が神子のようです」

 

ボータと呼ばれた曲刀を持つ男は振り返り、獰猛な笑みを浮かべた。

「よし、神子よ。その命もらい受ける!……ぐおっ!?」

 

ボータとディザイアンたちは思わず膝を付いた。怒りのこもった瞳を宿したタバサが『ヒャダルコ』を唱えて、ボータたちを氷漬けにしたのだ。

「させない!」

 

急速な低温にディザイアンの兵士2人は瞬く間に昏倒する。しかしボータは、氷が砕けてもなお笑顔を崩さなかった。

「なかなかの腕利きがいるようだな……ヴィーダル、来い!」

 

すると聖堂の前から、片腕に鎖で巻き付けたトゲのついた鉄球、もう片方の手に巨大なハンマーを手にした巨漢の兵士が現れた。ズシンズシンと、歩く度に地面が音を立てる。

 

ここまでするのかと、タバサは少し慄いた。ディザイアンは本当に華奢な少女でしかないコレットをこの巨漢の兵士で以て仕留めるつもりらしい。

確かに神託を受ける日に聖堂で待ち伏せるのは合理的だけれど、しかしなぜ今まで手を出さなかったのか……。

 

とはいえ考察の前にまずは目の前の敵2人を倒さなければならない。倒さないとコレットが殺される。何度もお互いの金髪をいじり合った可愛いお姉ちゃんを殺されたくないとタバサは思った。

 

しかし、聖堂前のバトルフィールドはさほど広くない。あんな鉄球を振り回されたら、みんな薙ぎ倒されてしまう。おまけに頑丈なボータという男も大剣を構えていることだし、『イオラ』か『イオナズン』までの詠唱時間を稼げるかタバサは確証が持てなかった。

 

そこでタバサは瞬時に左手で抜刀し、妖精の剣でボータに斬りかかる。

「ぬおっ!? ……そう来たか」

 

難なくボータの剣に防がれたが、タバサは振り向くことなくロイドたちに指示を飛ばす。

「ロイドさんは向こうのディザイアンを! ジーニアスもロイドさんを援護して! コレットさんはわたしの援護を!」

 

「わかった!」

「うん!」

「わかったよ!」

 

3人がここまで素直に最年少のタバサの言うことに従うのは、非常事態ということもあるが、タバサの剣術は稽古でロイドの二刀流の木刀を落とし、ジーニアスよりも明らかに魔術で優れているからだ。ーーもっともこれは戦闘経験の差に過ぎず、2人が追いつくまでの暫定的なことだとタバサは自覚していたが。自分は決して強くないとタバサは思っていた。

 

さて戦闘が始まると、ボータは筋骨隆々とした腕から大剣をタバサに何度も叩きつけてきた。タバサはその度に細身の妖精の剣で防御する。瞬時に攻撃したことと背後を取られた場合に備えて盾は構えなかったが、ここは構えた方が正解だったとタバサは後悔する。しかしもう遅い。階段等から落ちないように気を付けながら、時折ジャンプを交えて、強力なボータの剣を受け流していく。時折、コレットがチャクラムをボータの顔に投げつけて援護するのだが、ボータはビクともしない。コレットのチャクラムが弱いのではなく、ボータが特別頑丈なのだろう。

 

ボータはタバサの戦い方を見てニヤリと笑う。

「お嬢ちゃん、剣術はあまり得意じゃないな」

 

「そんなことはとっくの昔に自覚しています!」

そうなのだ。タバサの本分は魔法にあり、剣はほとんど抜かない。『伝説の勇者』たる兄と違って、先天的に剣の腕に恵まれていたわけでもない。ただ、持ち前の敏捷さと急所をえぐることで辛うじて立ち回れているに過ぎないのだ。身体能力を極限まで高めるエクスフィアで強化されているわけでもないので、力は見た目通りの12歳の小柄な少女のものである。

だからこうやって、既に隙を見せていない敵と長時間斬り結ぶのはタバサの本分とはかけ離れている。何とかボータの隙を見出したいところであったが……

 

「岩砕刃!」

 

逆に隙を見透かされたタバサは、岩をも砕かんボータの剣の叩きつけを思わず妖精の剣で受け止めてしまった。

 

「くっ!」

タバサは顔をしかめながら、ボータの剣の威力に屈しながらもなんとか両足で踏ん張りきる。しかし、剣を持つ左腕が痺れたのを自覚した。何とか剣は落とさなかったが、剣を持つ感覚が異なると防御に影響する。

 

まずい、このままだとーーそう思ったのとほぼ同時に、

「ぐわっ!?」

「うわぁっ!?」

聞こえて欲しくない悲鳴が聞こえてきた。ロイドとジーニアスのものだ。

 

たぶん、ヴィーダルという巨漢の鉄球に当たるかなにかしたのだろう、とタバサは振り返ることもできずに推測する。あちらの敵の方が鈍重そうでまだ与し易いと思ったのだが……。

 

どうしようかとタバサが焦り始めると、

「ぐあっ!?」

突然ボータが悲鳴を上げた。

 

タバサが気が付いたときには、ボータは男に背中から斬られていた。

その男は閃光のごとく、ヴィーダルの方へと駆ける。

タバサが振り返ると、ロイドとジーニアスが何とか立ち上がろうとしているところにヴィーダルがハンマーを握って距離を詰めていた時、男は猛烈な速度で剣を振るっていた。

 

(速いし強い……)

タバサは突如として現れた紺色の服の男の剣さばきを見て、単純にして最高の感想を抱いた。

 

ボータはその男の姿を見て、驚愕の表情を露わにする。

「まさか……奴が現れるとは……」

そして、急いで階段を駆け下りて逃げていった。

 

タバサは一応ワナかもしれないと思って警戒したが、階段を見下ろしてもボータが戻ってくる様子はない。

 

戦況を一変させた男は、ヴィーダルの鉄球をかわしつつ、長剣でもってその巨体を素速く斬り裂いてゆく。タバサは男を魔法で援護しようかと思ったが、すぐにその必要はないと悟った。

 

男はヴィーダルを縦横無尽に斬り続け、あっという間に倒していった。

 

タバサは男がヴィーダルを斃したのを確認すると、急いでジーニアスの元へと駆け寄った。

「ジーニアス、大丈夫だった?」

タバサは心配そうに倒れているジーニアスに手を差し出す。

 

「あ……うん……大丈夫だよ。ちょっと左肩に食らっちゃったけど……いてて」

ジーニアスは照れくさそうにしながらも、タバサの白い手袋をはめた手を握った。

 

するとそれを聞いた男が術の詠唱を開始し、

「『ファーストエイド』」

と唱えて、ジーニアスの傷はあっという間にふさがる。

 

タバサが瞬時にお礼を言う。

「あ、回復魔法もできるんですね。ありがとうございます」

 

男は特に応えることなく、今度はジーニアスより重い傷を負っているロイドに『ファーストエイド』をかけた。

しかしロイドは礼を言うことなく立ち上がった。なんだか悔しがっているようである。

 

広場の端で戦況を見守っていたファイドラが、男に声をかける。

「神子を救ってくださり、感謝の言葉もありませぬ」

 

男はいま気が付いたように言う。

「そうか。私は神子を救ったのか」

 

その言葉からすると、男はマーテル教会聖堂から天へと伸びる光に誘われてやって来たのかもしれない。

 

タバサは男の風体を見つめる。

背はかなり高く、赤みがかった髪が片目をほとんど覆い尽くさんばかりだが、その眼光には冷静さと鋭さが混じっている。相当に鍛え抜かれた肉体は紺色の戦闘服に包まれて見えない。ブーツは一目みただけで頑丈なのがわかる。一分も隙の無い戦士というのがすぐさま見て取れた。

 

ロイドは警戒心剥き出しの表情で訊ねる。

「あんたは、何者だ?」

 

男は動じることなく淡々と答える。

「私はクラトス。傭兵をしている」

 

「傭兵……」とロイドは反芻した。

 

ここでコレットがファイドラに告げる。

「おばあさま、私はこれから試練を受けにまいります」

 

ロイドがコレットの方を向く。

「試練ってなんだ?」

 

これにはクラトスが答える。

「魔物のことだろう。聖堂の中から邪悪な気配がする」

 

ファイドラは頷く。

「そうじゃ。神子は天からの審判を受ける。じゃが護衛の祭司たちは、ディザイアンに襲われて皆死んでしまった」

 

ロイドは、それなら、と勇ましく言う。

「俺がコレットの護衛を務めるよ」

 

しかしファイドラは不安な表情を崩さない。

「ロイド。おまえでは頼りないのぉ」

 

クラトスはここで目線をロイドに向ける。

「おまえはロイドと言うのか」

 

この時ロイドは、そうだけど、とむくれるように返しただけだった。

 

クラトスはさして気に留めず、改めてファイドラに向き合う。

「繰り返すが、私は傭兵だ。金を頂けるのなら、神子の護衛を務めよう」

 

ファイドラはクラトスの風体を上から下までまじまじと見つめてから、納得顔で頷く。

「ぜひともお願いしたい」

 

クラトスは淡々と、契約成立だな、と言う。

タバサは、この人は傭兵なのにお金に執着が薄いのかなと見て取った。

 

ここでロイドが粘る。

「ま、待ってくれ! 俺も行く!」

 

クラトスはロイドに対して厳格に告げる。

「ロイド。おまえでは役に立たん。帰れ」

 

そう言われてロイドは気色ばむ。

「何だと……」

 

クラトスはほんのわずかに苛立ちを滲ませなながら告げる。

「二度も言わせるな。おまえでは足手まといだから帰れ」

 

ここでコレットがクラトスに懇願する。

「あのぉ、傭兵さん。私はロイドと一緒に行きたいです」

 

クラトスは全く動じることなく「ダメだ」と言った。

 

コレットは「でも……」と言ったが、ここでロイドが「いいよ、コレット」と制する。

「俺は勝手に付いていく。それだけだ」

 

クラトスはここで「勝手にしろ」と匙を投げた。

それからついでとばかりに、「おまえたちも来るのか?」と、タバサとジーニアスに目を向けた。

 

タバサは答える。

「わたしは、コレットさんの友達ですから」

 

ジーニアスも追随する。

「ボクも。ちょっとは魔法に自信があるから」

 

クラトスは「せいぜい、足手まといにならぬことだな」と告げて、歩き始める。

 

ロイドたちは、死んだ祭司とディザイアンの遺体に短く祈りを捧げてから、クラトスの後を追った。

なおファイドラは、タバサが『ルーラ』で村へと帰した。

 

 

聖堂内は、ゾンビ、ゴーストといった不気味な魔物や、土のゴーレムといった魔物に満ちていた。

だが、先ほどのディザイアンのように強くて手こずるほどの魔物はいなかった。せいぜいイセリアの村の外にいる魔物より少し強い程度であった。

とはいえ魔物は集団で襲ってくるので、コレット1人では荷が重いことは容易に察せられた。確かに護衛がいないと厳しかった。

 

前衛がロイドとクラトスと2人もいるので、コレットは中距離からチャクラムをブーメランのように投げて、タバサとジーニアスは後衛から魔法の援護につとめれば良かった。タバサとしては、前衛にお父さんとお兄ちゃんがいてくれた時と同じように安心して戦えた。やはりお世辞にも自分は前線で戦うのに向いていない。

 

聖堂内を進んでいく際に、時折クラトスはジーニアスとタバサの魔法を止めさせ、ロイド1人に魔物と戦わせて、体の使い方や剣の使い方について指南した。ロイドは不承不承ながらもクラトスの教えを聞いていた。

 

ジーニアスがそんなクラトスとロイドのやり取りを見て驚く。

「わぉ……。あのロイドが素直に教えを聞いているよ」

 

コレットが微笑ましそうに見ている。

「ロイドには今まで剣のお師匠さんがいなかったもんねぇ」

 

ジーニアスはタバサに目を向ける。

「タバサが教えてあげればよかったのに」

 

タバサは、慌ててぶんぶんと手を振る。

「わたしは剣は苦手だから。魔法の方がずっと得意で、ロイドさんの相手は務まらないと思ったの」

 

ジーニアスは、「そういうものなんだ」と言ってから、

「それにしても、クラトスさんもけっこう熱心だね」

 

タバサはロイドを見て目を細める。

「ロイドさんはこれからずっとずっと強くなると思う。今まではそんなに強い魔物と戦っていないだけなんだよ」

 

するとその言葉を聞いたコレットが「そうなんだぁ」と言って、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

聖堂の地下でゴーレムたちを倒し続けて四角いブロックに変えまくった後、通路の間隙にそのブロックをはめ込んで地下の奥の部屋でソーサラーリングを入手した。その後、ソーサラーリングの炎をもって1階正面の部屋の前の結界の扉を解除する。するとワープ装置があって、ロイドたちは最上階の部屋の祭壇へと飛んだ。

タバサはワープ装置に戸惑ったが、元の世界で言う旅の扉みたいなものなんだと解釈することにした。

 

ワープ装置で転送された先の祭壇では、赤い石のようなものがまばゆく光っていた。

 

ロイドはコレットを見る。

「あそこで光っているのがクルシスの輝石か?」

 

コレットは頷く。

「そうだよ。私はあれを握って生まれてきたんだって」

 

すると突然、ドーム型の天井から白い光が降り注ぎ、背中から2枚の羽の生えた天使が降り立った。

 

緑を基調とした法衣をまとった優しげな風貌の金髪の天使は、ロイドたちを見回した後、コレットに目を留めた。

「我が名はレミエル。マナの血族の娘コレットを、新たな神子として天に導くクルシスの天使。世界の中心で眠るマーテル様を目覚めさせる時が来た」

 

ジーニアスが呟く。

「マーテル様……。姉さんが話していた伝説の通りだよ」

 

タバサは言葉にはしなかったが、『伝説』と聞くと笑いたくなる。なにせ『伝説の勇者』たるお兄ちゃんは、寝相は悪くて、勉強が嫌いで逃げ回り、スライムレースに夢中になるものすごく俗っぽい人間だからだ。人々を脅かす魔物たちと対峙する時は確かに格好良かったが、しかしそれ以外の日常では『伝説』の人間の片鱗を全然見せないのである。

だから伝説のマーテル様も、ごく一部の偉業だけを切り取った人なのかもしれないと密かに思っていた。

 

ついでに、目の前のレミエルからもそれほど神聖な感じを受けなかった。天使の羽があることを除けば、正邪入り混じる普通の人とあんまり変わらない雰囲気である。……どちらかというと、“邪”の方が強い気もしたが、これは言わないようにした。

タバサは直感的に人の正邪を見極められる能力を持っていたが、家族や家臣以外に言っても笑われるだけだったから。

 

タバサがそう考えている間にも儀式は進む。

レミエルは祭壇に置かれていたクルシスの輝石を手元まで浮き上がらせ、コレットの前に降り立つ。その途端にクルシスの輝石はひとりでに浮遊し、コレットの胸元へと装着された。

 

レミエルは厳かに告げる。

「今この時より、コレットは再生の神子となる。我々クルシスはこれを祝福し、シルヴァラントに救いの塔を授けよう」

 

ロイドたちが聖堂の窓へと目を向けると、雲を貫くように伸びる灰色の救いの塔が姿を現した。塔の頂(いただき)を見ることがかなわぬほど高かった。

 

ジーニアスは、はしゃぐ。

「これで世界は救われるんだね!」

 

レミエルはコレットに命じる。

「再生の神子コレットよ。救いの塔を護る封印を解き、彼の地に刻まれた救いの塔を上れ」

 

コレットは厳粛に返事をする。

「神子はたしかにその任を承りました」

 

レミエルは頷く。

「よろしい。我らクルシスは、そなたが封印を解放する度に天使の力を与えよう。そなたが天使として生まれ変わったとき、この荒んだ世界は再生される」

 

コレットは深々と頭を下げる。

「ありがとうございます。必ず世界を再生いたします」

 

「まずはここより南の方角にある火の封印を目指すがいい。彼の地の祭壇で祈りを捧げよ」

 

レミエルは祭壇の中央に戻る。ここでコレットは慌ててレミエルを制止する。

「待って、待ってくださいレミエル様! レミエル様は本当に私のお父さまなのですか?」

 

レミエルは表情を変えることなく答える。

「まずは火の封印だ。よいな、我が最愛の娘コレットよ」

 

レミエルの言葉に、クラトス以外は驚愕した。しかしレミエルは飛び上がり、そのまま羽を撒き散らしながら消え去ってしまう。

 

タバサは、コレットの衝撃で固まった表情を見てとっさに声をかける。

「コレットさん……? 大丈夫ですか?」

 

コレットはタバサの言葉で解凍して、慌てて笑顔を取り繕ったが、その唇は目に見えて震えていた。

「う、うん。だいじょぶだよ」

 

タバサはこういうときに何と言葉をかければ良いのかわからなかった。なので、ひとまずこう言うことにする。

「……いったんおうちへ帰りましょうか?」

 

コレットは大げさな笑顔で何度も頷いた。

「……うん、そうする」

 

クラトスが告げる。

「神託は終わったようだな。ひとまずここを出るぞ」

 

ここでタバサは提案する。

「ならわたし、便利な呪文を知ってますーー『リレミト』」

 

タバサが呪文を唱え終えると、ロイドたちは瞬く間に聖堂の外の階段の下へと辿り着いた。目の前には、祭司長の遺体が横たわっている。

 

クラトスは特に動揺することなく頷いた。

「なるほど。転送魔法か」

 

タバサは頷いた。

「そうです。祭司長さんや祭司さんの遺体をあんまり長く放置したくありませんので、早くイセリアに帰って報告しましょうーー『ルーラ』」

 

ロイドたちはこの1年でタバサの魔法について全部知っていたので、驚くことなく飛び立ち、イセリアの村の前へと着地した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『ドラクエ5』の『ルーラ』は、術者と共に飛び立たないと使えませんが、この作品では術者が指定した人だけでも『ルーラ』で飛ばせるようにしました。ちょっとした変更。
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