『理想郷』を求めて   作:hobby32

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20話:ガオラキアの森~激戦~

サイバックから徒歩で北東に進むと、すぐに鬱蒼とした密林であるガオラキアの森が見えてきた。

 

しかしそこの入り口には、全身を甲冑で覆った教皇騎士団が10人ほど待ち構えていた。

 

またか、と思い、タバサが森林火災になってはいけないからと、『ヒャダルコ』の詠唱を開始する。

ジーニアスも念のため『タイダルウェイブ』の詠唱を開始するとーー

 

「『ブラッディランス』!」

聞いたことのある女の声と共に、呪われた闇の槍が不意打ちで四方八方からタバサを襲った。

不意の魔法に避けきれないと判断したタバサは、以前ジーニアスから習った『フォースフィールド』という防御技を展開し、『ホーリーランス』のように対象を一点集中で貫く『ブラッディランス』を防いだ。

 

コレットがとっさに警告を発する。

「みんな、後ろからも来たよ!」

 

一行が振り返ると、フウジ山岳で会った緑色の髪のプロネーマと、その配下と思われる目隠しする兜が特徴的なディザイアン20人ほどが、ロイドたちを囲い始める。各々、槍や剣や弓矢を装備している。

 

その時、ジーニアスが『タイダルウェイブ』を発動する。

足下を切り裂くような鋭い水流が渦を巻くようにまず教皇騎士団に襲いかかる。しかし全身を覆い尽くす甲冑のせいか、あまり効いていないようである。後方のディザイアンたちにまでは、激流魔法が届かない。

 

ジーニアスが顔をしかめて舌打ちする間にも、教皇騎士団たちとプロネーマ率いるディザイアン兵たちが包囲網を狭めてゆく。

 

プロネーマは憤怒の形相で、タバサを射貫くような目で見ながら叫ぶ。

「わらわたちディザイアンを大勢屠った小娘よ、ここで散りゆくが良い!」

 

タバサはフウジ山岳で出会った時はそんなことを言わなかったのに、どうして今さらと思ったが、相手が退きそうもないので臨戦態勢となる。

 

その時リフィルが叫ぶ。

「タバサ、『ルーラ』を使ってちょうだい! いくらなんでも私たちにとって不利だわ」

 

タバサが空を確認して、まだ森に差しかかる直前で木の枝に頭をぶつける心配は無いと判断し、「わかりました」と答えた。

 

しかし、プロネーマの目配せを受けた弓矢を持つディザイアン兵が素早く動き、タバサに向けて矢を放った。

 

「くっ!」

タバサは詠唱を中断してみかがみの盾で矢を防いだ。

 

プロネーマは未だ怒りの形相で叫ぶ。

「小娘よ、ここにて散れ!」

 

タバサは、このプロネーマに対してフウジ山岳からここまでの間に恨まれることをした覚えはなかった。この人はあの時、コレットさんを狙っていたはず。なのに、どうして急にここでわたしを殺そうとするのか。

 

しかし前からも後ろからも敵が来ている状況では、熟考している暇は無い。

 

ロイドはとっさに思いついた作戦で指示を飛ばす。

「男たちは教皇騎士団と、女たちはディザイアンたちと戦ってくれ! 男どもは速攻で教皇騎士団を片付けて女たちの援護に向かうぞ!」

 

もはや窮地に追い込まれた末の作戦であった。吟味の余地無く、一行はその作戦に縋る他なかった。

 

タバサはもはや魔法で戦えないことを悟り、剣を抜いて、ディザイアンたちに、コレットとしいなとプレセアと共に特攻する。

 

しかしながらプロネーマたちの狙いは、徹底的にタバサであった。

 

プロネーマが詠唱を開始する。

「喰らうがよい! ……『ダークスフィア』!」

 

「ううっ!」

固まった球状の暗黒エネルギーがタバサを拘束し、破裂したときに強いダメージを与える。属性は真逆だが、『フォトン』とよく似ていた。

 

タバサが暗黒球に捕まっている間に、弓矢を持ったディザイアンが忍び寄り、タバサに向かって撃っていく。

 

「タバサ、ダメ!」

そこにコレットがタバサに叫びながら走り寄り、飛び込んで彼女の体を押し倒してゆく。ヒュンヒュンと、コレットの背中すれすれを矢が飛んでいった。

 

プロネーマは、チッと舌打ちしてから指示を飛ばす。

「神子を狙うなかれ! 小娘以外はどうでもよい! 小娘だけを狙え!」

 

すると、ディザイアンたちは、しいなもプレセアも無視して、コレットに押し倒されているタバサの元へと走る。

 

コレットは慌てて立ち上がり、タバサを解放する。しかしそこにしいなもプレセアも振り切ったディザイアンたちが殺到する。

 

まずい、とタバサは思う。こんなに大人数から狙われたことがない。狙われるのは前の旅でも今回の旅でもいつも違う人だったから。

 

詠唱時間を確保できればーーと思ったところで、

 

「『タイダルウェイブ』!」

ジーニアスによる激流の渦が今度はディザイアンたちを襲った。足下の防具は疎かなディザイアンたちは、水の激流に立っていられず、激しく吹き飛ばされて転倒してしまう。

 

ジーニアスはタバサに指示を飛ばす。

「タバサはロイドたちを援護して。こっちはボクが引き受ける!」

 

タバサは戦局を打開してくれたジーニアスを頼もしく思いながら、「わかった!」と元気よく返事をして、ロイドたちのもとに走る。

 

プロネーマは、思い通りにいかない戦況に腹を立てる。

「同族の小僧がこしゃくな! 覚悟をし!」

 

プロネーマはジーニアスを今度は排除対象と定めたようだ。

杖を振りながら近づいてゆく。

 

けん玉で詠唱のリズムを取りながら詠唱するジーニアスを、タバサを除く女性陣が、ディザイアンとプロネーマの動きに注意しながら援護してゆく。まず弓矢を持っているディザイアンを見定め、集中的に攻撃した。

といっても、起き上がった弓矢を持つ敵は、コレットたちに討たれるか先ほどのプロネーマの指示のせいでディザイアンたちから離れたタバサを狙いに走ってしまう。プロネーマが慌てて「銀髪の同族の小僧を狙え!」と指示を変更してもにわかには対応できず、結果としてジーニアスの2度目の『タイダルウェイブ』を許してしまった。

 

その光景はまさしく“一掃”といって良かった。猛烈な回転の激流に呑み込まれたディザイアンたちはまたも吹き飛び、多くが気絶してしまった。かろうじて気絶を免れても、コレットたちの追撃で容易に倒されてしまう。それでほとんどのディザイアンは戦闘不能に追い込まれた。

 

指揮官のプロネーマ自身も激しい水流の中で立っていられず、何とか倒れることは免れても膝をつき、コレットの投擲するチャクラムが顔にまともに命中してしまう。

 

「ぬうっ!? ……おのれ……」

プロネーマは悪態をつくも、もはやどうしようもなかった。

 

教皇騎士団を片づけたロイドとゼロスとタバサも、こちらに走り寄ってくる。このまま単騎で戦っても、フウジ山岳の二の舞いになることは目に見えていた。

 

仕方なく、捨て台詞を残す間もなく、プロネーマは浮上して立ち去っていった。

 

 

「ふう、死ぬかと思ったぜ」

ゼロスは、教皇騎士団の連中から受けた槍の傷をリフィルに癒してもらいながら呟いた。

 

「すみません、わたしのせいで」

タバサは、なぜ自分が狙われたのか不可解な部分もあるが、ひとまずみんなに謝った。

 

ゼロスは首を振る。

「いや、お姫さまを責めたいわけじゃねぇよ。教皇騎士団の連中は俺を狙ってたし、騎士団の連中と、ディザイアンっていうの? とにかく今回はそいつらが挟み撃ちを仕掛けてきたってだけの話さ」

 

リフィルはまたも考察する。

「よくわからないわね。プロネーマはフウジ山岳ではコレットだけを狙って、他の人たちには興味を示さなかったのに、今日になって急にタバサを狙い始めて……『ディザイアンの仇』とは言っていたけど、それならフウジ山岳の時点でタバサを狙わないのは不可解だわ」

 

しいなが腕を組む。

「結局アイツ……クラトスの言っていた通りになったけど、クルシスの連中はタバサが異世界と繫がっていることがそんなに気に食わないのかね?」

 

ジーニアスが首をかしげる。

「タバサが異世界から戦力増強に努めるとでも思っているのかな? でも、タバサはそんなことをしてないし……」

 

ロイドがここでからっとした結論を出す。

「ま、こんなところで考えこんでも仕方ねぇよ。とりあえずガオラキアの森を抜けて、アルテスタってドワーフの元に向かおう。敵が襲ってきたらまた追い返してやればいいだけだし」

 

一行はひとまずロイドの意見に賛成して、闇の森へと入っていく。

 

タバサは憂鬱そうにため息をつく。先ほど自分がターゲットにされたのもあるが、昼でも暗くておどろおどろしい雰囲気のする目の前のガオラキアの森は、暗所恐怖症で幽霊も苦手なタバサにとっては恐怖の感情が先立つ場所であった。

 

すると、ジーニアスが近づいてタバサの手を握ってくれた。

タバサはビックリする。まだ暗所恐怖症についてジーニアスには話していないのに。

 

ジーニアスは安心させるように言う。

「顔を見ればわかる。タバサはこういうところが苦手なんでしょ。大丈夫。ボクが手を繋ぐから」

 

「あ……ありがとう……」

タバサは赤面しビックリしながらも、ジーニアスの手を握り返す。

 

ジーニアスは、自分が王女だと判明する前と後で全く態度を変えずに、手を握ってくれる。そのことにタバサは、身もだえしたくなるほどの幸福感を抱いた。

 

ハーフエルフとか王女とか、そんなの関係なく、ずっとずっとジーニアスの手を握っていたい。ずっとこうしてジーニアスから手を引っ張られたいーータバサは前をゆく銀髪の男の子にそんな強い感情を抱いた。

 

 

 

ガオラキアの森には、タバサが感じた通り、ゴーストやゾンビ系の魔物でいっぱいであった。黄色いお化けで生者を死者へと変えようともくろむファントム、正体不明のおぞましい怪物をカンオケに入れて背負いながら歩くゲートケスト、枝に付いたカボチャで殴りかかってくるパンプキンツリーなど、確かに1人では歩きたくない魔物が揃っていた。一応踏み固めてできた土の道は整備されているのだが、時折繁茂した植物が道を狭めており、あまり人通りが多く無いことはうかがえた。時折見える太陽の木漏れ日に光る花が、精神的なオアシスであった。

 

森林火災になることを避けてジーニアスとタバサは火属性の魔法は避けて、加重力空間で攻撃する『グラビティ』や相手を氷漬けにする『ヒャダルコ』で魔物たちを蹴散らしていった。

それよりも何よりも、暗い森に住む魔物の大半は光属性を苦手とするため、リフィルの光の小爆発を起こす『フォトン』や、コレットの光輪を投じる『エンジェル・フェザー』が効果的だった。

 

 

さて、先人たちが残した足跡を踏んでプレセアの案内(ほとんど無言で先導して歩くだけであったが)で、ロイドたちがガオラキアの森を踏破しかけたところ、大きく2つの分かれ道があった。

 

どっちが正解かをプレセアに訊ねたところ、「こっちの道」と指差した。

 

しかしコレットが立ち止まってみんなに警告する。

「みんな待って。こっちの道に行くと、たくさんの兵士たちとはち合わせになるよ」

 

ゼロスが「俺さまには何も聞こえないけどな……」と首をかしげると、ロイドが即座にコレットを信じて言う。

「コレットには、天使化した時の耳の良さが残ってるんだ。これは……いるぞ!」

 

コレットはもっと確信をこめて言う。

「やっぱり足音。それに鎧のガチャガチャとした音も。こっちから聞こえるよ」

 

ここでしいなは、人工精霊のコリンを召喚して、偵察に向かわせた。

 

その直後に木の上から大男が降ってきて、一行を驚かせる。そして、青い髪に手枷という姿から、即座に下水道にいた男だとみな思い出す。

 

ゼロスは疲れたようなため息をつく。

「次から次へと教皇のやつ、そんなに俺さまのことを殺したいのかっつーの……」

 

しかし青い髪の男は首を振った。

「私は今はおまえたちと戦うつもりはない。ただ、その桃色の髪の少女と話したいだけだ」

 

ロイドが訝しがる。

「プレセアと? 何を?」

 

男は答えることなくおもむろにプレセアに近づく。

そして大きく目を見開いた。

「それはエクスフィア! おまえも被害者なのか!?」

 

リフィルが訊ねる。

「“おまえも”ってどういうことかしら?」

 

しかし男にはリフィルの問いかけが耳に入らなかったようだ。

「プレセア。きみには姉がいなかったか?」

 

プレセアは、プルプルと首を振るだけであった。

 

男は瞳を閉じて、「そうか」と呟いたあと、大きなため息をついた。

 

ロイドはひとまず訊ねる。

「あんた、名前は?」

 

青い髪の男は躊躇うことなく答える。

「リーガルだ」

 

その時、コリンが大急ぎでしいなの元へと帰ってきた。

「しいな! たくさんの兵士がいたよ! こっちに向かっている! 急いで逃げて!」

 

リフィルはタバサを一瞥した後、首を振った。

「『リレミト』や『ルーラ』じゃ、この森に入った意味が無くなるわね。どこか一時しのぎできる場所があれば良いのだけれど……」

 

しいなは覚悟を決めたように告げる。

「……仕方ない。ミズホの里まで案内するよ。みんなついてきな」

 

リーガルはここで頭を下げて懇願する。

「すまん。私もおまえたちに付いていきたい! もう危害を加えることはせぬから!」

 

リーガルの求めにロイドたちは、どうしようか、と顔を見合わせたが、ここでジーニアスが発言する。

「信じようよ。悪い人のような感じがしないし。それにボクらがこの人をここに置いていったら、それこそ教皇騎士団にボクらの行った道を教えるかもしれないよ」

 

ジーニアスの言葉に納得したロイドたちは、リーガルを連れてミズホの里へ向かうことにした。

 

 




リーガルとの戦闘は回避。原作ではリーガルがプレセアのエクスフィアが装着されている胸元に手を伸ばしたからロイドたちが危険視して戦闘になりましたが、それはリーガルの人となりを考えればおかしいですから、軽く改変しました。
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