『理想郷』を求めて   作:hobby32

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23話:雷の神殿~克己~

タバサの『ルーラ』でロイドたちはミズホの里まで飛んだが、普段はネガティブな表情を滅多に見せないタバサは目に見えて元気がなかった。理由は当然、クラトスの非常に強い警告のためである。

 

深夜の人けのない里で、しいなに寝泊まりするところを案内してもらった。“障子”という紙と木の枠でできた引き戸越しに男女を分け、布団を“畳”に敷いて眠るのがミズホ流だそうである。なお、初めて頭領の家を訪れた時もそうであったが、室内に入る前に靴を脱がなければならないらしい。ーーという風に普段なら異文化を楽しめるタバサであったが、今日ばかりはとてもそんな気分になれなかった。

 

全員分の布団が敷き終わったところで、リフィルが布団に座りながらみんなで議論をする。

「さて、クラトスのタバサに対する警告の件なのだけれど、みんなはどう思ったかしら?」

 

ロイドから口火を切る。

「う~ん、言い方は気に食わなかったけど、俺は本気の忠告だと思ったぞ。実際、テセアラなのにディザイアンの連中が襲ってきたしな。ただ、なんでタバサをしつこく狙うのかまではさっぱりだけど」

 

ジーニアスも言いにくそうだが意見を述べた。

「ボクも。クラトスさんがクルシス幹部として本気を出せば、タバサの戦い方を知っているわけだから倒せるはずなのに、警告で留めたのは、やっぱりタバサのことを気にかけているからだと思う。ただ、クルシスもディザイアンもハーフエルフなのに、なんでタバサを殺そうとするのかまではわからない。ハーフエルフからすれば、タバサの世界は『理想郷』なのに」

 

しいなもおおむね賛同した。

「まあ、アイツの言っていることは正しいんだろうね。全部を具体的に言えないのは、やっぱり敵としての立場があるからだと思うよ」

 

リーガルは訊ねる。

「私はクラトスという男についてよく知らないのだが、まやかしを言って、こちらを惑わせたりタバサを異世界とやらに帰還させようという魂胆はないのか?」

 

ゼロスも、そうだなあ、と頷いた。

「俺たちテセアラから合流した人からすりゃ、そもそもクラトスってすかした野郎の言葉をどう受け止めればいいのかわかんねぇよ」

 

ここでリフィルが簡潔に解説する。

「クラトスは、シルヴァラントの世界再生の旅に出たコレットを護衛するために現れたの。最初は傭兵と名乗ったけれど、本当はクルシスの四大天使の1人だった。実際にコレットと似たような天使の羽を出すところを私たちは目撃しているわ。護衛の任務はきちんと果たして、旅の最中のアドバイスもほとんど的確だった。けれど、最後の封印ーー救いの塔で彼は裏切ったの。コレットをマーテルの器として強引に連れて行こうとした。ところが、クラトスが本気を出せば易々と私たちに勝てたはずなのに、ユグドラシルという圧倒的な力を持つクルシスの指導者に私たちが殺されないように取りはからったとしか思えない行動を取ったの。それで私たちは、クラトスは立場上は敵でも、実は味方している部分があるんじゃないかと思っているわ」

 

プレセアがポツリと訊ねる。

「旅の間に、ロイドさんたちに情が移ったのですか?」

 

リフィルはその言葉には素直に頷けない。

「そういうタイプの男には見えなかったわ。むしろ淡々と冷静に任務をこなすタイプだと見なしたのだけれど……時おり、例えばロイドに剣の指導をしたり、人情味のある諭しをしたり、ということはあったわ。……タバサは、クラトスと個人的に何かあったかしら?」

 

タバサは、元気のない顔を振る。

「いいえ、大したことではないです。わたしには、救いの塔から脱出する際の『リレミト』について思い出すように質問したり、どうしてわたしが魔法を使えるのかを訊ねたりと、その程度です。わたしが異世界出身であることに気付いている様子はありませんでした」

 

リフィルは、そう、と考えこむ。

「フウジ山岳からの『ルーラ』で、私たちがタバサが異世界出身だと知った二日後には、クラトスは、いえ、プロネーマたちクルシスの構成員は、どういうわけかその情報をキャッチしていた。そして、クルシスはタバサを殺そうとしているーー全く筋が通らないわね。どうやってタバサが異世界出身だと知ったのかも、なぜタバサを殺そうとするのかも」

 

ロイドがここで意見する。

「でもさー、先生。アイツらのことがよくわからなくても、タバサを襲ってきたら、またみんなで倒せばいいだけなんじゃねぇの。もちろん、クルシスの奴らの情報があった方がいいんだろうけどよ」

 

しいなは少しため息をつく。

「でも、あたしたちの対処能力を超えてきたり搦め手を使われたりしたら危ういよ。今日だって、ロディルとかいう奴がプレセアを利用してコレットをさらったりしてるし。アイツらが本気を出してユグドラシルまで出て来たらどうしようもないよ」

 

ここで、リフィルが勘づいた。

「しいな。今あなたの言葉のおかげで気付けたことがあったわ」

 

しいなは、「なにさ、リフィル?」と首をかしげる。

 

リフィルは少し高揚して答える。

「クルシスのタバサに対する襲撃が、本気を出しているとは思えないということよ。ガオラキアの森での襲撃は、教皇騎士団10人くらいと、プロネーマ率いるディザイアン20人程度。タバサの魔法への対策は打ってきたけれど、これがクルシスの本気なのだとしたら大したことがないわ。クラトスはともかく、他にもユアンとかの天使の戦士を抱えているのに」

 

ジーニアスは口を挟む。

「でも姉さん。クラトスさんの言い分からすると、クルシスはものすごく本気みたいな感じだったよ。油断は禁物じゃない?」

 

リフィルは弟に対して頷く。

「そうね。ただ、襲撃自体はプロネーマたちのあれっきり。クルシスの戦力からすればもっとつぎ込めそうなものなのに。確かにプロネーマの襲撃から日は浅いけど……ああ、ダメね。まだ確たる現状認識を掴めているとは言えないわ」

 

リーガルがここで発言する。

「ありきたりな組織論だが、組織というのは共通の目的に構成員が賛同しなければうまく機能しないものだ。タバサが異世界出身者だから殺めるという曖昧な目的では、クルシスの中でも襲撃に賛同する構成員と、クラトスのように反対する構成員に分かれているのではないか?」

 

ゼロスがここで、おー、と感心してから茶化すように言う。

「まるで一流の経営者みたいなことを言うな、リーガル」

 

リーガルはゼロスを睨みつけ、「紋切り型の組織論しか言っていないが」と述べた。

 

ここでジーニアスがタバサに努めて優しい声で訊ねる。

「ねえ、タバサ。改めて『ルーラ』っていう魔法について詳しく教えてくれないかな?」

 

タバサはキョトンとしながらも、言われるがまま答える。

「う、うん……。『ルーラ』はね、わたしが行ったことのある場所を頭の中でイメージして、その場所に飛んでいくことなの」

 

「じゃあ、仮にタバサが敵から『ルーラ』を使ってきみの故郷のグランバニアまで案内しろ、って脅されたとき、タバサは自分だけグランバニアに飛んで、敵から逃げることはできる?」

 

タバサは即座に頷く。

「できる。『ルーラ』で誰を一緒に飛ばすかはわたしが決められるから、その状況ならすぐに脱出できる。もしも天井のあるところでそんなことを言われたら、相手を天井にぶつけて痛がっている間に倒すか逃げればいいし」

 

ジーニアスは確信をこめて頷く。

「じゃあ、タバサを悪いハーフエルフが捕まえても、タバサの世界、すなわちハーフエルフ差別のない『理想郷』に飛ぶことはできないんだね」

 

タバサが「うん」と首肯すると、ゼロスはうひゃひゃひゃと笑う。

「そんじゃ、クルシスのハーフエルフの奴ら、いくらタバサちゃんを捕まえても意味ねーなー。取り残されるか、天井にゴンと頭ぶつけて終わりか」

 

リフィルが軌道修正を図る。

「ジーニアス。クルシスはタバサを殺そうとしているのよ」

 

ジーニアスは、そうだけど、と言う。

「ボクがもしクルシスのハーフエルフで、タバサの『ルーラ』でハーフエルフ差別の無い『理想郷』に行けることを知ったら、『ルーラ』で飛ばしてくれって脅すと思うもの。普通のハーフエルフなら、ボクと姉さんがそうだったように、『理想郷』がもの凄く眩しく見えるはずだから。世界を統べる天の機関クルシスの構成員といえど、『理想郷』に魅了されるハーフエルフが必ず出てくると思うんだよね。だから、タバサを捕まえて脅してもどうにもならないことをまず知りたかった。……いや、クルシスのどこに目があり耳があるかわからないから、伝えたかったと言うべきかな」

 

ジーニアスの理屈に、同じハーフエルフとしてリフィルは納得する。

「確かにそうね。クルシスの連中で、タバサの世界に行きたがるハーフエルフがいてもおかしくはない。タバサをなぜ殺そうとするのかは現時点では不明だけれど、普通のハーフエルフなら『理想郷』を知ったら行かせてくれって頼むわね」

 

しいなはかぶりを振る。

「さっぱりわからないよ。タバサは確かにかなりの戦力だけど、それでも向こうにとっては垂涎の的に映る存在なんだろ。それを殺そうと狙うなんて。しかも、タバサは全体掃討の魔法が得意と来た。前衛がしっかりしていりゃ、爆発魔法を食らうか、氷漬けにされるかのどっちかなんだから、戦うことそのものにリスクがある」

 

リフィルは、懐中時計を取り出して時刻を確認してから告げる。

「……長くなったわね。クルシスがタバサを狙う理由が出て来ないなら、これ以上議論しても仕方ないわ。コレットを早めに助けなければいけないし、今日はもう休みましょう」

 

それからしいながふすまを閉める。一言ゼロスに「ヘンなことするんじゃないよ!」と釘を刺してから。ゼロスは相変わらずヘラヘラと笑って返したが。

 

 

 

朝になると、ロイドたちは頭領の家に向かう。結局タバサはクラトスの忠告を無視して残ることとなった。クルシス内部の組織がまとまっていない可能性が見受けられるし、どうしようもない脅威が訪れたら『リレミト』や『ルーラ』で逃げればいいと、ひとまず結論づけたのだ。

 

頭領の家で副頭領のタイガからレアバードのありかを発見したと早速報告を受けた。クラトスの言ったとおりとなったわけだが、今さらクルシスの情報網にロイドたちは驚かなかった。

 

しかし、タイガは彼自身も覚悟を決めた眼差しでしいなに告げる。

「しいなよ。これにつき、そなたに試練を与えなければならん」

 

しいなはすぐに察した。彼女の全身からぶわっと汗が噴き出す。そして、目に見えて震え出しながらタイガに言う。

「ふ、副頭領、まさか……」

 

タイガは大きく頷く。

「レアバードを手に入れたところでヴォルトのマナが無ければ飛べぬ。なのでレアバードを奪う前にヴォルトとの契約をするのだ。おぬしにとってはこの上なく過酷な試練になるだろうが……」

 

しいなは震えた声で叫ぶ。

「あ、あたしにはできません!」

それから瞬く間に頭領の家を飛び出していった。

 

ロイドが驚きの声を上げる。

「しいな!?」

 

タイガは正座したままロイドたちに告げる。

「しいなは、一度ヴォルトとの契約に失敗しているのです。……頭領が床に伏せっているのも、その時の事故ゆえに……」

 

タバサは神妙な面持ちで問いかける。

「詳しくお訊ねしても構いませんか?」

 

 

 

タイガの話はこうであった。

12年前、しいなが7歳のころ、精霊研究所で精霊と召喚できる素質があると言われたしいなは護衛と共に、さっそくミズホの里の北側の海を船で渡ってヴォルトの住まう雷の神殿に赴いた。その時のしいなは、これで捨て子だった自分を育ててくれた頭領に恩返しができる、と張り切っていたらしい。ミズホとしても、精霊の力を手に入れられるのは非常に魅力的だったから、しいなの護衛のために何人もの優秀な戦士を付けた。

 

しかし、しいなはヴォルトの話す言葉を理解できず、焦った彼女が精霊研究所で習った通り強引に契約を結ぼうとしたところ、ヴォルトが怒り出し、しいなたちに大量の落雷を浴びせたのだ。

それでしいなを護衛していた半数の戦士が死に絶え、残った戦士たちが気絶したしいなと共に急いで船に乗った。

 

だが、船に乗っても丸い雷の塊である精霊ヴォルトは追いかけてくる。何とかミズホの里まで辿り着けたが、ヴォルトは里に裁きの雷を大量に落とし、結果4分の1のミズホの民が犠牲になった。

 

それ以来、しいなはミズホの里で孤立し、疎まれ続けているのだという。時間が経つと徐々に里の人間としいなとの関係回復は進んでいったが、ヴォルトによる災厄で家族を失った者は、今もなおしいなに対して憎悪の念が滞留しているのだという。

 

リフィルはそれを聞いて納得した。

「なるほど。しいながその感情的な性格に似合わず、コレットの暗殺を引き受けたのは、その時の事件の罪滅ぼしのためなのね」

 

タイガは瞳を閉じて頷いた。

「そうです。あれはしいなから申し出たこと。正直なところ、シルヴァラントの神子暗殺失敗の報告を受けた時、またミズホの里に災厄をもたらすのかと肝を冷やした者は少なくないでしょう」

 

プレセアが憐れみながら言う。

「当時7歳だったしいなさんに、何もかも背負い込ませるのは、あまりにも酷なことだと思います」

 

タイガは頷く。

「ええ。それは我々も重々承知しています。当時ヴォルトと契約を結ぼうとしたことは、しいなだけではなく、今も伏せっている頭領たち里の上層部で決定したこと。しいなだけを責めるのが酷であることは、皆、理屈では理解しているのです。……ですが、感情というのは厄介でしてね。頭領がヴォルトの事故以来目を覚まさないのに対して、しいなは今でも動けている。それ故に、ヴォルトの雷に家族を奪われた者は、どうしても今でもしいなを恨んでしまうのですよ」

 

タバサは慎重に訊ねる。

「ミズホの里の人たちは、今回ヴォルトと契約しても構わないのですか?」

 

タイガはすぐには答えられなかった。少し間を置いてから話し出す。

「……我々はそなたたちに託す他ない、と判断しました。しいながコレット暗殺に失敗したことで、我らはテセアラ王家とマーテル教会から追われる身となりました。もはやしいなの成功にすがる他ないのです」

 

そこまで聞いたロイドは、「俺、ちょっとしいなと話してくる」と言って外へと出て行った。

 

それから5分後に、根負けしたという表情のしいなと共にロイドは戻ってきた。

 

 

近くの桟橋からエレカーに乗船してわずかに北上した小さな島に雷の神殿はあった。外観は緑の植物がはびこった塔と言うべきだが。

雷の神殿は、暗く高く雷鳴が絶え間なく響きわたるという三重苦で、タバサにとっては相性最悪の場所であった。

 

真っ暗で白く轟く雷鳴以外光がない柵のない通路を慎重に歩かなければならなかったり、水たまりに入るために高い位置の避雷針を起動しなければならなかったり、天井近くにぶら下がっている避雷針の仕掛けを上から落として装置の上に乗せ落雷で入電して機械を作動させるなど、よくもまあこんな手の込んだ仕掛けを考えたものだと思わずにはいられなかった。

 

やはりジーニアスと手を繋ぎながらタバサがしいなにこれらの仕掛けについて訊ねてみたところ、しいな曰く、昔はこんなものはなくてヴォルトにすぐに会えたから、ヴォルトの人間を拒絶する態度の表れかもしれない、と怯えた顔で推測を立てた。

 

さらに出てくる魔物は、サンダーソードだのライトニングバードだの、雷にまつわる存在ばかり。タバサは元の世界では魔界も含めて雷属性の敵に出会ったことがないため、自分の魔法が効くのか不安だった。だが、ジーニアスの教えのもと、『ヒャダルコ』などの氷属性の魔法を多用することで何とか弱点を突くことができた。ジーニアスは間欠泉のごとく大量の水柱を立てる『スプレッド』や氷の嵐で敵を覆う『アイストーネード』で雷属性の魔物を倒し続けた。

 

そして、雷の神殿を右往左往して、幼いしいながヴォルトと出会った封印の間で、各所に散りばめられているソーサラーリング機能変換装置で電気の種類を色々と変えながら、青い電気で青いブロックを、黄色の電気で黄色のブロックを、赤い電気で赤いブロックを壊して避雷針に雷を落としたところ、ようやくヴォルトと会うことができそうであった。

 

しかし、ロイドがソーサラーリングで最後の赤いブロックを壊す直前にタバサが制止の声を上げた。

「待ってください、ロイドさん。相手はミズホの里の民を4分の1も殺害した雷の精霊です。かつてここでしいなさんの護衛を半数は壊滅させたというのなら、こちらを一網打尽にできる大量の落雷を降らせることができると思われます」

 

ロイドはひとまずその言葉に頷いた。

「そうだな。それで、タバサには何か考えがあるのか?」

 

タバサは瞬時に答える。

「ヴォルトと直接会う人を最小限に絞りましょう。契約を申し込むしいなさんと、マスタードラゴンさまのお力でおそらくはかつて言語不通だったというヴォルトの言葉を訳せるわたしの2人でいきます。他の人は封印の間の前の部屋で待機してください。以前、ウンディーネが戦いを挑んで来た時のように、ヴォルトも契約に際して戦いを挑んでくるものと思われます。その時になったら、皆さん飛び出してきてください」

 

ゼロスは、素直に感心する。

「ほ~、契約を申し込む必要のあるしいなはともかく、自ら危険な役を買って出るとは、勇敢なお姫さまなこって。なら、俺さまから愛のプレゼントをしてやるよ」

 

ゼロスは自らの首にかけていたパラライチェックというマヒを防止するペンダントをタバサの首にかけた。ゼロスがタバサにペンダントをかける姿を見て、思わずムッと腹が立ったジーニアスであったが、ここで感情に任せて文句をつけるほど阿呆ではない。

 

ゼロスはいつもよりも低い声で解説する。

「パラライチェック。雷属性のダメージを軽減する効果がある。1つしかないから黙って俺がかけていたけどよ、今はお姫さまに貸す番だ。ちょっと汗が染み込んでいるのは勘弁してくれや」

 

いつもよりもはるかに真剣な口調のゼロスに、タバサは違和感を覚える。

「ありがとうございます、ゼロスさん。……何かあったんですか?」

 

ここでゼロスはいつものヘラヘラとした口調に戻る。

「いやあ、だってお姫さまに死なれたら、俺さまの万が一の逃亡先が無くなるわけだし~。それに~、タバサちゃん可愛いからさ、プレゼントの1つや2つあげたくなるもんでしょ。なっはっはっは!!」

 

それだけ告げると、ゼロスは真っ先に封印の間の前の部屋に向かっていった。

 

ロイドはただ単純に「ゼロスは相変わらず女の子には優しいな」と言った後、

「じゃあ2人とも、気を付けてな。何かあったら叫んでくれ。俺たちすぐに駆けつけるからさ」

 

ロイドは赤い電気を発射するソーサラーリングをしいなに手渡してから、去っていった。

 

こうして、しいなとタバサは2人だけで封印の間に残ることとなる。

 

しいなは、他の仲間がいなくなると、心細さがこみ上げてきたようだ。

タバサに縋るように訊ねる。

「な、なあ……あんたの世界に空飛ぶ乗り物はないのかい?」

 

タバサは冷静に答える。

「魔法のじゅうたんは兄が持っています。しかし低空飛行しかできません。他にはわたしをこの世界に派遣してくださったマスタードラゴンさまの背中に乗って一時期旅をしましたが、神さまがおいそれとこちらの世界にいらっしゃるとは思えません。しいなさんがヴォルトと契約するのが一番だと思います」

 

しいなは、追い詰められて苦しい表情となる。

「はあ……そうかい……」

 

ここでタバサは頭を下げる。

「冷たい言い方となって申し訳ないです。ですが、コレットさんのことがありますので、よろしくお願いします」

 

しいなはここでハッとした表情となる。

「そうだ……そうだったね……あたしは自分のことしか考えてなかったよ。コレットのことを忘れるなんて……バカだ」

 

タバサは首を振る。

「そんなこと、ないです。あれだけのトラウマがあるなら、他人よりも自分に目を向けるしかありません。いえ、ミズホの里の人のことをよく考えているからこそ、しいなさんが今日ここまで怯えるのでしょう」

 

しいなは『コレットのために』というところで、両手で両頬をパンと叩いた。

「そうだ、あたしには、助けたい女の子がいるんだ。そのために不様な姿ではいられないね」

 

タバサは頼もしそうに頷く。

「その意気です。覚悟ができたらソーサラーリングで赤いブロックを壊してください」

 

しいなは、決然と首を縦に振る。

「よしーー行くよ!」

 

しいなはソーサラーリングの赤い電気で、赤いブロックを破壊した。

 

 

 

すると、赤いブロックから落下してきた避雷針に雷が一筋落ちると共に、宙に浮かんだヴォルトが姿を現した。中央部に紫色の核があり、その周囲を紫電が不定形に囲う。そして2つの赤く細長い目が、しいなとタバサを見下ろしていた。

 

「………………」

ヴォルトが話しかけるが、しいなには何を言っているかわからない。

 

しいなは露骨に狼狽する。

「まただ……! 昔と一緒で、コイツが何を言っているのかさっぱりわからないよ!」

 

タバサは、トラウマが喚起されて慌てふためくしいなの手をとっさに握る。手袋ごしにタバサの手も汗ばんでいたが。

「待ってください。いま翻訳します。……我はミトスとの契約に縛られる者、おまえは何者だ」

 

「またミトスかい? ……って今はそれどころじゃないね。ーーあたしはしいな。ヴォルトがミトスとの契約を破棄し、あたしと新たな契約を交わすことを望んでいる」

 

ヴォルトが返答する。

「………………」

 

タバサが翻訳する。

「ミトスとの契約は破棄された。しかし、私はもう契約は望まない」

 

しいなは愕然とする。

「ど、どうして!」

 

「………………」

 

「人との関わりは持ちたくない。故に契約は望まない」

 

しいなはここで必死の形相で懇願する。

「頼むよ、ヴォルト! あんたの力が無けりゃ救えない人がいるんだ! あたしはどうしてもその人を助けたいんだよ!」

 

「………………」

 

タバサは溜め息をつきながら翻訳する。

「人のことなど知ったことではない」

 

ここでしいなは黙りこくってしまったため、タバサが代わりに問いかける。

「ヴォルトさん。あなたはどうして人を嫌っているのですか?」

 

「………………」

 

「な、なんて言ってるんだい?」

 

「前の契約者が我との誓いを破ったからだ、と言っています」

 

しいなはここで力強く宣言する。

「あたしはそんなことしない。あたしはとある女の子を助けたい! そして、この2つの世界の人たちを救いたいんだ!」

 

「………………」

 

「ならば力を示せ、と言っています」

 

しいなはまたも怯えが走るも、力強く頷いてから、振り向いて叫んだ。

「ロイド! みんな! 戦うよ!」

 

するとロイドを先頭に前の部屋にいた仲間たちが、1人ずつ駆けてくる。

 

ジーニアスがここで叫ぶ。

「作戦を立てた! タバサ、こっちに戻ってきて! ボクらがヴォルトを凍らせている間に前衛が攻める! これで行くよ!」

 

タバサは大急ぎでジーニアスの元へと走った。

 

その間に、ジーニアスはけん玉でリズムを取って詠唱する。

「『アイストーネード』!」

 

氷の渦がヴォルトを囲うように襲う。

すると、冷気の影響でヴォルトを囲う紫電が目に見えて弱まり、床に落下する。

 

ロイドが「今だ!」と叫ぶと、彼に続いて、しいな、ゼロス、プレセア、リーガルが一斉に走って、ヴォルトを斬ったり蹴ったりしていく。

 

そしてヴォルトの雷の勢いが回復しかけたところで、前衛は一斉に距離を取る。

 

そこにタバサの『ヒャダルコ』が決まって、ヴォルトの球体が氷漬けにされて落ちていく。氷が弾けたところで、またロイドたちの武器がヴォルトを攻撃していく。

 

ジーニアスとタバサがヴォルトを氷漬けにして、電気が弱まったところを前衛が滅多打ちしていくーーしいなは、あれほど恐ろしかったヴォルトをこんなにも呆気なく嵌めることができるのかと内心驚いていた。そして、心の中に在った巨大なヴォルトの影が小さくなっていくのを感じる。

 

そしてとうとうヴォルトは負けを認め、しいなを契約者として認める。

「………………」

 

タバサが翻訳する。

「ヴォルトが誓いを立てろ、と言っています」

 

しいなは堂々とした態度で宣言する。

「さっき言ったとおり、あたしは1人の女の子と、2つの世界の人たちを助けたいんだ」

 

「………………」

 

「誓いは立てられた。我の力、契約者しいなに預ける」

 

そうして、ヴォルトは紫の渦と共に姿を消した。

 

しいなは信じられない面持ちでその場に座りこんだ。

「……できた」

 

そこに煙幕と共に、人工精霊コリンが姿を現す。

「やったね、しいな!」

 

しいなは自分に擦り寄ってくるコリンの背中を撫でる。

「コリン……ああ、あたしできたんだよ!」

 

 

 

すると、ここで突如として、青い渦とともにウンディーネが、紫の渦と共にヴォルトが並んで姿を現す。

 

ウンディーネは淡々と告げる。

「二つの世界の楔は放たれた」

 

ヴォルトも「………………」と言って、タバサが翻訳する。

「相反する2つのマナは、いま分断された、と言っています」

 

一行が首をかしげると、ウンディーネが説明する。

「マナは精霊が眠る世界から目覚めている世界へ流れ込みます。2つの世界で同時に精霊が目覚めたのは初めてのこと。これにより2つの世界を繋ぐマナは消滅しました」

 

ロイドが目を見開いて訊ねる。

「つまり、シルヴァラントとテセアラの間で、マナが搾取されなくなったってことか?」

 

ヴォルトが「………………」と言うのをタバサが翻訳する。

「わからない。ただ、2つの世界の間に流れるマナは分断されたって」

 

ウンディーネは告げる。

「やがて2つの世界は分離するでしょう」

 

ジーニアスが歓喜の表情となる。

「本当に! なら、2つの世界がお互いにマナを取り合わずに済むんだね!」

 

リフィルは推測を述べる。

「シルヴァラントの精霊がいた封印は4つあった。それぞれに対応する精霊を目覚めさせれば、全てのマナを分断できるということかしら?」

 

ウンディーネは告げる。

「少なくとも、世界を繋ぐマナは消滅し、2つの世界は切り離されるでしょう」

 

そう告げてから、ウンディーネとヴォルトはまた姿を消した。

 

2つの世界のマナが搾取されなくなるーーそう喜ぶロイドたちであったが、タバサは憂い顔であった。

「そうなると、クルシスは今度はしいなさんを攻撃するかもしれませんね」

 

この一言で、歓喜のムードは消し飛んだ。

 

ロイドは納得する。

「そうか。ユグドラシルが何を考えて2つの世界を分断したかは知らねぇけど、この歪んだ状態をそのままにしているってことは、俺たちのやったことはアイツにとって面白くねぇもんな」

 

リフィルも追随する。

「クルシスがタバサを狙う目的は不明だけど、しいなを狙う目的は明確になるわ。ユグドラシルが2つの世界の分離を望んでいないのなら」

 

しいなはここで、顔を伏せる。

「ああ……コレットやタバサみたいに、あたしをクルシスが狙うってことかい? こりゃたまらなく厄介だね」

 

リーガルは溜め息をつく。

「女人ばかりが狙われる世界の構造は、やはり歪んでいるのだろう」

 

ロイドは勇ましく宣言する。

「コレットもタバサもしいなも、みんな俺たちの仲間なんだ。みんなで守ってやろうぜ!」

 

しいなは、そんなことを言うロイドを恨めしそうに見る。

コレットにはロイドが、タバサにはジーニアスが一応ナイトとしているけどさ、あたしにはそういう男がいないんだからね。……まあ、そんな守られる女の子なんてガラじゃないのは、自分でもよーくわかっているけどさ。

 

そうして、ロイドたちは気を引き締めた表情で、雷の神殿を後にする。

 

ところでーー

雷の神殿を出た時に、パラライチェックのペンダントをまだ身に付けていたタバサをジーニアスがジト目で睨みつける。雷の神殿での戦闘中ならともかく、今ではもう必要ないのだから。

「タバサ。いつまでゼロスから貸してもらったペンダントを首にかけているの?」

 

タバサはそう言われて、ふと首元に目を落とした。

「ああ、忘れてた。返さないと」

 

タバサが丁寧にパラライチェックのネックレスを取ると、ジーニアスはひったくるように奪い取って、ニヤニヤしているゼロスに投げつけた。

 

ゼロスはこともなげにキャッチして、それからニタニタ笑いながら問いかける。

「おい、ジーニアスくんよ~。おまえ、タバサちゃんに何かプレゼントしたことがあるのか?」

 

ジーニアスはたちまち赤面する。

「な、なんで急にそんなこと訊くんだよ!」

 

するとゼロスは、ジーニアスを無視してタバサに向かって叫ぶ。

「タバサちゃ~ん! こんな甲斐性ナシのジーニアスくんよりも、俺さまの方がいっぱいセンスある物を贈れるぜ~。花束もネックレスも指輪も、俺さま、た~くさん知ってるんだぜ。どうよどうよ。今からジーニアスくんから俺さまに乗り換えるってのは!」

 

するとジーニアスがものすごくムキになる。

「な、何言ってんだよ! タバサがそんなモノになんか惹かれるわけないじゃないか! そうだよね!?」

 

タバサは血走った目となったジーニアスにビクリとしながらも、自分の率直な気持ちをウキウキと無邪気に伝える。

「ううん、そんなことないよ? わたしのお父さんとお母さんの婚約指輪は、お父さんが『死の火山』っていう危険なところから炎のリングを、『滝の洞窟』っていう魔物の住み処から水のリングを取ってきてね、お父さんとお母さんが嵌めている2つの指輪がとっても綺麗で、いつかそんなモノをもらってみたいなぁって思ってるよ」

 

ゼロスは、絶句するジーニアスを尻目に高笑いをする。

「なっはっはっは! さすがは王女さま! お目が高い! こりゃジーニアスくんも相当頑張んないといけないねぇ~! そうでなければ、俺さまが勝っちゃうぞ~」

 

ジーニアスは自分のお小遣いを思い出す。イセリアという小村の教師である姉のリフィルからもらえるお小遣いはすずめの涙ほどだ。お金持ちのゼロスに到底敵うはずがない。

 

トドメを刺すようにタバサは言う。

「コレットさんが世界再生の旅に出発する前の日にあげたお守りにはね、わたしの世界で言うところの聖なる宝石が入っているの。サンタローズの洞窟っていうところから、わたしが聖なる原石を掘り出して、お父さんの知り合いの名工さんに加工してもらったものなの。だから、コレットさんも無事でいてくれるとわたしは信じてるんだ」

 

ここで恋愛沙汰に疎いロイドが、「そっか。それだけ心が込められていれば、コレットも絶対に無事でいてくれるよ」と優しく言った。

 

ジーニアスの胸中はどんどんかき乱されていく。彼の中では、とんでもないプレゼントをしないと、タバサがゼロスとか他の金持ちの男に取られそうだという図式が固まってしまったのである。

 

お金で敵わないなら、どこかに冒険を! ……でも、どこに? どこに行けばそんなもの手に入るの!?

 

ここで弟が無茶な方向に走りそうだと思ったリフィルが、耳打ちをする。

「ジーニアス。何もタバサは命を賭けろとは言ってないわ。ただ、店売りの既製品じゃダメでしょうね。けど、機が熟するのを待ちなさい」

 

そのリフィルの言葉で、ジーニアスは少し落ち着きを取り戻した。

とはいえ、異世界だからなのか、タバサのところが特別なのか、並々ならぬモノを要求してくるようである。

 

 




かつてのヴォルトのミズホの里襲撃の話については、一部、私のオリジナルが含まれています。7歳のしいなが契約しに行ったことや、ミズホの民の4分の1が亡くなったというあたりは変えていません。
ただ、さすがにミズホの民4分の1が雷の神殿に行ったとは思えなかったので、ヴォルトがミズホの里まで追いかけてきたということにしました。
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