『理想郷』を求めて   作:hobby32

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24話:救出と協力~違和感~

その後、『ルーラ』でミズホの里に戻ると、レアバードの詳細な在処を発見した、とおろちという青い服の男が報告してくれた。ミズホから東に位置する氷に覆われたフィヨルドのようなところにレネゲードのベースがあるのだという。

 

一行はエレカーに乗船してさっそく向かうことにした。

気にすべきことかどうかはわからないが、エレカーに乗る直前に地震があった。けっこう大きくて、ロイドたちは少し屈みこまなければならないほどであった。特に怪我などの被害はなかったので、すぐに出発したが。

 

そのレネゲードベースの内部は、ディザイアンの人間牧場のように原材料不明の金属でできており、寒冷地にあるというのに内部はどこも温かかった。電気で動く昇降機や自動販売機まであり、一行はレネゲードの技術力は、ディザイアンからの受け売りなのかもしれない、と思ったものだ。

 

しかし、それよりも何よりも、

「全然、人がいないな」

ロイドの呟きに皆が同意した。敵基地内部ということもあって、全員武器を構えながらの移動であったが、以前のレネゲードの基地にはいた兵士が誰も何もいないのだ。

 

そうして違和感を抱えながら、ロイドたちはすんなりとレアバードの格納庫まで辿り着けた。

 

するとーー

「本当に、サル並みに行動がわかりやすい連中だな」

 

部屋の脇にいた青い髪に端整な顔立ちのユアンが、部下のボータを従えて、ロイドたちに声をかけた。

 

ロイドはユアンたちに剣を向ける。

「くそっ! 最後の最後に邪魔する気か!」

 

ユアンは蔑むように鼻で笑う。

「レネゲードの所有物たるレアバードを奪おうとしていて何を言うのかね。……まあいい。これを受け取れ」

 

ユアンはロイドに手のひらサイズの何かを投げつけた。

その“何か”に見覚えのあったロイドは、狐につままれた気分となる。

「これは、ウィングパック?」

 

ユアンは淡々と言う。

「そうだ。そのパックにレアバードも仕舞える」

 

リフィルは疑心暗鬼でいっぱいになる。

「私たちを盗っ人だと認識しておきながら、こんなものまでくれるなんて、いったい何を企んでいるのかしら?」

 

これにはボータが答える。

「単に利害が一致するようになったまでのこと。そのためにはおまえたちと協力しても構わないと判断した」

 

ロイドが胡散臭そうな目を向ける。

「協力って……おまえたち、最初はコレットを、次に俺のことを狙っていただろ。なんで今さら……」

 

ユアンは苛立つように言う。

「今ここで長々と議論している場合か? 神子を助けたいのだろう。ならとっととヴォルトの力を利用してレアバードに乗って行くが良い。そして神子を救出したら、またこの基地に戻ってこい。そこで詳しい話をしてやるから」

 

しいなが大きく目を見開く。

「ヴォルトと契約したのはほんのちょっと前のことなのに、クルシスといい、アンタらといい、情報網が尋常じゃないよ」

 

ここでゼロスがなだめるような笑顔で言う。

「まあまあ確かに怪しさ満点だけど、協力してくれるってんなら、とっとと行こうや。コレットちゃんのことが心配だし」

 

一応リフィルが飛び立つ前に、レアバードに何か仕掛けがないか調べてみたが、何も発見できなかった。

 

そうして一行は、高所恐怖症でジーニアスにしがみつかないと乗れないタバサ以外の分のレアバードにまたがって、ここから南にあるはずの飛龍の巣へと飛び立った。

 

 

そうして不自然に宙に浮かぶ岩の島で、橙色の光の檻に囚われているコレットを発見した。一行は急いで着陸し、ウィングパックにレアバードを吸い込むように仕舞ったあと、コレットに駆け寄る。

 

ロイドはすぐさま叫ぶ。

「コレット!」

 

しかしコレットは、強く首を振る。

「ロイド来ないで! わなだよ!」

 

ここで光の檻の前にロディルが登場する。

 

プレセアは憎悪をむき出しにして、斧でロディルを袈裟懸けに薙いだ。

しかし斧は確かにロディルの体を切断することができたはずなのに、プレセアの手には空を切る感覚しか残らなかった。ロディルは血の一滴も垂らすことはない。

 

リフィルが分析する。

「……投影機と同じ仕組みね。実際のロディルは遠くにいるんだわ」

 

ロディルは忌々しそうに言う。

「そんな出来損ないの神子など要らぬわ! なるほどユグドラシルさまが放置するわけじゃ。そのクズの神子では、我の魔導砲の制御もできん。世界再生もできぬ、マーテル様の器にもなれぬ」

 

ここでロディルは口元を嘲笑へと切り替える。

「そしてしまいには、仲間を殺すおとりのエサとなる。まさに神子は生きる価値のない罪人と呼ぶべきですなぁ」

 

タバサは怒りに理性を呑み込まれないように注意しながら、憤りの声を上げる。

「自分勝手な価値観で、コレットさんを侮辱しないで!」

 

ロディルはタバサに向けて口角を上げる。

「『理想郷への鍵』か。以前のわしなら目が眩んだかもしれんのう。しかしこれからこの世界の支配者となる今のわしには、おまえもどうでもいいただの劣悪種に過ぎん」

 

リーガルが怨嗟の声を上げる。

「いたいけな少女を勝手に品定めする物言いをするな。罪人たる私ともども地獄に堕ちるがいい」

 

ここで初めてロディルが笑みを消す。

「このわしが地獄に堕ちるなどと、ふざけたことを言うでない。ワナにかかって無残に死ぬのは、おまえたちだ! ぬん!」

 

幻影のロディルが腕を上げる。

ここでコレットが悲鳴を上げると同時に、オレンジ色の光が飛龍の巣全体に広がり、ロイドたちの体を捕らえる。

 

ロイドはうめき声を上げる。

「な、なんだ……体が、動かねぇ!」

 

ジーニアスが顔をしかめながら説明する。

「コレットの……下の魔方陣から、マナが逆流しているんだよ……」

 

ロディルは再び高笑いを上げる。

「フォッフォッフォッ! さあ、わしの可愛い子供たちよ、劣悪種どもをお食べ。ただし、巣の上には乗るなよ。わしはここでのんびりとおまえたちが食われる様を見物させてもらおう」

 

しいなが顔以外全然動かないまま、耳でバッサバッサと飛龍が飛来する羽音を聞いて、「さ、さすがにマズいんじゃないのかい……?」と冷や汗を垂らす。

 

ここでプレセアが「諦めないで!」と普段の彼女からは想像がつかないほどの大声を上げる。

そして、通常のエクスフィアとは異なるためか、プレセアだけはゆっくりとだが歩みを止めなかった。

 

「絶対にこんなところでくたばるもんですか! こんな醜い男にみんなの命が取られてなるものか! 私が、こんな男に利用されてきた私が、この縛めを壊してやる!」

 

プレセアが、斧を猛烈な勢いで振り下ろす。

 

「きゃあっ!」

プレセアの悲鳴と共に、彼女の斧がコレットを縛めていた魔法の鎖を叩き壊した。

途端に皆を捕らえていた禍々しい光の檻は消えて、コレットも、みんなも解放された。

その代償として、プレセアはその場で崩れ落ちたが。

 

コレットはとっさに叫ぶ。

「プレセア!! ……ありがとう」

 

ここで物見遊山気分で眺めていたロディルの顔色が変わる。

「くっ! 何ということだ! 子供たちよ、逃げろ!」

 

ロディルの言葉で、その巨体の影でロイドたちを覆い尽くそうとしていた飛龍たちは、たちまち急旋回する。

 

しかしそれを逃がすタバサではなかった。

すぐさま詠唱を開始して、逃げる飛龍の背中に指を向ける。

「『イオナズン』!』」

 

強烈な爆発に巻き込まれた飛龍たちはたちまち気絶して、海へと落ちていく。

 

ロディルは、「ちっ!」と舌打ちしてから、姿を消す。

 

それから足場が猛烈な勢いで揺れ動き、軋み始める。

 

タバサはテキパキと指示する。

「みんな、わたしの近くに! ロイドさんはプレセアをお願いします!」

 

ロイドは「わかった!」と叫んでから走って、倒れているプレセアに駆け寄って背負ってからタバサの元へと行く。

 

そしてタバサは『ルーラ』を詠唱し、ひとまず頭に浮かんだグランバニアへと移動する。

 

 

 

タバサの手配であっという間に客室が用意され、ふかふかのベッドでプレセアは休むことができた。コレットの部屋も用意したのだが、コレットは「わたしはだいじょぶだから、プレセアのそばにいたい」と言って聞かず、プレセアの部屋の椅子に座って彼女が目覚めるまでそばにいた。

 

さほど長い時間を要することなく、プレセアは目を覚ました。

 

彼女が起き上がった時、コレットは瞬時に笑顔の花を咲かせた。

「プレセア!」

 

プレセアはすぐさまコレットに顔を向けた。

「コレットさん! 無事、でしたか?」

 

コレットは大きく頷いた。

「うん! プレセアのおかげだよ!」

 

すると、コレットの笑顔でようやく罪悪感の重みから急に解放されたためか、プレセアもまた非常に可愛らしく笑った。

 

ロイドが感動する。

「プレセアが……笑った……」

 

ジーニアスも思わず口からタブーが飛び出てしまう。

「かわいい! ……はっ!?」

 

ジーニアスは瞬時に背後からおぞましい気配を感じた。

 

「だーかーらー! わたしには可愛いって言ったことがないのに!」

 

ジーニアスはすぐさま部屋から走って逃げようとするが、ノロマなジーニアスと敏捷なタバサではまるで勝負にならない。ジーニアスは首根っこを掴まれて引きずられ、部屋にもう一つあったベッドに押し倒されてからタバサに馬乗りにされ、ほっぺをつねられた。

 

「いひゃい、いひゃい、いひゃい! ごめん、タバひゃ!」

 

「わたし以外の女の子をかわいいって言っちゃダメなの!」

 

ゼロスが盛り上がって言う。

「すげー、ちびっ子たちのベッドのプロレスごっこは見物だぜ! ……痛っ!」

 

少し顔を赤くしたしいなは、ゼロスの頭をペチンと叩いた。

「下品なたとえをするんじゃないよ!」

 

リフィルは教師らしくあっという間に仕切っていく。

「はいはい。ふざけるのはそこまでにしてちょうだい。今後の方針を立てないといけませんから」

 

それでタバサは仕方なくジーニアスを解放してあげた。ジーニアスはつねられた赤い頬を押さえたまま、話し合いに加わる。

 

ロイドが拳を胸の前で振り上げて見せてから宣言する。

「やっぱり、2つの世界の精霊と契約しまくって、世界を2つに切り離すのはどうだ?」

 

しいなは、よし、と頷いた。

「あたしの出番だね。まず手始めに土の精霊ノームと契約するのはどうかな? フウジ山岳から近いところにあるんだ」

 

ゼロスは、意気込む2人をたしなめる。

「おいおい、ちょっと待てよ。ユアンとかいう奴と話し合うのが先なんじゃねーの?」

 

ジーニアスは、「そういえばそういう約束もしたね……いてて」と痛む頬をさすりながら答える。

 

リフィルがまとめ上げる。

「なら、まずはレネゲードベースに戻ってユアンの話を聞きましょう。それから精霊との契約に入るのが良いでしょう」

 

タバサは提案する。

「今日はここで休んでください。明日からまた忙しくなりそうですから、英気を養いましょう」

 

リーガルは、「ところで、ここはどこなのか?」という質問には、タバサを中心にみんなで答えた。

 

ジーニアスは、未だにおかんむりのこの国の王女さまを見つめながらしいなに訊ねる。

「ねえ、しいな。氷の精霊って、やっぱり寒い所にいるの?」

 

しいなはジーニアスを呆れながら見てから頷く。

「ああそうさ、フラノールっていう夜景が美しい街の近くに氷の神殿があるって聞いてるよ」

 

ジーニアスは、「……そっか」とやはりタバサを見つめながら返事をした。

 

その日の夜は、やはり貴賓待遇の晩餐に、広々とした豪華な客室でロイドたちは旅の疲れを癒した。

この世界には人を襲う魔物がいない。王女タバサの仲間というだけでチヤホヤされる。ハーフエルフ差別がないことから『理想郷』という名前でこの世界は呼ばれるようになったが、別の意味でロイドたちには『理想郷』だと思えた。

そんな『理想郷』から離れて、命の危険ばかりの旅に再び身を投じることに表立って反対する者はいなかったが、どうしても豪華絢爛な客室から離れることを厭う気持ちが出てくるのはやはり仕方のないことであった。

 

さて未練がましくグランバニアのお城の入り口を見つめながら、またも国王夫妻と王子、それに大勢の家臣から盛大な見送りを受けて、ロイドたちはタバサの『ルーラ』でレネゲードベースへと戻った。

 

 

そしてユアンたちレネゲードのロイドたちに対する待遇も、門番の兵士が丁寧に挨拶をしてから、ユアンとボータのいる広い会議室まで案内してくれて、ずいぶんと丁重なものであった。レネゲードの意図は不明なので、ロイドたちは警戒の心を緩めなかったが。

 

ユアンは、ロイドたちが着席するのを見届けたあと、開口一番こう問いかけた。

「大樹カーラーンを知っているか?」

 

コレットが答える。

「聖地カーラーンにあったという伝説の大樹のことですか? 無限にマナを生み出すと言われていますが」

 

ユアンは小さく頷く。

「大樹カーラーンは、おとぎ話などではなく、実在したのだ。だが古代カーラーン大戦によるマナの枯渇で枯れて、現在は聖地カーラーンに種子を残しているだけだ。その種子のことを我々は大いなる実りと呼んでいる」

 

ジーニアスは訊ねる。

「ミトスの魂のこと?」

 

ユアンは即座に首を振った。

「そちらはおとぎ話だ。世界にマナを供給する大いなる実りとは、大樹の種子を指している。そして、2つの世界を1つに戻すためには大いなる実りが必要不可欠だ」

 

ロイドは驚愕する。

「2つの世界を1つに戻すのか? 切り離すんじゃなくて」

 

ユアンは続ける。

「覚えているかどうかは知らんが、かつて私はユグドラシルが2つの世界をつくった、と言った。もともと世界は1つだったのだ。それをユグドラシルが世界を2つに引き裂いて歪めたのだ。そして2つの世界は、大いなる実りから滲み出るわずかなマナを奪い合って辛うじて存続している」

 

リフィルは頷く。

「だから繁栄と衰退が繰り返されて再生の神子が旅立つ……」

 

ユアンは頷く。

「それも大いなる実りが発芽すれば終了する。大樹カーラーンが復活するのだからな」

 

タバサは慌てて訊ねる。

「待ってください。わたしは天使物語を読みましたが、無限にマナを生み出す大樹カーラーンが復活したとすれば、魔科学が産まれて、またカーラーン大戦のような戦争が起きるのではないでしょうか?」

 

ユアンはタバサに冷静な目を向けた。

「では訊くが、異世界の王女よ。現在の2つの世界が歪んだ形で存在し、マナを搾取し合い神子に犠牲を強いる仕組みが健全だと思うのか?」

 

タバサは一拍置いてから、答える。

「マナを搾取し合い、神子に犠牲を強いる仕組みは改善されるべきです。ですが、シルヴァラントとテセアラの両世界が存続している現状は、それほど歪だとは思いません。それで戦争が抑止されているのですから。もっとも、現状のシルヴァラントの衰退は目に余るものがあり、テセアラに供給され続けていてマナ不足であるという点は否めませんが、それでも人々が生活できている点で、まだ猶予はあると思います」

 

ユアンのタバサに向ける視線に厳しさが伴ってくる。

「してみると、異世界の王女は、大樹カーラーンを発芽させるべきではない、と言うのか?」

 

タバサは、身振りでは示さず、言葉だけで述べる。

「わたしはしょせん異世界人。この世界に愛着はありますが、確かにいつでも元の世界に戻ることはできます。そういった観点から見れば、皆さんからすればよそ者の戯れ言に聞こえるかもしれませんね。ーーですが、その上で申し上げますが、大樹カーラーンが復活して世界が異常な繁栄をして、魔科学が発達し、その果てに戦争が起こり、結果的にマナ不足に陥ると言うのであれば、現状の方がましではないかと思うのです。もちろんシルヴァラントのマナ不足による衰退はいずれどうにかしなければいけませんが、今すぐ世界を1つに統合して大樹カーラーンを発芽させるのは、あまりにも性急すぎるのではないか、と思います」

 

ユアンは微動だにせず、しばしタバサの言葉を咀嚼した。

 

それから、なるほど、と言った。

「確かに、そなたの言葉には納得できるところがないでもない。古代カーラーン大戦による魔科学の異常発達における惨劇と人類滅亡の危機は、私も知っていることではある。確かにもう少し検討する必要があるな」

 

ここで傍らで立って聞いていたボータが慌てる。

「ゆ、ユアン様! それではレネゲードの設立目的が……」

 

ユアンはボータを一睨みする。

「黙れボータ。……私が性急に事を運びすぎる傾向にあることを知っているだろう。わかった。異世界の王女殿の提言を深く吟味してみることにする」

 

タバサは、ユアンという堅物そうに見える男がここまで素直に異世界人の小娘の言葉を受け取るとは思わなくて、逆に驚かされる。もっとも後に、ただユアンはタバサの言葉だけで納得したわけではないと思い知ることになるのだが。

 

 

ユアンは、ついでに教えておこう、と前置きしてから伝える。

「クルシスの拠点であるデリス・カーラーンとは、巨大なマナの塊でできた彗星だ。この大地のはるか上空に留め置かれている。そして、デリス・カーラーンの膨大なマナは、全て死んだマーテルを復活させるために使われている」

 

ロイドは、「どうして、どうやって?」と訊ねる。

 

ユアンは半分だけ答える。

「“どうして”かは、この際どうでもいい。“どうやって”だけ答えてやろう。マーテルはクルシスの輝石の力で大いなる実りに寄生し、心だけが生きながらえているのだ。ユグドラシルの意思でな」

 

リフィルがようやく納得する。

「それでマーテルの器、つまり代わりの肉体として歴代の神子が狙われていたのね」

 

ユアンは、その通りだ、と頷く。

「大樹カーラーンを発芽させるかは別として、少なくとも私たちもおまえたちもこの互いのマナを搾取し合う歪な世界を良しとはしていまい。そこで、だ」

 

ユアンはここで一拍置く。

「おまえたちにはマナの楔を抜くために、精霊たちとの契約を続行してもらいたい。そのために、レアバードをこれまで通り無償貸与するし、両世界のレネゲードベースの上空にある空間転移装置を起動させておこう。もっとも異世界の王女殿の『ルーラ』を用いれば、両世界間の移動も可能なはずだがな」

 

タバサは軽く溜め息をつく。

「本当に、あなたたちとクルシスの情報網は侮れませんね」

 

それはそれとして、と言ってからタバサは訊ねる。

「しいなさんに危険はないんですか? 両世界を分離したままにしているユグドラシルの真意はわかりませんけど、もし精霊たちとの契約で2つの世界が分離したら、ユグドラシルにとって面白くないんじゃないんですか?」

 

ユアンは淡々と答える。

「今のところ、おまえたちの精霊契約の動きを阻止せんとすると議論は、クルシスの内部では挙がっていない」

 

リフィルが首をかしげる。

「それなら、ユグドラシルはこの世界を一体どうしたいと思っているのかしら?」

 

ユアンは、さてな、と答えた後、急かすように言う。

「とにかく、クルシスが余計な動きを見せていない今がチャンスなのだ。これは私たちとおまえたちの利害の一致することだと思うのだが、どうだろうか?」

 

ロイドは仲間たちの顔を見渡す。

「こいつはクルシスの天使だけど、真剣にこの世界のことを心配しているように思える。俺は信じてみてもいいと思ってるんだが、反対する人はいるか?」

 

ここでタバサが、「反対をするつもりはありませんけどね」と前置きしてから挙手する。それから憤りの目をユアンとボータの交互に向ける。

「事態が全て終わってからで構いませんから、ちゃんとイセリアのマーテル教会の聖堂で罪のない祭司長さんや祭司さんを殺した罪は償ってくださいね。世界を救おうとしたところで、そういう罪が消えるわけではないのですから」

 

ユアンとボータは思わず目を見開いた。全く頭に無かったことがタバサには見て取れて、盛大な溜め息をつく。

 

ユアンは想定外からの攻めに少しうろたえながらも答える。

「……わかった。我らの本懐を遂げたら、すなわち真の意味での世界再生が達成されたなら、償うことを誓おう」

 

ボータも追随する。

「私もユアン様の右腕。必ず罪を償うことを誓う」

 

コレットは、彼女にしては珍しく眉を尖らせてから言った。

「本当にお願いしますよ。あの人たちはすごく優しくて良い人だったんですから」

 

ユアンは、「すまなかった」と頭を下げた。

 

それでロイドとコレットとジーニアスとタバサはひとまず納得したのだが、リフィルだけはユアンの性格からして素直すぎないか、と微妙な違和感を覚えた。

 

ユアンはここで話題を切り替える。

「……おまえたちが我々からレアバードを奪おうとする前に地震が発生しただろう。あの地震について我々は調査したのだが、あれはおまえたちがウンディーネとヴォルトと契約したからだと推測できる。つまり相反する2つの属性が1本の楔となり、それが抜け落ちたがために大地が揺らいだのだろう」

 

リーガルが納得顔で頷いた。

「なるほど。2つの世界を繋ぐ楔の一本が抜け落ちた際の大地の振動というわけなのだな」

 

ユアンは頷く。

「恐らくはそうだろう。しかし、それだけでは証拠としては不十分だ。そこでこれから私の言うとおりの順番で、おまえたちには精霊たちと契約をしてもらいたい。地の精霊ノーム、風の精霊シルフ、氷の精霊セルシウス、火の精霊イフリート、闇の精霊シャドウ、光の精霊ルナとアスカ。我々の推測が正しければ、ノームとシルフとの契約が終わった時にまた楔が1本抜かれることになるので、地震が発生するものと思われる」

 

ジーニアスがおそるおそる訊ねる。

「いよいよ2つの世界が分離するときの地震は、凄まじいものになるの?」

 

ユアンは、恐らくは、と頷く。

「我々としても未知のことなのでどの程度の規模になるのかは推測できん。ただ、もともとは1つだった世界が元に戻るのだから、大地が消滅するほどではないだろう」

 

ゼロスはここで提案する。

「なら、テセアラ王室とあんたらは繫がってるんだから、王室や教皇を通じて地震の注意喚起をすることぐらいはできるんじゃねぇか? シルヴァラントの方は知らねぇけどよ」

 

リフィルは言う。

「シルヴァラントはテセアラのように王室が世界を治めている世界ではないわ。それぞれの街ごとに総督や街の長が治めているの。情報の伝達もテセアラと比べれば遅いはずよ」

 

ユアンはまとめる。

「ならば、テセアラ王室への働きかけと、シルヴァラント各地にレネゲードの兵士たちを派遣して地震に対する注意喚起をおこなうことにしよう。一度地震があったから、余震に注意しなければならないと言えば信憑性としては十分だろう」

 

しいなは頷いた。

「わかった。そっちはレネゲードに任せるとして、あたしたちは精霊との契約に専念することにするよ」

 

ユアンは、よろしく頼む、と告げた後、ロイドたちは会議室から出て行った。それからレネゲード兵の案内で基地の外に出た後、やはりタバサの『ルーラ』で旅立った。

 

 

 

タバサたちが浮上していく様をユアンとボータは窓から見つめていた。

 

ボータはそれでも小声でユアンに言う。

「……うまくいきましたね」

 

ユアンは、彼にしては珍しくほくそ笑んだ。

「まあやたらと正義感の強い連中だしな。我々としてもウソはついていないのだから、話せばわかるとは思ってはいたが。……おまえの方はうまくいっているか?」

 

ボータは満足げに微笑む。

「ええ。ディザイアンの残党狩りはつつがなく進行しております。ロディルの人間牧場は壊滅していませんが、あそこに囚われている人間どもはほとんど魔導砲の建設にかり出されているので、問題ありません。それに、クルシスを裏切ったロディルが今さらプロネーマに協力するとは思えませんし。少なくともプロネーマが奴らを倒せるほどの勢力は集められないでしょう」

 

だが、ユアンは顔を引き締め直す。

「しかし、プロネーマは最近、シルヴァラントとテセアラを行ったり来たりしているぞ。あの動きは何だ?」

 

ボータも、「さすがにそこまでは」と言う他ない。

 

ユアンは少し考えこむが、やがてかぶりを振った。

「まあいい。フウジ山岳での不様な姿を見たが、プロネーマが単独で何かできるわけではないだろう。それなら何の問題もない。さて、奴らはいつ気付くだろうか」

 

 

 

ユアンはここでまた怪しげに笑う。

「我々がここまで手を尽くしやったのは、すべてあの2人の少女をユグドラシル様に献上するためだということに」

 

 

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