『理想郷』を求めて   作:hobby32

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29話:絶海牧場~活躍~

パルマコスタ近くの孤島に、絶海牧場はあった。距離的に考えれば、パルマコスタの人間はマグニスとロディルの両方にさらわれていたのかもしれない。

 

半円形の長い海底トンネルを抜けてすぐに、広大で100人は優に乗れそうなエレベーターに乗ると、2階に人間たちが閉じ込められている牢屋があった。見張りのディザイアンたちを倒してから、手当たり次第近くのスイッチを押すと、囚人たちが続々と出てきた。

 

リフィルが何人くらいいるのか訊ねると、囚人たちは300人ほどだという答えが返ってきた。

 

リフィルが腕を組んで思案してから言う。

「先に進むエレベーターがこの一基しかないのなら、私たちが使うと、この人たちを脱出させることはできないわね。かといってロディルのことだから、自分の牧場を荒らしにきた私たちをそのまま放置するとは思えない。ーー仕方ないわね、タバサを残して『リレミト』を30回ぐらい使ってもらうしかないわね」

 

ジーニアスが姉に呼応する。

「またロディル討伐班と、『リレミト』を使うタバサを守る解放班に分かれるんだね。じゃあ、タバサが抜ける以上、ボクは戦力的に討伐班に入るのが妥当だよね」

 

プレセアも眉を尖らせて手を挙げる。

「私も、討伐班に入りたいです。ロディルには貸しがありますから」

 

リーガルも追随する。

「私も奴を討伐する班に回してくれ」

 

ゼロスはこの場にふさわしくないくらい明るい声で告げる。

「んじゃあ~、俺さまはタバサちゃんを守りたいから、解放班で♡」

 

ロイドは、どうしようか少し悩んだが、

「俺も解放班に回るよ。クヴァルの時は討伐班に回させてもらったしな」

 

コレットは、ロイドがそう言うならと、

「私は討伐班に回るね。チャクラムでも天使術でもみんなを援護したいから」

 

しいなはその理屈ならと、

「あたしは解放班に回るよ。クヴァルの時に討伐班に回ったからね」

 

リフィルは頷いた。

「私は討伐班に回るわ。ロディルの悪知恵に対抗できるかもしれないから」

 

というわけで、ロディル討伐班は、コレット、ジーニアス、リフィル、プレセア、リーガルの5人となり、囚人解放班は、ロイド、タバサ、しいな、ゼロスの4人となった。

 

タバサは別れぎわに5人に言う。

「じゃあ、気を付けてくださいね。ロディルは何を仕掛けてくるかわかりませんから」

 

討伐班5人の返事を受け取った後、タバサはおよそ300人の囚人と向き合い、

「わたしの魔法でみんな無事に脱出できますから、みなさん我先にと思わないでください。かえって遅くなりますから。必ず脱出できます。なので、落ち着いてくださいね」

と呼びかけて、一刻も早く脱出したいであろう囚人たちを落ち着かせた。

 

それから、10人を一束として脱出させる。ロイドたちは、タバサの背後を囲ってディザイアンが来ないか目を光らせる。入り口には、今はディザイアンの格好をしていないレネゲード兵たちと船がある。必ずいけると思いながら、タバサは『リレミト』を唱え続けた。

 

 

 

さて討伐班は、エレベーターのロック解除に戸惑っていた。どうにもロック解除をしないと、エレベーターがそれ以上、上に行かないようなのだ。

赤、青、緑のワープ装置を使って移動するのだが、どこがどう繫がっているのかはわからず、当てずっぽうでワープして行き止まりに当たったら引き返すしかなかった。

とはいえ、記憶力の良いジーニアスとリフィルがいたため、一度行き止まりに当たっても二度と同じ過ちを繰り返さなくて良いのが幸いであった。

 

 

そうしてエレベーターを最上階まで届かせる3つのロックを解除してから、5人は最上階、すなわち管制室にまで辿り着けた。

 

ロディルは、管制室に入ってきた5人を見て、「フォッフォッフォッ!」と不気味な笑い声を上げる。

 

「やはり生きておりましたか。神子崩れとその仲間たちめ。しかし、『理想郷への鍵』がいないなら余裕ですね。劣悪種の脱走を防ぐためにエレベーターを一基しか設置しなかったのが、思わぬ戦力分断に繫がったようです」

 

ジーニアスはロディルの煽りにいきり立つ。

「タバサがいなくても、ボクがいる。おまえなんかに負けるもんか!」

 

ロディルは再び「フォッフォッフォッ!」と笑い声を上げる。

「優良種の裏切り者か。今からでも遅くありませんから、命が惜しかったら私に寝返ることをお勧めしますねぇ」

 

リフィルは嘲るように言う。

「あら、ジーニアスはこれまで全ての人間牧場の壊滅に関与してきたのよ。今さら寝返るなんてあり得ると思っているのかしら?」

 

ロディルは、未だ余裕そうに笑いながら「残念ですねぇ」と言った。

 

プレセアは憤りを声に込める。

「ヴァーリと2人で、私を騙してきたんですね」

 

ロディルは相も変わらず笑いながら、眼鏡越しにプレセアに目を向ける。

「プレセアか。おまえがその小さな体でクルシスの輝石を作り出してくれていたら、もっと大切にしてあげたのですがねぇ」

 

プレセアは斧を取り出して、不愉快さを切り払うように叫ぶ。

「消えなさい!」

 

すると、ロディルはおもむろにポケットから赤い石のようなものを取り出した。

「くくく。このクルシスの輝石があれば、我が魔導砲は完成する。あれがあればユグドラシルもクルシスもわしに平れ伏さざるをえなくなる。救いの塔もこれで粉砕してやる! ……さあ、まずはわざわざここにやって来てくれたおまえたちが、クルシスの輝石の力をとくと味わうがよい」

 

そう言うと、ロディルはクルシスの輝石を額に装着する。

すると、肥満体のロディルの体は、服を突き破りながら見る見るうちに灰色に肥大化し、左腕はもりもりと筋肉が膨れ上がり黒く鋭い爪が伸びた。そして、何でも一振りで切断できそうな刃が小手のごとく覆った。右腕は手を無くし、まるで盾のごとく硬質化した。体重は、一歩あるいたことで床材が吹き飛んで散乱したことからうかがえる。

 

ジーニアスやリフィルは、クルシスの輝石というからには、天使化するものだと思っていたが、そうではなかった。しかしとにもかくにも、眼前の怪物と化したロディルを処理しなければならない。

 

コレットとジーニアスとリフィルは一斉に詠唱を開始する。

 

リーガルはプレセアに指示を出す。

「私から行く。奴が怯んだら、そなたの斧で切り裂くのだ!」

 

プレセアは怒りのあまり震える手で斧を握りながらも頷く。

「はい!」

 

すると侮られていると思ったロディルが、くぐもった声で叫ぶ。

「劣悪種どもが調子に乗りおって! わしに指一本触れられないことを思い知るがいい! ーー『ロックブレイク』!」

 

リーガルの足下から鋭利な岩の槍が飛び出す。しかしジーニアスの出すのと同じ魔術だったため、『ロックブレイク』を既知のリーガルは悠然とそれを避けて、ロディルの元へと駆けてゆく。

 

ロディルは醜く歪んで牙がむき出しとなった口元を歪め、リーガルを切り裂くべく巨大な刃のついた左腕を振るう。

 

しかしリーガルは、その腕が届く一歩前で立ち止まり、回避する。それからガラ空きとなったロディルの懐に飛び込み、攻撃ーーしなかった。

 

「飛葉翔歩!」

リーガルはロディルの背後へと、まるで影分身のごとく回り込んだ。右腕を思いきり引き寄せて、リーガルを殴りつけようとしていたロディルの腕が止まる。

 

ロディルの巨大な背中を見つめながらリーガルは、鋼鉄のレガースの付いた足をめり込ませていく。

「牙狼連濤打!」

蹴りを三撃、足払いを一撃、そしてリーガルはその場で飛び上がり孤を描いた。

 

「ぐぬぁっ!?」

ロディルはたまらず背中からの連撃に悲鳴を上げる。

 

慌てて振り向こうとすると、コレットの優しさと厳粛さのこもった声が響き渡った。

「……響け、壮麗たる歌声よーー『ホーリーソング』!」

 

戦場に巨大な天使の輪が広がる。コレットが味方と見なした者がその輪に触れると、力が漲り、肉体は強固になるのだ。

 

「孤月双閃!」

そのコレットの天使術の恩恵を受けながら、プレセアは満月を2つ描いた。1つ目の月はロディルの胸元を抉り、2つ目の月はロディルの肥大化した顔を切り裂いた。

 

「ぐぬぉっ!」とロディルはたまらず尻もちをつく。そんなロディルにリーガルは飛び上がり、「飛燕連脚」を叩き込むことを忘れない。

 

「『レイ』!」

ロディルが善人だったならば、浴びることがなかったリフィルによる青白く太い光線がロディルの体を貫通する。

 

「おのれぇ……」

ロディルは急に鈍重になった体を扱いきれていなかった。元々戦うのには不向きだった体とはいえ、それでもプレセアの斧ぐらいならば、元の体だったらかわせていたはずである。

 

ロディルは背後を振り返る手間が惜しいと思い、迫ってくるプレセアを左腕で切り裂こうとした。

しかしーー

 

「『サイクロン』!」

もしタバサが異世界から来訪しなかったならば、プレセアに恋心を捧げていたであろうハーフエルフの少年の放つ無数の刃のごとき竜巻が、ロディルの体から赤い体液を撒き散らかしてゆく。ロディルの重すぎる体があまり持ち上がらなかったことがジーニアスの誤算であったが、それも大した意味は無い。

 

「獅吼滅龍閃!」

プレセアの華奢な体からは到底想定できない強烈な斧の一回転が、ロディルを心臓を切り裂いた。

 

「ぐああっ!?」

ロディルに終わりを悟らせる一撃は、しかし最後の足掻きを生み出してしまった。

 

ロディルは最後の力を振り絞って大きな緑色の機械目がけて跳躍する。ここにいる全員を殺す。しかし自らの肉体にはそんな力は残っていない。ならばどうするかーー

「貴様らも、道連れだぁ!」

 

そして、緑色の円形の機械に右腕を叩きつけて自爆装置を起動させた。

 

けたたましい音ともに部屋全体を赤く染める警報に、リフィルは大声を上げる。

「いけない! 自爆装置よ!」

そして、急いで機械に駆け寄った。

 

死んだロディルの巨体が機械にしがみつくことなく、そのままずり落ちて操作の支障にならなかったのは幸いであったが、リフィルは慌てて機械の操作をおこなった。

 

その時、エレベーターの扉が開いてボータたちが飛び込んできた。

そして、ボータはリフィルを押し退けて叫ぶ。

「我々が引き受ける。おまえたちはそこの地上ゲートから外に出て脱出するのだ」

ボータは地上ゲートを指差す。

 

リフィルが、だけど、と言うと、ボータは怒鳴りつける。

「早くしろ! おまえたちは足手まといだと言っているのだ!」

 

リフィルはその剣幕に押されて、コレットたちと共に脱出ゲートを通り抜けた。

 

 

 

その時、コレットたちのいる場所のガラスの天井が爆発した。

 

ジーニアスがとっさに見上げて笑顔となる。

「タバサ! ロイド! しいな! ゼロス!」

 

そこからはタバサが『イオナズン』で爆破したであろうガラスのドーム状の天井から、レアバードでロイドたちがやって来た。タバサはロイドの腰にしがみついていたが。

 

ロイドは大声を張り上げる。

「みんな、無事か!?」

 

コレットは笑顔を咲かせて返事をする。

「大丈夫だよ~」

 

リーガルは粛々と告げる。

「我々は、仇の1人を滅ぼした」

 

リフィルが、レアバードから降り立ちレアバードをウィングパックに入れたロイドたちに告げる。

「今ボータたちが、ロディルの押した自爆装置を解除しているところよ」

 

その時、ゼロスが気が付く。

「……おい、あっちの部屋、海水が流れ込んできてねぇか?」

 

一行が振り返ると、確かに部屋の中に海水がどんどん流入していく光景が見て取れた。しかし、ボータとレネゲード兵2人は既に膝まで海水に浸かっているのに作業の手を止めない。

 

プレセアはすぐさま顔色を変える。

「早くドアを開けないと!」

 

そして、今脱出してきたばかりのゲートを開けようとするが、しかし彼女の力をもってしてもビクともしない。

 

ロイドは舌打ちをする。

「くそっ! ジーニアス、タバサ、頼む!」

 

2人はロイドに言われる前に詠唱を開始して、それぞれ『エクスプロード』と『イオナズン』を唱える。

しかし、分厚いガラスに白いヒビが広がっただけで割れなかった。

 

ジーニアスとタバサはもう一度同じ魔法を繰り返す。しかし白いヒビは広がるものの、完全には割れない。その間にもボータたちのいる管制室の海水は上昇して腰まで浸かる。

 

その時、作業が終わったボータたちが階段を上り、ガラス越しにタバサたちに制止の声をかける。

「やめろ! おまえたちがこのガラスを破壊すれば、そちらの部屋にまで海水が流入してくる。そうなれば、誰がユアン様に我らの成功を伝えるのだ?」

 

3度目の2つの爆発魔法がガラスに叩き込まれる。白いクモの巣のようなヒビ割れが確かに大きくなる。しかしそれでも割れない。

 

ボータはくぐもった声ながら、ガラス越しに腹の底からの大声で怒鳴りつける。

「やめろと言っている! 我らは我らの任務を果たした! この世に未練は無い!」

 

ジーニアスはボータの剣幕に一瞬の躊躇を見せるが、タバサは詠唱をやめなかったため、そのまま続行した。

 

四度目。ついにガラスの破片が飛び散った。このまま行けば、という感じである。海水は階段を上って一番上の段にいるボータたちの膝まで浸かっている。

 

ボータは決死の表情で叫んだ。

「おまえたちの行為は、我らだけではなく、おまえたち全員が死ぬ行為に繫がるのだぞ! それをわかって……」

 

五度目。ボータの警告は用をなさなくなった。ついに分厚いガラス窓が人が通れるぐらいまで壊れ、行き場を求めた海水がロイドたちのいる部屋に流入してくる。

 

「うわっ!」

ロイドたちは水の流れに踏ん張って耐えようとしたが、誰も彼もが、リーガルでさえ膝下くらいの水流に耐えきれず転倒した。

 

「おまえたち……」

ボータは床に這いつくばりながらも、その細目を大きく見開く。

 

タバサは、囚人たちを脱出させるための『リレミト』の大量使用と消費魔力の大きい『イオナズン』の間断無き使用で、髪と顔から汗をビッショリと滴らせ、海水で体中が水浸しになりながらも起き上がり、ガラガラの声で叫ぶ。

「早く、わたしの近くに! あなたたちだって死にたいわけではないでしょう!」

 

起き上がったロイドたちは、海水をバチャバチャと跳ね上げながらタバサの元に走り寄る。

ボータは一瞬躊躇したが、やがてお供のレネゲード兵とともに割られたガラス窓を抜けてタバサの元へと走る。

 

タバサは、何とか呼吸を整えて、レネゲードベースをイメージして、『ルーラ』を唱えた。

 

 

しかしフィヨルド地帯にある雪に覆われたレネゲードベースの前で、タバサは気絶して倒れこんだ。

 

近くにいたジーニアスは慌ててタバサの元へと跪く。

「タバサ! タバサ! しっかり!」

 

リフィルが駆け寄って、すぐさまタバサの状態を診る。

「おそらく魔法の使いすぎによる気絶よ。少し眠れば大丈夫だと思う」

 

体中から海水を滴らせながらボータは絶句していた。まさかこんなことが。我らが食らわんとしている少女の魔法によって自分たちの命が助けられるとは……。

 

しかしすぐさまかぶりを振って、“レネゲード”へと戻る。

「早くその少女が休める場所へと案内しますぞ」

 

そう言って正面ゲートの扉をくぐった。振り返ると、ハーフエルフの少年が他の者を押し退けて、倒れた人間の少女をおぶっている姿を見て取った。

 

この光景にもボータの内心は大きく揺さぶられた。しかし、表情には出さない。

 

 

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