『理想郷』を求めて   作:hobby32

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32話:光の精霊との契約~大誤算~

光の精霊と契約したらシルヴァラントとテセアラが分かれるーーのであるが、タバサの『ルーラ』がある限りにおいて、ロイドたちは誰一人として心配していなかった。

たたしいなが、ミズホの民のシルヴァラントへの移住を手伝わないといけないからよろしく頼むよ、と言ってきたくらいである。タバサは一日じゃ足りないと思いますけど、と言ってから素直に承知した。

 

タバサがいれば両世界を往復できるーー逆にタバサがいなければシルヴァラントとテセアラが分離した際に大いに困ってしまう。とりわけ、最後の精霊アスカはシルヴァラントにいるのだから、光の精霊のルナとアスカと契約した途端、2つの世界が分かれたならば、テセアラ組はもうタバサにすがる他なくなる。

 

クラトスはタバサに元の世界に帰れ、と再三再四警告するが、『ルーラ』だけでもロイドたちはタバサに帰られては困るのであった。さもなくば、光の精霊との契約に迷いが生じるだろうから。

 

さて、光の精霊ルナは、アスカと一緒でなければ会ってくれないと、かつてマナの守護塔でルナが言っていたのをリフィルが覚えていた。

そこでシルヴァラントを旅する動物学者のノヴァについて、パルマコスタの学問所で旅の経路を訊ねてから、それに沿ってロイドたちはレアバードを飛ばして探していくと、彼のひく竜車を見つけることができた。

 

するとノヴァは、アスカと出会うにはリンカの木から取れた鈴の音がなるような実が必要になると助言してくれて、ロイドたちに快くリンカの実を分けてくれた。

タバサの『ルーラ』でアスカードの宿屋に戻ると、ロイドとプレセアはさっそくリンカの実を笛に加工した。

 

ロイドは手応えを口にする。

「よし、これを俺がマナの守護塔の上で吹けば、アスカがやって来るだろう」

 

そうして、マナの守護塔に『ルーラ』で行き、らせん階段を上ってそこの頂上にたどり着くーーはずであった。

 

しかし頂上へと続くワープ装置の手前でーー

 

「待て!」

 

鋭利な声を発したクラトスと、ロイドたちは出くわした。

 

ロイドはじれったそうに叫ぶ。

「クラトス! 邪魔をするな!」

 

しかし今日のクラトスは、これまでに見たことがないほど必死の表情であった。

「そうはいかん! 先ほど、デリス・カーラーンのコアシステムが答えを出した。ここで光の精霊と契約すれば、大いなる実りの守護は完全に失われてしまう!」

 

「それこそ、我らの望むところ!」

 

ロイドたちの背後からクラトス目がけて電撃の魔術が飛んできた。マントをはためかせてユアンが駆けつけたのだ。

 

クラトスはユアンの魔術を避けた後、苛立ちを隠さずに叫ぶ。

「わからないのか! おまえの望み通りにはならん!」

 

しかしユアンは無視した。

「ロイドよ! こいつの相手は私がする! おまえたちは、すぐに光の精霊との契約をするのだ!」

 

ロイドは、戸惑いながらも応じた。

「あ、ああ。気を付けろよ」

 

ロイドたちはワープ装置へと走った。

 

 

マナの守護塔の頂上の中心部には、金色に輝く渦があり、近づくと三日月の上に乗り長い杖を持った美しい女性が姿を現した。下でユアンがクラトスと戦っていなければ、ゼロスはナンパしていたことだろう。

 

しいなが契約を申しこんだところ、ルナは心細そうに訊ねる。

「アスカは……?」

 

しいなが答える。

「いま呼ぶよ。ロイド、笛を吹いとくれ!」

 

すかさずロイドが笛を奏でた。その鈴の鳴るような音色に惹かれて、虹色に輝く美しい鳥のアスカが飛来した。

 

ルナは満足げに頷く。

「いいでしょう。ではあなたの力を試させていただきます!」

 

これに勝利すれば、このマナを搾取し合う歪んだ世界が分かれると信じて、ロイドたちは己の武器を振るった。

 

ルナもアスカも飛んでいたが、タバサの『ヒャダルコ』で氷漬けにして、ジーニアスの加重力空間を生み出す『グラビティ』で叩き落とせば問題なかった。

 

しかしタバサは目敏く、『ヒャダルコ』がアスカにあまり効いていないと判断する。そこでジーニアスに『グラビティ』の連発をお願いしようとしたが、

 

「『グラビティ』!」

言われるまでもなくジーニアスは、立て続けにアスカを押し潰す加重力空間を生み出し続けた。

 

その姿に頼もしさを覚えて微笑みながら、タバサはルナにだけ『ヒャダルコ』を集中させる。

ルナにもアスカにも、それぞれ前衛が3人ずつ張り付いている。光の精霊ということで光属性の天使術は相性が悪いだろうとのことで、コレットも前衛に回っていた。

 

リフィルは前衛の動きを注意深く確認して、アスカのくちばし攻撃やルナの杖で振り払う攻撃で傷つく者が出る度に、治癒術を唱えていた。

 

多少のダメージはあったが前衛が崩されることはなく、後衛が臨機応変に援護していれば、ルナとアスカはやがて負けを認めることとなった。

 

ルナは「あなた方の力を認めましょう」と言って、アスカと共に宙に浮かぶ。

 

しいなはいつものように凜とした声で誓いを立てる。

「我はしいな。2つの世界の真の再生を誓って契約を結びたい」

 

ルナはすぐさま応じた。

「いいでしょう。私たちの力を契約者しいなに」

 

そう言い残してルナとアスカが姿を消した途端、背後から足音が聞こえてきた。

 

「やったか!」というユアンの歓喜の声と、

「しまった!」というクラトスの焦りの声が。

 

その時ーー大地は激しく振動し始めた。到底立っていられないほどに。

 

ユアンはとっさに指示を飛ばす。

「タバサよ! 『ルーラ』を唱えるのだ!」

 

「は、はい! みんな早く、わたしの近くに!」

タバサは、全員がよろめきながら這いつくばりながら、『ルーラ』の範囲内に入ったのを確認する。

 

クラトスも範囲内にいてやや定員オーバーだが構わず、タバサは彼をも含めて、とっさに思いついた街、パルマコスタをイメージして、『ルーラ』を発動させた。

 

 

 

パルマコスタの港の灯台の上にロイドたちは集結していた。そして、誰もがこの街の最も高いところからじわりじわりとこの街に近づいてくる大樹と、大量の巨大な鞭のような大樹の根っこと、大樹の中心にいる女性から目が離せないでいた。

大樹とはこの場合、救いの塔に夥しい数の枝や根っこが大蛇に巻き付かれるかのごとくまとわりついている、神聖な存在とはほど遠いグロテスクな植物のことを意味していた。

 

ロイドが口もろくに閉じられないまま呟く。

「なんだ、これは……」

 

ジーニアスがおそるおそる訊ねる。

「ねぇ、あれが大樹カーラーンなの……?」

 

その答えを求めたユアンも、驚愕で表情が固まっていた。

「マーテル! なぜ彼女があんな奇怪な大樹とともに復活するのだ!?」

 

クラトスだけが冷静に解説する。

「大いなる実りが精霊の守護という安定を失い、暴走したのだ」

 

ユアンは、普段の冷静さが露と消えて、「そんな馬鹿な!」とクラトスに対して声を張り上げる。

「精霊は、大いなる実りを外部から遮断し成長させないための手段ではなかったのか!?」

 

クラトスは、激したユアンに引きずられることなく落ち着いて答える。

「それだけではない。二つの世界はユグドラシルによって強引に位相をずらされた。本来なら互いに離れて時空の狭間へと呑み込まれてしまうところ、二つの世界の中心に大いなる実りが存在しているからこそ、回避されている。そして、大いなる実りは、離れようとする二つの世界に吸引され、どちらかの位相に引きずり込まれようとしている。それ故、いつ暴走してもおかしくはない不安定な状態にあった」

 

ユアンは、ようやく幾分か冷静さを取り戻して訊ねる。

「つまり、こういうことか? 精霊の楔は、大いなる実りを二つの世界に留まらせる檻として囲っていたのか?」

 

クラトスは首肯する。

 

ロイドがここで二人の会話に割って入る。

「理屈はどうでもいい! このままだとどうなるんだ!」

 

ユアンは苦々しげに答える。

「このままだと、シルヴァラントはやがてあの大樹に呑み込まれて、消滅する。シルヴァラントが消滅すれば、二極で隣接するテセアラもまた消滅する」

 

タバサは「そんな!」と絶望的な叫び声を上げる。

「何かあの大樹を止める方法はないんですか!?」

 

ユアンは顔をしかめる。

「王女殿の助言で大いなる実りへのマナの照射をいったんは止めていたが……」

 

クラトスが引き取るように言う。

「だがいずれ二つの世界は消滅する。あの大樹とデリス・カーラーン以外はな」

 

ゼロスは低い声で訊ねる。

「テセアラでもあの大樹は姿を現しているのか?」

 

クラトスは否定する。

「いや、それはないだろう。地震程度は発生していると思うが……」

 

リフィルが推測する。

「コレットの世界再生によって、シルヴァラントの精霊が活性化しているのね。なのでシルヴァラントの精霊たちに合わせて、こちらで大樹が暴走しているのよ」

 

クラトスは頷いた。

「その通りだ。精霊たちは、それぞれ陰と陽の二つの役割を神子の世界再生によって交代で受け持っている。今現在、陽であるマナの供給を担当しているのがシルヴァラントの精霊だ。だから、シルヴァラントに大樹は姿を現しているのだろう」

 

ロイドがここで提案する。

「なら、相反するもう一方の精霊の力をぶつけたらいいんじゃないか? 磁石のプラスとマイナスが中和されるように」

 

ここでリフィルは顔を輝かせる。

「ロイド! ちょっと喩えの理屈は違うけれど、確かに方法論としては正しいわ!」

 

しいなが、なるほどね、と言いつつも、

「でも、テセアラ側の精霊をぶつけるにしても、肝心の方法が無いと……」

 

ここでユアンが告げる。

「……魔導砲だ。あれはもともと我々がロディルに救いの塔を破壊するために作らせていたものだ。精霊の楔を取る前は、魔導砲で救いの塔を破壊して、直接種子に接触する予定だったのだ」

 

クラトスも納得する。

「魔導砲にテセアラ側の精霊のマナを込めて大樹に向けて放つ、か。確かにそれ以外の方法は無さそうだな。……ユアン、貴様の所属と言動を私は見なかったことにする。すぐに魔導砲の準備をしろ」

 

ユアンは、タバサに目を向ける。

「王女殿、ロディルのいた絶海牧場まで『ルーラ』を頼む」

 

「はい!」

じわじわとパルマコスタに迫り来る大樹の根っこを見つめながら、タバサは詠唱して、かつてロディルを倒した牧場をイメージする。

 

このままだとパルマコスタは呑み込まれてしまいそうだ。さもなくば、この街にいる人たち、とりわけ雑貨屋を営んでいるジーニアスが助けたマーブルさんも死んでしまう。わたしたちのせいで!

気付けなかったとはいえ、タバサはタバサで罪悪感でいっぱいであった。二つの世界が消滅する危機もさることながら、目の前の街が自分たちのせいで呑み込まれてしまったら、この世界にやって来たわたしの存在はむしろ害悪だ。たとえ元の世界に逃げて生き延びたとしても、マスタードラゴンさまの思し召し以前に、リーガルさんのように罪悪感の檻に囚われてしまうだろう。永久に。

その想いを抱えながら、タバサは『ルーラ』で絶海牧場へと皆を連れて飛んだ。

 

なお、世界再生の旅が始まる前日に、イセリアの人間牧場を壊滅させたことで、またいつかのユアンとの話し合いの中で、全然違う理屈だがユアンに大いなる実りの即時の発芽を躊躇わせたことで、タバサはイセリアの人間牧場から照射されるマナの過接種による大樹の暴走を抑制したことに気付くことはなかった。タバサの二つの行為がなかったら、大樹が姿を現した時点でパルマコスタは呑み込まれていたのである。

つまり、マスタードラゴンがこの世界の被害を減らすべく、タバサを派遣した判断は正しかったのだ。ーーどこまでも、徹頭徹尾。

 

 

 

一方で、大樹の出現による大地震は、テセアラ各地の街にも及んでいた。メルトキオも、サイバックも、ミズホも、フラノールも。……レネゲードによる警告がなければ、人々は巨大な揺れにもっとパニックになっていたであろう。

 

しかしレネゲードの地震に対する注意喚起も、崩壊したオゼット及びその近くにあるアルテスタの家にまでは届いていなかった。

 

その時、ハーフエルフの少年ミトスは、アルテスタの家の外で空を見つめていた。

 

そのぼんやりとたたずんでいるミトスに、タバサ改め『シスター』が声をかける。

「どうシたんでスか、ミトスサん?」

 

ミトスは『シスター』の方を向くことなく、首を振る。

「なんとなく、ジーニアスの声が聞こえた気が……」

 

その時、二人の足下が急に揺れ始める。

 

『シスター』が悲鳴を上げる。

「きゃっ!」

 

そして、『シスター』めがけて、落石が降ってきた。

 

「危ないっ!」

ミトスは瞬時にタバサを突き飛ばし、代わりに自らが落石の下敷きとなる。

 

『シスター』はとっさに叫ぶ。

「ミトスサんっ!」

 

ミトスは激痛で薄れゆく意識の中、こう呻いた。

「ね、ねえ……さん……」

 

 

 

一方、ロイドたちはロディルの牧場を走ってめぐって、魔導砲に辿り着いた。そしてエネルギー充填装置であろうらせん階段で囲われている巨大な円筒の前で、しいなが次々とテセアラ側の精霊を呼び出す。

 

セルシウス、ヴォルト、ノーム、シャドウの膨大なマナを装置に充填し、大樹に対して陰の力が込められた魔導砲は、海を貫きながら姿を現し、救いの塔にまとわりつく大樹に向けて発射される。

 

狙い違わず魔導砲の陰のエネルギーは、蠢きパルマコスタに接近していた大樹に直撃して、悲痛な女性の泣き声と共に、その姿が消失した。

 

海上に突き上げられた魔導砲から大樹の消失を見届けたロイドたちは、双眼鏡を用いて、ひとまずパルマコスタに被害は無さそうだと思えて胸をなで下ろした。

 

「……よかった」

タバサは、これで二つの世界の消滅は回避できたとユアンから聞いて、その場にペタンと座りこんだ。

 

 

 

ロイドたちは、『ルーラ』で飛んで、パルマコスタの街を一回りする。街の人々は大騒ぎしているが、ひとまず目に付いた被害はなさそうであった。

 

しかしホッとしたのも束の間、総督府の前の広場で、突然コレットが肩を押さえて痛みを強く訴え始めた。

「ああっ! 痛いっ!! うぅ……!」

 

ロイドが慌てて振り返って駆け寄る。

「コレット! どうしたんだ?」

 

タバサも慌てて駆け寄る。

「コレットさん……!?」

 

落ち着いてリフィルがコレットを診る。

「大丈夫? ……すごい熱……オゼットの時と同じかしら? ……とにかく急いで宿に行きましょう」

 

ユアンは苦しむコレットを見ながら呟く。

「永続天使性無機結晶症か……」

 

ロイドはユアンに振り向いた。

「ユアン。なんだって?」

 

ユアンは即座に言う。

「ロイド、コレットの病気のことだが、アルテスタに事情を話してから古代大戦の資料を調べてみてくれ。私はまだ大いなる実りについて調査しなければならないことがあるから、これで失礼する」

 

ユアンが立ち去るのを見届けると、クラトスは続けざまにロイドに助言する。

「神子の命にはまだ猶予がある。ユウマシ湖でのユニコーンの言葉を思い出すのだ、ロイド」

 

そう言い残して、クラトスも去っていった。

 

ロイドは立ち去るクラトスの後ろ姿を見ながら呟く。

「アイツは、本当になんなんだ?」

 

 

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