その後、メルトキオの城の書庫で、長い時間かかった後、目的となる資料を発見した。エルフの古代文字で書かれているそれをリフィルは読み上げる。
「……クルシスの輝石の浸食を防ぐため、マナのかけらとジルコンをユニコーンの術で調合し、マナリーフで結ぶルーンクレストを作り上げた……」
その後は、どうしてルーンクレストによって永続天使性無機結晶症に治癒することになるかの原理が書かれていた。要するに今は要らない情報だ。
それからやはり、永続天使性無機結晶症は数ヶ月で死に至る病であることが書かれていた。最終段階の皮膚結晶化の発症から、まず完全に皮膚が輝石化し、次は内臓器官が輝石化し……といった進行具合である。
それから材料探しの話題に移った。
まずリーガルが、ジルコンはレザレノ・カンパニーで以前取り扱っていたということで、本社に行けば資料と在庫の保管場所がわかるとのこと。
次にリフィルは、マナリーフはヘイムダールつまりエルフの里で子供の頃聞いたことがある気がするから、おそらくそこにあるのではないか、とのこと。記憶力の高いリフィルの言葉なので誰もが信用した。
ただゼロスは、ヘイムダールはエルフ以外立ち入り禁止にしているから、テセアラ王の許可証が必要になると言った。そこは王様かヒルダ姫にお願いするしかなかった。
最後にコレットが、マーテル教の教典を引用して、『母なる大地デリス・カーラーン、その巨大なるマナは地上にそれらを“かけら”として降らせ』と書いてあったことを思い出した。
これはすなわち、クルシスの本拠地デリス・カーラーンにあるということではないかと考えられたので、そこに向かわなければならないと考えられた。
そうしてまずロイドたちは、ヒルダ姫を介して国王からヘイムダールへの入村許可証をしたためてもらった。
次にアルタミラのレザレノ・カンパニーの資料室で、ジルコンの最後の出荷を調べると、サイバックの王立研究所であると判明し、王立研究所で反逆罪も晴れて復活したゼロスの神子としての権力で、すぐにジルコンを分けてもらえた。
マナリーフを手に入れるのはかなり難儀した。
まず木材でできた道と木が共生しているユミルの森を抜けなければならなかったが、そこを抜けたヘイムダールの入り口で子どもが悩んでいた。その子の話によると、病気の母親を治すためにユミルの果実を手に入れる必要があった。しかし魔物の住み処であるユミルの森にその子一人で入ることはできなくて困っている、とのことである。
コレットは自身が大変な病なのにも関わらず、その子にいたく同情し、その子にユミルの果実の大まかな場所を教えてもらった後、コレットは天使の羽を広げて木に成っているユミルの果実を取ってきて渡した。少年はいたく感激し、人間に対する偏見を改めた。
そしていざロイドたちがヘイムダールに入村しようとしたところで、ヘイムダールを出ようとするクラトスとばったり出くわした。
ロイドが、どうしてコレットを治す手がかりを教えたのか、コレットの病気が勇者ミトスの仲間と同じ病気だと知っていたのか訊ねたが、クラトスは「時間がない、急げ」と返しただけで立ち去った。
その後、ヘイムダールに入村しようとしたところ、門番にハーフエルフ、つまりジーニアスとリフィルの入村を禁じられた。それを厭うなら、人間の入村も許可しないとのこと。
その理由が、かつてハーフエルフに村を荒らされたヘイムダールの自衛手段という、ジーニアスやリフィル個人とは何ら関係なく、種族そのものを嫌うからによるものだと判明すると、タバサは元の世界の妖精の村とは180度違う対応に呆れた。
それならわたしもこの村に入らないとタバサが表明すると、今度はジーニアスに止められた。
「タバサは入村して。タバサの力が必要になるかもしれないから」
結果論タバサの力は必要なかったが、タバサは悔しそうに唇を噛んでいるジーニアスの言葉に胸を打たれた。
その後、ヘイムダールの族長にマナリーフが必要で、永続天使性無機結晶症の仲間を治したいからだと告げると、族長の言葉からクラトスがそのことに関して渡りを付けていたことが判明した。
そして族長は、マナリーフの生息地があるというラーセオン渓谷に入るための杖を渡してくれた。その後、ヘイムダールの入り口で罰ゲームでも受けたかのように立って待っていたジーニアスとリフィルと合流して、タバサの『ルーラ』でユミルの森を出た。
さて、ラーセオン渓谷は、高所恐怖症のタバサにとって地獄のような場所であった。
ソーサラーリングの機能変換装置で全員がシャボン玉に包まれるという辺りまでは面白かったのだが、そのシャボン玉に包まれながら赤く大きな植物の吹く風に乗って、高所を移動しなければならない仕掛けにタバサはもうジーニアスの腕をずっとぎゅっとつかみっぱなしであった。崖と崖の間をシャボン玉で移動するのはまだいい。怖かったのは、シャボン玉ごと上空に吹き上げられたり、高さ何十メートルもある所を縦横無尽にシャボン玉で移動したりすることで、タバサはシャボン玉がいつ破裂するか気が気でなく、高所恐怖症がピークに達した彼女は、滅多に泣き言をいわないのに「怖い怖い!」と泣き叫んでジーニアスから離れようとしなかった。
その度にジーニアスは慣れた手つきでタバサの頭を撫でたり、「このシャボン玉は絶対に落ちないよ」とか「ボクと一緒だから安心して」とひっきりなしに励まし続けていた。ジーニアスのタバサの高所恐怖症を宥める様も板についてきたもので、ロイドたちは密かに感心していた。
なお、渓谷の低地ではタバサは魔物との戦闘に加わったが、高地ではちょっとした洞窟以外まるで戦力にならなかった。まあ、タバサとジーニアスを除いても7人いるため、2人ぐらい欠けても問題なかったが。
あまりにもかわいそうだからタバサに『ルーラ』で帰っていいとロイドたちは言いたかったが、コレットの病気が一刻の猶予もないかもしれないこと、渓谷を降りる際にタバサの『ルーラ』は欠かせないことから、どんなに戦闘で役に立たなくなってもタバサに帰ってもらうわけにはいかなかった。タバサもタバサで涙目ながらも、ジーニアスの腕にしがみついているかぎりは歩みを止めたりしなかった。
最後に急斜面を上り、大きな滝が見える橋を渡ると小さな家が見えてきた。よくぞこんな所に家を建てるものだなあ、とタバサは思わずにはいられない。魔法を行使すれば個人で家は建てられるだろうが、なぜわざわざこんな所に、というのは拭えない感想であった。
結局、もっと衝撃的な話がこの家に住む語り部から出てきたため、それを訊くのを失念してしまったが。
家のドアをノックすると、しばらくしてから黒いフードを被った、腰の折れ曲がったエルフの男が出て来た。彼が番人なのだろう。
語り部はロイドたちを見回しながら言う。
「人間とハーフエルフか?」
ロイドは、そうだけど、と答えたあと、
「あなたが語り部ですか? マナリーフをいただきに来たのですが……」
語り部は特に逡巡なく、「よかろう……」と言ってから、「入りなさい」とロイドたちを促した。
やはり内部は、調理場や寝室だの、人が最低限生活できる空間は整えられていた。
テーブルのあたりで座らずにロイドたちが待っていると、語り部は木の棚から袋を持ってきた。
「これがマナリーフだ」
語り部は、発光する植物のような薬草を袋から取りだしてテーブルに並べてみせる。
リフィルは、ルーンクレストに必要な分のマナリーフを手に取り、お礼を言ってから受け取った。
それからリフィルは訊ねる。
「ところで、語り部としてあなたは何を伝承しているのですか?」
語り部は滑らかな口調で答えてくれた。いつも素直に語ってくれない人たちばかりを相手にしてきたので、ロイドたちは少し驚いた。
「私はエルフの里の伝承を次代に受け継がせる者。ここでマナリーフの織物を作り、そこに様々な物語を編み込んでいるのだ」
タバサは興味を持って訊ねる。
「例えばどんな物語なんですか?」
語り部は淀みなく答える。
「空から飛来したエルフの伝承や、人の誕生、バラクラフ王朝の繁栄と衰退、天使の登場、大樹カーランとカーラン大戦……そして勇者ミトスの物語……」
プレセアが訊ねる。
「ヘイムダールでは勇者ミトスについて語れないから、ここに住んでいるんですか?」
語り部は、その通りだ、と小さく頷く。
ここでふと疑問に思ったロイドが訊ねる。
「そういえば、勇者ミトスって何者なんだ? 精霊の契約でも毎回名前が出て来たし、ミトスの仲間がコレットと同じ病気にかかっていたっていうし」
語り部は躊躇なく答える。
「ミトスは、ヘイムダール出身で、カーラン大戦が始まると村を追放された哀れな異端者。村に帰るべく、三人の仲間と共にカーラン大戦を終結させた」
ジーニアスが鋭く反応する。
「異端者って、まさかハーフエルフ?」
語り部はジーニアスとリフィルに目を向けながら、いかにも、と頷いた。
「ミトスはハーフエルフだった。ミトスの仲間もハーフエルフで、人間の仲間はたった一人だけだった。彼らは異端視されながらも全てを乗り越えて、カーラン大戦を終結させたのだ」
リーガルが訊ねる。
「そんな英雄たちの名前が、何故ヘイムダールでは禁忌なのだ?」
語り部は表情を変えることなく淡々と答える。
「オリジンに愛されし勇者ミトス。それは堕ちた勇者の名前だからだ」
コレットが首をかしげる。
「……どういう意味ですか?」
「オリジンとの誓いを裏切り、オリジンから与えられた魔剣の力で世界を2つに引き裂いたのは、他ならぬミトスとその仲間たち……ミトス・ユグドラシルとその姉マーテル、そして彼らの仲間ユアンとクラトス」
ロイドたちは、聞き覚えのありすぎる名前が列挙されて、仰け反るほど驚愕した。
語り部は続ける。
「彼ら4人の天使が世界を変質させたがために、ヘイムダールでは禁忌とされているのだ」
ロイドは大いに狼狽える。
「クルシスのユグドラシルが……勇者ミトス? それでその仲間がマーテルにユアンにクラトス? 信じられない……」
コレットは素朴な質問をする。
「どうやって4000年もクラトスさんたちは生きていられるんですか? エルフやハーフエルフだって1000年ほどの寿命なのに」
「天使とは、カーラン大戦で開発された戦闘能力の一つだ。これは体内のマナを使い、一時的に体を無機化することで体内時計を停止させる。だから天使は年をとらなくなるのだ」
タバサは、4000年と言われてもピンと来ないが、どうりでクラトスさんたち天使たちは、並々ならぬ雰囲気を漂わせていたわけだと腑に落ちる感覚となった。4000年を生きるとは、ひょっとしたらマスタードラゴンさまよりも長命かもしれない、と思った。……あまり種の寿命を超えて生きるのが、良いことだとは思えないが。
ロイドは今の話のスケールの大きさに目を回したようだ。
「俺にはもう何がなんだか……」
代わりに仲間たちがまとめる。まずゼロスから。
「いや、わかったことがあるじゃねぇか。世界を2つに分けたのは、オリジンの力が影響してるってな。魔剣……それがキーワードだ」
リフィルも追随する。
「その通りよ。私たちの最終的な目標は二つの世界を救うこと。そのためには、魔剣の力が必要なようね」
リーガルが付け加える。
「少なくとも、両世界がマナを搾取し合う関係だけは改善しなければならん」
プレセアがロイドの腕を引く。
「ロイドさん、次に行きましょう」
コレットが代表して語り部にお礼を言う。
「ありがとうございました、色々と教えてくださって」
語り部は、小さく頷いた。
語り部の小屋を出て、タバサの『ルーラ』でサイバックまで降りたったロイドたちは、ひとまず宿屋の一部屋に集まって、今後のことを話し合う。
ここでロイドが関係が良好なユアンに手がかりを求めようと提案して、『ルーラ』でレネゲードベースに向かったが、ユアンは不在であった。入り口で応対してくれたボータ曰く、ユアンはしばらくクルシスの方にこもらなければならないことがある、と教えてくれた。
念のため、ボータにマナのかけらの所在について訊ねてみたが、彼は何も知らなかった。デリス・カーランにある可能性についても、「レネゲードの尖兵に過ぎぬ私にはわからぬ」と言って首を振るばかりであった。
それで結局、ロイドたちはまたサイバックの宿屋に戻り、話し合いの結果、ルーンクレストを作るための最後の材料マナのかけらを求めて、敵の本拠地である救いの塔に向かうことに決めた。
そうと決まれば俺さまのクルシスの輝石が必要になるはずだ、ということで、翌朝ゼロスの妹のセレスが住んでいるという人里離れた修道院を訪ねた。
セレスはゼロスに冷たく接しながらも、好意を持っていることがダダ漏れな応対で、ゼロスにクルシスの輝石を返してくれた。