【完結】『理想郷』を求めて   作:hobby32

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35話:ファンダリアの蜜とマナのかけら

「救いの塔に行く前に、ジルコンとマナリーフをアルテスタに預かってもらおうや」

ゼロスが、普段どおり軽い言い方ながら、まともなことを言った。

 

リフィルは即座に納得する。

「そうね。クルシスはドワーフを大勢抱えている。コレットの永続天使性無機結晶症を治すための材料を2つとも持って救いの塔に行けば、仮にワナがあって捕まってしまうとコレットは治療の後、マーテルの器にされてしまうわね。そうなる前に治療の材料をアルテスタに預かってもらうのは合理的だわ。ルーンクレストの製作の準備もしてもらわないといけないし」

 

ということで、タバサの『ルーラ』でアルテスタの家に向かった。タバサとしてはまたミトスの強烈な邪気に当てられるのが嫌でたまらなかったが、今回はアルテスタさんに材料を預けるだけなので大して時間がかからないだろうと思っていた。

 

ところがーー

 

「ということで、材料を預かって欲しいのだけれどーー」

アルテスタの工房でリフィルがジルコンとマナリーフを渡して説明している最中に、突然バッタリと倒れてしまった。

 

「姉さん!?」

ジーニアスが慌ててふらっと横向きに倒れてしまったリフィルに駆け寄る。

 

しいなも素早く駆け寄り、リフィルの額に手を当てる。

「すごい熱だ。早く休ませてあげないと!」

アルテスタが素早くタバサこと『シスター』に目を向ける。

「早くベッドまで運ぶんじゃ!」

 

ベッドで仰向けになったリフィルは、顔中が上気し汗を滴らせながらもコレットに謝る。

「ごめんなさい、コレット。あなたが大変な時に……」

 

コレットは強く首を振る。

「私のことより、今は先生の方が心配です!」

 

ゼロスが、心配そうにリフィルを見つめているタバサに向かって叫ぶ。

「早く医者を呼んでこねーと! 俺さま、メルトキオで良い医者知ってるから、タバサちゃん、『ルーラ』を!」

 

するとここで、ミトスが控えめながら発言する。

「あの、ボク、リフィルさんの病気についてわかります。たぶん、オゼット風邪です」

 

プレセアが顔をしかめる。

「オゼット風邪……かなりの高熱をもたらす危険な病気です……」

 

ミトスは頷いた後に続ける。

「それでボク、特効薬の材料を知っています。ファンダリアの花の蜜です」

 

リーガルが言う。

「ファンダリアの花か。確かフウジ山岳の山頂に生えていると聞いたことがある」

 

ミトスは再度頷く。

「そうです。だから、今からボクとジーニアスとタバサの三人で取りに行きたいです。他の皆さんはリフィルさんを看病しててください」

 

ゼロスはそのミトスの言葉に一瞬凄まじく顔を歪めたが、しかし誰も気付く者はいなかった。

 

ロイドは言う。

「まあ、あの辺りの魔物は大して強くないからな。ジーニアスとタバサがいれば大丈夫だろ。よし、3人で行ってこい!」

 

 

 

もちろんタバサの『ルーラ』で、3人はフウジ山岳に向かったのであるが、魔物よりもミトスの方が心配なタバサであった。

さすがに同族のリフィル先生を見捨てて変なことをしでかさないだろう、と信じるほか無かった。

 

ジーニアスは、不安げなタバサの表情を見て、倒れた姉さんとフウジ山岳を登ることによる高所恐怖症のためだと思った。

なのでいつものように、タバサと手を繫いだ。

それでタバサは少し安心する。

 

 

そんな2人を見て、ミトスは目を丸くする。

「2人は本当にすごく仲が良いんだね」

 

ジーニアスは胸を張って言う。

「そうだよ! ボクたち恋人だもん。キスもしたし」

 

するとタバサの顔が急速に真っ赤っかになる。

「ジ、ジーニアス……! 恥ずかしいよ……」

 

ジーニアスは構わずに続ける。

「ボク、なんだかミトスには隠しごとをしたくないんだ。だって同じハーフエルフの友達ができたんだから、もう何もかも打ち明けたくてたまらなくなるんだよ。ボク、ミトスのことも、タバサのことも好き。いっぺんに友達と恋人ができて、最近すごく幸せだなって思えるんだ」

 

ミトスは、しばらくのあいだ驚愕のあまり、表情が少しも動かせなくなった。

「ハーフエルフと人間が恋人……。オゼットに住んでいたボクからすれば、本当に信じられないよ」

 

 

ジーニアスはニコニコとした笑顔のまま言う。

「ボクだって信じられなかった。ハーフエルフのボクに、人間の恋人ができるなんて。だけど、タバサが異世界人であることを抜きにしても、ずっと側にいてくれるのが嬉しくてたまらないんだ。ミトスといても、すごく楽しいなって感じるし……本当にこんな時間がずっと続いたらいいなって思うよ」

 

「ジーニアス……」

 

タバサは、ミトスから発せられる禍々しい邪気を感じてかなり辛いのであるが、それを全く感じられないジーニアスの言葉は本当に真っ直ぐできれいであった。

 

ジーニアスは、衝撃を受けて固まっているミトスの手を躊躇なく握った。

「ミトスとも手を繫ごう。恋人は無理だけど、親友になろうよ。ボク、ずっとずっと3人で手を繋いでいけたら良いなって思うんだ」

 

すると、タバサは一瞬、ジーニアスの言葉を受けたミトスの邪気が消失したような気がした。本当に見た目通りの少年らしい無垢な表情となった。

だが、一瞬だけだった。ミトスが笑顔を浮かべると、すぐにまた禍々しい邪気が復活した。

 

ミトスは笑いながら頷く。

「そうだね。ずっとずっとこうして、3人で手を繋げたらいいね」

 

 

フウジ山岳の魔物と戦う際は、ミトスに離れてもらい、魔物の目が届かないところからジーニアスとタバサがそれぞれ魔法を放って吹き飛ばしていった。今回は前衛がいなかったが、『エクスプロード』や『イオラ』で吹き飛ばして魔物を山道から落とせば十分であった。例外的にオオカミ型のモンスターであるナイトレイドだけは、タバサの妖精の剣で戦ったが。

 

そうしてジーニアスが2人の手を握りながら、フウジ山岳の山頂へと辿り着く。

 

そして花々を見つけて、ジーニアスは興奮そのままに走っていく。

「ミトス! これがファンダリアの花なのかな?」

 

 

ミトスは白い花々の側に屈んでから頷く。

「そうだね。これで間違いないよ。これらの蜜を抽出して飲めばリフィルさんは良くなるよ」

 

 

すると、ジーニアスは満面の笑みを咲かせる。

「よかったぁ! 姉さんはボクにとって育ての親だからね! これでちょっとでも恩返しになったらいいなぁ」

タバサは、急いでファンダリアの花を摘んでいくジーニアスの姿を見て、「無邪気」という言葉はジーニアスのためにあるのかな、と思った。ミトスといる不安すら、大きく揺るがす何かをジーニアスは持っていた。

 

それから『ルーラ』でアルテスタの家まで戻る。アルテスタがファンダリアの花の蜜を抽出して作った薬をリフィルが飲むと、高熱はすぐに落ち着いた。

 

ミトスはベッドから起き上がったリフィルの姿を見て、「よかった」とつぶやいた。タバサは、このミトスの「よかった」という言葉は、純粋そのものだと思えた。

ジーニアスはリフィルの回復を確認した後、タバサとミトスに笑顔でお礼を言う。

「ミトス、ファンダリアの花の元まで案内してくれてありがとう。タバサ、いつもいつも戦闘と『ルーラ』をありがとう。2人のおかげで姉さんはすぐに良くなったよ」

 

純粋すぎるジーニアスの言葉に、ミトスもタバサも赤面してしまい、「どういたしまして」という言葉が出てくるまで時間がかかった。

 

 

 

その翌日、アルテスタ、『シスター』、ミトスに見送られて、ロイドたちは世界の中心に位置する救いの塔へと入っていった。

 

ゼロスが救いの塔の入り口の石版に自分のクルシスの輝石を嵌めこむと、ポッカリと開かれた入り口が出て来た。

 

「ひゃ~、どうよどうよ! 俺さまって今、輝いてる? 神子って感じ?」

と、ゼロスは自慢げに言ったが、まともに取り合ってくれたのはコレットとタバサくらいなものであった。二人は「すご~い」、「すごいです」と律儀に拍手をしてくれた。

 

それでますます調子に乗って「うっひゃっひゃっひゃ!」と高笑いしたゼロスがしいなに叩かれて静かになった後、プレセアは不思議に思って訊ねた。

「ゼロスくん、どうかしましたか?」

 

頭をさすりながらゼロスは訊く。

「何がよ?」

 

「いつもよりも笑い声が大きいような……」

 

するとゼロスはまた「ひゃひゃひゃ!」と大笑いした後、「鋭いねぇ……」と誰にも聞こえないように呟いた。

 

 

その笑い声も救いの塔に入った瞬間、強制的に止むことになる。

シルヴァラントと同じく大量の棺が透明な床の下を大量に回っていたからだ。

シルヴァラントから来た組にはまだ耐性があったが、テセアラ組で顔をしかめない者はいなかった。

 

シルヴァラントから来た組はそれよりも奇妙なことを思う。

 

しいなはかなり動揺する。

「ここは、本当にテセアラなんだよね?」

 

ジーニアスも大きく目を見開く。

「そうだよ。シルヴァラントの救いの塔と全く同じ構造じゃないか!」

 

コレットは体を露骨に震わせる。

「間違いない。ここ……同じだよ」

 

転送装置で次の通路に向かうと、タバサはさっそく祭壇上部の奥の折れた柱を確認した。

「これは……わたしが『イオラ』でクラトスさんを吹き飛ばした時に折った柱だわ」

 

 

その時、白い戦闘服を身にまとったクラトスが祭壇上部の転送装置から現れた。

「ここで二つの世界は接続しているのだ。同じで当然だろう」

 

ロイドは、クラトスに敵意だけを込められない複雑な目線を向けた。

「クラトス……。あんたは、本当に4000年前の勇者ミトスの仲間なのか?」

 

クラトスは相変わらず淡々と答える。

「わかっているなら話は早い」

 

クラトスは、剣を鞘から引き抜いて掲げた。それはまるで、燃え盛る炎の時間を止めたかのような真紅の剣であった。

 

それが相図だったのだろう、上空から両手に剣を持った大量の漆黒の翼が生えた天使が飛来してくる。瞬く間に、全員の首元に剣が突きつけられた。

 

クラトスは言う。

「無駄な抵抗はやめるのだな。死にたくなければ」

 

タバサはジーニアスと目を合わせて軽く頷いた。「詠唱はしない」というアイコンタクトである。ここまで味方をしてきてくれたクラトスのことだから、何か考えがあるのだろうと思い、素直に捕まることにした。

 

ロイドたちは誰一人として抵抗することなく、そのままエレベーターに乗せられてはるか上空へと連れて行かれた。

 

それから男女別に分けられて牢屋へと閉じ込められた。

しかしまあ、

 

「『エクスプロード』!」

「『イオラ』!」

 

ジーニアスとタバサの爆発呪文で呆気なく壊れる程度の鍵でしかなかった。

 

脆い牢屋にクラトスの優しさを感じたり訝しがったりしながら、ロイドたちは天使の街を回ろうとする。

その前にリフィルは街を見回して、この街には天使しかいないようだからと、コレットに常時天使の羽を出しておくように指示して、私とジーニアスはディザイアンとして振る舞い、他の人間たちを連行している最中にしようと提案した。

 

リフィルの提案を受けて、コレットとリフィルを先頭に立たせ、ジーニアスがしんがりを務める、という形にした。話すのは基本的にコレットとリフィルだけとする。

 

タバサは、天使の街ウィルガイアを見回す。

何というか、天空城の天空人のように神秘的な天使たちの住む所ではなく、見たこともない機械にわんさか囲まれている所であった。勝手に動く床があったり、もう人間牧場の探索で慣れたがエレベーターがあったり、自動で開くドアがあったりと、少なくともタバサの世界より数段文明が進んでいるのは確かであった。

 

しかし、宙を舞っている天使たちも感情が削ぎ落とされている感じで、話し方も機械的であり、人情味というのが感じられない。まるで、ロイドさんが完全天使化したコレットさんに要の紋を付ける前のように、人として大事なものが欠落している感じなのである。

 

窓の外を見れば星々を横から見られるというのに、この街の雰囲気をまとって目を向けると全然神秘的には思えず、むしろあまりにも高いところにいて、大地から隔離されているために不気味な気分であった。

 

タバサのみならず、他の仲間たちも薄気味悪さや居心地の悪さを感じているようだ。特にしいなは、「クルシスは、やっぱり間違っているよ」と強く嫌悪感を露わにしていた。

 

マナのかけらを入手して、さっさとこんな街からおさらばしようと思って歩いていると、たまたま倉庫のような所に行き着いた。

 

そこで番をしている天使にコレットが「マナのかけらはありますか?」と訊ねてみると、淡々と「マナのかけらは配布中止となっている」とにべなく返された。

 

どうしようかと一行が思っていると、ここで倉庫脇にあった機械が突然起動し、半透明のクラトスの姿が突然現れた。

 

倉庫番の天使が叫ぶ。

「クラトス様!」

 

クラトスは淡々と言う。

「神子の儀式のためにマナのかけらが必要になった。そちらに使いを送ったので、彼らに届けさせてくれ」

 

天使から「わかりました」の返事を受け取ると、クラトスは瞬く間に姿を消した。

 

リフィルはとっさに言う。

「そう。私たちはクラトス様の使いで来たのです」

 

しかし天使は、すぐには渡さない。

「では、身分証明書を提示してくれ」

 

するとここでジーニアスが、天使を急かすべく怒り出す。

「そんなこと言っている場合? クラトスさまじきじきの頼みなんだよ」

 

リフィルも畳みかける。

「早くしてちょうだい。あまり待たせると、ユグドラシル様から不興を買うわよ」

 

するとこれが決定打だったようで、倉庫番の天使は慌てふためく。「わ、わかった」と言ってから、羽ばたいて高いところにある棚を開けて、白く光る結晶のようなものを取り出した。

 

そしてリフィルに手渡す。

「必ず届けてくれよ」と言い添えて。

 

 

 

倉庫を出た後リフィルは、「こんな所に長居は無用よ。さあ、タバサ、『リレミト』を」と指示すると、タバサはいつものように『リレミト』を唱えた。

 

しかしーー

「待っていたよ」

 

目の前に突然真っ白な服に身を包んだ紫色の透明な羽を生やした天使ーーユグドラシルがいた。

 

ロイドたちは驚きながらも即座に距離を取り、各々の武器を構える。

 

眼前に見える光景は、かつてレミエル、クラトス、そしてユグドラシルと対峙した上下二段に分かれている祭壇であった。

 

タバサは大いに困惑する。

「どうして? 『リレミト』なら救いの塔の入り口に行けるはずなのに……」

 

ユグドラシルはおもむろに、祭壇下部の中央の円陣に刺さっている紫色に妖しく輝く剣を浮かびあがらせてみせた。

 

そして、微笑みながらその剣をロイドの眼前の床に突き刺した。

「これがエターナルソードだ。抜けるものなら抜いてみるがいい、ロイドよ」

 

ロイドは言うまでもなく罠を疑ったが、しかしユグドラシルが臨戦態勢をとる様子はない。

ロイドは、まさか剣を抜くだけで罠は無いと思ってその柄を握ろうとしたのだがーー

 

突然、

「資格なき者は、去れ」

頭の中に知らない男の声が響いたと思ったら、ロイドの体は見えない壁にぶつかったかのように弾かれ、「うわっ!」と悲鳴を上げる。

 

尻もちをついたロイドを見て、ユグドラシルは高らかに嗤う。

「ふはははは! このように資格なき者はこのエターナルソードに触れることすらできない。おまえたちが2つの世界のマナを入れ替えないようにする世界を構築しようとしてもできないのだよ。畢竟、おまえたちの旅は無駄なのだ」

 

しいなは大声で叫ぶ。

「オリジンとの契約だな! オリジンを騙しておまえは……」

 

しかししいなが話している最中、またもユグドラシルは高らかに嗤う。

「そのオリジンはクラトスが封印している。クラトスが生きているかぎり、誰もエターナルソードを行使することはできない。私のように、この時間と空間を操る剣があれば、異世界の小娘のこざかしい魔法も容易に封じることができるのだ」

 

ロイドは立ち上がりながら叫ぶ。

「どうしておまえはこんな無意味なことをしているんだ! 世界を分断したり、死んだ人を生き返らせようとしたり!」

 

ユグドラシルは、やれやれと小さくかぶりを振りながら説明する。

「この世界は、二つに分かれているからこそ存続しているのだ。古代大戦を知っているだろう。あのシルヴァラントとテセアラが起こした醜い戦争を。マナが大量に生み出されれば、人間は魔科学を発展させて戦争を起こす。その戦争の結果、マナは大量に消費される。私がマナを大量に生み出す大いなる実りを発芽させず、世界を二つ切り裂くことがなければ、マナを喪失した人類はとっくに滅亡して、おまえたちは生まれてすらいなかったのかもしれないのだぞ」

 

ロイドは素早く頭を回転させて、ユグドラシルの言葉に対する反論を見つけようとしたが、敵わなかった。

これに関しては、ユグドラシルの理論に破綻がない。完璧であった。

 

だがーーロイドは別の観点から反論する。

「だからって、神子制度なんてつくって、世界再生の旅をさせて、マーテルの器にするのはおかしい!」

 

ユグドラシルは、その言葉を待っていたとばかりにほくそ笑む。

「では、これを最後にしてもよい。ーーコレットを差し出せ。そしたら二つの世界がマナを搾取し合う関係も、神子が犠牲になる世界も変革してやろう。ーーどうだ? 悪い話ではあるまい。たった1人の人間を捧げれば、この二つの世界は搾取されなくなるのだぞ」

 

リフィルは皮肉げに言う。

「残念ね。コレットの疾患を治す材料を私たちは持っていなくってよ。どこか別の場所に置いてきたの」

 

ユグドラシルは、笑みを崩さない。

「それでは結局、おまえたちの望みは叶うまい。まったく、最後の神子になれるかもしれぬのに愚かなことを」

 

ロイドはコレットの前に立ちはだかる。

「俺はコレットも世界も両方を救う道を選ぶんだ! おまえとの取り引きなんか飲めるかよ!」

 

ユグドラシルは嗤いが止まらない。

「ふふふ、ふはははははははは!!」

 

「何がおかしい!」

 

「人間とは、どうしてこうも愚かなのか。ーーロイドよ。おまえは今、最悪の選択をした。その後悔をとくと味わうがよい!」

 

そうしてユグドラシルはエターナルソードを再び浮かせて、元の位置に戻した後、ゆっくりと立ち去ろうとした。

 

そこに、

「今だ!」

 

ジーニアスが無詠唱でけん玉を突き出し、ユグドラシルの背中目がけて『ファイアボール』を叩きつけた。

 

「くぅっ!」

ユグドラシルは、この旅の間で威力の増したジーニアスの火球をまともに受ける。

 

ユグドラシルが仰け反ると共に、三体の天使が降下してくる。おそらくはユグドラシルを迎えに来たのだろう。

 

ユグドラシルが苦しむ姿を見て、天使たちは憤怒の形相となる。

「この小僧!」

 

そして、ジーニアスに三体の天使が飛びかかって剣を振り上げて襲いかかろうとした。

 

タバサはマズいと思い、慌てて詠唱を開始するも、すぐに間に合わないと悟る。ジーニアスの運動能力では、避けきれない。

 

その瞬間、信じられないことが起きた。

 

「ぐはっ!?」

「があっ!?」

「うおっ!?」

ジーニアスを今まさに斬りつけようとしていた三体の天使が、突然前のめりに倒れこんだのだ。

 

ユグドラシルがとっさに指から放った3発の光弾をそれぞれの天使が背中に受けて。

 

「ど、どうして……」

ジーニアスは、目の前の光景が信じられなかった。自分を斬りつけようとした天使たちはその場でうつ伏せに倒れている。なぜ敵の親玉が自分なんかを庇うのか、と。それはタバサも、他の仲間も同じように思った。

 

しかし、深く考えている暇はなかった。

突然、コレットが倒れる音が聞こえたからだ。一行の視線もそっちに集中する。

 

ロイドが振り返って叫ぶ。

「コレット!」

 

リフィルは、コレットの手首まで浸食してきた輝石に顔をしかめる。

「いけない! もう一刻の猶予もないわ! ロイド、コレットをおぶって!」

 

「ああ!」

ロイドたちは、急いで転送装置へと向かう。

ジーニアスを除いて。

 

そのジーニアスは、ユグドラシルの緑色の瞳を見つめたままであった。

タバサはジーニアスが固まる様に気付いて、急いで叱咤の声を浴びせる。

「ジーニアス! 急いで!」

 

「う、うん……」

タバサの言葉で我に返ったジーニアスは、急いで出口へと走り出した。

 

祭壇の間で、ユグドラシルは何をもすることなく、ロイドたちがワープ装置で転送していく様をただじっと見つめていた。

 

 

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