【完結】『理想郷』を求めて   作:hobby32

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37話:救いの塔

ミトスがタバサを担いだまま、やはり救いの塔に降りるのを確認すると、ロイドたちもレアバードをウィングパックで飲み込みながら降り立った。

 

そして、もはやミトスたちの姿は見えなくなっていたが、救いの塔の入り口の透明な階段を駆け上っていく。

 

そして例の大量の棺が漂う不気味な通路を抜けた後、転送装置でその先へと進んだ。

 

そこは、エターナルソードが刺さっている、半日足らず前にユグドラシルーーミトスと会話した祭壇であった。

 

そこに辿り着いた瞬間、ゼロスが一行の前に歩み出る。

「ここは、俺に任せておけ」

 

しいなが訝しがる。

「なんだよ急に。何があるってのさ?」

 

ゼロスは答える。

「エターナルソードにちょいと細工しないといけなくてな。さもなくば、ミトスの野郎がこれを使って妨害しにくるかもしれないからな」

 

ジーニアスは、とにかくゼロスを急かす。

「何でもいいから早くしてよ! 急がないとタバサが!」

 

ゼロスが「わあってるって!」と叫んだ後、エターナルソードの元へと走る。

 

それから、言う。

「コレットちゃん、ちょっとこっちに来て。神子としての力が必要なんだ」

 

「え? うん」

コレットはなぜ自分の力が必要なのかわからなかったが、タバサがさらわれたという緊急事態のため深く考えることなく、ゼロスとエターナルソードの元へと駆け寄った。

 

すると突然、4体の天使たちが上空から降下してきてコレットを取り囲んだ。それとほぼ同時に上部の転送装置からユアンとボータが姿を現した。

 

ユアンが淡々と言う。

「さあ、ゼロスよ。神子をこちらに」

 

ゼロスはあっさりと、

「はいよ」

と言うと、ゼロスとコレットの下に即席の転送装置が出現し、2人はユアンとボータの近くまで転送された。天使たちは飛んで再びコレットを取り囲み、1体がその首元に剣を突きつける。

 

ロイドが驚愕のあまり体を仰け反らせる。

「ゼロス! ユアン! ボータ! どういうつもりだ!」

 

すると、ユアンは嘲笑いながら言う。

「知れたこと。コレットとタバサには犠牲になってもらうよう、我々は取り計らっていたのだ。ユグドラシル様のために」

 

しいなは、わけがわからなくなって混乱して噛みつく。

「どういうことだよ! あたしたちを裏切るのかい! ゼロスもレネゲードも!」

 

ボータは鼻を鳴らす。

「我々は、ミトス様がハーフエルフ差別のない異世界に行きたいとおっしゃるからには、それを叶えるまでのこと」

 

リーガルが問い詰めるように叫ぶ。

「そのために、2人の無辜の少女を犠牲にしてもか!?」

 

ユアンは相変わらず笑いながら青い髪をかき上げる。

「千年王国計画が実行に移されたら、もっと夥しい数の人が犠牲になるのだぞ。それと比べれば、2人の少女の犠牲など、安いものだ。そのために我々レネゲードはユグドラシル様にお仕えすることにしたのだ。そして、他者の魔法を奪う装置の開発にも手を貸した」

 

リフィルは、ボータに静かに燃え盛る炎を宿した瞳で見つめる。

「ボータ、あなたはタバサたちの魔法に助けられたのよ。それなのに、あの子の命を奪うというの?」

 

ボータはいっさい表情を変えることなく頷く。

「あれは、あの少女たちが勝手にやったことに過ぎぬ。それに個人の命など、ユグドラシル様の4000年越しの悲願と比べれば安いものだ」

 

ジーニアスは、また何重もの裏切り行為に憤りを隠せない。

「この恩知らず! タバサがロディルの牧場でどんな想いでアンタたちを救ったと思ってるんだ!!」

 

ここでゼロスがすかさず言う。

「ユアン様、ボータ様、こんな頭の固い連中は放っておいて、さっさとユグドラシル様の元へ行きましょうや~」

 

ユアンは頷く。

「そうだな。奴らの最期を見ることなど、どうでもいいことだ」

 

転送装置が作動し、コレットたちの体が半透明になっていく。

コレットの「ロイドーーーッ!!」という絶叫を残して、4人の姿は完全に消えてしまった。

 

残されたロイドたちの元には、前方からコレットを囲んでいた天使たちが迫り、さらに上空からも次々に剣や槍を持った天使たちが降下してくる。

 

しかし、それだけではなかった。

後方の転送装置からは、ディザイアンそっくりの姿をしたレネゲード兵たちが続々とやってくる。むろん、それぞれの得物を構えて。

 

ロイドは舌打ちをする。

「くそっ! 挟み撃ちかよ! こんな所でちんたらしてる暇は無いってのに!」

 

プレセアは状況の不利を悟りながらも言う。

「やるしかありません。コレットさんとタバサを救うために!」

 

リフィルは杖を構える。

「そうね。あの子たちが死ぬ道理は無いわ。必ず助けましょう」

 

「………………」

ジーニアスとしては、もはや仲間たちすら放っておいて、祭壇上部の転送装置に乗って追いかけたくてたまらなかった。

しかしロイドたちの力抜きで、自分だけで敵うはずもない。

 

タバサとコレットを助け出すためには、やはりみんなで行くしか無いのだ。

 

しかし冷静に考えてそのための戦力に乏しい。自分1人だけだと、挟み撃ちに対抗できない。タバサと2人でいて、初めてガオラキアの森のようにこの難局を乗り切ることができるのだ。

しかしそのタバサはいない。裁きの光の雨を降らせる『ジャッジメント』を使えるコレットも連れ去られた。しいなの精霊召喚も何度もできるものではない。他に全体掃討の魔法を持っている人は今の仲間にはいない。

 

このままだと、もう一度タバサやコレットの顔を見る前に死んでしまうーーそう絶望に追い詰める焦燥感にジーニアスが呑み込まれそうになっているとーー

 

突然、祭壇上部の転送装置からーー白を基調とした戦闘服を身にまとったクラトスが登場した。

またも敵が増えたかと思っていたら、違った。

 

「大丈夫か、ロイド!」

 

クラトスはすぐさま詠唱を開始し、

「『ジャッジメント』!」

 

天使たちとレネゲード兵を討つ裁きの光の雨を降らせた。

強烈な光の雨を浴びた数多の敵の悲鳴がこだまし、倒れ伏す。

 

ロイドが歓喜の表情となって叫ぶ。

「クラトス! おまえは味方でいてくれるのか!」

 

ここまで立て続けに裏切られ続けてきたロイドたちにとっては、ここでクラトスが味方してくれるのは、まさしく救いの神と言ってもよかった。

 

しかし、クラトスは抜刀して天使たちを薙ぎ払い、あっという間にロイドたちの元に駆けつけながらも、厳しい口調で言う。

「何を喜んでいるのだ。とっとと戦え。そして私とジーニアスの詠唱時間を稼ぐのだ」

 

ロイドは、「わかった!」と絶望の中に救いの光を見た気がして、ジーニアスを守るように戦う。

 

ジーニアスはこれで安心できて、いつものようにけん玉で詠唱のリズムを取る。

「滄溟たる波濤よ、戦禍となりて、厄を飲み込め! 『タイダルウェイブ』!」

 

水の激流が回り、レネゲード兵たちを押し流し、悲鳴と共に柵のない通路から敵をまとめて押し流して虚空へと弾き飛ばす。

 

「『ジャッジメント』!」

プレセアとリーガルが守ったクラトスの再びの光の裁きの雨は、生き残っていた天使たちを床に落としてゆく。天使たちが落ちた途端、容赦なきロイドたち前衛の攻撃が襲いかかり、大半の命を散らしていった。

 

クラトスが一行に呼びかける。

「これで十分だ。とっとと行くぞ」

 

ロイドたちは、コレットが連れ去られた転送装置へと走る。

 

 

 

大樹の根っこがあちこちに蔓延る悪路に苛立ちながらも、ロイドたちは救いの塔の地下へと潜っていく。

植物系の動く魔物がウヨウヨしていたが、極力戦闘は避けた。どうしても避けられない場合のみ、プレセアが斧を振るってマザーボムッサムを切り裂いたり、ジーニアスの『イラプション』で燃やして向こうから逃げるようにさせた。

 

救いの塔の地下は迷路状態であったが、クラトスが走って先導してくれたので迷うことはなかった。一行は、ほとんど話すことなく走っていく。

 

途中でたくさんのトラップ部屋があったが、これもクラトスが指示を飛ばし、ロイドたちの協力を得ながら突破していった。

 

大きな円状の部屋では、まるでおもちゃ屋の戸棚に大量に陳列されたかのようにたくさんの天使たちがいたが、けたたましく鳴り響く鐘の音と共に目覚めて出て来る天使たちには、クラトスは「無視しろ」と言って、ロイドたちを先へと続く通路へと向かわせた。そして、クラトスの剣が通路の柱2本を切り裂いて、天使たちの進路を塞いだ。

 

次のらせん階段を下りた先では、かつて精霊の楔を全て引き抜いた時に復活した大樹の生き残りが根を伸ばしてうごめき、橋のような通路を塞いでいた。クラトスに言われるまでもなく、しいながすぐさま、ノーム、セルシウス、ヴォルト、シャドウの精霊を呼び出して陰の力を集め、小さな魔導砲として大樹の根っこにぶつけた。

大樹の生き残りはそれを受けて動きを止め、ロイドたちはすぐさま通路を渡った。遅れて通路を渡ろうとしたしいなに、しぶとい大樹の根っこが絡みついたが、クラトスが素早く切り裂いて、しいなを解放した。

 

次の仕掛け部屋では、端末と金属の固い扉があった。

クラトスが水色の天使の羽を出してからロイドたちに指示する。

「私が端末を操作する。おまえたちは扉から出て来る魔物を倒すのだ」

 

クラトスは天使の羽ではばたきながら、端末を操作していく。

ロイドたちは、クラトスはどうして飛んで操作するのか訝しんだが、その疑問は第一の魔物を撃退した後に判明する。

この部屋は、1つ扉を開ける度に、端末の周囲の床が抜け落ちる仕掛けとなっていたのだ。扉は全部で4枚。ロイドたちが最後の扉をくぐった後には、クラトスのいる部屋は崩壊し始めていた。

むろん、天使の羽を持つクラトスは滑空して部屋が崩落する前に、ロイドたちと合流した。

クラトスがいなければ、端末を操作した者が確実に犠牲になっていた恐ろしい部屋であった。

 

次の仕掛け部屋では、またも分厚い金属の扉が行く手を阻んでいた。クラトスは一瞬考え込んだが、すぐさまプレセアに指示を出す。

「あの小さな穴から入って、中にある端末を操作するのだ。ただ、扉が開かれると同時に細い通路のある天井から壁が降りてくる。だからあらかじめこの予備の長剣を通路に突き刺しておいてくれ。それから、扉を開けた途端、端末の操作者が大樹の根に捕まる仕掛けが施されているが、私が助け出す」

 

プレセアは即座に「はい……」と言った。

プレセアは金属の扉の脇にある小さな穴から入り込んで、端末を操作する前にクラトスから渡された長剣を天井をよく見ながら、細い通路の床に突き刺していく。そして、覚悟を決めて端末を操作して、金属の扉を開ける。

 

その途端、

「きゃあっ!」

プレセアの小さな体がかなりの勢いで木の枝に引っ張られて、壁の中に飲み込まれそうになる。

 

金属の扉が開いた途端、クラトスがすぐさまプレセアの縛めを切断して解放し彼女を抱きながら、天井から落ちてくる壁のつっかえ棒となっている剣の隙間からスライディングして通過していく。ロイドたちもそれに倣った。

最後にジーニアスが通過して間もなく、長剣は天井の圧力に耐えきれなくなり、折れて砕け散った。

 

次の仕掛け部屋では、十字路の通路に半透明の膜のような壁が四方からやって来て侵入者を押し潰すというものであった。

しかし、これは7人の力を合わせて攻撃すれば先を阻む壁を破壊できたので容易であった。これが今までのワナで人数が減らされていたらと思うと、ゾッとする仕掛けであったが。

 

最後の仕掛け部屋は、誰かが歩くごとに落ちる床を走りながら、両方の壁から矢が放たれるのを避けつつ、最後に出て来る正面からの矢をも避けなければならないというものであった。

もちろんこれも、クラトスが天使の羽を広げて、2人ずつ脇に抱えて持ち上げ、通路ごと飛び越せば何の問題もなかった。

 

最後にロイドとジーニアスを床に降ろすと、クラトスは何の変哲も無い壁に剣を突き刺した。

すると、突然通路が現れた。

 

クラトスが一行に説明する。

「ここが大いなる実りの間だ。ミトスとユアン、そしてコレットとタバサがいるはずだ。心してかかれよ」

 

しいなは怒鳴って訊ねる。

「ゼロスもいるのか!?」

 

クラトスは「さてな」と振り向くことなく答えた。

 

一行は覚悟を決めて、大いなる実りの間へと走っていく。

 

 

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