【完結】『理想郷』を求めて   作:hobby32

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40話:巨悪との決闘

ーーそれは、輝かしい光景であった。

 

1人の少年が満開の笑顔を咲かせて、村の広場で白を基調とした服をまとった金髪の少女の手を引っ張り、村の草原を駆け回っていたのだから。太陽が2人の金色の髪と少年の笑顔をまばゆく照らし出す。……何も知らない人が見れば、太陽まで祝福しているように見える美しい光景であった。

 

しかしこれが歪みに歪みきった光景であることは、事情を知る者にとっては一目瞭然であった。

 

まず金髪の少年の方は4000歳を超えている。これ自体はともかくとして、4000年にもわたって、人間もエルフもハーフエルフもドワーフも苦しめ続けてきた天の機関クルシスの首魁である。人間牧場を通して人間を虐げ、夥しい数の人間を殺戮してきた。エクスフィア製造のための非人道的な人体実験を何度も繰り返して、罪のない人間をクルシスの輝石をつくるための道具として使い捨ててきた。自らの死んだ姉を復活させるために、4000年もの間、姉の器として不適合であった歴代の神子を殺して棺に収めてきた。さらに自らが発案した全ての知的生命体を無機生命体にする千年王国計画を放り投げて、自らを慕う者の期待すら裏切ってきた。そして1人の少女のマナを根こそぎ奪い尽くすことで、彼女の魔法を強引に修得し、今現在ハーフエルフ差別のない『理想郷』にいる。

そんな少年が無邪気に走り回っているのだ。

 

一方の少女の方に笑顔はない。少年が自分のせいでどれほどの罪で穢れてしまったのかを、身動きの取れない体でずっと見つめ続けてきたからだ。

金髪の少女は、少年から「姉さま」と親しげに呼ばれている。しかし彼女の体の真の名前は、決してそうではない。

少女だって少しは嬉しかった。4000年ぶりに歩けているのだから。弟のはしゃぐ声に姉として心が動かされないでもない。

 

しかしながら、やはり心の底から“楽しい”と思えることはなかった。手を引く少年の心はどす黒く、払底不能なほどに穢れている。自分の体は、この少年が無辜の少女から強引に奪ったもの。そして、確かに夢見た『差別のない世界』は、この少年のもたらす蛮行による犠牲者を減らすために、この世界から遣わされた少女の魔法によってもたらされたもの。

 

何もかもが歪んでいた。少年も少女も今立つ大地も、2人にとって正常なものは何一つとしてなかった。

 

この世界に『ルーラ』で連れて来られた当初、少女は何度も少年を諭した。「あなたがしてきたことは間違っている」、「この体を本来持つべき少女に返して」、「この異世界の大地に私たちが立つ資格はないわ」と。

 

しかし少年は、まったく姉の言うことを聞かなかった。

「間違っている? ……ああ、姉さまの中にある劣悪種の精神がそう言わせているんだね。大丈夫だよ、姉さま、そのうちその体に姉さまの精神がなじんでくるから。ここは『理想郷』なんだ。ハーフエルフ差別のない、姉さまがずっと夢見てきた世界なんだよ!」

 

かくして、少年は姉の言うことに耳を傾けることはいっさいなかった。サンタローズという村の空き地の草原で飽きることなく姉と一緒に走り回ったり、川辺に座って穏やかな水音に耳を傾けたり、言葉が通じない中、住民に頼みこんで強引に寝泊まりするための家を確保したりした。

 

マーテルは何度も嘆息した。これが勇者から悪鬼となってしまった弟なのである。おそらくは全ての行為にこうやって心の中で強引に言い訳して(しかもたいていは自分をだしにして)、悪行に邁進してきたのだろう。

 

マーテルはこのあたりで、弟は討たれるべきだ、と思ったものである。もはや古代大戦を止めた時の不屈の精神を持った勇者ではない。何をも直視しようとせず、常に自分にとっていいように解釈する愚か者に堕した。なまじ力と権力を持っているから余計にたちが悪い。……その変質の原因が自分の死であるだけに、ますます胸が痛いのだが。

 

さて、ミトスの儚き栄耀栄華は間もなく終止符が打たれることとなる。

サンタローズの村人たちがざわめき始めた。皆がそちらの方へ向かうということで、ミトスには誰が来たのかすぐに察した。

 

「来たな!」

クラトスが裏切った時点で予想の範疇であった。ユアンとその部下に足止めできるとは思えなかったから。

マナを根こそぎ奪い尽くした少女に誰かがマナを注入したのだろう。……まったく誰かの命を犠牲にしてまで追いかけてくるなんてしつこい奴らだ、とミトスは思わずにはいられない。

 

試みに『ルーラ』を唱えてみる。

……やはりというべきか、ちっとも体が浮上しない。奴らは封じるすべを講じてきたことを思う。

 

しかしながら、これはこれで好都合なことだとミトスは思うことにする。どちらにせよ、『ルーラ』で追われ続けたりしながら、姉さまと逃避行するなど性に合わない。ここで奴らの息の根を止めて全ての憂いを拭ってから、『理想郷』に安住した方がずっと良い。

 

もっとも姉さまと一緒に過ごした場所で、姉さまとこれから暮らす場所で人を殺めたくはない。ミトスはいつぞやタバサが教えてくれたサンタローズの洞窟へと、コレット(姉)の手を引っ張って走った。

 

少し入り組んでいたが、あっという間に最深部まで辿り着いた。しかしやや狭いながらも開けた場所がある。都合が良い。ここを奴らの墓場としよう。

 

そのまま待っていると、やがて9人がここまで駆けつけてくる足音が響いてきた。ミトスはコレット(マーテル)を守るように前に立つ。

 

先頭にいたのは、やはりあの王女であった。桃色のマントを引きずりながら歩み寄る。

 

それからタバサは、洞窟特有の声を反響させながら語り出す。

「……不思議な気分です。ここでは聖なる原石が採掘できて、コレットさんのお守りに入れたことは以前にお話ししましたよね。そのお守りを持っているコレットさんとこういう形で再会することになるとは、全然想像していませんでしたよ」

 

ミトスはコレット(マーテル)の前にピンと腕を伸ばす。

「姉さまは渡さない! それを邪魔する奴はここでくたばるがいい!」

 

クラトスは、そんなミトスの姿に憐れみすらこめて問いかける。

「果たして、マーテルがそれに同意するかな? 我らと旅をしていた頃のマーテルは、他人の体を用いてまで生き長らえることを望んでいなかったと思うのだが」

 

コレット(マーテル)は、真の聖者にしか出せないような澄みきった声でミトスを諭す。

「そうよ、ミトス。クラトスの言うとおり、私はこんな無辜の少女の体を借りてまで生きたいとは思わない。早くこの子の体にこの子の精神を返してあげて」

 

ミトスは瞬時に叫ぶ。

「それは姉さまの言葉なんかじゃない! まだあの劣悪種の精神が元の体に戻りたいって呼びかけているだけなんだ! 無視して!」

 

ゼロスは盛大にため息をつく。

「クルシスの他の天使連中に聞かせてやりてーぜ。自分たちが崇め奉っている大将の正体が、こんな駄々っ子のシスコンだってな」

 

ミトスは激昂する。

「ボクと姉さまを愚弄するな!」

 

ロイドが静かな声で諭しかける。

「その前に、おまえがしてきたことを思い出せよ。人間牧場でディザイアンたちにたくさんの人間を殺させて、マーテルの体のために大勢の神子を使い捨てにしてきた」

 

ジーニアスはロイドの言葉を引き継ぐように眉を尖らせて言う。

「そして、コレットの体を奪って、タバサのマナを吸い尽くしてから魔法を奪って、この異世界にいる。どれもこれも何一つとして許されることじゃない」

 

ミトスはここで、ふっと笑う。

「おまえたちだってそうだろう。大切な人が奪われたらどうやってでも救いたいと思っているから、今ここにいるんだろう。それなのに、ボクを糾弾する資格があるのかい?」

 

これにはリフィルが答える。

「そうね、大切な人が奪われたら、何が何でも取り戻したいと思うのは確かに人情だわ。誰もが助け出したいと思う。死んだ人を蘇らせたいと思う。けれど、その過程で他の人の命を奪うのは、どうしたって間違っているわ。そうなったら、私たちは死を受け入れるしかないのよ」

 

プレセアが言う。

「私は……アリシアの死を受け入れました。エクスフィアに閉じ込められたまま生きるのは地獄だと、死んだ妹は言ったから。あなたは、4000年間、自らのお姉さんを解放することなく生かし続けた。それはお姉さんにとって、地獄を見せたのではないのですか?」

 

リーガルは頷く。

「それもおまえの絶え間なき悪行をずっと見せられてきたのだ。おまえは自らの罪を償おうともせず、ただひたすらに罪を重ねてきた。そして、『理想郷』へ逃避行するーーそれが許されないからこそ、今こうして我らがここにいるのだ」

 

しいなは言う。

「あたしは、あたしの罪で、ミズホの里のみんなから白い目で見られ続けてきた。あんたの罪はあたしより重いからもっと大変だろうけどさ、でも罪を償おうっていうんなら、その姿勢は尊重するよ」

 

ミトスは疲れたようにため息をつく。

「どいつもこいつもボクが悪いというばかり……。そうやって、ボクに責任を押しつければそれで満足なのだろう。……でも、ボクはボクなりに頑張ってきたんだよ。古代大戦しかり世界を2つに分けてマナを管理し合う仕組み作りしかり、ボクがいなければ、おまえたちの世界は消滅していたのかもしれないんだよ。感謝しろとは言わないけど、ボクが幸せになる権利を全否定するのはいかがなものかな」

 

これにはコレット(マーテル)が答える。

「ミトス、確かにあなたは頑張ってきたわ。ハーフエルフとしてどこ行っても差別を受け続けながらも、全ての精霊たちと契約し、古代大戦を終わらせ、私が死んだ後も長い間、世界を存続させてきた。それは私も認めるわ。でも、どれだけ偉大なことをしても、罪が消えることはないの。あなたが幸せになりたいのなら、きちんと自分の罪に向き合いなさい」

 

ミトスは凄まじい形相となる。

「また劣悪種が姉さまの声を借りて知った風な口を利く。……まあいいや。これ以上ウダウダ言うより、戦って白黒付けた方が手っ取り早い。ボクはボクの幸せを追求し続ける。それを邪魔する奴は、黄泉へと消えるがいい!」

 

そうして、ミトスの体は白く眩い光に包まれて、虹色の羽を背中から出した。

 

そして、ロイドたちが武器を抜くや否や、

「『ジャッジメント』!」

 

白く太い柱のような眩い光の雨を降らせる。

薄暗い洞窟内が強く照らされ、ロイドたちは強烈な光線を受けて立っていられなくなる。防御技を展開しようにも、いつどこに落ちるかわからないがために、それも難しいのだ。

 

リフィルが倒れながらも詠唱し、強力な治癒術を発動する。

「『リザレクション』!」

 

たちまち洞窟の地面に広がる青い癒しの魔法陣が、ロイドたちを優しく包み込む。立ち上がったロイドたちは、ミトスの元へと駆け出す。

 

しかしミトスは瞬時にワープをして、リフィルの背後に立った。

「甘いね、『ホーリーランス』!」

 

大規模な治癒術をかけて、立ち上がった直後のリフィルに四方八方から光の槍が突き刺さる。リフィルはとっさに防御技を展開するも、しかしミトスの『ホーリーランス』の威力は桁違いで、リフィルは地面に膝をつくこととなった。

 

「『マヒャド』!」

タバサはミトスを中心に大規模な凍結呪文を唱えた。ミトスは周囲を丸ごと氷結させる呪文をさすがに避けきれなかった。まともに食らい、地面へと落下する。

 

「『グラビティ』!」

そこに容赦なくジーニアスの黒い加重力空間を生み出す魔法が追い打ちをかける。ミトスが顔を歪めてもがいている間に、ロイド、クラトス、しいな、ゼロス、プレセア、リーガルが次々に距離を詰めていく。そして各々の武器で、ミトスを斬りつけたり、蹴り上げたりしていく。

 

「この程度!」

ミトスはまたもワープして、あっという間に詠唱を完成させる。

 

「『インディグネイション』!」

雷属性の最強魔術が放たれ、光が渦を巻いて天に上がっている間に、前衛たちは『インディグネイション』の効果範囲から散り散りに脱出していく。しかし唯一プレセアが逃げられそうもないことを察したリーガルが、猛烈な速度で彼女に駆け寄り、彼女を身を呈して庇った。

 

「くうっ!!」

結果、強烈な雷撃をまともに食らったリーガルはその場に崩れ落ちてしまう。

 

「リーガル!」ととっさにロイドは叫ぶと、ゼロスが「ここは任せときな!」と返して治癒術の詠唱を開始する。

 

庇われたプレセアは、妹の仇だと思っていた人に救われて、少しの間、呆然としたが、それを隙と見て近づいてきたミトスに気付き、遮二無二斧を振るった。

 

「くっ!」

ミトスの脚から鮮血が噴き出す。すぐさまプレセアの近くからワープで離れて、今度は詠唱中のゼロスの周囲を目がけて『レイ』を放つ。

 

「『ヒールストリーム』! ……ぐおっ!?」

リーガルへの治癒術が完成した直後に、ゼロスは青白い光線に背中を貫かれて、地面に平伏す。

 

ミトスは駆け寄ってくるロイドとクラトスとしいなを引きつけた後、ワープして詠唱中のジーニアスとタバサの元まで距離を縮めてすぐさま詠唱を完成させる。

「『グランドダッシャー』!」

 

「うわっ!?」

ジーニアスは地熱を帯びた大地の魔法の隆起をまともに食らってしまい、数秒間宙をさまよい、それから地面に倒れ伏す。

 

しかし、タバサはとっさの判断でジーニアスを救うことを諦め、詠唱を中断してから跳躍してミトスを妖精の剣で斬りにかかる。

 

「くっ!」

タバサの剣と敏捷さまでは頭に入れていなかったミトスは、慌てて後方に回避するも、懐に飛び込んだタバサの剣に浅く切り裂かれる。

 

すぐさまワープして逃げようとしたが、そこをクラトスの剣が襲う。ミトスは背中から神速の剣の舞いを受けてしまう。

「くっ! ああっ!?」

 

さらにロイドの双剣も続く。左手の甲に装着された特殊なエクスフィアによって強化されたロイドの剣は、ミトスの体の真正面に深傷を負わせるのに、十分な威力を持っていた。

 

その間、『グランドダッシャー』を浴びて地に伏せていたジーニアスは、明滅する意識の中でけん玉を握り締めて、最強の魔術を詠唱する。

 

「さよなら、ミトス……『インディグネイト・ジャッジメント』!」

よもや友達だと思っていた同族の少年に、こんな最強の魔術を撃ち込むことになるとは、ジーニアスは夢にも思わなかった。

しかしこれは、もはや人間をもエルフをもハーフエルフをも苦しめ続けてきて、その結果、もはや尊き生命そのものを路傍の石のごとく蹴るようになってしまった危険極まりない殺戮者を止めるための雷(いかずち)であった。

ミトスは雷の魔法陣に拘束され、上から大量の連続する雷撃を浴び、そしてしまいには降下してきた巨大な魔法の剣にその身を貫かれ、魔法陣も剣も何もかも弾け飛んだ時には、ミトスの体は洞窟の壁に叩きつけられ、もはや虹色の天使の羽を出す力すら喪失した。

 

「すごい……」

タバサは、ジーニアスに秘められし最強の魔法が今まさに解放されて、大きく目を見開いて感嘆せざるを得なかった。凄まじい魔法、凄まじい威力。かねてからいつかは自分を超えるに違いないと思っていた少年の魔法は、4000歳を超える古代大戦の勇者をも屈服させたのだ。

 

最強の魔法を受けたミトスはその姿が半透明となり、胸元のクルシスの輝石が赤く煌めいて輝いた。

 

「古代大戦を止めたハーフエルフの勇者が、年端もいかないハーフエルフの少年の魔法にとどめを刺されるとはね……因果なものだ」

 

遠くから離れて戦況を見つめていたコレット(マーテル)が、ミトスに近づいていく。

「ミトス、何もかもを拒絶して、現実を見ようとしなかったから、こんな結末を迎えることになったのよ。昔のあなたのままだったら、決してこうはならなかった……」

 

半透明のミトスは首を振る。

「結局、ハーフエルフとして生まれたのが全ての間違いだったんだ」

 

ジーニアスは、傷だらけの体をタバサの肩を借りて支えてもらいながら、ミトスに反論する。

「ハーフエルフとして生まれたことは間違いじゃない。すべてはボクらの行動しだいなんだ。ボクは一人の人間のおばあさんを人間牧場でパンを差し入れ続けたら、ハーフエルフでも受け入れてもらえた。でも、きみがやってきたことは、過程はどうあれ、ハーフエルフを蔑む者たちに復讐する行為だ。その結果どうなったか。4000年間、ハーフエルフに対する差別構造に変化は訪れなかった。きみの力を、ハーフエルフ差別を無くすように人間やエルフたちに歩み寄る方に向けていたら、今は全然違ったものになっていたと思う」

 

ミトスは、虚ろな声で言う。

「……戯れ言を。どんなにハーフエルフ差別が根強くはびこっているか知らないくせに……」

 

これにはタバサが首を振る。

「そんなことない。この旅で、ジーニアスはハーフエルフ差別を受け続けて耐え忍んできた。でも、それでもあなたのように差別する側に復讐する方には傾かなかった。ハーフエルフが認められるように、小さな一歩を踏み続けてきた。あなたとは異なる道を歩き続けてきた。そういう意味で、彼は“ジーニアス”なのよ」

 

ミトスは、やはり考えを変えなかった。

「どうせ何も変わらない。何も変えられないんだよ、ジーニアス。ボクらハーフエルフは」

 

ここでクラトスが歩み出る。

「ミトス。すまなかったな、おまえの師たる私があまりにも未熟で」

 

ミトスは興味なさげに言う。

「所詮、クラトスはボクより息子のロイドの方が大事だったんだろう。わかっていたさ、それくらい……」

 

ここで、激闘で倒れていた者も含めて誰もが驚愕する。

 

ロイドは、何を言っているのかわからず、即座に否定する。

「クラトスが俺の親父なわけないだろ。今さらになって何を言ってるんだよ、おまえは……」

 

ミトスは、虚ろな眼差しで言う。

「クラトス。ボクの師匠なら、とっととクルシスの輝石を壊せ。でないと、ボクがボクでなくなる……」

 

クラトスは燃え盛る炎のような形状の剣を振り上げる。

「……さらばだ、ミトス。我が弟子にして、かけがえのない仲間よ」

 

コレット(マーテル)も惜別の言葉を送る。

「さようなら、ミトス。……本当にごめんなさい」

 

そして、クラトスは剣を振り下ろし、ミトスのクルシスの輝石を粉々に砕いた。

 

 

 

クラトスは、ふーっと一息ついた後、コレット(マーテル)の方を向く。

「さて、マーテルよ。コレットのクルシスの輝石を装着すれば、そなたの精神はもはや依り代がなくなるため、消滅するだろう。それでも構わぬか?」

 

コレット(マーテル)はさすがに一瞬だけ躊躇したが、それもほんのわずかな時間であった。

「……ええ。ミトスだけに全てを背負い込ませるわけにはいかないもの。お願い、クラトス」

 

「……わかった」

クラトスは、コレット(マーテル)の胸元に要の紋付きのクルシスの輝石を装着する。その途端にコレット(マーテル)は目を閉じて、体が崩れ落ちるところをロイドが支えた。

 

それから間もなく、コレットはパッチリと空色の瞳を開けた。

「コレット! ……大丈夫か?」

 

コレットは、目を開けた時、真っ先に飛び込んできたのがロイドの顔であることを幸せに思いながら、笑って答えた。

「うん。だいじょぶだよ」

 

ロイドもホッとして、笑顔で言葉をかける。

「おかえり」

 

「ただいま」

 

 

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