【完結】『理想郷』を求めて   作:hobby32

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42話:両世界会議

「ただいまから、シルヴァラントとテセアラの両世界会議を開催したいと思います。議長は僭越ながら、『理想郷』の世界のグランバニア王国の王女タバサが務めさせていただきます。どうかよろしくお願いいたします」

 

グランバニア王国2階の大会議室で、恥ずかしそうにお辞儀をしたタバサに拍手がわき起こった。他の9人からの承認の拍手である。

 

タバサは立ったまま話し始める。

「ありがとうございます。……さて、オリジンとの戦いに勝ち、ユアンさんのお墓をつくった後、クラトスさんが集めた材料をもとにアルテスタさんが作ったエターナルリングをロイドさんが嵌めて、エターナルソードを引き抜けるようになりました。エターナルソードをロイドさんが扱えるようになったことはめでたいことなのですが、時間と空間を操る強大な力を持つエターナルソードの使い方を誤ると危険でもあります。ですので、みんなで話し合って使い方を決めなければなりません。そこでこの会議の開催と相成りました」

 

ここでタバサは息を吐いて着席する。

 

タバサの隣に座っていたジーニアスが立ち上がって、あらかじめ文字が書かれている背後の黒板に向かう。

「論点は4つです。

1つ目は、シルヴァラントとテセアラの両世界を統合するべきかどうか。

2つ目は、大いなる実りを発芽させるかべきかどうか。

3つ目は、マナの管理をどうするのか。

4つ目は、エクスフィアをどうするのか。以上です」

 

ゼロスは楽しそうに訊ねる。

「どれもこれもスケールのデケぇ話だな。ぶっちゃけた話、俺たちだけで決めていいわけ? テセアラの王室とか、シルヴァラントのお偉いさんとかを交えなくてもいいのか?」

 

タバサは言う。

「それも含めて私たちの統一見解をまとめようということです。そうですね、ゼロスさんの発言にありましたとおり、何もかも私たちだけで決める必要がないとは思います。ただ、こちらにはエターナルソードを持つロイドさんがいるので、その強大な力の方向性を決める話し合いは必須でしょう。また、ここでの話し合いを最終結論とする必要がない、と申し上げれば、少しは気が楽になるでしょうか?」

 

リーガルは首肯する。

「そうだな。例えば、シルヴァラントとテセアラの両世界を統合したり分断したりするのは、そう何度もやっていい事柄ではない。今すぐ世界が滅びるというものではないのだから、慎重に議論を進めよう」

 

タバサは、それでは、と言う。

「まず、1つ目の論点、シルヴァラントとテセアラの統合の是非について話し合いたいと思います。両世界の統合に賛成の方は、挙手をお願いします」

 

しかし、タバサを含めて誰も手を挙げなかった。

 

タバサは「やはり、そうですか」と頷いた。

 

ジーニアスが言う。

「だって、今すぐ2つの世界を統合したら、ものすごい格差問題に直面するじゃない」

 

リフィルは頷く。

「その通りよ。異常衰退しているシルヴァラント、異常繁栄しているテセアラーー魔科学の技術で文明の進歩が圧倒的にテセアラが勝っている。いま世界を統合したら、テセアラ人がシルヴァラント人を差別する未来が目に見えるわね」

 

プレセアがリフィルの言葉を継ぐ。

「そして、シルヴァラント人が差別に対抗すべく反テセアラ組織を作る可能性もあり。これは人間とエルフがハーフエルフを差別するから、ハーフエルフが組織立てて人間やエルフに復讐してきた歴史と変わりないですね。……最悪、シルヴァラントとテセアラの間で戦争になります」

 

ロイドは大きく頷く。

「そうだな。ミトスのやり方を全肯定するわけにはいかないけど、古代大戦が起こってから4000年間、世界が2つに分かれていたから戦争は防げていたもんな。戦争が起きなかったことに関しては、ミトスのやり方を認めないと」

 

タバサは了解した。

「わかりました。では、両世界を統合しないことに関しては誰も反対者がいないということで結論づけます。世界が2つに分断されていることを普通の人は知らないわけですから、これは私たちだけで決定してもよい事柄でしょう。

では、2つの論点、大いなる実りの発芽についてですが、これに賛成する方は挙手を願います」

 

今度手を挙げたのは、タバサ、ジーニアス、リフィル、クラトスであった。他の者たちはポカンとした表情で、彼らを見つめた。

 

しいなは、しばらく経ってからリフィルに問いかける。

「……どうしてなんだい? 大いなる実りが発芽して大樹カーラーンが目覚めたら、マナが大量供給され続けて魔科学が異常に発達して、しまいには戦争になるんだろ? それが古代大戦の教訓じゃないか」

 

リフィルは答える。

「ええ、その通りよ。あなたの危惧は間違いじゃない。ただ……」

 

「ただ?」

 

「もし大樹カーラーンが発芽しないとなると、テセアラからマナを譲り受けないといけないかぎり、シルヴァラントはマナ不足で滅びるわね。それは、繁栄を維持したいテセアラ人にとって望ましいことではないのではなくて?」

 

そう言われると、ゼロスたちテセアラ組は、何も言えなくなってしまう。

 

その隙にクラトスは言う。

「この800年間、シルヴァラントの神子は世界再生に成功していなかった。それはレネゲードが、歴代の神子たちを次々暗殺していったからだ。現在、シルヴァラントが異常衰退し、テセアラが異常繁栄しているのはそのためだ」

 

ロイドは訊ねる。

「どうしてレネゲードは神子たちを暗殺していったんだっけ?」

 

「つい最近まで、マーテルが神子の体を器にして目覚めたら大いなる実りが消失すると思われていたからだ。ところが、ユアンがクルシスのコアシステムで調べてみたところ、マーテルが目覚めても大いなる実りは消失しないことが判明した。それでレネゲードは神子を暗殺しなくなったのだろう」

 

プレセアは顔をしかめる。

「レネゲード……800年分の罪……」

 

リフィルは言う。

「コレットの世界再生は、本当にシルヴァラントの人たちにとっては悲願だったのよ。マナ不足で大地は痩せ細り、日照り続きで食糧不足が深刻化している。少なくともシルヴァラントにはマナの供給が必要だわ。それもテセアラを衰退させない形で」

 

ゼロスは訊ねる。

「じゃあ、大いなる実りはシルヴァラントで発芽させるってことか?」

 

リフィルは頷く。

「ええ。それしか道はないと思うわ」

 

ジーニアスが訊ねる。

「でも姉さん。シルヴァラントのどこに大いなる実りを発芽させようか?」

 

クラトスは助言する。

「人目につかぬところがよかろう。4000年前、マーテルは大いなる実りを守ろうとして殺されたのだから」

 

リフィルは目を閉じ腕を組み、シルヴァラントの世界地図を頭に思い浮かべてから、目を開いて話し出す。

「……トリエット砂漠の北部に急峻な山々で囲まれた場所があったわ。あそこなら、レアバードでしか行けないはず」

 

クラトスが頷く。

「なるほど。枯れたリンカの木が生えているところか。……確かにあそこなら、天使かレアバード以外では近づけないな」

 

ジーニアスも賛同する。

「じゃあ、そこにしよう」

 

リーガルが呟く。

「いつか、シルヴァラントがテセアラよりも発展することがあるやもしれぬな。しかし、大いなる実りはどうやって発芽するのだ?」

 

クラトスが答える。

「デリス・カーラーンのマナを照射すればよい。デリス・カーラーンは巨大なマナの塊でできた彗星だ。それを大いなる実りに照射すれば発芽するだろう」

 

しいなはそれでも納得しない。

「シルヴァラントに大樹カーラーンを発芽させるのはいいにしても、今度はマナの過剰供給で魔科学が異常発達して、シルヴァラント内部で戦争が起こるんじゃないのかい?」

 

タバサは頷く。

「ここで3つ目の論点ですね。マナの管理をどうするのか」

 

クラトスは言う。

「現状では、エターナルソードを持つロイドがおこなうしかあるまい。しかし、それもせいぜい80年くらいのこと。その後は後継者を決める必要があるな」

 

ロイドが何の気なしに訊ねる。

「後継者って、俺の子どもとかか?」

 

すると、コレットが頬を赤らめた。

 

クラトスも少々逡巡してから、答える。

「……まあ、誰か信頼できる人に任せればよい。今すぐ決める必要もなかろう。おまえなら大丈夫だろうが、大樹カーラーンの膨大なマナを私利私欲で使う者がいたら、私はその管理者を斬る」

 

ロイドは頷く。

「……そうか、重大な任務だな。それで、マナの管理って何をすればいいんだ?」

 

クラトスは告げる。

「大樹カーラーンによるマナの供給速度次第だが、シルヴァラントのマナが過剰気味になったら、エターナルソードの力で宇宙に流すと良い。もしくは、テセアラでマナが減少したならば、そちらへ送ってくれ」

 

ここでジーニアスが言う。

「世界のマナの濃度は、エルフの血を継ぐボクや姉さんならすぐにわかるから大丈夫だよ」

 

タバサは、話がまとまったと思い、決を採る。

「ということで、マナの管理者はロイドさんとその後継者の方で、クラトスさんが指導役、ジーニアスやリフィルさんがマナの濃度を測定し、必要があればテセアラに供給、不要なマナは宇宙に流すという形でよろしいでしょうか? 賛成の方は拍手を願います」

 

パチパチパチパチパチパチ!

見たところ、手を叩かない者はいなかった。

 

「ありがとうございます。では、最後の論点に移ります。エクスフィアをどうするか、ですね」

 

ロイドが真っ先に発言する。

「言うまでもなく、エクスフィアの製造は禁止だろ。普通のエクスフィアもクルシスの輝石も、人の命を犠牲にするんだから」

 

これにはすぐに、パチパチパチパチと大きな拍手が起こった。

 

ロイドは続ける。

「それで、俺はコイツらを回収すべきだと思ってるんだけど」

 

これには一同が、驚く。

 

クラトスが言う。

「ロイド。アスカードの人間牧場を出た後、トリエットで私が言ったことを忘れたのか? これがなければ、我々は魔物相手にも苦戦することになるだろう」

 

ゼロスもしぶしぶ頷く。

「同感。落ち着いて考えようや、ハニー。確かにエクスフィアがむごたらしい製造方法なのは、俺さまも知ってるぜ。けど、だからって、ロイドくん個人の判断で回収したら、兵士とか傭兵とか、戦うことを生業にしている人が困るだろうが。だいいち、ハニーはそのエクスフィアを捨てられんのか? お袋さんの形見なんだろ」

 

ロイドは、言葉に詰まる。

「うっ……それは確かに……」

 

リフィルも諭す。

「仮にあなた個人が回収しても、あなたが捨てられないんじゃ、誰も回収に応じてくれないんじゃないかしら。エクスフィアを持つ者と持たざる者とで、こっちも格差が生じるわ」

 

ロイドは、う~、と言葉をあげる。

「だけど、エクスフィアが濫用されたり、使い方を誤れば危険だってことは伝えたいんだよな」

 

コレットが首を縦に振る。

「確かに、エクスフィアを濫用しちゃいけないと思う。けど、ロイド。これはロイドがどうするかを判断するより、それぞれの世界の偉い人たちに任せるべきことじゃないかな?」

 

ロイドは、降参、といった具合にうなだれる。

「うん……そうだな。じゃあ、大樹が発芽して旅が終わった後、俺はどうすっかなー……。マナの管理たって、ずっと張り付いてなきゃいけないわけじゃないだろ」

 

ジーニアスは、笑顔で提案する。

「だったら、姉さんのハーフエルフ差別撲滅運動を手伝ってくれないかな?」

 

すると、ロイドはすぐさま顔を上げる。

「そうだな! 先生を護衛するのも悪くねぇよ! ……でも、おまえはどうするんだ、ジーニアス? 先生に付いていかないのか?」

 

ジーニアスは、ちょっと恥ずかしそうに俯きながらも言う。

「ボクは、その……タバサと結ばれるから、このグランバニアのお城に残って、色々と言葉とかの勉強や王室で交友関係を広めないといけないから……」

 

その言葉を聞いたタバサも赤面しながら言う。

「ま、まあ、わたしと一緒になるからには、色々と勉強してもらわないといけないし、もちろんジーニアスはハーフエルフ差別撲滅運動もやりたいって望んでいるから、空き時間を見つけたらわたしも手伝いたいんだけれど……たぶん、旅をしていてどこにいるのかわからないリフィル先生と合流するのは難しいと思う」

 

コレットは無邪気に言う。

「そっか~、2人は結婚するんだね。おめでとう!」

 

すると、ジーニアスとタバサはますます赤面する。

 

リフィルは、大げさにため息をつきながらも言う。

「まあ、こんな弟でいいのかしら、と思うのだけれど、グランバニア王室が迎えてくれるのなら、これ以上の話はないと思うわ」

 

ゼロスは、イジるように言う。

「やれやれ。そんじょそこらの村人の子どもが王女さまに見そめられて、王室入りなんてどこのおとぎ話だよ、って言いたくなるけどよ、まあ、色々大変だとは思うけど、頑張りなよ、お二人さん」

 

ロイドは、寂しげに言う。

「そうなんだ。ジーニアスとタバサとはこれから会いにくくなるのか。残念だな」

 

クラトスが補足する。

「ミトスは当初、この世界の存在を知った後、エターナルソードの力で向かおうとした。ところが、エターナルソードはオリジンの力が届くこの星でしか効力を発揮しなかったのだ。だから、タバサの『ルーラ』に執着したのだ」

 

ジーニアスはロイドに目を向ける。

「ねぇ、だから、ロイドは姉さんのハーフエルフ差別撲滅運動を一緒にやってよ。人間とハーフエルフが一緒にいるってだけで、注目されると思うからさ」

 

ロイドは即座に頷く。

「わかった。そこまで言われたら、やらないわけにはいかねぇな。……よし、先生、頑張ろうぜ!」

 

ここでコレットは慌てて手を挙げる。

「わ、私も! 神子としての役割は終わったけど、やっぱりハーフエルフ差別がミトスの心を狂わせた1番の原因だと思うから、一緒に行きたい!」

 

クラトスは、ふむ、と言う。

「それなら、クルシスの天使たちを何とかしたあとに私も同行しよう。新たなマナの管理者を監視しないといけないのでな」

 

ゼロスがすかさずツッコむ。

「おっさんは、自慢の息子と一緒にいたいだけだろ」

 

ここでクラトスは、思わず顔を赤らめた。

 

ゼロスは、天井を仰ぎ見ながら言う。

「俺さまはどうなるんだろうな~。神子制度が廃止されたら、あの屋敷にも住めなくなんのかなあ。……まあ、いいか。神子としての権力が残っているうちに、教皇が作ったハーフエルフの差別を推進する法を撤廃するように働きかけてやるよ」

 

しいなはあごに手を当てて考えこむ。

「……ミズホはシルヴァラントに引っ越すのかねぇ? もうテセアラ王室と教会を敵に回す必要がないのなら、そのままでもいいような気もするけど……まあ、そのままならそのまま、引っ越すなら引っ越すでいいか」

 

リーガルは心配そうにプレセアに目を向ける。

「プレセアは、どうする?」

 

プレセアは困ったように呟く。

「私、オゼットが壊滅したので、行くあてがないですね。どうしましょうか……」

 

「ならば、レザレノ・カンパニーに来ないか。テセアラのますますの繁栄のために」

 

プレセアは、コクリと頷く。

「そう、ですね。私にできることなら、何だってします」

 

リーガルは、ありがとう、とお礼を言った。

 

タバサがここで立ち上がって会議を締めくくる。

「以上をもちまして、シルヴァラント・テセアラの両世界会議を終了いたします。賛成の方は、拍手を願います」

 

全員が盛大に拍手をした。

 

 

 

 




公式の『シンフォニア』には続編『ラタトスクの騎士』がありますが、この二次創作ではそこまで踏み込みません。何しろ前提が崩れているのですから行けるはずがないのです。
・シルヴァラントとテセアラの両世界が統合しておらず、しかもシルヴァラントに大樹カーラーンが発芽したために、テセアラに住む『ラタトスクの騎士』のラスボスのリヒターが、大樹の精霊たるラタトスクと接触することができず、結果としてラタトスクがリヒターの友人のアステルを殺害することもありません。
アステルが殺されないと、過程は省きますが、『ラタトスクの騎士』の主人公エミルが存在し得ないため、まず物語が始まりません。ヒロインのマルタがラタトスクのために旅をする動機も無くなります。
・『ラタトスクの騎士』では、衰退世界のシルヴァラントと繁栄世界のテセアラが格差問題に直面して、テセアラ人がシルヴァラント人を見下し、それに対してシルヴァラント人がレジスタンス組織をつくります。しかし前述のように、この二次創作では、シルヴァラントとテセアラが統合していないがために、この格差問題が発生するはずもありません。

なので、『シンフォニア』本編の中でこの二次創作は完結します。「差別」というテーマも『ラタトスクの騎士』の中ではあまり掘り下げられていないため、敢えて『ラタトスクの騎士』の物語に向かう理由もありません。

……まあ皮肉なことに、この二次創作の最後では、「平和であれば次の物語は生じ得ない」というのを体現してしまっているのです。原作『シンフォニア』の本編のように、「敢えて新しい問題が起こるようにエンディングで種を蒔いておく」という方向にこの二次創作は向かっていないがために、世界規模で残存する問題は、「ハーフエルフに対する差別」だけとなり、それを撲滅する方向にロイドら英雄たちが旗振り役となれば、それで良いということになります。
……『シンフォニア』のシナリオライターの実弥島氏は、敢えて『シンフォニア』の続編を作れるように、わざわざシルヴァラントとテセアラの世界統合をしたのだろうか、とこちらが邪推してしまうぐらい、紛争のタネをばら撒きまくっているのが、この二次創作を書いて見えてしまいましたが。

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