『理想郷』を求めて   作:hobby32

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7話:パルマコスタ~強さと弱さ~

世界一の街パルマコスタに到着した一同は、海風を浴びながらさっそく封印の在処の手がかりを探そうとした。

しかし、小村イセリアから来たロイドたちは、大きなパルマコスタの街に目を丸くしていた。路面は石畳で整地されているし、大きな灯台もあれば、見たことがないほど巨大な船がいくつも停泊している。海岸沿いには市場も数多く軒を連ね、活気があることがうかがえた。……もっとも最近は海の魔物の凶暴化でそれほどでもないらしいが。

 

しかし、一行が街を歩いていると、コレットが曲がり角から歩いてきた女性とぶつかってしまい、双方ともに尻もちをついた。その際に女性の持っていたワインの瓶が、ガシャーンと割れてしまう。

 

「いたーい! あんた何すんのよ!」

転倒した女性はお尻をさすって立ち上がりながらコレットを睨みつける。

 

コレットは路面に腰かけたまま反射的に謝る。

「あ、ごめんなさい」

 

しかし女性と共にいたガラの悪い男が、コレットに因縁をつける。

「おい、ねーちゃん。こいつは大事なパルマコスタワインなんだぜ。どう落とし前をつけてくれるんだ?」

 

コレットが「ごめんなさい。すぐに別のワインを買ってきますね」と言うも、ガラの悪い男はますますいきり立つ。

「何だと? テメェそんなんで済むと思ってんのか? ああん!」

 

一応凄んでいるようだが、タバサはさほど怖くなかった。この男よりも数倍は巨大なグレイトドラゴンに睨みつけられた方が、何百倍も恐ろしかったからだ。

 

ロイドはコレットの前にやれやれと言った様子で進み出る。

「バカは因縁のつけ方も品がねぇなぁ」

 

するとガラの悪い男はますます声を荒げる。

「何だとテメェ! 俺たちを誰だと思ってるんだ!」

 

ロイドは鼻で笑って「知るか」と答えた。

ガラの悪い男はよりいっそう噛みつこうとするが、同行者の女がの1人が止める。

「待ちな。私たちはこの街から早く離れたいんだ。ワイン代の弁償だけで済ませましょうよ」

 

ここでタバサが口を挟む。

「いえ。わたしが見ていた限りでは、コレットさんもあなた方も普通に歩いていました。コレットさんが脇見をしていたとか走っていたならともかく、今回のこの一件は曲がり角でぶつかった際に生じた不幸な事故に過ぎないので、こちら側が弁償する必要はないと思いますけど……」

 

するとガラの悪い男がタバサに怒鳴りつける。

「何だとチビ! 俺たちに一銭も払わねぇっていうのか!」

 

タバサは全然怯むことなく、コクリと頷く。

「はい。そうです。わたしたちが払う道理がありません」

 

ガラの悪い男が「テメェ!」とタバサに掴みかかろうとすると、他の女たちが羽交い締めにして止めた。近くにいたロイドはとっさにタバサの前に庇うように出たが、ジーニアスは足がすくんで一歩も動けなかった。

 

「だからよしなって! 余計な騒ぎを起こすなって! 私たちはとっととハコネシア峠のガラクタ収集のジジイにアレを売らなきゃいけないんだから!……小娘。今回は身を引くけど、あんたは口の利き方を改めておくんだね!」

 

ガラの悪い男たちは逃げるように去って行こうとした。

 

しかし、タバサは「待ってください!」と大声を上げて呼び止めた。

 

すると、ガラの悪い男が足を止め、振り返って「何だよ!」とがなり声で叫ぶ。

 

タバサは赤く染まった地面を見てから、落ち着いた声で言う。

「ワインで路面が濡れてしまいましたので、掃除をしないといけません」

 

ワインを持っていた女は鬱陶しそうに叫ぶ。

「こっちはワイン代の弁償を諦めたんだから、掃除くらいそっちでやってよ!」

 

しかし、タバサは首を横に振る。

「いえ、わたしたちは別にワインは持っていませんでした。お手伝いはしますから、一緒に掃除をしましょう」

 

帽子をかぶった女が苛立ちながらも叫ぶ。

「あ~、もう、わかったよ! 掃除はこっちでやるから、あんたたち、目障りだからとっとと行きな!」

 

四人組は、シッシッと手を振る動作をした。よほどタバサたちと関わるのが嫌になったようだ。

 

タバサは少々驚きながらも、「ありがとうございます」と頭を下げてから、歩き出した。

 

水とブラシを持ってきておくれ、と女が男に指示する姿を、コレットは心配そうに振り返って見ながら、「これで良かったのかなぁ……」と納得いかない様子で呟いた。

 

ロイドは「いいんだよ、これで」と励ますように言う。

 

クラトスは相変わらず冷静な口調でタバサに訊ねる。

「タバサ。もし彼らが向かってきたらどうするつもりだったのだ?」

 

タバサは即答する。

「向こうはせいぜいナイフとか杖とかしか持っていませんでした。それに本当の強者なら、向こうより強い武器を持っているロイドさんやクラトスさんの姿を見ただけで退いたはずです。そういう戦力的な見極めすらできないなら、わたし1人でも対処できたと思います」

 

リフィルは呆れたようにため息をつく。

「あなたって賢いけど、無茶もためらわないのね。私なら、ワインの代金の半分を渡して解決したと思うけれど」

 

タバサは微笑む。

「もしもドラゴンを3体けしかけられるようなら、わたしだってそうしますよ。……さあ、封印の場所の手がかりを探しましょうか」

 

ロイドたちが歩き出すが、ジーニアスは一行のいちばん後ろを歩いていた。その視線はタバサのピンク色のマントに注がれている。

 

(タバサは運動能力も高くて剣だって凄いけど、でも……)

ジーニアスは、何だか悔しいやら情けないやらの思いを抱えながら、トボトボと歩いていた。

 

 

 

それから一行は、オサ山道を通り抜けてパルマコスタまで船旅をした疲れを取るため、宿屋に泊まることにした。

相変わらず男部屋と女部屋に分かれたのだが、男部屋に入るなり、ジーニアスは思わず「はぁ……」と深いため息をついた。

 

ロイドが耳敏くそれに気が付く。

「どうしたジーニアス。ため息なんかついて」

 

ジーニアスはビックリして、「え、いや、あの……」とまごついた後、「……なんでもないよ」と答えた。

 

しかしここでクラトスが訊ねる。

「どうしたのだ。悩みがあるのなら話してみるといい」

 

クラトスの言葉には、背中を押すような静かな圧力があった。その圧力に促されて、ジーニアスはちょっと逡巡した後に唇を開く。

「……同い年なのに、タバサは剣も魔法も凄くて、それだけじゃなくて、さっきのガラの悪い男にも全然怖がらなかった。ボクはかなり怖かったのに。それでなんだかもうボクは弱くて情けない気がして」

 

ロイドは納得顔となる。

「そうか。それで悩んでたのか」

 

ジーニアスがためらいがちに「う、うん」と小さく頷いた。

 

クラトスはジーニアスに目を向ける。

「確かにタバサは12歳にしては飛び抜けて優れている。かなり強いのは事実だろう。だが、オサ山道であの少女がすがりついた相手は誰だ?」

 

ジーニアスは、クラトスにこんなことを訊かれるとは思わなくて驚きながら答える。

「え、それは……ボクだけど……一応……」

 

クラトスは淡々と続ける。

「ならば、タバサはおまえに強さ以外の価値を見出しているということだ。単純な強さ以外の尺度でおまえを見ているということだろう」

 

「クラトスさん……」

 

クラトスは間髪を入れずに諭す、

「忘れるな。強ければ価値がある、弱ければ価値がない、そんな単純な二分法で人の社会は成り立ってなどいない。あの少女がおまえの何を評価しているかまではわからぬが、本当に何とも思っていないのであれば、とっくにおまえは見捨てられている。おまえはあの少女からの信頼を反故にしないようにせいぜい努めることだな」

 

ロイドは感心したように言う。

「へぇ……。あんた、ずいぶんとよく人を見てるんだな」

 

クラトスは微かに首を振る。

「いや、気が付いたことを言ったに過ぎん。過小評価も過大評価も足手まといになるから、事実を言ったまでだ」

 

新たな価値観を植え付けられて心が軽くなったジーニアスは、まごつきながらお礼を言う。

「その……ありがとう、クラトスさん」

 

クラトスは小さく頷いた後、ロイドに目を向ける。

「ロイド……。少しはましになったが、おまえはまだまだ剣の修行が足りん。日が暮れるまで少々時間がある。それまで私が稽古をつけてやろう」

 

今度はロイドがビックリする。

「ちぇ~、なんだよいきなり。もう……わかったよ」

 

ロイドは渋々と支度をして、クラトスと共に部屋を出た。

 

 

さてその間、女性陣はパルマコスタの街を散策していた。

夕暮れ近く、海風を吸いこみながらタバサたちは珍しそうに景色を見回してゆく。あの四人組がいた場所も通ってみたが、ワインの赤い染みは消えてすっかりきれいになっていた。

 

「広いですね。たくさんお店があって、観光にはもってこいの街です」

タバサは、元の世界で言う港町ポートセルミのことを思い出した。

 

「人の数もイセリアとは大違いだよ~」

とコレットはタバサに笑顔を向けながら言う。

 

「ディザイアンに対する態度もイセリアとは全然違うわね」

リフィルの言うとおり、街を歩けば「ドア総督がいる限りディザイアンには屈しないぞ」とか「俺たちには義勇兵がいるんだ」とか「牧場に連れて行かれた人間も、きっとドア様が助けてくれる」とか、そんな話がひっきりなしに耳に入ってくる。

 

先ほど入った雑貨屋でも、ショコラという娘が、母親が制止する中でドア総督の名前を引き合いに出してディザイアンの強引な値切りを毅然と拒否していた。

 

さて女性陣が街を散策しているのは、観光のためだけではない。パルマコスタの教会で封印に関する情報を求めるためでもあった。

 

その教会に入って、マーチ祭司長という人と出会い、導師スピリチュアによっておこなわれた世界再生伝説は、再生の書として全ての封印が記されているという。

リフィルは、「それがあれば今後の封印探しには困らないわね!」と興奮した。興奮の感情の源は古文書を読めるからだろう、とタバサは思ったが。

 

コレットは訊ねる。

「再生の書はどこにあるんですか?」

 

マーチ祭司長は答えた。

「現在はドア総督のもとにございます」

 

タバサは、教会に入る前に沈みそうになっていた太陽を思い出して言う。

「もう夕暮れですね。明日みんなでドア総督という人のもとを訪ねた方が良いと思います」

 

リフィルは、そうね、と残念そうに頷いた。

 

教会を出ようとしたところ、入り口付近でタバサたちは先ほど毅然とディザイアンに立ち向かっていたショコラに話しかけられた。

「あれ、皆さんはさっきうちの雑貨屋に買い物に来ていたお客さんですよね」

 

コレットが笑顔で、そうです、と頷く。

「あなたはショコラさんでしたっけ?」

 

ショコラも笑顔となる。

「はい! 覚えてくださって嬉しいです!」

 

リフィルは心配そうに訊ねる。

「でも、ディザイアンたち相手にあんな風に振る舞って大丈夫なのかしら?」

 

ショコラはきっぱりと言い切る。

「このあたりの東にマグニスが支配している牧場があるのですが、先月で規定殺害数を超えたんです。だから年が明けるまでは大丈夫です」

 

「規定殺害数」という言葉もおぞましいが、年が明けたらこの人も危ないじゃないか、とタバサは不安げな表情となる。

 

しかしショコラは、全く表情が曇ることはない。

「この間イセリアの人間牧場が壊滅したように、パルマコスタの人間牧場も近いうちに、ドア総督がアイツらを倒してぶっ壊してくれるわ。それに神子さまが世界再生の旅に出たという話も聞いたから、きっと大丈夫よ! 私はその間、マーテル様の教えに従った旅業を頑張るわ!」

 

コレットは胸を打たれたようで、「はい、頑張ってください!」と元気に返事をした。自分がその神子だという自覚のない言葉に、リフィルは呆れて溜め息をついた。

 

 

 

その夜。宿屋での食堂にて。

 

タバサは、コレットのお皿に載っている料理が全然減らないのに気が付いた。

「コレットさん、もうごちそうさまですか?」

 

コレットは困ったように笑う。

「え、あ、うん。……なんだか食が進まなくて」

 

ロイドは気遣わしげに言う。

「そういえば、封印を解放した後の宿の食事でもそうだったな」

 

ジーニアスが迷うように言う。

「普通ならちゃんと食べた方がいいんだけど……姉さんはどう思う?」

 

リフィルは首を振る。

「本当ならあなたの言うとおりなんだけど、今は食べたくないなら無理しない方がいいのかしらね? ……軽いモノなら食べられそう?」

 

コレットは、申し訳なさそうに言う。

「ごめんね、みんな。心配かけて」

 

ロイドは優しげに言う。

「だから謝んなって。おまえの好きなようにしとけばいいんだよ」

 

コレットは解放されたようなホッとした表情となる。

「ありがとう、ロイド、みんな」

 

結局、その後もコレットの少食はずっと続いた。

 

 

 

翌朝、十分日が高く昇ってから、ロイドたちは、ドア総督のいるという大きな建物の総督府へと向かった。

 

ロイドたちが観音開きの扉を開けて入ると、ドアは椅子から立ち上がり丁寧に挨拶する。

街で評判のドアという男は、金髪で優しげな風貌の少し痩せた男であった。

「ようこそ旅の方々! 我々はマーテル様の教えのもと旅人を歓迎します。旅する者にマーテル様の慈悲がありますように」

 

一行がドアのいる机に近づくと、リフィルが代表して問いかける。

「教会で伺ったのですが、こちらに再生の書というのがあるそうですね」

 

するとドアは目を丸くする。

「再生の書? 確かに我が一族の宝だったが……」

 

ジーニアスがドアの言い方に引っかかりを覚える。

「宝……『だった』?」

 

「ええ。昨日神子様御一行がいらっしゃって、再生の書を差し上げましたが……」

 

ロイドは激昂する。

「な、なんてことをしてくれたんだよ! 本物の再生の神子はこのコレットだよ!」

 

するとドアが訝しげな表情となる。

「何を言っているんだ。私たちは神子様御一行がこちらに向かわれたという情報を得たから、再生の書を渡したんだ」

 

ロイドは、まさか、と叫ぶ。

「おい、それって、赤髪のガラの悪そうな男と、青い服の女と、魔法使いみたいな三角帽をかぶった女と、もう1人小柄な男の4人組じゃなかったか?」

 

ドアは、そうだが、と頷いてから咎めの声を上げる。

「世界再生の旅の一行をされている神子様御一行の容姿を、そのように揶揄するのは失礼じゃないかね? それに貴様らは何者だ?」

 

クラトスがここで口を出す。

「神子よ。羽を広げてくれ」

 

コレットは、「え、あ、はい」と言って、背中からピンク色の透き通るような羽を出した。

 

それを目の当たりにしたドアたちが驚愕する。

 

側近の若い男が叫ぶ。

「こ、これは紛れもなく天使の翼! この方こそが本物の神子様だ! どうしますか、ドア総督?」

 

ドアは顔をしかめ、深々と頭を下げる。

「も、申し訳ございません、神子様。我々は神子様を騙る者に再生の書を渡してしまいました……」

 

タバサはため息一つついてから言う。

「まあ、過ぎたことを言っても始まりませんね。ハコネシア峠に行きましょう」

 

コレットは首をかしげる。

「どうしてハコネシア峠に?」

 

ジーニアスが説明する。

「昨日、あの四人組がそこの老人に売り捌くって言ってたからだよ」

 

コレットは、「あ、そっか」と言って納得する。

 

ロイドは腕を振ってみんなを促す。

「とにかく、早くアイツらに追いつこうぜ!」

 

ロイドたちは飛ぶように総督府を後にする。

 

 

 

 

それからパルマコスタを出て道中の魔物を蹴散らしながら、街道をだいぶ北上して、ロイドたちはハコネシア峠まで辿り着いた。

 

ハコネシア峠の関所にある唯一の家を訪れた。表札にコットンとある。家の外には壺やら年代物の食器やら骨董品が多数置かれていた。

 

コットンという老人は、やはり骨董品だらけの家の中に入ってきたロイドたちを見て、面倒くさそうに言う。

「なんじゃ。通行証なら、1人1億ガルドで発行するぞ」

 

ロイドは愕然とする。

「な、なんだよ、そのぼったくり価格は!」

 

するとコットンは怒鳴り出す。

「うるさいぞ小僧! わしゃあ、男が大っ嫌いなんじゃ!」

 

リフィルが眉間にしわを寄せる。

「これだと、マーテル教の旅業をする者まで足止めされてしまうじゃない」

 

すると、コットンはリフィルに対しては鼻の下を伸ばした。

「おお。おまえさんは美人じゃのう。旅業をしたいのなら、パルマコスタの旅行代理店でアスカード遺跡ツアーにでも参加しなさい」

 

ジーニアスは拳を握って憤る。

「さては、代理店と結託して儲けてるな!」

 

するとコットンはすぐさま怒鳴りつける。

「黙れ! 金のない奴はさっさと帰れ!」

 

ここでコレットが台に乗せられている大きな教典に気が付く。

「これは再生の書?」

 

するとコットンはころりと態度を変える。

「おお、清純派のお嬢ちゃん。見る目があるのぉ。これはマナの神子様から買わせていただいたものじゃ。ずっと手に入れたかったんじゃが、ドア様が手放すはずかないと思って諦めとったんじゃ。まさか神子様が譲ってくださるとは思わなんだ」

 

タバサはコレットに言う。

「コレットさん、羽をお願いします」

 

コレットは「あ、うん」と言って、また背中から天使の羽を広げた。

 

その羽を見たコットンは、目玉が飛び出そうなほど驚愕する。

「それは天使の羽……まさか、本物の神子様は!?」

 

ロイドは頼みこむ。

「そうだよ、じいさん。その再生の書を譲ってくれよ。いや、見せてくれるだけでもいいんだ!」

 

リフィルは脅すように言う。

「あなたが世界再生を望まないなら、話は別ですけどね」

 

コットンは急に顔色を変えてコクコクと頷く。

「わ、わかった。見せる、いや、渡すから! 通行証も無料で発行するから、先ほどまでの無礼な振る舞いを許してくれ~!」

 

こうしてロイドたちは、コットンが家の奥で通行証を発行している間に再生の書を読むこととなった。

 

コレットは、封印に関する部分のみ読み上げていく。ところどころ読めない箇所は読み飛ばす。

「荒れ狂う炎。砂塵の奥の古都にて街を見下ろし、闇を照らす。

清き水の流れ。孤島の大地に揺られ、溢れ、巨大な柱となりて空に降り注ぐ。

気高き風。古き都、世界の……巨大な石の中心に祀られ邪を封じ聖となす。

煌めく……神の峰を見上げ世界の柱を讃え……古き神々の塔の上から二つの偉大なる……あとは壊れてしまっていて読めません」

 

ジーニアスが困った表情となる。

「これだと封印の正確な数がわからないね」

 

タバサが「そうね」と頷く。

 

ロイドは言う。

「最初の荒れ狂う炎については火の封印のことだろ。後はなんだ?」

 

クラトスが言う。

「清き水の流れ。孤島の大地に揺られ、溢れ、巨大な柱となりてーーこれはソダ間欠泉に水の封印があることを指しているのだろう」

 

リフィルは続ける。「遺跡モード」で。

「風の封印はアスカード遺跡のことだろう。アスカードに行かなければな」

 

コレットが言う。

「神の峰のくだりは、たぶんマナの守護塔のことだと思う。あそこからは救いの塔の周りの山が見えるから」

 

ロイドが何度か頷く。

「まあまだ封印の場所があるかもしれないけど、ひとまず行くべき所はわかったな。残りがあるかはレミエルって天使に聞けば大丈夫だろ」

 

ここでコットンが奥から人数分の通行証を持ってやって来る。

「これでお許しを……。神子様の世界再生の旅の成功を祈っておりますぞ」

 

コレットは「ありがとうございます」と朗らかな笑顔と共に通行証を受け取った。

 

 

 

それからロイドたちがコットンの家を出ると、リュックを背負った旅人たちが深刻な面持ちで話している姿を見つけた。

 

「ん、なんだ?」

ロイドが旅人たちに近づく。

 

旅人たちは不安でたまらないといった表情で、ロイドたちに告げる。

「君たちもしばらくはここにいたほうがいい。今のパルマコスタには絶対に近づいちゃダメだ」

「ディザイアンたちがパルマコスタに向かったって」

 

ロイドは憤りを露わにする。

「なんだって!」

 

「しかも、人間牧場の主、マグニスまで一緒だったらしい。君たちもほとぼりが冷めるまではここにいた方がいいよ」

 

旅人たちの会話は、タバサたちの耳にも届いていた。

 

タバサは真剣な表情で皆に問いかける。

「『ルーラ』でパルマコスタまで行きますか?」

 

ロイドは大声で叫ぶ。

「ああ、当然だろ! ディザイアンがパルマコスタの人たちを襲うに決まってるんだから!」

 

コレットも追随する。

「私も! 困っている人たちを見捨てて世界再生なんてできません!」

 

リフィルは、「落ち着いて」と呼びかける。

「確かにパルマコスタはイセリアと違って不可侵契約を結んでいません。だけど私たちが戦ったら、ディザイアンが報復としてパルマコスタを完全に滅ぼすかもしれない。イセリアの人間牧場を潰した時のように、うまくはいかないかもしれないのよ」

 

ジーニアスが言う。

「でも姉さん。ディザイアンたちはもうパルマコスタに行っちゃったんだよ。ボクたちが行けば被害を減らせるかもしれないじゃない」

 

リフィルは、気が昂ぶり過ぎている子どもたちから目を逸らしてクラトスに目を向ける。

 

クラトスは相変わらず冷静に言った。

「……各地の封印解放をすれば、確かにディザイアンたちは封じられる。しかし神子たちが、今現在ディザイアンによって危難に直面している人たちを見過ごせるとは思えぬ。私は神子の判断を尊重する」

 

リフィルはため息をついた。

「仕方ないわね。仮に止めたところで、この子たちは封印解放に集中できないと思うし。……行きましょう、パルマコスタへ。タバサ、『ルーラ』を」

 

「はい!」

一行は『ルーラ』で浮上して、パルマコスタへと急行した。

 

 

 

パルマコスタの総督府前の広場では、絞首台が据え置かれていて、台の上にいる一人の女性の首と手首にロープが巻き付いていた。女性はあまりの恐怖のために、もはや震えることしかできなかった。

 

そこに赤髪に筋骨隆々とした男がやって来る。その強面だけで人を威圧できており、いかにもカタギの道は完全に捨てたという感じの男であった。

 

ディザイアンの一人が大声で呼びかける。

「控えよ! マグニスさまのお出ましだ!」

 

処刑台の近くにいた男が思わず声を上げる。

「東の牧場のマグニスだ……」

 

すると間髪を入れずにマグニスが近づいて、その男の首をつかんで持ち上げる。

「マグニスさまだ! 豚が……」

 

広場にコキっと嫌な音がしたあと、マグニスはその男を放り投げた。

 

ディザイアンたちが朗々と罪状を読み上げる。

「この女は偉大なるマグニスさまに逆らい、我々への資材の提供を断った」

「よって、規定殺害数は超えるものの、この女を処刑することにする」

 

ロイドは、義勇兵たちがいるはずのパルマコスタで誰も止める者がいないことに違和感を覚える。

「おい、どうしてこの街の兵士が誰もいないんだ!」

 

ロイドの叫びを聞いたパルマコスタの街の男が答える。

「それが、演習でみんな出払っているんだよ」

 

タバサは驚愕する。

「誰も街の守備兵として残らなかったんですか!?」

 

その男は首肯する。

タバサは、こんなのグランバニアじゃあり得ない、民を守るための兵士だろうに、と。

まあ民を放ったらかしにして、(結果的に)魔王打倒の旅に出た自分たち王族のことは棚に上げているとも言えるが。

 

それはともかく、昨日出会ったショコラが処刑台に走って近づいていく。

「母さん!!」

 

処刑台の近くにいるディザイアンが声を荒げる。

「おまえ、何をしている!」

「おまえもマグニス様に逆らうつもりか?」

 

ショコラは相変わらず毅然と叫ぶ。

「ドア総督がいる限り、あんたたちなんかに負けない!」

 

するとマグニスは途端に大笑いする。

「ドアか……ガハハハハ!! 無駄な望みは捨てるんだなぁっ!! ……ああっ!?」

 

その時、マグニスの厳つい顔に小石が直撃した。

それは処刑台の周りにいた群衆の一人の子どもが投げたものであった。

 

大したダメージはなかったが、マグニスの怒りは一瞬で頂点に達した。

「この、汚らわしい豚がぁっ!」

 

マグニスは逃げる子どもを追いかけようとする。

 

しかしそこに、

「魔神剣!」

ロイドの剣圧が地を這ってマグニスを襲った。

 

「ぐおっ!」

攻撃を受けたマグニスがロイドの方を振り向く。そこには、武器を構えた一行が集結していた。

 

マグニスは、ロイドたちの姿を見て大きく目を見開く。

「まさか貴様ら、イセリアの人間牧場を壊滅させた奴らか!?」

 

ロイドは怪訝に思う。

「……何で知ってるんだ?」

 

マグニスは即座に言う。

「処刑は中止だ! フォシテスを殺った奴らがいては分が悪い。ここはいったん退くぞ!」

 

するとマグニスの近くにいた杖を構えていた男が転送魔法を唱えて、周囲のディザイアンもろとも姿を消した。

 

「終わった……のか?」

ロイドは呆けたような声を上げる。まさかこれしきでディザイアンたちが退くとは思わなかったのだ。

 

それからロイドたちは、「マグニスを追い払ったぞ!」とか「大した御一行だ!」とか無数の「ありがとう」という言葉に包みこまれた。

 

 

その後ロイドたちは、ショコラとその母親の処刑されかけたカカオの経営する雑貨屋に招かれた。

 

店内でカカオとショコラが同時に頭を下げる。

「皆さん、本当にありがとうございました!」

 

ロイドはどことなく決まりが悪そうに言う。

「いや、俺たちもあの程度でアイツらが退くとは思わなかったし」

 

ショコラは笑顔で首を振る。

「いえ、本当に感謝しています。お母さんまで殺されていたら、私、どうしたらいいのかわからなかったから……」

 

ジーニアスは聞き逃さなかった。

「お母さん『まで』って……」

 

母親のカカオが悲しげに説明する。

「主人はドア総督の義勇兵に参加して、ディザイアンと戦って戦死しました。私の母も牧場に連れて行かれて……」

 

ショコラが付け加える。

「うちの雑貨屋は元々おばあちゃんが始めたの。だから、おばあちゃんが帰ってきた時のためにも、この店を守らなきゃって」

 

ここでジーニアスが訊ねてみる。

「もしかして、そのおばあちゃんって、マーブルさんのこと?」

 

すると、カカオもショコラも驚愕の表情となる。

「そうだけど、どうして知っているの?」

 

タバサは微笑みながら説明する。

「ジーニアスがイセリアの人間牧場で、ずっとパンをマーブルさんに差し入れていたんです。イセリアの人間牧場が壊滅した時に解放されて、マーブルさんは体力が回復したら、パルマコスタの雑貨屋に戻ってくるって」

 

すると、カカオとショコラは満面の笑みを咲かせた。

 

ショコラは思わずジーニアスの手を握る。

「嬉しい!! おばあちゃんを助けてくれて本当にありがとう!! それに今日はお母さんまで助けてくれるなんて!! これはとんでもない救世主だわ!!」

 

ジーニアスはこんな風に人に感謝されたことがほとんどないから赤面しながら、首を振る。

「い、いや、マーブルさんを助けていたのはタバサも同じだし、今日だってロイドのおかげだし」

 

ロイドは、そんなジーニアスの銀髪をぐしゃぐしゃと撫でる。ジーニアスの長い髪全体が波打つぐらいの勢いがあった。

「いいじゃねぇか。おまえがきっかけなのは事実なんだし。ここは素直に受け取っておけよ」

 

「ろ、ロイド! やめてっ!」

しかしここでジーニアスは、ショコラの手をとっさに振り払い、ロイドが強く頭を撫でる行為から慌てて飛び退いた。

ジーニアスの耳はもともと長い銀髪で隠されていて見えないが、それでもジーニアスは両耳を隠すように両手で覆う。

 

ジーニアスの過敏な反応に、リフィルとクラトス以外は不思議そうな表情となる。

 

タバサはキョトンとした顔で訊ねる。

「どうしたの、ジーニアス?」

 

するとリフィルが慌てて取り繕う。

「ごめんなさい。この子、頭を撫でられることに慣れてなくて。ロイド、お願いだから、あんまりこの子の頭を撫でないでちょうだい」

 

「あ、ああ。ごめんな、ジーニアス」

腑に落ちないロイドであったが、とりあえず親友に謝った。

 

ジーニアスは、小さく首を振る。

「いや、こっちこそごめん……。うん、大丈夫だから」

「大丈夫」と言うジーニアスの表情には、タバサがこれまでに見たことがないほど怯えの色が張り付いている。

 

旅立ちの前夜にマーブルさんに頭を優しく撫でられた時には、ジーニアスはこんな過敏な反応を見せなかったのに、とタバサはかなり不思議がった。

 

しかし、ここでショコラが奇妙になった空気を振り払うように、快活に言った。

「さて、私はそろそろ仕事に出かけるわ。勤めている旅行代理店のアスカード旅業がそろそろ出発する時間なの」

 

ロイドが感心して言う。

「あんなことがあったのに、立派なもんだな」

 

ショコラは笑顔で首を振る。

「ううん! おばあちゃんが解放されてそのうち帰ってくることもわかったし、それまでの間、働いてこの店を守らないといけないし、むしろ元気が出たくらいだわ」

 

ショコラはそう言って、ロイドたちにもう一度頭を下げてから店を出て行った。

 

タバサはジーニアスの顔色がだんだん良くなっていくのを見て、ひとまずホッとした。

 

 

 




原作との相違点の解説(全てではないですが)

・ニセ神子一行にワイン代を弁償しないうえに、割れたワインで濡れた路面を掃除させる→原作でも、ただ道を歩いていただけのコレットに、ワイン瓶を割るという故意も過失も無いし、ワインを持っていたのはニセ神子たちなので、日本の法律上は完全に正しいです。ただし、リフィルの割れたワイン代を折半して支払う案も、タバサの路面の掃除を手伝うという提案も現実的な解決策ではあります。
原作のワイン代全額を支払うというのは、ロイドたちが過度の弁償をしているので、さすがに改変しました。

・コットン相手にコレットの天使の羽を見せて、再生の書を読みたいならスピリチュア像を持って来いの要求を回避して、ついでに通行証もタダで発行させる。→スピリチュア像を持ってくるおつかいをこの二次創作で書く意味がなかったので、さっさと済ませました。通行証にしても然りです。
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