『理想郷』を求めて   作:hobby32

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9話:夜のパルマコスタと水の封印~安らぎと憂い~

パルマコスタの人間牧場を脱出した一行は、正門付近で律儀に待ってくれていたニールと合流した後、収容者はパルマコスタの軍隊が保護していると聞いてから、『ルーラ』で彼と共にパルマコスタに移動した。

 

ニールに収容者に埋め込まれていたエクスフィアについては、イセリアにいるダイクにロイドの名前を添えて手紙で相談してほしい、と言って、了承の旨を受け取った。そのあと、ロイドたちは例の雑貨屋に向かい、タバサが眠らせたショコラを母親のカカオに預けて宿屋へと戻った。

 

宿屋に着いた頃には、既に夜も更けていた。

 

男部屋と女部屋の二部屋を取ってから、男部屋に集まったロイドたちは、凄まじく意気消沈しているジーニアスとリフィルに目を向けた。

 

ロイドがまず口火を切る。

「大丈夫か、2人とも?」

 

ジーニアスは伏し目がちに消え入りそうな声で呟く。

「ロイド……。ボクたちはハーフエルフなんだよ……」

 

ロイドはあっけらかんと笑いながら言う。

「それがどうしたんだよ?」

 

ジーニアスは恐る恐る目を上げる。

「いいの? ボクたちは……」

 

ロイドは励ますように言う。

「人間にも良い奴もいれば悪い奴もいる。それはハーフエルフだって同じだろ。ディザイアンの大半がハーフエルフって言ったって、ジーニアスが俺の親友なのは変わりないし、先生が俺の先生なのは変わりない。そうだろ?」

 

ここで、ジーニアスとリフィルは安堵の表情となる。

 

コレットも笑顔で言う。

「私も全然気にしないよ。私だって神子っていう普通の人間じゃないし、それでも気にせずに接してくれるジーニアスやリフィル先生のことが好きだもん」

 

リフィルが「まったくもう」と困った笑顔になる。

「あなたたちは本当にお人好しなんだから」

 

タバサもニッコリと優しい笑顔を向ける。

「わたしもです。ジーニアスが勇気を持ってマーブルさんにパン持っていた思い出も、リフィル先生がいつも厳しくも優しくわたしたちを教え導いてくれた思い出も、ハーフエルフであるというだけで無くなることはありません」

 

クラトスは冷静に言う。

「私も種族の差で差別するような言動は取らぬ。ただ先ほどのように、旅を続けているとハーフエルフ蔑視の言葉を直接的にせよ間接的にせよ見聞する可能性は高い。その点は大丈夫か?」

 

ジーニアスは答える。

「ボクは……みんなが受け入れてくれるなら問題ないよ。傷ついても受け入れてくれる人がいるなら、ボクはみんなに付いていきたい」

 

リフィルも続く。

「私は……行き場を求めてジーニアスと一緒にシルヴァラント中をエルフと偽って放浪してきたから、覚悟はできているわ」

 

クラトスは「ならば良かろう」と頷いた。

 

これでみんな一息つけたかな、とタバサが思っていると、ジーニアスがタバサに怒るようにこんなことを言ってきた。

「タバサ。さっきの戦いでどうして防御技を使わずに『ファイアボール』をそのまま受けようとしたの?」

 

タバサは不意を突かれてキョトンとする。

「え? だって知らなかったから……」

 

ジーニアスが頬を膨らませる。

「もう。せっかく魔法を使えるんだから、それくらい覚えてなきゃダメだよ。ほら、外に来て! ボクがちゃんと教えてあげるから!」

 

タバサは「う、うん……」とジーニアスの手招きにどもりながらも応じて外に出る。

 

 

 

人けのほとんどない夜の港にて、灯台の回転する明かりが目に入るところでタバサはジーニアスから、魔法の防御技を教わっていた。

 

「『フォースフィールド』! ……あ、できるようになった。えへへ」

タバサは、緑色の魔法の壁が自分の周囲に展開されていることに満足して笑顔を咲かせた。

 

ジーニアスは呆れた目で腕を組む。

「まったくもう。タバサは時おり変なところで抜けてるんだから」

 

タバサは喜びながらも謝る。

「そうだね。ごめんね」

 

ジーニアスは「ふん」とそっぽを向いて、港にあったベンチに行って腰を下ろす。タバサもそれに倣って座った。

 

ジーニアスは、か細い声でつぶやく。

「……とうとうバレちゃったね、ボクの正体」

 

タバサは「そうだね」と静かに頷く。

「ひょっとして、ジーニアスや先生が髪を伸ばしているのは、丸い耳を隠すため?」

 

ジーニアスは、「そうさ」と暗い顔で頷く。

「エルフの耳は尖っているからね。エルフの血を継いでいるのに耳が丸いのは、ハーフエルフのあかしなんだよ」

 

タバサは、ふと気が付く。

「ディザイアンの構成員はほとんどハーフエルフなんだよね。だったら、ディザイアンは人間に差別されて復讐したいと思ったから、人間牧場なんてつくっているのかな?」

 

ジーニアスは、「そうかもね」と前置きした後、

「でも、アイツらがやっていることは度が過ぎている。ボクだって、その……人間が嫌いだって思わないでもないけれど、だからって、あんな真似は絶対にできないよ」

 

タバサは、ジーニアスの憤りに心の底から安堵しながらも静かな声で言う。

「ひょっとしたら、嫌々ディザイアンになっているハーフエルフもいるかもしれないね。人間にハーフエルフだって名乗っても迫害される。だから行き場が無くなってディザイアンになるーーそういうハーフエルフだっているのかも」

 

ジーニアスは、そうだとしても、と怒りを隠さない。

「人間牧場なんてつくって人間を虐げることなんかしたら、普通のハーフエルフは余計に居場所を無くしちゃうよ。アイツらのやっていることに意味なんてないんだ。ボクと姉さんはアイツらとは違う。アイツらみたいにはならないし、なれない」

 

タバサは、他の人が怒っている姿を見て、こんなにも喜ばしいと思えたのはこれが初めてであった。

 

そこでジーニアスに微笑みながら、訊ねてみる。

「ねぇ、ジーニアス。頭を撫でていい?」

 

するとジーニアスは、驚愕の眼差しをタバサに向ける。タバサのニコニコしている顔を見て、本気なんだと悟り、顔を赤らめる。

「タバサって、ほんとに変わってるよね。……さっきボク、“薄汚い”って言われたばっかりだよ」

 

「わたしは、ドラゴンの頭でも悪魔の頭でも撫でられるもん」

このタバサの言葉は、さすがに冗談としかジーニアスには受け取れなかった。後に冗談ではないとわかるのだが。

 

ジーニアスが全然動かないので、タバサはいつもはめている手袋をとって、素手で彼の頭を笑顔のまま撫でた。ジーニアスの銀髪が大きく揺れて、時おり耳を隠している揉み上げの部分から、人間と同じ丸い耳が見えた。

 

撫でられたジーニアスは、次第にうっとりとした表情となる。

「……気持ちいい。女の子から頭を撫でられるのは、これが初めて……」

 

「わたしで良ければいつでも何度でも撫でるよ!」

タバサは本当に嬉しそうに言った。

 

 

 

翌日、ソダ間欠泉に行くためにロイドたちはソダ島遊覧船乗り場へと向かった。

ジーニアスとリフィルはすっかり元気になり、まるで憑きものが取れたかのようにロイドたちとこれまで以上に話していた。

そんな風にソダ島遊覧船乗り場に着くまでは和気あいあいとしていたのであるがーー

 

受付でお金を払ったあと、案内された場所にあった「遊覧船」とは、

「たらいだな……」

と、係留されている「船」を見てロイドは呟いた。

 

ロイドのつぶやきに、リフィルは慌てふためていて叫ぶ。

「わ、私はここで待ってます。さあ、行きなさい!」

 

ロイドは不思議そうな顔をする。

「何言ってんだよ、先生。ここまで来て」

 

コレットもはしゃいだ声で言う。

「面白そうですよ。早く乗りましょう!」

 

ジーニアスは、少しためらいがちながらも思い切って言う。

「じゃあ、ボク……タバサと一緒に乗ってもいい、姉さん?」

 

タバサは、ジーニアスの言葉に顔を赤らめながらも、思わず口角が上がった。

この小さなたらいなら、ジーニアスと合法的に2人きりになれるーーと思ったのだが、

 

「だ、ダメです。万が一に備えて、タバサ、あなたは私と……じゃなかった……私は行きませんからね!」

 

ロイドはここで察する。

「先生。まさか、水が怖い、とか?」

 

リフィルは慌てて叫ぶ。

「そんなわけありません! さあ、タバサ、私と一緒に乗りなさい! 万が一転覆したら、可及的速やかに『ルーラ』を唱えること! いいですね!?」

 

「は、はい!」

リフィルの剣幕に押されて、タバサはリフィルと乗ることになった。ジーニアスの方を向くと、彼は謝るかのように両手を合わせて頭を小さく下げた。

 

たらいは3隻(?)あったので、ロイドとコレット、クラトスとジーニアス、タバサとリフィルの組み合わせで乗ることとなった。

リフィルがたらいの真ん中から頑として動こうとしないので、タバサが櫂を漕ぐことになったのだが、エクスフィアを装備しているとはいえ12歳の少女が2人も乗っている櫂を動かすのは大変で、男が乗っているたらいとどんどん距離が離されていった。

 

そんなわけで最下位でタバサとリフィルは辿り着いたのだが、着いた頃には2人ともグッタリとしていた。

 

タバサはジーニアスから「タバサ、大丈夫? お疲れさま」とたらいから上陸する時に手を差し伸べられて、歓喜とともに手を握れたので疲れが吹っ飛んだが、リフィルの場合はロイドから手を引っ張られてもちっとも元気にはならなかった。

 

リフィルは縋るようにタバサに懇願する。

「タバサ……帰りは『ルーラ』を頼むぞ」

 

なんか口調が変わっている気がしたが、タバサは気にせず首を振る。

「ダメです、先生。たらいをちゃんと返さないと」

 

リフィルはこれ以上なく忌々しい目つきでたらいを睨みつけた。

「くっ……このたらいが無ければ……!」

 

一応、『ルーラ』でリフィルを先に遊覧船乗り場まで送って、タバサが1人でたらいを漕ぐという案もあったが、それはさすがにリフィルも教師としての沽券に関わるから言えなかった。

 

 

 

それから間欠泉が噴き上げている所が見られる場所の奥の方で、ロイドたちは火の封印のあった旧トリエット跡と同じ、神子の手形をかざすための神託の石版を見つけた。

 

コレットがそこに手をはめ込むと、宙に浮かぶ透き通るような足場が上に伸びた。足場の先には洞窟のようなものが見える。

 

タバサは、噴き上げる間欠泉よりもはるかに高いところにあるなあ、と不安げな顔をした。

するとその手がすぐさま握られる。ジーニアスの手であった。

 

ジーニアスは照れながらも言う。

「ほ、ほら、高いところ苦手なんでしょ。ボクが手を繋ぐから」

 

タバサは即座に顔を赤らめながらも笑顔を咲かせる。

「うん! ありがとう!」

 

タバサは、ジーニアスの方から積極的に手を繫いでくれた嬉しさで胸がいっぱいとなった。

 

その様子を姉としてのリフィルが見守る。

(……本当に珍しく良い相手を見つけられたことね、ジーニアス)

 

ハーフエルフを差別しない人間だけでも貴重なのに、こんなに色んな意味で可愛い女の子と出会えるのは奇跡に近いと思った。

でもジーニアスがハーフエルフである以上、2人の人生は辛く険しいものになることは容易に察しがついてしまい、リフィルはやはり憂いた。

 

水の封印のある場所は、高くて薄暗くてじめじめしていたため、タバサは苦手であった。なので戦闘時以外は、ジーニアスと手を繫いだままでいちゃおう、と口元を綻ばせながら思った。

 

出現する魔物はヒトデとか、巨大なタツノオトシゴみたいなフロートドラゴンとか、人の2倍はあるタコのオクトスライミーなどの水棲系の魔物ばかりであった。ジーニアスの『サンダーブレード』が特に有効で、次々に敵を蹴散らしていった。タバサは、そのジーニアスの姿に、同じく雷系の魔法を得意とする兄を彷彿とさせられた。

 

封印の仕掛けは、上の階と下の階の壺に水を入れると足場が上がるという仕組みであった。ソーサラーリングの機能を変化させて、水鉄砲が出るようにしてから一行は対応した。

 

最深部で待ち受けている封印を守護する魔物ノーディスは、宙に浮かぶ人魚のような姿であった。タバサは後衛に近づかれるまでは吹き飛ばす力の弱い『イオ』を用いて、前衛のロイドやクラトスの邪魔をしないようにした。ここでもジーニアスの『サンダーブレード』が有効で、相手は露骨にのけぞるものだから、主たる攻撃として任せきっても良かった。

今回タバサはあまり手を出すことなく、ノーディスという魔物を倒しきった。……まあ異世界人の自分がいない方が普通なのだとも思ったが。

 

封印を守護する魔物を倒したら、例によってどこからともなくレミエルの声が響いてきた。

「再生の神子よ。よくぞここまで辿り着いた。さあ祭壇に祈りを捧げよ」

 

コレットが前に進み出て、祈りを捧げる。

タバサとしては、今回コレットさんはあんまり魔物にダメージを与えていなかったのだけれど、それは封印解放にとってどうでもいいことなのだろうか、と思った。

一応、仲間を集めるのも実力のうち、という解釈は可能だが。

 

そんなことを考えている間に、眩しい光と共にレミエルが降臨する。

「よくぞ第二の封印を解放した。神子コレットよ」

 

コレットは好意的に返事をする。

「はい、お父さま」

 

すると、そう言われたレミエルの眼差しは、不快なものでも見るかのようなものとなった。

しかしそれも一瞬のこと。すぐさまレミエルは言った。

「クルシスからの祝福だ。そなたにさらなる天使の力を授けよう」

 

レミエルから発せられた色とりどりの光が、コレットの体に浸透する。

 

レミエルは抑揚無く告げる。

「次の封印はここよりはるか北。終焉を望む場所。彼の地の祭壇で祈りを捧げよ」

 

コレットはおそるおそる訊ねる。

「お父さま。私、何か御不興を買うようなことをしましたか?」

 

この質問からして、先ほどのレミエルの不愉快そうな眼差しにコレットも気が付いたようだ。

 

レミエルは優しげな笑顔のまま続ける。

「別に良い。そなたが天使になれば良いだけのことだ。また次の封印で待っている。我が娘コレットよ。早く真の天使となるのだ。よいな」

 

レミエルは飛んで浮上し、そのまま消え去っていく。

 

タバサはレミエルに初めて不快感を抱いた。先ほどの蔑むような眼差しもそうだが、コレットに「とっとと天使になれ」と言わんばかりの言い草が気に食わなかった。

 

しかしながら、以前に聞いたとおり、各地の封印を解く度に世界を護る精霊が復活し、マナが復活して、ディザイアンを封じることができるーーディザイアンの人間牧場での悪行を目の当たりにすれば、確かに放置してよい事柄ではない。

 

しかしまあ、証拠は一切ないのだが、何か違和感、不愉快さを拭えないものであった。

 

 

 

それからタバサが『リレミト』を唱えて洞窟から脱出し、嫌がるリフィルを強引にたらいに乗せてから海を渡っている最中ーー

 

突然ロイドとコレットの乗っているたらいが大きく揺れた。

 

ロイドが叫び声を上げる。

「先生! またコレットが倒れちまった!」

 

リフィルは水への恐怖を忘れて叫び返す。

「ロイド! とにかく今は無事に帰り着くことだけに集中しなさい! 戻ったらタバサの『ルーラ』でパルマコスタの宿に向かいますから!」

 

ロイドは、「わかった!」と返事をする。

 

それから座り直すリフィルに、タバサは不安げな表情を向ける。

「封印を解放する度にこうなるんですか? だとすると、コレットさんがすごくかわいそうです」

 

リフィルも険しい顔で頷く。

「ええ、そうね。さしずめ天使疾患……とでも言うのかしら」

 

そんな症状があるのか、とタバサは怪訝に思った。元の世界の天空人たちはそんな病気に苦しんでいる様子はなかったというのに。

 

しかし今は、コレットの様態が心配である。

 

タバサは、自分に力増幅呪文の『バイキルト』をかけて、櫂を漕ぐ強さを速めた。

 

 

その後、ソダ島遊覧船乗り場に到着した一行は、クラトス以外口々にグッタリしているコレットを気遣う言葉をかけた後(コレットの顔色は酷かったが、しかし何とか笑顔を取り繕っていた)すぐさま『ルーラ』でパルマコスタの宿屋まで戻った。

 

コレットがすぐにベッドで体を休めたのは良かったが、夕食の時間になっても相変わらず全然食が進まない。コレットは申し訳なさそうに「ごめんね、ごめんね」と謝るばかりで、逆にロイドたちは心配になってしまう。

 

さらに夜中になっても、コレットはいっこうに寝付こうとしなかった。同じ部屋のタバサもリフィルも「早めに寝た方がいい」くらいのことを言うと、ベッドには入るのだが、2人が寝静まると、またベッドから出て部屋の窓から星を眺めるのだ。

 

そうして朝日が昇るまで、ずっとずっとコレットは、窓の外を見つめていた。

 

 




・永久に誰も考察しなさそうな事柄について敢えて考察

コレットはおそるおそる訊ねる。
「お父さま。私、何か御不興を買うようなことをしましたか?」
→おそらくはコレットたちがパルマコスタ人間牧場を破壊したことに、レミエルは立腹しているものと思われます。
なぜ天使レミエルがそれに対して怒るのかは、原作をプレイされた方はわかるでしょうし、未プレイでもこの二次創作が進んでいくとおのずと判明しますので安心してください。
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