ブラック企業で過労死した俺、今世はイリヤに転生しました。なお魔法少女業務は聞いてません。   作:健全な中に隠れた性癖

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第9話 アーチャーカード、嫌な予感しかしない

 

 

 朝。

 

 目覚まし時計の音で目を開けた瞬間、私は天井を見つめたまま固まっていた。

 

 眠れた。

 

 たぶん、眠れた。

 

 けれど、すっきりはしていない。

 

 夢の中に、まだ炎の匂いが残っていた。

 

 燃える街。

 

 黒い泥。

 

 青い騎士。

 

 そして、最後に聞いた言葉。

 

 アーチャー。

 

 その名前を思い出すたびに、なぜかお兄ちゃんの顔が浮かんだ。

 

 衛宮士郎。

 

 私のお兄ちゃん。

 

 朝ごはんを作ってくれる。

 

 弁当を確認してくれる。

 

 困ったら言えよと、当たり前のように言ってくれる。

 

 優しい。

 

 優しすぎる。

 

 だから、たまに怖い。

 

「……嫌な予感しかしない」

 

 布団の中で呟く。

 

 すると、枕元の下から明るい声がした。

 

「おはようございます、イリヤさん! 今日も素敵な魔法少女日和ですね!」

 

「朝から不穏な単語を混ぜないで」

 

 私は枕を持ち上げる。

 

 そこには当然のようにマジカルルビーがいた。

 

 もう驚かない。

 

 慣れたわけではない。

 

 驚く気力が節約されるようになっただけである。

 

「今日はできれば魔法少女業務は休業したいんだけど」

 

「残念ながらカード反応は待ってくれません!」

 

「ブラック企業の納期みたいなこと言わないで」

 

「カードは労働環境を考慮しませんからねぇ」

 

「だからブラックなんだよ」

 

 私はため息をつきながら起き上がった。

 

 体の疲れは、ライダー戦の翌日ほどではない。

 

 でも心が重い。

 

 アーチャー。

 

 弓兵。

 

 赤い外套。

 

 双剣。

 

 正義の味方。

 

 その断片が、頭の奥でざらざらと擦れている。

 

 知っている気がする。

 

 でも、思い出したくない。

 

 そんな感覚だった。

 

 着替えて階段を降りると、台所からいつもの匂いがした。

 

 味噌汁。

 

 焼き魚。

 

 卵焼き。

 

 いつもの朝ごはん。

 

 いつもの衛宮家。

 

「おはよう、イリヤ」

 

 お兄ちゃんが振り返った。

 

 エプロン姿で、片手に菜箸を持っている。

 

 その姿を見て、少しだけ安心する。

 

 お兄ちゃんは、いつも通りだった。

 

 朝ごはんを作って、私の弁当を確認して、セラに小言を言われて、笑っている。

 

 いつも通り。

 

 だからこそ、妙に怖かった。

 

 アーチャー。

 

 その名前を聞いた時、どうして私はお兄ちゃんを思い浮かべたのだろう。

 

「イリヤ?」

 

「え?」

 

「ぼーっとしてるけど、大丈夫か?」

 

 出た。

 

 大丈夫。

 

 私の中で要観察ワードになっている言葉。

 

 でも今日は、いつものようにすぐツッコめなかった。

 

「……うん。大丈夫じゃない寄りの大丈夫」

 

「どっちなんだ、それ」

 

「私にも分からない」

 

 お兄ちゃんは少し困ったように笑った。

 

 それから、まな板の上の野菜を切ろうとして――。

 

「あ」

 

 小さな声。

 

 包丁が少し滑った。

 

 お兄ちゃんの指先に、赤い線が走る。

 

「お兄ちゃん、指」

 

「ん? ああ、このくらい大丈夫だ」

 

「出た」

 

「え?」

 

 私は即座に椅子から立ち上がった。

 

 お兄ちゃんが苦笑する。

 

「いや、ただの切り傷だぞ」

 

「このくらい大丈夫、は大丈夫じゃない人の初期症状です」

 

「大げさだな」

 

「小さい痛みを雑に扱う人は、大きい痛みも雑に扱います」

 

 お兄ちゃんは目を瞬かせた。

 

「イリヤ、本当に心配性だな」

 

「心配される方にも原因があります」

 

「そうか?」

 

「そうです」

 

 私は救急箱から絆創膏を取り出した。

 

 お兄ちゃんは少し戸惑っていたが、素直に手を差し出してくれた。

 

 指先の小さな傷。

 

 本当に大したものではない。

 

 少し洗って、絆創膏を貼れば済む。

 

 でも、雑にしていいわけじゃない。

 

 痛いものは痛い。

 

 怪我は怪我。

 

 美遊にも言った。

 

 問題ないは禁止。

 

 お兄ちゃんにも同じだ。

 

 美遊の「問題ない」と、お兄ちゃんの「大丈夫」。

 

 言葉は違う。

 

 でも、根っこが似ている気がした。

 

 相手を安心させるため。

 

 心配をかけないため。

 

 自分の痛みを小さく見せるため。

 

 そういう言葉。

 

「はい、終わり」

 

「ありがとな、イリヤ」

 

「どういたしまして。次からはすぐ言うこと」

 

「はいはい」

 

「はいは一回」

 

「はい」

 

 お兄ちゃんが笑う。

 

 その笑顔が、やっぱり優しい。

 

 優しい人ほど、自分を数に入れない。

 

 前世で見た。

 

 美遊にも見た。

 

 そして今、お兄ちゃんにも見ている。

 

 私はそのことが、少し怖かった。

 

 学校に行くと、美遊はすぐに私の様子に気づいた。

 

「イリヤ、考えごと?」

 

「うん」

 

「セイバー?」

 

「それもあるけど……お兄ちゃんのこと」

 

 美遊が少しだけ反応した。

 

「お兄ちゃん」

 

「そう。私のお兄ちゃん」

 

「大事?」

 

「うん。大事」

 

 美遊は短く頷いた。

 

「そう」

 

「どうしたの?」

 

「イリヤが大事なものなら、私も守る」

 

「嬉しいけど、初手から守護対象に登録しないで」

 

「登録」

 

「今の言い方は忘れて」

 

「分かった。忘れる努力をする」

 

「努力対象がまた増えた」

 

 美遊は真面目だ。

 

 真面目すぎる。

 

 そして、私に関することになると少し判断が強い。

 

 まだ大丈夫。

 

 たぶん、まだ健全な範囲。

 

 でも確実に、何かが育っている気がする。

 

 いや、怖がることではない。

 

 美遊は友達だ。

 

 ちょっと重いだけの友達だ。

 

 たぶん。

 

「イリヤ、今日ぼーっとしてる!」

 

 龍子が元気よく私の机に手をついた。

 

「考えることが多くて」

 

「宿題?」

 

 雀花が首を傾げる。

 

「宿題だったらどれだけ平和か」

 

「何か困ってる?」

 

 美々が柔らかい声で聞いてくれる。

 

 その声に、少しだけ胸が温かくなった。

 

 日常だ。

 

 こういう日常がある。

 

 アーチャーとか、クラスカードとか、記憶残響とか、そんな言葉とは関係のない、普通の学校。

 

「うん。でも、まだ言葉にできない感じ」

 

「そっか」

 

 美々はそれ以上聞かなかった。

 

 ただ、にこっと笑ってくれる。

 

 その優しさが、ありがたい。

 

 この日常に、アーチャーなんて言葉は似合わない。

 

 それなのに、その気配は確かに近づいていた。

 

 放課後。

 

 私たちは凛さんとルヴィアさんに呼び出され、人気の少ない公園へ向かった。

 

 空は夕方の色をしている。

 

 遊具の影が長く伸びている。

 

 普通なら、子どもが遊んで、家へ帰る時間だ。

 

 でも、私たちがここにいる理由は遊びではない。

 

「アーチャーカードの反応が強くなったわ」

 

 凛さんが真剣な顔で言った。

 

「……やっぱり今日ですか」

 

「あんた、何か心当たりでもあるの?」

 

「心当たりというか、嫌な予感というか」

 

 ルヴィアさんが扇子を口元に当てる。

 

「セイバーの時と同じですの?」

 

「似てるけど、違います」

 

 セイバーの時は、遠い炎だった。

 

 知らないはずなのに、知っているような後悔。

 

 青い騎士の痛み。

 

 でも、アーチャーは違う。

 

 もっと近い。

 

 遠いはずなのに、近い。

 

 自分の中にある何かと、嫌な形で噛み合っている感じがする。

 

「なんか、近いんです」

 

「近い?」

 

「遠いはずなのに、近い」

 

 凛さんとルヴィアさんが顔を見合わせる。

 

 説明になっていないのは分かっている。

 

 でも、それ以上うまく言えなかった。

 

「アーチャーは本来、遠距離戦を得意とするクラスよ」

 

 凛さんが説明を始める。

 

「ただ、カード個体によっては近接戦を仕掛けてくることもあるわ。反応は不安定で、移動している。セイバーほど重い感じではないけど、鋭い」

 

「鋭い」

 

「それから、少し妙なのよ」

 

 凛さんが眉を寄せる。

 

「何かを探しているような動きがある」

 

「探している?」

 

 その言葉が、妙に嫌だった。

 

 探している。

 

 何を。

 

 誰を。

 

 美遊が静かに聞く。

 

「何を?」

 

「分からないわ」

 

 凛さんが首を横に振った。

 

「ただ、反応が一点に留まらない。まるで何かの気配を追っているみたい」

 

 私は胸の奥がざわつくのを感じた。

 

 探している。

 

 追っている。

 

 それは、敵としての行動なのか。

 

 それとも、記憶の残響に引きずられているのか。

 

「イリヤ」

 

 美遊が私の横に立つ。

 

「怖い?」

 

「怖い……というより、嫌」

 

「嫌」

 

「うん。見たくないものを見せられそうな感じ」

 

 美遊は少し考えた。

 

「なら、見ないようにする?」

 

「できるならそうしたいけど、たぶん必要なんだと思う」

 

「必要」

 

「うん。嫌だけど、見なきゃいけない気がする」

 

 美遊は小さく頷いた。

 

「私は、イリヤの近くにいる」

 

「うん。ありがとう」

 

「近く」

 

 そう言って、美遊が半歩近づいた。

 

「物理的に近づきすぎなくても大丈夫だからね?」

 

「近くにいる」

 

「意味は合ってるけど!」

 

 距離が近い。

 

 少しだけ。

 

 いや、だいぶ。

 

 でも、不思議と安心もした。

 

 重い。

 

 でも、今はその重さに少し救われている。

 

「では、鏡面界へ移行しますわ」

 

 ルヴィアさんが術式を展開する。

 

 凛さんが補助に入る。

 

 ルビーとサファイアさんが光る。

 

 世界が歪む。

 

 現実の公園が、鏡の向こうへ沈んでいく。

 

 次の瞬間、音が消えた。

 

 鏡面界。

 

 けれど、今回は前までと雰囲気が違った。

 

 ライダーの時は、速さと殺気があった。

 

 セイバーの時は、張り詰めた剣の空気があった。

 

 アーチャーは――。

 

 乾いていた。

 

 冬木市のはずなのに、砂の匂いがした。

 

 公園の遊具も、道路も、街灯もある。

 

 なのに、遠くに赤い空が見えるような錯覚があった。

 

 金属の匂い。

 

 乾いた風。

 

 どこかで、剣と剣が擦れるような音がした気がする。

 

 ここは街だ。

 

 なのに、どこかの戦場みたいだった。

 

「……嫌な空気」

 

 思わず呟く。

 

 その瞬間、視界がぶれた。

 

 赤い外套。

 

 無数の剣が突き刺さった荒野。

 

 錆びた空。

 

 背を向けた誰か。

 

 正義の味方。

 

 その言葉だけが、胸の奥に落ちてくる。

 

 誰かを助けたかった。

 

 助け続けたかった。

 

 けれど、助ければ助けるほど、自分が削れていく。

 

 それでも止まれない。

 

 止まれないまま、最後には何も残らない。

 

「……っ」

 

 足が止まった。

 

「イリヤ」

 

 美遊の声。

 

 私は息を吸う。

 

「大丈夫……じゃないけど、戻ってる」

 

「一人で見てない?」

 

「今、美遊がいるから」

 

 美遊が少しだけ安心したように見えた。

 

 その表情の変化はほんのわずかだったけれど、確かに分かった。

 

「来ます」

 

 サファイアさんの声が鋭く響く。

 

 上方。

 

 魔力反応。

 

 私は反射的に防御結界を張った。

 

 次の瞬間、空から何かが降ってきた。

 

 剣。

 

 矢ではなく、剣。

 

 投げ放たれた剣が、結界に突き刺さる。

 

 重い音が響く。

 

「遠距離攻撃!?」

 

「アーチャーだから当然よ!」

 

 凛さんが叫ぶ。

 

「分かってても怖い!」

 

 次々に剣が降ってくる。

 

 私は防御を広げる。

 

 美遊が射撃でいくつかを撃ち落とす。

 

 ルビーが光る。

 

「イリヤさん、今回は盾役大忙しですね!」

 

「適性があるから仕事が増える理論!」

 

「安全のためです!」

 

「その言葉、毎回信用しきれない!」

 

 地面に剣が突き刺さる。

 

 鉄の匂いが濃くなる。

 

 私は結界越しに空を見上げた。

 

 建物の上。

 

 そこに、赤い影が立っていた。

 

 赤い外套。

 

 白に近い髪。

 

 手には双剣。

 

 顔は黒く塗りつぶされている。

 

 けれど、セイバーやライダーの影とは違った。

 

 もっと人間臭い。

 

 もっと、疲れているように見えた。

 

 敵だ。

 

 なのに、化け物には見えなかった。

 

 あれは人だ。

 

 人の形をした、誰かの果てだ。

 

 赤い影が双剣を構える。

 

 その瞬間、頭の奥でお兄ちゃんの声が響いた。

 

 ――俺が何とかする。

 

「……なんで」

 

「イリヤ?」

 

 美遊の声。

 

 私は答えられなかった。

 

 赤い影が、建物の上から跳んだ。

 

「来るわよ!」

 

 凛さんの声と同時に、アーチャーの影が接近する。

 

 弓兵。

 

 アーチャー。

 

 遠距離戦のクラス。

 

 なのに、双剣を握って目の前に来る。

 

「弓兵のくせに近接戦!?」

 

 凛さんが叫んだ。

 

「職務範囲が広すぎる!」

 

「多能工ですね!」

 

 ルビーが楽しそうに言う。

 

「便利に使われる人の末路みたいな言い方やめて!」

 

 私は結界を張る。

 

 双剣がぶつかった。

 

 重さはセイバーほどではない。

 

 速さはライダーほどではない。

 

 でも、嫌な感じがした。

 

 こちらの動きを読まれている。

 

 防御の癖を見られている。

 

 逃げたい方向を塞がれている。

 

「この敵、嫌な意味で器用!」

 

 美遊が横から射撃を入れる。

 

 アーチャーの影は、片方の剣でそれを弾いた。

 

 もう片方の剣が、私の結界に触れる。

 

 その瞬間、また記憶が流れ込んだ。

 

 誰かを助ける手。

 

 死体の山。

 

 焼けた空。

 

 契約。

 

 処刑台のような場所。

 

 正義の味方になりたかった。

 

 それでも救えなかった。

 

 自分を数に入れなかった男。

 

 自分を使えば、誰かが助かる。

 

 自分が我慢すれば、場が回る。

 

 自分が壊れても、成果が残る。

 

 違う。

 

 それは違う。

 

 でも、その理屈を、私は知っている。

 

 喉の奥が詰まる。

 

 胸が苦しい。

 

 セイバーの時とは違う。

 

 これは遠くの王の後悔じゃない。

 

 もっと近い。

 

 前世の私の傷に、直接指を突っ込まれるような感覚だった。

 

「イリヤ」

 

 美遊が私の手を握る。

 

「一人で見ない」

 

「……うん」

 

 でも、戻りきれない。

 

 赤い荒野が消えない。

 

 剣の丘が、頭の奥に残っている。

 

 誰かを救うために、自分を燃やす感覚が消えない。

 

「イリヤ?」

 

 美遊の声に、少しだけ焦りが混ざった。

 

「これ、嫌だ」

 

「嫌?」

 

「この人、自分を使い潰してる」

 

 言葉が震えた。

 

「誰かを救うために、自分を燃やしてる」

 

 赤い影が双剣を振るう。

 

 私は何とか防御する。

 

 でも、心が追いつかない。

 

「それで最後に、何も残らない感じがする」

 

 美遊は黙った。

 

 彼女はたぶん、全部は分かっていない。

 

 でも、私が苦しんでいることは分かっている。

 

 手を握る力が少しだけ強くなった。

 

「今日は引くわ!」

 

 凛さんの判断は早かった。

 

 ありがたい。

 

 本当にありがたい。

 

「イリヤの状態がよくありませんわ」

 

 ルヴィアさんもすぐに術式を展開する。

 

「撤退判断、助かります……」

 

「下がる」

 

 美遊が私の手を引いた。

 

 前に出るのではなく。

 

 私を置いて戦うのでもなく。

 

 一緒に下がる。

 

 それだけで、少し呼吸が戻った。

 

 アーチャーの影は追撃してきた。

 

 剣が降る。

 

 双剣が迫る。

 

 凛さんとルヴィアさんが術式で道を開く。

 

 サファイアさんが美遊に指示を出し、ルビーが私の防御を補助する。

 

「イリヤさん、もう少しです!」

 

「分かってる……!」

 

 鏡面界の出口が開く。

 

 その直前。

 

 赤い影が、こちらを見た。

 

 双剣を下ろしたように見えた。

 

 顔は見えない。

 

 声も聞こえない。

 

 でも、なぜかこう聞こえた気がした。

 

 ――それでも、誰かを救いたかった。

 

 世界が歪む。

 

 音が戻る。

 

 現実の公園に戻った瞬間、私は膝をついた。

 

 息が荒い。

 

 手が震えている。

 

 胸の奥が痛い。

 

「イリヤ」

 

 美遊が隣にしゃがむ。

 

 私の手は、まだ美遊に握られていた。

 

 凛さんが駆け寄ってくる。

 

「イリヤ、何を見たの?」

 

 何を見た。

 

 どう言えばいいのだろう。

 

 赤い外套。

 

 剣の丘。

 

 正義の味方。

 

 自分を使い潰した誰か。

 

 誰かを救うために、自分を数に入れなかった人。

 

 それは敵だった。

 

 倒さなければならない相手だった。

 

 なのに。

 

「……お兄ちゃんみたいだった」

 

 ぽつりと、言葉が落ちた。

 

 凛さんが固まる。

 

 ルヴィアさんも目を細めた。

 

 美遊は、私の手を握ったまま、静かにこちらを見ていた。

 

 アーチャー。

 

 赤い外套の影。

 

 双剣を握る、誰かの果て。

 

 あれは敵だ。

 

 倒さなければならない。

 

 でも、どうしてだろう。

 

 あの赤い影を見ていると、お兄ちゃんの「大丈夫」という声が、頭から離れなかった。

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