ブラック企業で過労死した俺、今世はイリヤに転生しました。なお魔法少女業務は聞いてません。   作:健全な中に隠れた性癖

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第4話 初任務です。帰っていいですか?

 

 

 鏡の向こうの冬木市は、ひどく静かだった。

 

 街灯は点いている。

 

 信号も点滅している。

 

 家々の形も、道路の並びも、私が知っている冬木市と変わらない。

 

 なのに、人の気配だけがない。

 

 車の音もない。

 

 誰かの話し声もない。

 

 風の音すら、妙に遠い。

 

 同じ街なのに、違う。

 

 いつもの冬木市から、人の声だけを全部抜き取ったみたいだった。

 

 怖い。

 

 普通に怖い。

 

 前世で深夜残業帰りのオフィス街を歩いた時も怖かったけれど、これは種類が違う。

 

 あっちは人間社会の闇。

 

 こっちは、もっと直接命に来る闇だ。

 

「さあイリヤさん、初任務です!」

 

 手元のルビーが、いつも通り明るい声を出した。

 

「帰っていいですか?」

 

「駄目」

 

 凛さんが即答した。

 

「知ってた」

 

 分かっていた。

 

 分かっていたけど言いたかった。

 

 言うだけなら無料である。

 

 前世ではその無料すらケチって、無理ですも、休みたいですも、帰りたいですも言えなかった。

 

 だから今世では、帰りたい時は帰りたいと言う。

 

 なお、帰れるとは限らない。

 

 世知辛い。

 

「最後に確認です」

 

 私はルビーを握ったまま、凛さんとルヴィアさんを振り返る。

 

「撤退基準は?」

 

「危険だと判断したら撤退よ」

 

「判断基準は?」

 

「状況次第」

 

「出た」

 

「何よ」

 

「現場判断という名の丸投げ」

 

 凛さんが顔をしかめた。

 

 ルヴィアさんが扇子を広げる。

 

「後方支援はわたくしたちが行いますわ。ですから、そこまで不安がる必要はありません」

 

「不安がる必要しかないんですが」

 

「まあ」

 

「敵の情報は?」

 

 私が聞くと、凛さんが真面目な顔になる。

 

「反応からして、ライダーのクラスカードね」

 

「ライダー……」

 

 その単語に、前世の知識がざわりと揺れた。

 

 ライダー。

 

 騎乗兵。

 

 Fateでライダーといえば、たしか――。

 

 いや待って。

 

 思い出す前に心拍数が上がってきた。

 

 前世のオタク知識より、今の命の方が優先である。

 

 情報を思い出して格好よく立ち回る前に、まず生き残りたい。

 

「ライダーって、強いんですか?」

 

「クラスカードはどれも危険よ」

 

「質問への回答が広すぎる」

 

「相手の詳細は接触してみないと分からないわ」

 

「やっぱり実戦研修じゃないですか」

 

「……まあ、そうとも言えるわね」

 

「言えちゃ駄目なんですよ」

 

 私は深く息を吐いた。

 

 その隣で、美遊が静かに前へ出る。

 

「私が先行する」

 

「待って」

 

 反射的に声が出た。

 

 美遊が振り返る。

 

「問題ない」

 

「出た。禁止候補ワード」

 

「?」

 

「“問題ない”は、問題ある人ほど言うから」

 

 美遊は本当に分からないという顔をした。

 

 その顔が、また私の胸に引っかかる。

 

 この子は本気でそう思っている。

 

 自分が前に出ることを、危険だと数えていない。

 

「美遊、せめて一人で突っ込まないで」

 

「突っ込まない」

 

「今、先行するって言った」

 

「確認するだけ」

 

「前世で“確認するだけ”って言って帰ってこなかった仕事、山ほどあるんだよ」

 

「ぜんせ?」

 

「こっちの話」

 

 美遊は小さく首を傾げ、それでも前を向いた。

 

 駄目だ。

 

 この子、止まる気が薄い。

 

「美遊さん、頼もしいですね!」

 

 ルビーが楽しそうに言う。

 

「頼もしいと危ういは紙一重だから!」

 

「イリヤさんは心配性ですねぇ」

 

「心配性じゃなくて安全意識!」

 

 その時だった。

 

 暗がりの奥で、何かが動いた。

 

 ぞくりと背筋が冷える。

 

 それは、人の形をしていた。

 

 でも、人ではなかった。

 

 黒い影。

 

 長い髪。

 

 細い身体。

 

 ゆらりと揺れる輪郭。

 

 手元には、鎖のようなものが見える。

 

 顔は塗りつぶされていて、こちらを見ているのかどうかも分からない。

 

 けれど、分かる。

 

 あれは危ない。

 

 理屈ではなく、体がそう言っていた。

 

「来ます」

 

 サファイアさんの声が静かに響く。

 

 次の瞬間、影が消えた。

 

「え?」

 

 見失った。

 

 そう思った時には、もう目の前にいた。

 

 速い。

 

 速すぎる。

 

 黒い影が一気に距離を詰め、鎖のような武器を振るう。

 

 美遊が防御を展開した。

 

 青い光が弾ける。

 

 鈍い衝撃音。

 

 美遊の小さな体が、後ろへ滑る。

 

「速っ……!?」

 

「ライダーですから!」

 

「説明が職種!」

 

 叫んだ直後、黒い鎖が地面を裂いた。

 

 アスファルトが砕ける。

 

 私の足元を、何か鋭いものが通り過ぎた。

 

「ひっ……!」

 

 尻もちをつく。

 

 冷たい地面に手をついた瞬間、頭の中が真っ白になった。

 

 冗談じゃない。

 

 当たったら、痛いじゃ済まない。

 

 これは遊びじゃない。

 

 体育でもない。

 

 魔法少女ごっこでもない。

 

 本当に、死ぬかもしれないやつだ。

 

「イリヤさん、魔力弾です!」

 

「どうやって!?」

 

「敵を見て、狙って、撃つ!」

 

「初心者講習が雑!」

 

「気合いです!」

 

「また精神論!」

 

 それでも、やるしかない。

 

 私は震える手を前に出す。

 

 光が集まる。

 

 撃つ。

 

 魔力弾は、ライダーの影の横を大きく逸れて飛んでいった。

 

「惜しいです!」

 

「惜しいで命は守れない!」

 

 ライダーの影が再び動く。

 

 私は目で追おうとした。

 

 追えない。

 

 速すぎる。

 

 気づけば右。

 

 次には左。

 

 黒い鎖が空気を裂き、地面を叩き、壁を砕く。

 

 その中で、美遊だけが反応していた。

 

 青い光を纏い、サファイアさんと連携しながら、敵の攻撃を受け、避け、返している。

 

 すごい。

 

 美遊は、すごい。

 

 私が目で追うのもやっとの相手に、ちゃんと反応している。

 

 攻撃を受け、避け、返している。

 

 でも。

 

 だからこそ、怖かった。

 

 その動きに、ためらいがなさすぎる。

 

 痛みを怖がっていない。

 

 自分が傷つくことを、計算に入れていない。

 

 ライダーの影の鎖が、美遊の肩をかすめた。

 

 衣装の一部が裂け、白い肌に赤い線が走る。

 

「美遊、今当たったよね!?」

 

「問題ない」

 

「今のは問題ある!」

 

 美遊は眉ひとつ動かさない。

 

 そのまま前へ出る。

 

 駄目だ。

 

 この子は本当に、自分を止める気がない。

 

 その時、ライダーの影がふいに動きを止めた。

 

 空気が変わる。

 

 影の顔が、ゆっくりと上がる。

 

 顔の部分は黒く塗りつぶされているはずなのに、なぜか目が合いそうな気がした。

 

 目。

 

 ライダー。

 

 鎖。

 

 長い髪。

 

 見てはいけない。

 

 何かが、頭の奥で警鐘を鳴らした。

 

「美遊、目を合わせないで!」

 

 叫んだ。

 

 自分でも理由は分からなかった。

 

 けれど、美遊は一瞬だけ反応し、視線を逸らした。

 

 直後、空間がぎしりと重くなる。

 

 体が鉛みたいに沈む。

 

 背中に冷たい汗が流れた。

 

 もし、今見ていたら。

 

 そう思うだけで、喉が乾いた。

 

「今の、よく分かったわね!?」

 

 凛さんの声が飛んでくる。

 

「自分でも分かりません!」

 

「野生の危機察知ですね!」

 

「褒め方!」

 

 ルビーの声が明るすぎる。

 

 こっちは本気で心臓が痛い。

 

 心臓が残業どころか休日出勤している。

 

 もう帰りたい。

 

 本当に帰りたい。

 

 けれど、ライダーの影は止まらない。

 

 美遊が、低く身を構えた。

 

「ここで終わらせる」

 

「待って、美遊!」

 

 私の声は届いているはずなのに、美遊は前へ出た。

 

 速い。

 

 さっきまでよりもさらに踏み込んでいる。

 

 サファイアさんが短く警告した。

 

「美遊様、前に出すぎです」

 

「問題ない」

 

「問題あるって言ってるでしょ!」

 

 ライダーの影が、まるでそれを読んでいたかのように鎖を放った。

 

 黒い軌跡が、美遊を囲む。

 

 逃げ場が狭い。

 

 防御は間に合うかもしれない。

 

 でも、直撃すればただでは済まない。

 

 まずい。

 

 あれはまずい。

 

 でも、私が行って何ができる?

 

 初心者。

 

 飛ぶのも怖い。

 

 魔力弾も外す。

 

 防御だって、さっき教わったばかりだ。

 

 足は震えている。

 

 手も震えている。

 

 帰りたい。

 

 逃げたい。

 

 布団に潜りたい。

 

 それでも。

 

 前世の私は、誰かに「助けて」と言えなかった。

 

 だから、誰も来なかった。

 

 でも今、目の前の子は、助けてと言わないだけで、助けがいらないわけじゃない。

 

「ルビー!」

 

「はい!」

 

「防御!」

 

「了解です!」

 

 私は飛び出した。

 

 飛び方なんて、まだ全然分からない。

 

 姿勢も崩れる。

 

 視界も揺れる。

 

 それでも、美遊と鎖の間に滑り込んだ。

 

「イリヤさん、フォームが!」

 

「フォームより美遊!」

 

 両手を前へ出す。

 

 光の壁が広がる。

 

 次の瞬間、黒い鎖が叩きつけられた。

 

「重っ……!」

 

 腕がしびれる。

 

 体が後ろへ押される。

 

 歯を食いしばる。

 

 怖い。

 

 痛い。

 

 逃げたい。

 

 でも、ここで崩れたら美遊に当たる。

 

「出力上げます!」

 

「事前に言って!」

 

 ルビーが光る。

 

 防御の壁が厚くなる。

 

 鎖がぎりぎりと軋み、やがて弾かれた。

 

 衝撃で私は後ろへ転がりそうになる。

 

 けれど、美遊が支えてくれた。

 

「どうして」

 

 美遊が小さく言った。

 

「どうしてじゃない! 危なかったから!」

 

「でも、私は――」

 

「問題ないは禁止!」

 

 反射的に叫んだ。

 

 美遊が黙る。

 

「一人で前に出ない!」

 

「でも、効率が」

 

「効率より生存!」

 

「……」

 

「任務が成功しても、美遊が怪我したら嫌なの!」

 

 美遊は、少しだけ目を見開いた。

 

 その表情はほんのわずかで、他の人なら見逃したかもしれない。

 

 でも、私は見た。

 

 美遊は、驚いていた。

 

 自分が怪我をすることを嫌だと言われて、驚いていた。

 

「……分かった」

 

 美遊が小さく頷く。

 

 完全に納得した顔ではない。

 

 けれど、少しだけ止まってくれた。

 

 それだけで十分だった。

 

「イリヤさん、守りは上手いですね!」

 

「防御手段のある現場は良い現場って言ったでしょ!」

 

「では守りながら攻めましょう!」

 

「要求が急に高度!」

 

 ライダーの影が再び動く。

 

 今度は、美遊が前に出すぎる前に、私が防御を展開した。

 

 鎖の軌道を逸らす。

 

 美遊がその隙に魔力弾を撃つ。

 

 サファイアさんが静かに指示を出す。

 

「美遊様、右上です」

 

「了解」

 

「イリヤ様、正面防御を」

 

「はい!」

 

 サファイアさんの指示は分かりやすい。

 

 落ち着いている。

 

 丁寧。

 

 ルビーとは違う。

 

「イリヤさん、私も指示できますよ!」

 

「じゃあ分かりやすく!」

 

「気合いでどーんです!」

 

「不採用!」

 

「ひどい!」

 

 それでも、ルビーの魔力供給は確かだった。

 

 防御の壁が出る。

 

 魔力弾が撃てる。

 

 空中で姿勢を立て直せる。

 

 悔しいけれど、頼りにはなる。

 

 信用はしていないけど。

 

 何度目かの攻防のあと、美遊が短く言った。

 

「誘導する」

 

「無理しない範囲で!」

 

「……分かった」

 

 美遊がライダーの影の正面へ出る。

 

 ただし、さっきより距離を取っている。

 

 ほんの少しだけ、私の言葉を聞いてくれている。

 

 ライダーの影が鎖を振るう。

 

 私は防御結界を斜めに展開した。

 

 黒い鎖が結界に弾かれ、軌道がずれる。

 

 その瞬間、美遊が低く飛び込んだ。

 

 青い光が走る。

 

 サファイアさんが告げる。

 

「今です」

 

「ルビー!」

 

「はい!」

 

 私は魔力弾を撃った。

 

 今度は当たった。

 

 美遊の攻撃と、私の拙い魔力弾が、同時にライダーの影を貫く。

 

 影が揺らいだ。

 

 黒い輪郭が崩れていく。

 

 やがて、空中に一枚のカードが浮かび上がった。

 

 凛さんがそれを素早く回収する。

 

「ライダー、回収完了」

 

「終わった……?」

 

 私はその場に座り込んだ。

 

 足に力が入らない。

 

 手も震えている。

 

 喉がからからだった。

 

 ルビーが明るく跳ねる。

 

「初任務成功です!」

 

「成功って言っていいの? これ」

 

 凛さんが肩をすくめる。

 

「生きてるし、カードも回収したわ」

 

「評価基準が最低限すぎる」

 

「初任務としては上出来よ。正直、思ったより動けてたわ」

 

「思ったよりって、期待値低かったんですね」

 

「初日だもの」

 

「初日にこの現場へ出すな」

 

 凛さんは何も言わなかった。

 

 たぶん反論できなかったのだと思う。

 

 私は深呼吸をした。

 

 心臓がまだうるさい。

 

 退勤してくれない。

 

 残業している。

 

 労働基準的にアウトである。

 

 ふと、美遊を見る。

 

 美遊は平然と立っていた。

 

 何事もなかったかのように。

 

 けれど、私は見逃さなかった。

 

 肩に赤い線。

 

 腕にも擦り傷。

 

 膝のあたりにも、ぶつけたような跡。

 

「美遊、怪我してる」

 

「問題ない」

 

「禁止」

 

 即答した。

 

 美遊がこちらを見る。

 

「?」

 

「問題ないって言うの禁止」

 

「この程度なら、任務に支障はない」

 

「任務に支障があるかじゃなくて、美遊が痛いかどうかの話」

 

 美遊が黙った。

 

 私は立ち上がり、美遊の腕をそっと見る。

 

 血は少しだけ。

 

 大怪我ではない。

 

 でも、痛いはずだ。

 

 痛くないわけがない。

 

「痛いなら痛いって言って」

 

「……」

 

「怖いなら怖いって言って」

 

「……」

 

「少なくとも、私はそれを聞くから」

 

 美遊は、私をじっと見た。

 

 夜の鏡面界。

 

 人の気配のない街。

 

 その中で、美遊の目だけが、少しだけ揺れていた。

 

「……痛い、かもしれない」

 

「よし。じゃあ手当て」

 

「手当て?」

 

「そう。手当て」

 

 私は凛さんたちを振り返った。

 

「手当てしてください。今すぐ」

 

「このくらいなら――」

 

「このくらい、禁止」

 

「はい」

 

 凛さんが素直に頷いた。

 

 ルヴィアさんが口元を扇子で隠す。

 

「遠坂凛、押されていますわね」

 

「ルヴィアさんも救急用品を出してください」

 

「……はい」

 

 ルヴィアさんも頷いた。

 

 よし。

 

 安全管理は声を上げれば少しは進む。

 

 前世でできなかったことを、今ここでやっている気がした。

 

「これぞ魔法少女の友情ですね!」

 

 ルビーが感動したように言う。

 

「友情以前に安全管理」

 

「重要です」

 

 サファイアさんが静かに同意した。

 

「またサファイアちゃんに正論で刺されました!」

 

「姉さんはもう少し安全意識を持つべきです」

 

「妹の言葉が重い!」

 

 美遊の傷に簡単な手当てをする。

 

 消毒。

 

 絆創膏。

 

 包帯。

 

 大げさかもしれない。

 

 でも、大げさでいい。

 

 痛いことを、痛いと扱う。

 

 怪我を、怪我として扱う。

 

 その当たり前を雑にしたら、人は簡単に壊れる。

 

 前世の私は、それを知っている。

 

 手当てが終わると、美遊は自分の腕を見つめた。

 

 それから、私を見る。

 

「イリヤは、変」

 

「それは今日何回か言われた気がする」

 

「でも」

 

 美遊は少しだけ間を空けた。

 

「嫌ではない」

 

「……」

 

 待って。

 

 真顔でそういうことを言われると、処理に困る。

 

 小学生女子の距離感とは別方向で情緒に来る。

 

 私は一瞬だけ言葉に詰まり、それから視線を逸らした。

 

「……そう。ならよかった」

 

「うん」

 

 美遊は小さく頷いた。

 

 その表情は、相変わらず静かだった。

 

 でも、最初に会った時より、ほんの少しだけ柔らかく見えた。

 

 鏡面界を出ると、街の音が戻ってきた。

 

 風の音。

 

 遠くを走る車の音。

 

 どこかの家の生活音。

 

 それだけで、現実に戻ってきた気がした。

 

 その後の記憶は少し曖昧だ。

 

 凛さんたちにいくつか注意を受け、ルビーにやたら褒められ、私はようやく家に帰された。

 

 もちろん、帰宅経路も安全面ではかなり問題があった。

 

 夜間飛行。

 

 未成年。

 

 保護者説明なし。

 

 やっぱりアウトである。

 

 部屋に戻る頃には、体はくたくただった。

 

 変身が解け、いつもの服に戻る。

 

 私はベッドに倒れ込んだ。

 

「初任務……生還……」

 

「お疲れ様でした、イリヤさん!」

 

 ルビーが楽しそうに浮いている。

 

 私は枕に顔を埋めたまま言った。

 

「明日、労働基準監督署に相談したい」

 

「魔法少女業界に労基はありません!」

 

「だからブラックなんだよ!」

 

 叫ぶ気力は、もうあまり残っていなかった。

 

 初任務は終わった。

 

 ライダーカードは回収できた。

 

 私も生きている。

 

 美遊も生きている。

 

 なら成功。

 

 そう言われれば、たぶんそうなのだろう。

 

 でも私は、布団に顔を埋めながら思った。

 

 成功の基準に「全員生存」が最初に来る業務、やっぱりおかしい。

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