『異種族玩具店(アダルトショップ)の店主はインキュバス』 作:微糖コーヒー
「……違う。こんなのは、俺が愛した『文化』への冒涜だ」
俺──今はインキュバスのゼクスとして生きているが──は、手の中にある粗末な木製の棒を見つめて、深い溜息をついた。
ここは人間、エルフ、魔族が共存するファンタジー世界。この街『アンパル』には、男たちの夢と欲望を叶える風俗店が軒を連ねている。だが、その裏側……いわゆる「大人の玩具屋」のレベルは、前世の日本とは比較にならないほど低かった。
「ただの円柱状の木を削って、表面を滑らかにしただけ。滑り止めもなければ、バイブレーション機能もない。魔法がある世界だぞ? なぜ魔石を組み込んで振動させようと思わないんだ!」
俺は目の前の店主にそう吠えたが、髭面のドワーフ店主は鼻を鳴らすだけだった。
「ケッ、そんな面倒なもん作るより、サキュバスに魔法をかけてもらう方が早えんだよ。道具なんてのは、相手がいない時の代用品に過ぎねえ」
分かっていない。この老いぼれドワーフは、致命的なまでに「道具」の可能性を理解していない。
代用品? 違う。道具とは、生身の肉体では不可能な『特化した刺激』を追求するための、いわば求道者のための聖装(アーティファクト)なのだ。
俺は店を出て、夕暮れの街を歩く。
インキュバスという種族に転生したのは幸運だった。夜の街を歩くだけでサキュバス嬢たちから「いい男ね」と視線を送られる。だが、彼女たちを抱くには金がいる。それも、一晩で金貨数枚を飛ばすような高級店に通うには、まともな稼ぎが必要だ。
「よし。作るか」
俺は路地裏の安宿に戻り、机の上に数個の『魔石』と、昨日仕入れた『軟体スライムの核』を並べた。
「この世界の奴らに教えてやる。インキュバスの精力と、前世のエンジニアとしての設計思想が合わされば、神すらもイカせる道具が作れるってことをな」
商品開発:試作一号機『ハイパー・ヴァイブ・レイス』
まず取り掛かったのは、振動魔法の術式を刻んだ魔石の加工だ。
一般的な攻撃魔法用の魔石ではなく、生活魔法(マッサージ用)の術式を極限まで高周波に改造する。
「ただ揺れるだけじゃダメだ。強弱の波……いわゆる『リズム機能』が必要だ。そして、エルフの細い指でも、オークの太い指でも保持しやすい人間工学に基づいたグリップ……」
俺は魔法を使い、スライムの体液を特殊な術式で凝固させた。それは、前世でいうところの「医療用シリコン」に近い、しっとりとしていながら弾力のある質感。
「……これだ。この吸い付くような肌触り。これに振動ユニットを内蔵し、さらに……」
俺の指先が、魔力を込めたペンで回路を描いていく。
この世界には「魅了(チャーム)」の魔法がある。それを薄く、極限まで薄くコーティングするように組み込む。そうすることで、使用者の脳内に「最も望んでいる相手の感触」を擬似的に想起させるのだ。
「完成だ。試作一号機……名付けて『震える妖精の指(フェアリー・ディルド)』」
デバッグ:実戦投入
数日後。俺は馴染みの酒場「食い道楽」にいた。
そこには、この街で有名なレビュアーズの面々──スタンク、ゼル、カニロウが、昨晩行った店の品評(レビュー)で盛り上がっていた。
「いやあ、昨日のカニ娘のハサミ・テクニックは凄かったな」
「俺はもっと、エルフ特有の繊細さが欲しかったね……」
俺は彼らのテーブルに近づき、そっと布に包んだ「それ」を置いた。
「よお、アンタら。いつもいい店を教えてくれて助かってるよ。これはその礼だ」
「あん? なんだよゼクス。新種の魔道具か?」
人間のスタンクが怪訝そうに包みを開く。
現れたのは、淡いピンク色に輝く、有機的な曲線を描いた未知の道具。
「なんだ、この吸い付くような質感は……。革でも木でもないぞ?」
エルフのゼルが、職業柄(魔法職)の好奇心でそれに触れた。その瞬間。
「ッ!? な、なんだこの振動は……! 魔石の出力が、細かく……いや、不規則に、だが心地よい周期で変化してやがる!」
「それは『超振動モード』だ。魔法で直接神経を揺さぶる。どうだ、興味があるなら今夜の店に持ち込んで、嬢の反応を『レビュー』してきてくれないか?」
俺はニヤリと笑った。
これこそが、俺のビジネスモデル。
一流のレビュアーズに俺の道具を使わせ、その快楽を口コミで広める。
道具が売れれば、俺の懐には金が入る。
その金で、俺もまた最高のレビューを行う。
「……面白い。ゼクス、これ、借りていくぜ。明日のレビューが楽しみだ」
スタンクが道具を握りしめ、獲物を見つけたハンターのような目で夜の街へ消えていく。
俺はその後ろ姿を見送りながら、手元の羊皮紙に次の開発計画を書き込んだ。
「次は……『自動回転・多層構造オナホール』の開発だな。エルフの精霊魔法で『冷却機能』をつければ、熱帯夜でも快適なはずだ」
インキュバスの夜は長い。
そして、俺の野望──異世界全種族完全レビューへの道のりは、まだ始まったばかりだ。