『異種族玩具店(アダルトショップ)の店主はインキュバス』   作:微糖コーヒー

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第2話:エルフの叡智と液体シリコンの代償

 

 

 スタンクたちが『震える妖精の指』を持って夜の街に消えた翌朝。

 

 俺が「食い道楽」の定位置でエールを飲んでいると、真っ白な灰になったような顔のゼルがふらふらと現れた。

 

 「……ゼクス。お前、なんてものを作ってくれたんだ……」

 

「お早うゼル。随分と深い隈だな。さては一晩中、魔法回路の挙動を確認(デバッグ)してたのか?」

 

 俺がニヤリと笑うと、ゼルは震える手でジョッキを掴み、中身を一気に煽った。

 

 「デバッグどころじゃない! 嬢のやつ、あの振動に当てられて、俺の魔力(マナ)を吸い取るのも忘れてイッちまったんだぞ! 『こんなの……もう指(本物)に戻れないわ!』なんて泣きつかれて……結局、朝まで延長させられた!」

 

 「ほう、サキュバス嬢を道具で完敗させたか。予想以上の出力だったようだな」

 

 俺は手元のメモ帳に『対サキュバス:感度増幅率150%向上』と書き込む。

 

 これだ。これこそが、俺が前世でエンジニアとして培った「最適化」の力。

 

 だが、ゼルは身を乗り出して、声を潜めて続けた。

 

 「それだけじゃない。あの道具、店のサキュバスたちの間で噂になってる。今朝、店を出る時にママさんに呼び止められて……『あの魔道具をあと10本、言い値で卸してちょうだい』だとよ」

 

 「……よし、商機(チャンス)が来たな」

 

 素材革命:スライムの「粘性」と「硬度」

 

 注文が入ったのは喜ばしいが、問題は量産体制だ。

 

 前世の日本なら工場に発注すれば済むが、この世界には「医療用シリコン」も「高分子エラストマー」も存在しない。

 

 昨日の試作機は、俺が魔法で無理やりスライムの体液を固めたものだが、あれは維持魔力の消費が激しく、一般販売には向かない。

 

 「ゼル、相談がある。お前の精霊魔法で、スライムの体液を『非結晶のまま安定化』させることは可能か?」

 

 「……は? 何を言ってるんだお前は」

 

 「いいか、触感こそが命なんだ。エルフの肌のような滑らかさと、オークの筋肉のような弾力、そして人間の粘膜のような吸い付き……。これらを精霊の加護で固定化したい。お前ならできるだろ? 『賢者』候補のエルフ様なんだから」

 

 「……おだてても何も出んぞ。だが、風俗代の足しになるなら協力してやる」

 

 俺たちは街の郊外にあるスライム養殖場へと向かった。

 

 そこには、家畜の糞尿を処理するために飼育されている、ごく一般的なグリーン・スライムがうごめいている。

 

 「ゼル、まずは『風の精霊』で不純物を取り除け。次に『水の精霊』で水分量を15%カット。仕上げに……俺のインキュバスの魔力を混ぜる。これで『媚毒』成分を含んだ、極上の外装素材が出来上がるはずだ」

 

 「マジで言ってるのか……? 国家級の精霊魔法を、大人のおもちゃの素材作りに使うなんて、エルフの歴史上俺だけだぞ……」

 

 ゼルが呆れながらも呪文を唱えると、スライムたちが青白い光に包まれ、その性質を変えていく。

 

 ドロドロとした液体だったスライムが、俺の魔力と混ざり合い、透き通った桃色の「極上素材」へと昇華された。

 

 「……これだ。触ってみろ、ゼル。この絶妙な反発力。指を押し込むと、ゆっくりと戻ってくるこの『低反発性』。これこそが、人類が求めていた理想の肉体模造素材だ!」

 

 「……確かに、気持ちいいな、これ。ずっと触ってられる……」

 

 賢者候補のエルフが、桃色の塊を無心でムニムニと弄り始める。その光景はなかなかにシュールだが、開発には必要なプロセスだ。

 

 新商品発表:『夢魔の吐息(ドリーム・ブレス)』

 

 数日後。俺の作業場(兼・安宿の自室)には、完成したばかりの製品が並んでいた。

 

 今回の目玉は、ただの振動具ではない。

 

 「名付けて、非貫通型吸引式刺激装置──『夢魔の吐息』だ」

 

 「……なあゼクス。さっきから用語が専門的すぎてついていけないんだが、要するに何だ?」

 

 隣で魔力回路の最終チェックをしていたカニロウ(トカゲ男)が、鱗に覆われた首を傾げる。

 

 「簡単に言えば、魔法で真空状態を作り出し、『吸い上げる』刺激を与える道具だ。指でも舌でもない、気圧の変化による絶頂……。これに、俺が開発した『高周波振動』を組み合わせた」

 

 俺がスイッチを入れると、先端のシリコン(スライム製)が微細に震え、同時に「シュッ」という小気味いい吸気音が響く。

 

 「このリズム、この吸引力。これを使えば、どんなにガードの固い種族でも、ものの数分で魔力を根こそぎ放出(アウト)させられる。……さあ、スタンク。これを手に、今夜は『有翼族(ハーピー)』の店に行ってこい」

 

 「ハーピーか! あいつら、空中でやるから感度が分散しがちなんだけど、これがあれば……」

 

 「ああ。高度三千メートルで、空の彼方まで飛ばしてやれ」

 

 収支報告:欲望の連鎖

 

 その夜。

 

 俺の店(と言っても、まだ露店に毛が生えたようなものだが)には、噂を聞きつけた冒険者や、果ては女装した貴族までが列をなしていた。

 

 売上: 金貨50枚(『夢魔の吐息』10個、特注素材のローション20本)

 

 経費: スライム養殖場への謝礼(銀貨10枚)、ゼルの口止め料(風俗店『森のしずく』の指名券)

 

 「……フフフ、勝ったな。これで今夜は、俺もあの『最高級サキュバス・スイート』を予約できる」

 

 俺はパンパンに膨らんだ革袋を懐に入れ、アンパルの夜の街へと繰り出した。

 

 前世では画面越しにしか見られなかった「理想の夜」が、今、俺の目の前にある。

 

 技術は、人を幸せにするためにあるのだ。

 

 だが、俺はまだ知らない。

 

 この『夢魔の吐息』が、後に有翼族の女王の耳にまで届き、国際問題に発展しかけるということを──。




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