『異種族玩具店(アダルトショップ)の店主はインキュバス』   作:微糖コーヒー

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第6話:観測不能の聖域と、位相のエンジニアリング

 

 

 「……なあリリ。この店、最近『不自然』だと思わないか?」

 

 開店前の『ドリーム・ツールズ』。俺はカウンターに置いた最新の「魔力感応式ローター」が、誰も触れていないのに微かに位置を変えたのを見逃さなかった。

 

 「……埃一つ動いていませんが。ゼクス様、ついにサキュバス嬢の抱きすぎで幻覚が見え始めたんですか?」

 

 リリは冷たく言い放つが、俺は確信していた。

 

 この世界において、地上の住人には姿も見えず、声も聞こえず、物理的な干渉も一切できない存在。それが『天使』だ。

 

 奴らにとって、この地上は「ただの映像」に過ぎない。棚の道具に触れることすら、彼らの法則(物理レイヤー)では不可能なはずなのだ。

 

 「いや、あいつらは『見て』いる。だが、あまりの快楽の波動(エネルギー)に、魂の境界が揺らいで、ついこちら側のレイヤーに干渉しちまったんだ」

 

 俺は棚の空隙に向かって、不敵に笑った。

 

 「そこにいるんだろ、天使さん。指一本触れられない『映像の世界』のエロに、とうとう我慢できなくなったわけだ」

 

 開発:『聖力帰還型・非接触刺激装置(ホーリー・フィードバック)』

 

 「ゼクス様、無駄ですよ。外科医のメスですら天使を傷つけることはできない。干渉する手段がないんです」

 

 「リリ、お前はエンジニアの『執念』を甘く見ている。……触れないなら、『向こう側の力』を自爆させればいいんだよ」

 

 俺は作業台に、特殊な「高周波魔石」と「共鳴鏡」を並べた。

 

 今回の設計思想は、こちらから物理的に触れることではない。

 

 指向性共鳴波の照射: 天使がいると思われる空間に、特定の魔力波を送る。

 

 聖力の逆流(フィードバック): 触れられないはずの天使の『聖力』がその波長に反応し、共振を起こす。

 

 自己崩壊的絶頂: 天使自身のエネルギーが、彼女の魂の内側で「快楽」へと変換され、内側から彼女を突き上げる。

 

 「物理的な接触(インターフェース)が不要な、魂のダイレクト・アタック。名付けて**『位相反転・昇天プロトコル』**だ」

 

 デバッグ:見えない悲鳴と、リリの警戒

 

 「……起動するぞ」

 

 俺がスイッチを入れた瞬間、店内の空気がピンと張り詰めた。

 

 物理的には何も起こっていない。棚の道具も、リリの髪も揺れていない。

 

 だが──。

 

 「──ッ!? ぁ、あああぁぁぁ……ッ!!」

 

 何もない空間から、「魂に直接響く絶叫」が漏れ出した。

 

 霧のような光の粒子が宙に舞い、苦悶と快楽に歪む「女性の輪郭」が、バグった映像のように一瞬だけ浮き上がる。

 

 「な、何これ……何も触れてないのに……私の中の『聖なる力』が、勝手に、熱くなって……っ! ああぁぁぁっ、止めて、魂が、解けちゃう……っ!!」

 

 「どうだ。お前が清らかであればあるほど、その聖力は鋭い快感に変換される。……これが、エンジニアリングによる『概念への愛撫』だ」

 

 姿は見えない。だが、床にポタポタと、「高純度の魔力が凝縮した黄金の液体」が、何もない空間から滴り落ちる。

 

 それは、彼女がそこに存在し、そして「分からされている」唯一の証拠だった。

 

 第7話:リリの独占欲と「天使の雫」の再利用

 

 「……ひどい顔ですね、ゼクス様。見えない相手をイかせて、そんなに楽しいですか?」

 

 天使が(おそらく)腰を抜かして天界へ逃げ帰った後。リリは床にこぼれた「天使の雫」をスポイトで回収しながら、極めて不機嫌そうに俺を睨んだ。

 

 「これは学術的な実験だ。これで『実体のない幽霊』や『概念体』にも商売ができる。市場規模は数倍だぞ」

 

 「……建前はいいです。それより、その『非接触刺激』のせいで、私の魔力波形まで乱れました。責任、取ってくださいね」

 

 リリは回収したばかりの「天使の雫」を、あろうことか自分の秘所に一滴垂らした。

 

 聖なる触媒が、魔族に近いハーフリングの粘膜に触れた瞬間、爆発的な反応が起きる。

 

 「……ッ!? ぁ、あああぁっ! ゼクス様……これ、凄いです……っ、身体の芯が、浄化されるみたいに……熱い……っ!」

 

 「おい、それは劇薬だぞ! 今すぐ中和……」

 

 「……いいえ、このまま『直接』中和してください。店主様(インキュバス)の、濃厚な魔力で」

 

 リリは俺の首に腕を回し、潤んだ瞳で唇を重ねてきた。

 

 天使との「概念的な交わり」の後の、リリとの「泥臭いほど物理的な交わり」。

 

 ハーフリングの小さな身体が、聖力の余韻で白く発光しながら、俺の腕の中で激しく跳ねる。

 

 第8話:本日の収支と、新たなる野望

 

 翌朝、俺たちは「天使の雫」を元に開発した新商品、『神聖潤滑液(ホーリー・ローション)』のラベル貼りに追われていた。

 

 売上: 0(天使は金を払えないため)。

 

 資産価値: 回収した「天使の雫」により、既存製品の感度を300%向上させる触媒を確保。

 

 リリの状態: 「浄化」のおかげで肌のツヤが異常に良くなり、朝から「二回戦」を要求してくるほど活動的に。

 

 「……さて、次はどうする?」

 

 俺が尋ねると、リリは不敵な笑みを浮かべて、一枚の古びた地図を広げた。

 

 「物理無効を突破したなら、次は『空間の断絶』です。……ゼクス様、夢の中にしか現れない、しかし史上最強の性欲を持つという『夢魔の女王』を、現実(リアル)に引きずり出してみませんか?」

 

 「夢と現実の同期(シンクロ)か。……面白い。今度は『ドリーム・ダイブ・デバイス』の設計に入るぞ」

 

 俺たちの「欲望のエンジニアリング」は、ついに世界の理そのものを書き換えようとしていた。

 

 

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