一年物語   作:りろぶこん

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さて、最後がこれでよかったのかな……余り納得はできませんが、これにて一区切り。
いつも通り多くはあとがきにて語るとしましょう。


十二月の師走ちゃん

 空気すら凍り付くような寒さだ。吐く息はたちまち白く染まり、虚空へと消える。躍動感溢れる夏とは対照的に、すべての景色が固まったような静けさ。水溜まりにはパリッと氷が張り、触れることすら躊躇う天然の氷細工を創り出す。

 そんな季節が、霜月は好きだ。

 冬はいい。あらゆる生命が眠りにつく様な静寂の中に、来るべき春へと向けて力を蓄える者たちの暖かさを感じる。ちょっと布団から出るのは辛いけれど、冷気に身を晒した瞬間の引き締まる感触がたまらない。

「あ……雪……」

 庭ですっかり少なくなった落ち葉の掃除をしていた霜月は、ふと空を見上げた。ゆらゆらと不規則に動く小さな白い粒が、空から優しく降り注ぐ。ヒュウッ、と霜月を撫でた寒風が、頬に雫を残していった。

 

 ドタン!バタァン!と余り穏やかではない音が響きわたる。クローゼットから転がり出た大量の段ボール箱にが廊下に小山を作った。

 やがてそれがグラグラと揺れると、不意に山頂から一本の腕が飛び出した。その手はフラフラと周囲をさ迷うと、積み重なった箱の内、ひとつの角を掴んで主が姿を現した。

「ぷはっ……うぅ……」

 まず見えたのは墨を流したように美しく黒い髪。続いてそれに対比するかのような白い肌。艶のある闇色の瞳を不満そうに細めながら、ぷっくりと頬を膨らませる少女……十二月担当月娘、師走だ。

 モゾモゾと体を動かしながら、積み重なった箱の山から脱出すると同時に、勢い余って転がり落ちた。

 

 一年は早いものだ。

 ついこの前まで日中の暑さに辟易していたというのに、気付けば間もなくめくるカレンダーがなくなろうとしている。

 そんな中、霜月は仕事の引き継ぎのために、姉である師走宅を訪れていた。

 少女一人が住むには少々大きすぎる印象のある二階建ての一軒家だ。玄関の前に立ち、インターホンを押した。だが返答がない。もう一度押す。しばらく待ったが返答はなかった。

「おかしいな……姉さん?姉さーん?」

 霜月の胸に一抹の不安がよぎる。月娘の世界に不貞の輩が浸入するとは思えないが、姉の身に何かあったのだろうか。気になってドアノブに手をかける。鍵はかかっていなかった。いよいよ不安感が頂点に達した。

「姉さん!大丈夫!?」

 居ても立ってもいられずドアを引っ張ると、靴も揃えず脱ぎ散らかして家に入った。

「姉さん!どこにいるの!」

「霜月ぃ~……霜月なのぉ~……」

 姉である師走の声は二階から微かに聞こえた。急いで階段を上がってその声の先へ向かうと……

「……何やってるの姉さん」

 そこで目にしたのは、大量の段ボール箱の山に下半身を飲み込まれ、上半身だけを露出させた師走の姿だった。

 

 霜月の助力もあって救出された師走は、もののついでで散乱した荷物の整理を手伝ってもらった。今は一段落した所でリビングにて休憩中だ。

「ごめんねー、わざわざ手伝ってもらって」

「別に構わないけど……どうせ姉さんのことだからまた慌てすぎてあんなことになったんでしょ?」

「面目ない……」

 図星を突かれ、師走は霜月に頭が上がらない。こうしていつまでも妹に心配をかけていてはならないとはわかっているのだが、性格というものは変えようと思ってもなかなか変えられないものだ。

 と、師走は霜月は対照的な純白のスカートを軽く払うと、唐突に切り出した。

「ねえ霜月、この後時間ある?」

「急だね……別に大丈夫だけど、どうしたの?」

「うん、あのさ、遊びに行かない?」

「遊びに?どこへ?」

 それはね、と師走は前置きし、

 

「人間界!」

 

 ちらちらと雪が舞っていた。それは月娘の世界でも人間界でも変わらないことだが、大きく違うのは人混みがあるということだろう。

「ほら!おいてくよ霜月!」

「ま、待ってよ姉さん……」

 一足早いクリスマスセールを行う店もちらほら見受けられる。今日は休日ということもあってか親子連れも多い。

 そんな中を、白黒の少女が歩いている。歩いているというよりは、黒い少女が白い少女を追いかけている構図だ。

「霜月はあんまり人間界にこないの?」

「そうだね……ちょっと……怖いし」

「そんなことないよ!たまには遊びに行こう!楽しいよ!」

 あくまでも人間界。師走はともかく、黒い衣装に銀髪銀眼の霜月は良くも悪くも目立つ。それが苦手な霜月はなかなか人間界に踏み出せないでいたのだ。

 それを重々承知している師走は、これを機に人間界へ引っ張り出したのだ。

「姉さん」

「なあに?」

 人の多い商店街を抜け、比較的落ち着いた川沿いの道を歩いていた矢先、衣装と目と髪の色以外、あらゆる面で瓜二つの妹から呼び止められ、笑顔で師走は振り返る。

「姉さんはその……怖くないの?人間が」

「ん?」

「だって、人間は平気で悪いことするし、環境も汚すし……役目だから月の管理はちゃんとしてるけど、あんまり印象はよくないの」

「そっか」

 師走は霜月の話を最後まで聞いた。んー、と少し悩んでから、霜月の方を向いて答える。

「私は、そうは思わないかな」

「どうして?」

「そりゃあ人間にも悪い奴はいるだろうし、逆に良い人もいるだろうね。全員が全員、何も悪いことしないなんて世界は難しいかな」

 でも、と師走は間を取った。

「でも?」

「そういう世界に少しでも近付けられるように、私たちに何かできることはないかなーって、そう思いながらお仕事はしてるかな」

「できる……こと」

「私たちは神様あくまでも天候を管理するだけだから、直接何か働きかけることはできないけどね」

 終始にこやかな師走。だがこれは彼女の偽らざる本音でもある。

「それこそ神様にお願いしなきゃいけないかな?睦月ちゃん辺りに来月お願いしようかな」

 冗談半分で師走は言った。本物の『神』を知る霜月にとっては笑い事ではなかったが。

「霜月は義務感っていうか、仕事だからって気分でやってたのかな?」

「えっと……ごめんなさい」

 しゅんと沈む霜月の肩に、いつの間にか近寄っていた霜月がポンと手を置いた。

「いいんだよ。みんなそれぞれの気持ちがあるだろうしね。霜月が謝ることじゃない」

「……」

 ゆっくりと顔を上げた霜月の目を、師走はしっかりと見つめる。

「だから、気にしちゃだめ、わかった?」

「……うん」

「よし!じゃあ霜月、ちょっとここで待ってて」

 言うが早いか、師走は近くの雑貨屋に飛び込んだ。困惑する霜月だったが、ものの数分で戻ってきた。その手には小包が握られている。

「はい、お姉ちゃんからちょっと早いクリスマスプレゼントです」

「……?」

 そういって師走はが取り出したのは、銀色に輝くネックレスだった。

「わ、悪いよ姉さん。こんなの、私には……」

「いいのいいの、普段から迷惑かけっぱなしだからね。これくらいさせてよ」

 姉の手によってかけられたネックレスはキラキラと霜月の首回りを彩った。

「あ、ありがとう……」

「ふふっ、どういたしまして」

 雪が降っている。二人の少女の幸せな時間を邪魔しないように。

「もうすぐ一年が終わるねー」

「そうだね。寂しいような、なんというか……」

 不意に師走が二歩三歩と前に出る。そして振り返りながら、

「しーもっつき」

「……?」

 何が楽しいのか、笑顔の絶えない姉の真意を、霜月はまだ読めない。

 そんな彼女に構わず、師走は続けた。

「まだ一ヶ月あるけど……言っておきたいことがあってさ」

「何を?」

 師走は妙にモジモジと、恥ずかしそうに視線を泳がせ、そして最後ははっきりと霜月を見つめて、

 

「いつもありがとう霜月。そしてこれからもよろしくね!」

 

 雪すら溶かしてしまうような、とびきりの笑顔だった。

 

 一年十二ヶ月。それらを守護する十二人の少女たちの物語。

 




まずはここまで読んでくださった皆様に感謝を。
『一年物語』、二年をかけて完結でございます。二年という期間に見合うだけのボリュームであったかと聞かれれば、間違いなく答えは『NO』でしょうが、何卒ご了承くださいませ。
私が初めて手掛けたオリジナル作品であり、彼女たちへの思いは並々ならぬものがあります。それらをこちらに書きますと冗長になってしまいますので、詳しくは活動報告に纏めさせていただきます。
さて、意志が弱く、何事も終わらせることができないでいた優柔不断な私が、途中色々ありながらもひとまず完結までこぎつけました。これに拙作を読んでくださる皆様を始め、作中の彼女たちも含めた多くの方々に支えられてのことだと実感しております。
いつもならここで『今回はこの辺りで~』と続くのですが、それはできません。そのことに一抹の寂しさを感じつつ、本作はこれにて完結となります。
またいつか、彼女たちと出会えることを望みつつ、この辺りで筆を置かせていただきます。
機会がありましたら、また別の作品でお会いしましょう。さようなら、そして、ありがとうございました。
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