一年物語   作:りろぶこん

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一ヶ月に一話、これがアマチュア作家が短編を書くのに許されるギリギリのラインだそうです。
いつも通り多くは後書きで語るとしましょう。


二月の如月ちゃん

「ふむ……そろそろかな」

 包みこむような冷たさのなか、のっそりと一人の少女が布団から起き上がった。

 栗色の髪をポニーテールにまとめ、澄んだ瞳からは快活そうな印象を受ける。上半身は巫女服を改造したらしい長袖の衣装であり、下半身にまとうのはこれまた巫女服の原型が赤い色くらいしか留めていないミニスカート。そこから伸びるスラリとした生足は清純な色気を醸し出していた。

「んー……冷えるなあ。えーと、今日は……」

 少女はひとつ伸びをすると、机にかけてあるカレンダーに目をやった。

 時期は一月の暮れ。まもなく二月に移ろうかという月末。まもなく自分が『管轄』する二月……。

「そろそろ行こうかな……」

 少女は『如月』と書かれた名札を下げたバッグを背負うと、一月を管理している姉の元へ向かった。

 

 数十分後、姉である睦月の家に着いた如月は、ざっと周囲を見回して一安心した。外観は神社だがちゃんと境内から参道、鳥居まで綺麗に掃除され、人が手を加えたのは明らかだった。

 ややズボラな面もある姉だが、しっかり掃除もしているのなら仕事もしっかりこなしているだろうと思って戸を開けて……。

「げ……」

 いざ入ってみれば部屋は散らかり放題荒れ放題。板張りの床は足の踏み場もないほどごちゃごちゃとしており、かろうじて中央にある布団に人が寝ているのは確認できた。

 恐らく、あれが、

「睦月姉さぁぁぁんんん……!」

 こめかみに青筋を浮かべながらぴょんぴょんと床の隙間を縫い、布団まで近寄ると勢いよくそれを剥ぎ取った。

 

「……はああぁぁ~……」

 再び、如月は頭を抱える。姉は巫女装束を柔道着か何かと勘違いしているのだろうか。

 大の字で寝ていたらしい睦月の胸元は大きくはだけ、緋袴は捲れがり白い太ももが付け根まで露出している。ただでさえ神に真っ向から喧嘩を売るようなけしからん体つきの睦月が、こうも無防備に肌を晒して寝ていれば世の男どもは何をするかわからない。もっとも月娘たちが人間界に直接赴くことは極めて稀なので、そういった間違いが起こる可能性は皆無に等しいのだが。

 と、『節操のない』姉に対して肌は露出させても『節操のある』と自覚している如月が、これからどうこのおっぱいお化けを起こそうかと思案していた時、

「う~ん……寒いよぉ……」

 布団を剥ぎ取られたからか、身体を色っぽくくねらせて掛け布団を探す睦月。だがそれは如月の手にあるのでもちろん見つかるはずもない。

 

 このままにしておけばいずれ目を覚ますだろうが、これが原因で姉に風邪を引かれては忍びないので仕方なく、仕方なく起こすことにした。

「姉さん、起きて。もう一月も終わっちゃうよ?早く残りの仕事片付けて……うっ」

 如月の言葉が止まった。その目線は睦月の頭の方向に、無造作に積んである紙の束。チラチラと垣間見える文字をみる限りこれは月娘の仕事の書類。それが見事に真っ白な状態で放置されている。

 主な仕事は『管轄』する月内の天気から、人間界で大きな問題が起きないように監視の仕事。次の月娘に今月起こった主な事案をまとめたり、といったことが主である。

 それがどうだろう。かろうじて天気の調整はやっているようだが、それ自体も細かくやってはいないようで、その日分を適当に書いただけであとはほったらかしだ。こんな有り様では恐らく自分に向けた報告書など期待するだけ無駄だろう。

 

「……」

 バチーン!と如月は無言で睦月の頭をひっぱたいた。

「いっ、たぁ~……」

「何寝ぼけてるの!仕事全然終わってないじゃない!」

「……ほえ」

 隣で如月が怒鳴り散らしても、睦月の目は焦点が合っておらず、如月のことを認識しているかどうかすら怪しい。

 仕方ないので睦月の双肩をガシッと掴むと、ガクガクと前後に激しく揺さぶった。

「起きなさいいいいいいいいいい」

「あららららららららららら」

 首がどうにかなってしまうのではと心配してしまうほどに揺さぶったが、そのおかげか睦月は完全に目を覚ましたようで、如月をその視界に納めると相好を崩し、

「あら如月ちゃん、こんにちは。今日はどうしたのかしら?」

「どうしたもこうしたもないっ!もう月末だしそれにこの部屋!汚い!」

 如月は睦月の顔を両手でロックすると、ぐるりと部屋の惨状を見回させる。

「どうなってるの!姉さんがこんなだから正月気分が抜けきらない人が増えるんでしょうが!」

「えーとねえ?やろうやろうとは思ってはいたんだけどぉ、ね?」

「ね?じゃない!それに仕事!天気も適当みたいだし、報告書はこの有り様!」

 如月の手で真っ白な紙の束がヒラヒラと揺れる。

「これは絶対にしてねって去年あれほど言ったのに!」

「それは如月ちゃんがやってくれるって言うから……」

「私だって毎日一月のことを監視してる訳じゃないの!」

 妹に散々叱られ、しゅんと肩を落とす睦月。

 如月はひとつ、ため息をつくと、周辺に散乱している容器やゴミなどを集め始める。

「さ、まずは部屋の片付けから。次は報告書の作成。わかった?」

「はぁい……」

 私生活がだらけきっている姉を更正させるプログラムが始まった。

 

「ふぅ、こんな感じかな」

 夕刻、すっかり小綺麗になった床張りの一室。隅にはきちんと分別されたゴミが袋詰めで積まれている。

「さ、次は報告書だね」

「ふぇえ……もう明日にしようよぉ……」

「ダメ!私は今日帰るんだから、私がいないとすぐに元通りでしょ!」

 一日中部屋の掃除をさせられ、すっかりバテた睦月を休ませる気など毛頭ない。なんとしてでも自分がいる内に仕事を一通り終わらせなければ。

「はい!まずは第一週!何があった!?」

「んー……師走ちゃんが来て、一緒におせち食べて……」

「個人的なことはいいの!っていうかまた師走ちゃん連れ込んで!」

 どうやら姉は元旦から友人を連れ込んでいたらしい。師走はやや流されやすい性格なのもあるが、それでも月娘としての責任感はしっかりとしているはずだ。それがこのポケポケ月娘に毒されたか、聞く限りでは三が日の間ずっといたそうな。

 その後の報告もやる気のない睦月では要領を得ない。これがなければ前月の人間界の出来事や暮らしぶりがわからず、次月の月娘が好き勝手調整すると微妙な『ズレ』が生じてくる。

 例えばもし睦月が一月を平年に比べて暖かく調整していたなら、それを報告書に記載しなければならない。基本的に月娘は十一月と十二月担当の霜月と師走姉妹や、一~三月担当の睦月、如月、弥生姉妹のように、密接な関係を持つ月娘たち以外は基本的に他月に対しては無頓着だ。そのためもしそのことを知らぬまま次の月娘に『管轄権』を譲渡した場合、このケースで言えば如月が平年より寒気を厳しく調整してしまうと、一月と二月で極端な温度差ができてしまうのだ。

 この『ズレ』を最小限に抑えるために報告書があるのだが。

 

「で?姉さんは今回の一月はどんな感じに調整したの?」

「あー……うー……その……適当に」

「……だろうと思った」

 如月は今までの疲れがどっと出たように床に突っ伏した。それにあわせて短いスカートがかなり危ういラインまでずり上がる。

「あらあら、如月ちゃんはしたないわよ?」

「あたしはバレンタインデーとかある女の子の月だからいいのぉ……っていうか姉さんに言われたくない……」

「如月ちゃん」

 いつにない真面目な声の睦月。それに反応して如月も顔を上げる。

「今までごめんね。私が姉としてしっかりしてないばっかりに……」

「姉さん……」

 如月は胸にじんと来る何かを感じながら姿勢を正す。

 睦月は如月の肩に手を置き諭すように、

「でももう心配しないで?私は一人で大丈夫。だから如月ちゃんはもう帰っても……」

「……なぁーるほど」

 如月はガシッと睦月の腕を掴む。その手には『管轄権』の所持者を表すサイコロ。

「あ……」

「そうだよね。これがポケットに入れられたって気付かずに私が帰ったら一月の残りもあたしが担当しなきゃいけなくなるもんね。時間の逆行はできないから、あたしに全部押し付ければ万事解決だもんね」

「あの……ね、これは……」

「問答無用!」

 睦月の悲痛な、しかしどこか楽しそうな声は夜分遅くまで続いた。

 

「んー……」

 日が高く昇った頃、睦月はむくりと身体を起こす。

 見渡せば添い寝していたはずの如月の姿はなく、代わりに簡単に作られた朝食用と思われる和食が並べられていた。そのどれもが冷めてもおいしく、かつ胃に優しい食材で作られている。

「あらあら如月ちゃんったら……」

 なんだかんだ言いながら、結果的にすべて自分のことを思ってくれているからと理解しているからこそ、そればかりに頼っていてはいけないと思ってはいるのだが……、

「あまり優秀な妹、っていうのも姉を駄目にするのかしら」

贅沢な悩みを抱えながら、今日の予定を確認する。

(んーと、今日は久しぶりに人間界に行ってみようかしら?あ、その前に明日一日の天気を決めないと。次に会ったら如月ちゃんが驚くくらいしっかりしたお姉ちゃんになってるんだから)

 そう決意して一日の天気を決定させに向かう睦月。と、そこである違和感に気付いた。

「あら……?サイコロが……」

 枕元に置いていたはずのサイコロが見当たらない。もしやと思い自分の服をまさぐるが見つからない。

「そんな……せっかくしっかりしたお姉ちゃんになるって決めたのに……!」

 こうして睦月のサイコロ大捜索が始まった。

 

 睦月宅からの帰り道。如月は掌でサイコロをいじりながら一人呟いた。

「まあ……二月は日数が少ないから一日二日増えてもいいんだけどさ……」

 そして少し、意地悪そうに笑みを浮かべて、

「ちょっとは慌ててくれるかな?」

 足取りは軽く、このあと半泣きの睦月が自宅に押し掛けてきて謝罪してくることを想像だにしていなかった。




まずはここまで読んでくださった皆様に感謝を。
さて、書き上げて思ったのですが……拙作の主人公である彼女たちの通称「月娘」の読みは「つきむすめ」でも「つきむす」でも構いません。しかし別にあの某大人気美少女艦隊ゲームから取ったわけではありませんので……その辺りはあまりお気になさらず。
そして前書きにも書きましたが「一ヶ月に一話」というのは仮にも物書きをしている者にとって短編を仕上げる最低ラインだそうです。それを意識して始めたこの作品ですが……正直二話目にして挫折しそうになりました。締め切りに追われるプロ作家の方々の気持ちがほんの少しわかったような気がします。悔やむのは終盤のはしょり感。ああ文章力が欲しい……。
今回はこの辺りでお別れです。機会があればまた次話でお会いしましょう。
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