一年物語   作:りろぶこん

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まずは謝罪から。
本当に申し訳ありません。拙作を楽しみにしてくださっている(数少ない)方々を裏切る一年に渡る失踪……。自分で何かしら活動報告はしていくと言いながら……人としてどうなんでしょう。
そんな私ですが、これからも生暖かい目で見守ってくだされば幸いです。
いつも通り多くは……ってそこそこ語りましたが、多くは後書きで語るとしましょう。


三月の弥生ちゃん

「ん……」

 寒風の中にわずかな春の陽気が混じってきた。それでもまだ一日を通してそこそこ寒く、朝はどうしても布団から出たくなくなってしまう。

 そんな怠け心を己の意思で押し潰し、如月は布団から這い出た。

 ミニの緋袴に薄手のノースリーブ型改造巫女服と、二月とは思えない格好だが、これが如月の普段着である。あえて寒気に身を晒し、強引に意識を覚醒させると、慌てて壁掛けカレンダーに目をやった。

「うわ……あたしのしたことが……」

 日付はもう二月の末。自分の記憶が正しければ、三日は二月の管理をしていないことになる。

「これじゃあ姉さんと同じ……!弥生に示しがつかないよぉ……!」

 自堕落な生活を送る一月担当の姉と、自分の後を務める妹のことを頭に浮かべながら、大慌てで残りの作業に没頭した。

 

 俗に、世間は一月、二月、三月のことを『行く、逃げる、去る』と表現することがある。どれも感覚より早く時が経ってしまうという意味だ。

「……そろそろ」

 二月も終わりに近づいた頃、神社風の如月宅の玄関前で、巫女装束に身を包んだ一人の小柄な少女がぼんやりと呟いた。

 名を弥生。三月を担当する月娘にして、睦月と如月の妹に当たる。身長は人間で言えば150センチに満たない程度。やや薄い栗色の髪は肩口で綺麗に切り揃えられ、前髪も眉毛の辺りで一直線に揃っている。姉とは違い、瞳には生気が無く、か細い声色も相まって存在感は相当に薄い。

(姉上……いないのかな)

 微動だにせず直立しながら、弥生は如月宅の和風玄関をじっと見つめながら、そんなことを考えていた。

 と、今日の所は諦めて帰ろうかと思った矢先、ドタドタと慌ただしい音が聞こえてきた。直後、玄関を蹴破るようにしてスポーティーな改造巫女服を纏った如月が飛び出してきた。

「あ、如月姉様。この弥生、ただ今参りまし……」

「そろそろ弥生が来る頃だ……!まずいまずい……!」

 隣の弥生など目もくれず、如月は疾風の如く駆け抜けた。

 

「ふぅ……とりあえずこれくらいかなー」

 如月は右手に下げた買い物袋の中身を確認しながら、そろそろ訪ねて来るであろう妹の喜ぶ姿を思い浮かべて思わずにやけた。

 袋の中には大量のチョコレート菓子。久しぶりに人間界に赴き、バレンタイン商戦で売れ残って安売りされていた分を買い占めてきたのだ。

「あっ……飲み物忘れた……ま、いっか。家に緑茶あるし……」

 ぶつぶつ言いながら家の前までたどり着いた。さすがにこの改造巫女服姿では少々目立ちすぎたかなーと呟きながら、

「……っと」

 何かにぶつかった。だが周囲を見回しても、自分を阻む物は何もない。

「……おっかしいなー」

 トン、と再び歩みを進めた瞬間、再度何かにぶつかる。その衝撃で袋からいくつかのチョコレート菓子が転がり落ちた。

「もうっ、何なのよ!」

 苛立ちながら落ちたチョコレート菓子を拾い集める如月。最後のひとつに手を伸ばした時、スッとそれが拾い上げられ、差し出された。

「ああ、ありが……と、う……」

「こんにちは如月姉様」

 ここにきて初めて、如月は弥生の存在を認めた。

 

「本っっっ当にごめん!気づかなかった!」

「いえいいんです……どうせ三月なんて影薄いんですし……」

「そ、そんなに落ち込まないで!ごめんなさい!」

 場所は如月宅の畳敷きの居間。その中央で正座する弥生の正面で、如月が全力の土下座を敢行していた。

「いや本当に!あたしが買い物に行こうとした時からいたなんて、それで帰ってくるまで待ってたなんて気付かなかったの!」

「お気になさらず……三月なんてそんな物ですし……気付いたら過ぎていた、そんな月です」

「あうっ……」

 この世の終わりのような顔で弥生を見つめる如月。

 弥生としては、別に謝る如月を追い詰めようとかそんな気は毛頭ない。ただイベントの多い一月、二月に比べたら三月というのは印象の薄い月であり、新学期の始まる四月に向けての準備期間という印象が強い。そのため自分のことに気付かなくても問題はない……そう伝えたかったのだが、どうも自分の口調と印象で変なイメージを与えたらしい。

「お顔を上げてください、如月姉様」

「……怒ってない?」

「はい、慣れたことですから」

「本当に?」

「はい」

「この前こっそり弥生の和菓子食べちゃったことも?」

「……それは初耳ですね」

 しまった、という表情の如月の前で、無表情に佇む弥生のオーラが増していった。

 

「ん……如月姉様のお茶、いつも美味しいです」

「そ、そう?ありがとう」

 何度も存在を見逃した上、和菓子盗み食いまで(偶然)判明してしまったが、どうやら弥生は不問にしてくれるらしい。礼代わりに、弥生の前にはチョコレート菓子が山と積まれている。

 ここにきて熱い緑茶にチョコレート菓子の組み合わせはどうなんだと思い始めたが、如月自身チョコレート類には目がなく、一人でよく同じ組み合わせで食べているので問題ないだろうと自己完結する。

 ともあれ弥生の影の薄さは尋常ではない。

 元より月娘は各々が管理する月の特長や特性を色濃く受ける。なので師走は年の瀬を象徴するように慌てん坊だし、六月担当の水無月はかなりじめじめとしてネガティブな思考回路の持ち主だ。

 そしてこの弥生である。今でも如月が意識して彼女を見ないと、姿が透けてその向こう側の畳が見えてしまいそうな程だ。

 前は新年とバレンタインデーの月に、後ろは新学期とゴールデンウィークにそれぞれ挟まれた『三月』はこれほど影の薄い物なのか……と如月は自分の妹を前に改めて感心した。

「一応……卒業式とかあるんですけどね」

「はうっ」

 ボソッ、と弥生が呟き、如月が再び固まった。もちろん弥生は何かを不快に感じて放った発言ではない。

「そっ、それよりほら!チョコ食べて食べて!」

「ありがとうございます」

 そう言って弥生はお茶をすすり……そのまま無表情でじっと如月を見つめる。

「そういえば如月姉様」

「な、何かな?」

「毎年この頃は如月姉様お手製のチョコレート和菓子が完成する頃ですよね。進み具合の方は……」

 ダッ、と弥生が言い終えない内に、如月が持ち前の脚力で隣を駆け抜けると、間もなく白を基調とした品のある皿を持ってきた。そして弥生の横で正座すると、

「どうぞお召し上がりください」

「……どうして敬語なんでしょうか」

 皿の上には、梅の花をモチーフにした和菓子がひとつ乗せられている。だが花弁はチョコレートで作られており、白い皿とのコントラストが美しい。だがすべてをチョコレートで作るのではなく、中央の部分に黄色い素材を使用することにより、白黒二色の単純さの中にまさしく一輪の『華』を咲かせている。

 

 作りは非常に素晴らしい。素晴らしいのだが弥生としてはこれを持ってくるよう催促した覚えはないし、そもそもそこまで図々しいことはしない。

 思い当たる事といえば先程和菓子の進捗状況を伺おうとしたことを如月が勘違いしたか……。

「如月姉様、これは受け取れません。本来三月の終わりに睦月姉様と手作りの和菓子を持ち寄る時のものではないですか」

「……ふぇ」

 情けない顔で如月が顔を上げる。

「……怒ってないの?」

「もう慣れたことと先程申し上げたはずですよ」

「弥生~」

 今度こそ如月はパッと表情を輝かせ、弥生に抱きついた。

「ずずっ……」

揺さぶられながらも、弥生は器用にお茶をこぼさずすする。

「ねえねえ聞いて!睦月姉さんったらね……」

 そして如月のマシンガントークが始まる。一年に数回しか会えない妹に、今までの思い出を語り尽くさんが如く。

 

 翌日早朝。如月宅玄関前にて。

「それでは如月姉様、お世話になりました」

「またね~。次は三月の終わりかな」

「そうなりますね。では失礼します」

 ぺこりと一礼して、弥生は背を向けた。如月の見送りを経て、そのまま帰宅の道を辿る。

 道中、ふと弥生は気付く。

「……『管轄権』を受け取るのを忘れました」

 まだそんなに距離は離れていない。弥生は振り向くと、今来た道を引き返そうとした……その時だった。

「弥生~!」

 如月が『管轄権』の所在を示すサイコロと、気候決定用の紙の束を持って走って来ている。

 弥生はそのまま立ち止まり、

「如月姉様、申し訳ありません。私がうっかりしていたばっかりに……」

「弥生~!」

 スタタタ、とそのまま弥生に気付かず横を駆け抜けた。

「……お昼過ぎには戻ってくるでしょう」

 しばし思考に空白が生じた後、しばらく見つからなければ戻ってくるだろうと考え、再び如月宅へと進路を向ける弥生。

 誰かに気付かれなかったり、人を待つのは慣れている弥生だが、この後夕方まで待つことになるとはまだ夢にも思っていない。




まずはここまで読んでくださった皆様に感謝を。
見事に一年経ちました。私の事など覚えている方はいらっしゃるのでしょうか……。
さて今回は三月の弥生です。さてここで三月産まれ、もしくは三月に何かしら深い思い入れがある方々に謝罪をば……。三月を散々に書いて申し訳ありません。影が薄いだの、気が付けば過ぎているだの……。誠に勝手ながら、ひとつの作品として割り切っていただけますと嬉しいです。
それでは今回はここでお別れです。機会があればまた次話でお会いしましょう。
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