一年物語   作:りろぶこん

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恨むのなら計画性のない自分を恨むんだな……読んでくださっている方が(多分)いるのだから……。
いつも通り多くはあとがきにて語るとしましょう。


六月の水無月ちゃん

「暑い……」

 布団を蹴り飛ばし、安眠を熱気によって無理に妨げられた皐月は上半身を起こす。

 五月も末。柔らかく、温もりに満ちた太陽が、段々と熱波を伴い肌を焼く。

皐月にとっては辛い季節。だが本格的な酷暑が来る前にひとつ、潤いに満ちた期間がある。

「そろそろ……梅雨かなー……水無月は何してるかなー」

 自分の次の月の担当である月娘のことを考えながら、皐月は再びまどろみの中に沈んでいった。

 

 ランプに火が灯っている。光源はそれしかなく、耳が痛い程の静寂が部屋を支配していた。

 ペラ……と、ランプの近くから何か紙をめくる音が、やけに大きく響いた。椅子に腰掛け、分厚い本に視線を落とす長身の少女。

 漆黒と言っても過言ではない黒のロングスカートにブラウス。そしてそれに対をなすかのように、白磁のような美しく整った顔立ち。触れれば折れてしまいそうな程、繊細でほっそりとした指が再びページをめくった。

「……遅いわね」

 と、少女は闇に溶け込むような黒い瞳を伏せ、ページをめくる手を休めてそう呟いた。

 

「……」

 しばしの間、何か思いを馳せていたが、ゆっくりと目を開くと手近にあった黒い羽根つき帽子を手に取り立ち上がる。

 少女の名を水無月。

 六月を司る月娘である。

 

 皐月宅にて。

 皐月とて一日中ゴロゴロしているわけではない。昼も過ぎれば布団から起き上がって活動を始めている。

 現在、朝食を抜いたことによって空腹なので、冷蔵庫から適当に材料を引っ張り出して調理を行っているところである。

「うーん……食べ終わったら水無月ちゃんに会いに行かなきゃ……あんまり外には出たくないんだけど……」

 ぶつぶつ言いながらさっさと一品作り上げる皐月。

 聞こえはいいが作ったのは技術もセンスもへったくれもないスクランブルエッグと野菜炒めである。

 両方に胡椒をさっと振りかけ、いざ本日初の食事……といった瞬間にインターホンが鳴った。

(……デジャブ……?)

 約一月前にもこんな状況があったなと思いつつ、食事を待ちわびる体に鞭打って玄関へと向かう。

「はーい……どちらさ……ってそうだよねー」

 ドアを開けた途端に視界が黒く塗り潰されたのを確認し、首をぐいっと上に反らす。

「いらっしゃい水無月ちゃん。早いね」

「……面白い冗談ね」

 水無月の目から軽い殺意を感じ取り、皐月は慌てて室内へと迎え入れた。

 

「いやー行こうとは思ってたよ?思ってたんだけど……あ、一緒に食べる?何か作ろうか?」

「……遠慮しておくわ。自分の分は持って来ているから」

 若干冷や汗を流す皐月に対し、漆黒の衣装を纏う水無月はあくまで冷静だ。持参したバッグをテーブルの上に置くと、中から手頃なサイズの風呂敷包みを取り出す。もちろん真っ黒の。

「あ、水無月ちゃんも料理するんだ」

「……料理、と言える代物ではないわ」

 そう言って包まれていたのは目にも鮮やかに整えられたサンドイッチだった。

 卵、ハム、レタス、トマトといった一般的な具材の他に、薄切りのハムカツやシーチキンといったものまで多種多様に、かつ均一の大きさで作ってある。

「女子力……!」

 自分の方にあるただ卵を焼いてかき混ぜただけの一品と、余った野菜を焼いただけの代物とどうしても比較してしまい、そして落ち込んだ。

「……どうしたの?元気ないわね」

「……お気になさらず」

 この後、両者ローテンションで昼食を終えた。

 

「……それで、言い訳は聞きたくないけど」

「う……」

 蛇に睨まれた蛙状態の皐月は、もじもじしながら歯切れ悪く、

「いやね……さっきも言ったけど、決して行こうと思わなかったわけじゃ……」

「……それを言い訳と言うのよ」

「……はい」

 ふぅ、と水無月はひとつ呼吸を置き、

「……で、仕事の方は?」

「……ええと、これです……」

 五月分の管理表にじっくりと目を通す水無月。

 毎年五月は連休がある都合上、非常に天候管理に気を使う。悪天候が多ければ人々の不満が溜まるし、決して適当に晴天にしておけばよいというわけでもない。

 反面、休日という概念が一切ない六月を担当する水無月は、梅雨という時期もあり、雨を多目に調整していれば間違いないので、そういう点においては皐月を軽く尊敬すらしていたりする。決して口には出さないが。

 

 その長身、落ち着いた口調、一年の中央を司るという意味もあり、月娘の中でも特に「お姉さん」という印象を持たれる水無月。とりわけ十一月、十二月担当の霜月、師走姉妹は季節の壁を越えて慕ってくれてはいるのだが、水無月自身、他人と関わるのが苦手なタイプであり、故にいつも一人で本の世界に閉じ籠りがちになる。

 そしてそれで得た知識の量からますます月娘の中でも「お姉さん」であり「相談役」といった立場に置かれてしまっている。

 純真無垢な霜月、師走はさておき、皐月のように気軽かつ友人のように応対してくれる存在というのは結構貴重だったりするのだ。

 

 引き継ぐ相手である文月は、非常に快活な元気娘だが、その文月を持ってして水無月とはやや事務的な会話になるのだから、水無月のコミュ障っぷりは尋常ではない。

 こうして距離を置かずに話せる皐月だからこそ、積極的に話したいのだが、どうしても天性の冷たい印象は拭えていないようだ。

 

「……平年より気温は高め、ね……よく出来ているわ」

「ほんとっ!?」

 水無月のお墨付きを貰い、喜ぶ皐月。

「いやー私だってやれば出来るのさ!どうして他のみんなは私が毎日毎日一日中ゴロゴロしてるって思うのかなー!」

「……じゃあ……」

「それでね!卯月ったら酷いんだよ!この前……」

「……私はこれで……」

「そういえば如月ったらね!先月……」

「……」

 肩の荷が下りたのか、急に饒舌になる皐月。

 それに気圧され、どうも自分は帰ると言い出すのが難しくなってしまった。無論、皐月の話自体は非常に面白いのだが、それの感想を求められても、そもそも関わりの薄い月娘のことなど知らないので答えようがない。かといって無言では印象が悪いので、軽く相槌は打つがもう限界だ。

「……いい加減にして。私は帰るわ」

「あうっ……」

 スッと椅子から立ち上がると、書類と風呂敷をバッグに詰めてさっさと帰り支度を終える水無月。

「……それじゃ」

「ご……ごめんなさいでした……」

 完全に萎縮した皐月は上ずった声で謝罪する。

(……やってしまった……)

 付き合いが苦手というか不器用な水無月は、その様子を見て心中で頭を抱えた。

「……また何かあったら相談に乗るわ」

 自分でもよくわからないフォローを入れて、逃げるように皐月宅を後にする。

 帰路にて激しく後悔しながら、自分のコミュニケーション能力の低さを呪う水無月だった。

 が、水無月の焦ったフォローが皐月を地味に救い、近日中に遊びに来ることを、彼女は知らない。




まずはここまで読んでくださった皆様に感謝を。
さて水無月登場。雰囲気としては『咲-Saki』の姉帯豊音を思い浮かべていただけると幸いです。もちろん性格は違いますが。
もう六月ですか……早いものです。いずれ野球とかプロレスとかを題材に書いてみたいですが、さっさと今の連載を畳まねば……。
今回はこの辺りでお別れです。機会があればまた次回お会いしましょう。
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