一年物語   作:りろぶこん

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タイトル詐欺になっちまった!
いつも通り多くはあとがきにて語るとしましょう。


七月の文月ちゃん

 漆黒の闇にぼんやりと灯りが浮かぶ。細い蝋燭が入ったランプだ。

 それに照らされて、ランプの持ち主の姿も露になる。スラリとした長身に、白磁のような美しい肌。憂いを帯びた黒い瞳はその肌とは妖艶なコントラストを描き、纏う漆黒の衣装は高貴な雰囲気を醸し出す。

 水無月。六月を司る月娘である。

 

 梅雨も末期。雨の合間に差す日射しは夏の到来を告げている。

 そんな美容の敵である直射日光の中、水無月は黒い羽根つき帽子を目深に被り、いつも通り黒のブラウスとロングスカートで目的地へ向かっていた。この天候で水無月のような服装では熱中症になってもおかしくはないが、彼女の頬には一筋の汗も伝うことはない。

 ほどなくして到着したのは、広い庭付きの一軒家だ。外観はこれといった特徴もなく、強いて言えば涼やかな白い外壁に、大きな窓から風に煽られたこれも白いレースのカーテンがはためいていることくらいか。

 

 門扉の前で、インターホンを鳴らそうかとしばし動きを止めていた水無月。その耳に、何やかすかにパシャパシャという水音が聞こえてきた。

 一瞬考えてから、水無月は躊躇なく門扉を開き、そのままドアではなく庭の方へ向かった。

「いるのでしょう……?文月」

「お」

「あら」

 門扉からは家の陰に隠れて見えない位置。そこにビニールプールを広げてプカプカ浮いているスレンダーな女性と、ビーチチェアに腰掛け、ビーチパラソルの影で優雅に氷皿に乗ったフルーツを食べるグラマラスな人影が視界に入る。

 

「いらっしゃーい、漆黒の女王様ー」

「あら、水無月ちゃん。久しぶりね」

「……文月だけかと思っていたけど……」

「あら、葉月がいると不満かしら」

「……いいえ、別に。それとその呼び方はやめなさい、文月」

 七月を司る月娘、文月がビニールプールに浮かびながらケラケラと笑う。

 ショートカットの茶髪に悲しいくらいに身体の凹凸がない体型の少女。ビキニを着用しているのを見ると、水無月としても何か同情してしまう面もある。だが本人は健康的に日焼けしたいのだろうと無理矢理自分をごまかした。

「ははっ、ごめんごめん。こんな暑い日でもかわんないねー水無月」

 続いて文月とは対極の体型。豊かな胸と適度な肉付きの尻をセパレートタイプの水着で覆った八月を司る月娘、葉月が、セミロングの金髪をなびかせ声をかける。

「相変わらず暑苦しい格好ね。冷えたフルーツでもどう?」

 そういって手元にあるみずみずしいリンゴを水無月の方へ差し出す。

「遠慮しておくわ……私が用があるのは文月、あなたよ」

 語尾を若干強く、やや棘のある口調で文月を名指しした。わずかな違いではあるが、こういった他人の微妙な感情の変化を読み取るのが上手い皐月あたりが今の言葉を聞いていれば、慌てて文月をプールから引っ張りあげでもしただろう。だが当の文月は、

「んー?ああ仕事?もうちょっと後でいいじゃーん」

 

「……」

 水無月は沈黙する。そしてどうもこの二人は苦手だと再確認した。

 文月と葉月。両者は非常に仲がよいのだが、どうも他人との接触及び会話を面倒くさがる傾向にある。

 葉月はまだしも、文月はそれが顕著だ。元々七月、八月は、極端に言えば『暑くしておけばいい』という季節なのに加え、考慮せねばならない大きな祝日や行事がない。微妙な温度変化を日々考えねばならない六月や九月に比べ、仕事の内容自体は非常に簡単だ。

 

 仕事の内容云々で水無月が文句を言うつもりはさらさらない。それでも真面目な性格の彼女としては、与えられた役目くらいは適当に放り出さずにしっかりとやって欲しいのだが……。

「いつまでそこに立ってんのー?そうだ、水無月も一緒にプール入ろうよ!水着貸すからさ!」

「……あなたが仕事を真面目にしてくれるなら考えるわ」

 人前で肌を晒すなどまっぴらごめんだが、軽い冗談のつもりで言った。はずだった。

「だってさ葉月」

「これはもう……水無月ちゃんの水着姿が見られるのでしょう?やるしかないわね」

「よっしゃ!」

 ザパッ!と文月はプールから跳ね上がると、

「仕事の話、さっさと聞かせてよ。ちゃんとやるから後で水着姿お披露目ね!」

「え……私はそんなつもりじゃ……」

 急にやる気を出した文月に対して珍しく戸惑う水無月。そして文月がかなりの気分屋であり刹那的快楽主義者でもあることを思いだし、先程の発言を後悔した。

 

「それで……五月と六月、平年よりも気温は高めに調整してきたわ……でも」

「ふむふむ、それで七月以降も高めに調整したら熱中症とかが増えるから抑えめに。そうすれば気温の変化が少ないから対策もしやすいってことだね」

「……ええ」

 やる気を出した文月の集中力は凄まじい。薄手のTシャツと短パンに着替え、正に『一を聞いて十を知る』状態だ。

 できるだけ話を長引かせ、夕暮れ時に日没を理由にして逃げようかと考えていたが、これではまだ日が高い内に終わってしまいそうな勢いだ。

「よし!引き継ぎ終わり!」

 そうこうしている間に、引き継ぎがすべて終了してしまった。半ば祈るようにして外を見るが、どうも時間を理由にはできない状況だ。

「葉月~」

「さあさあ水無月ちゃん。あなたは黒系が好きなんでしょ?だから黒っぽいのを適当に見繕ってきたわ。好きなのを選んでいいわよ」

 背後から聞こえた悪魔の囁きに振り返ると、そこには正気とは思えないほど面積の狭い布切れが積まれている。

 とてもじゃないがこんなものは着られない。その旨を葉月に伝えると、何やら布切れの束を漁って、

「これが一番面積が広いわね。サイズも水無月ちゃんに合うんじゃない?」

 そういって差し出されたのは辛うじて水無月の許容範囲レベルの黒いビキニだった。

「さ、着替えて着替えて」

「あたしら外で待ってるからー」

 そういって二人は庭のビニールプールの方へ向かった。

 

「しっかし、葉月も意地悪だねえ」

「あら、なんのことかしら?」

 文月の言葉に、葉月は白々しく返答した。

 葉月が渡した水着は確かにサイズ的には長身の水無月にとっては丁度いいだろうが、それに釣り合うレベルのバストを持っていなければならない代物だ。水着の知識に乏しいだろうと読んで葉月が薦めたのだが、まんまとかかったようだ。

「葉月は水無月の体型、どう思う?」

「そうねえ、見る度にあんな服装だから勘違いしちゃいそうだけど……厚着で貧相な体型を誤魔化してるんじゃない?」

「だよねー、いっつも真っ暗な場所にいるんでしょ?それじゃあもやしだよ」

 ビーチパラソルの下で二人は笑う。と、その時、

「着替えたわ……」

 二人の背後、はためくカーテンの剥こう側から、もじもじした水無月の声が聞こえてきた。

「お、早く早く!」

「水無月ちゃんの水着姿を拝めるなんて……世界で私たちが初めてじゃない?」

 

 二人に促されるようにして、カーテンをめくって水無月が姿を表す。

「……え」

「……あら?」

 文月と葉月は言葉を失った。

「どうしたの……もう恥ずかしいから着替え直していいかしら……」

 そこには渡された水着を完璧に着こなし、わずかに顔を紅潮させながら、持参物である黒い羽根つき帽子を被る水無月の姿が。

 長身かつ無駄な肉のない身体。かつオーバーサイズと思われた水着を持ってして支えるのが精一杯とさえ見える豊満な胸。スラリと伸びた脚は傷ひとつなく、もっちりとした突き立ての餅を連想させるヒップにつながり、食い込む水着がえもいわれぬ色気を醸し出す。

「ああ……」

「そんな……」

 文月はもちろんのこと、月娘界において自分のスタイルと並ぶ者は睦月くらいと思っていたのに、こうしてまざまざと『敗北』を目の当たりにして、白く燃え尽きてしまっている。

「……もういいでしょう……私は帰るわ……」

 絶句する二人を尻目に、水無月は振り返って着替えようとする。

「「ど、どないなっとんじゃー!」」

「……っ!」

 二人は我に返ると、ガバッ、と背後から襲いかかりそのまま胸を揉みしだいた。

「この……この感触……」

「本物……!」

「やめっ……水着がずれるから……いい加減になさい……!」

 顔を真っ赤にしながら二人を振りほどこうとする水無月。だが予想を『裏切られた』両者の執念は凄まじく、彼女が無事に帰宅の途につけるのはまたしばらく先のこととなる。




まずはここまで読んでくださった皆様に感謝を。
はいどう読んでも主人公は水無月ですありがとうございました。
サブタイ文月って書いとるやんけ!ただのモブに近いやんけ!……申し訳ありません。水無月を使いたかったんです……気づいたのが執筆終了間際という……。フライングで葉月まで出してしまった。次どうするの……。
今回はこの辺りでお別れです。機会があればまた次回お会いしましょう。
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