超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!   作:あるふぁせんとーり

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衝動書きです


第一帖 千年前の物語

「ごめんね、あの続きは……もう書けなさそう」

 

「おしゃべりだけで精一杯だから……最後に、聞いてほしいんだ」

 

「あの子のこと、いっぱい話してくれたよね。……でも、あなたがその子を好きなくらい、私もあなたが好き。だからきっと──」

 

「……うん、約束する」

 

「何度生まれ変わっても、必ずあなたに……あなた達に、会いに行くって」

 

 

 それで……一緒に、ハッピーエンドを──

 

 

 

 

「──っ、またこの夢……」

 

 

 近頃、変な夢を見る。

 

 私は白い着物を着て、重くてだるい体を起こして、もふもふのウミウシみたいな生き物と話してる夢。

 

 話してる内容は毎回違うけど、どれもデジャヴみたいな、どこかで聞いたような記憶があって、ずっと心にこびりついてるみたいだった。

 

 でも、いつも怖いくらいに丸い月が出てたことだけは、はっきりと覚えてる。

 

 

桜楽(さくら)ー! 終業式遅れちゃうわよー!」

 

 

 そんなもやもやを躊躇なく薙ぎ払うママの声。

 

 私は慌てて布団を丸め、毎日のように披露している特技の早着替えの後に部屋を飛び出す。

 

 

「ほら、バスに遅れちゃ」

 

「いただきますいってきます!!」

 

「……もう、あの子ったら……」

 

 

 頬張ったハムチーズサンドを手も使わずに無理矢理喉奥へ押し込み、キジバトの鳴き声が響く住宅街を全力疾走する私。

 

 出発寸前の市営バスの運転手は今にも扉を閉めようとしていたが、サイドミラーに映る爆速女子中学生にギョッと驚くと、慌てて扉を開放した。

 

 

「ふー……ギリギリセーフ……」

 

 

 息を整えながら吊り革を握る左手と、スマートフォンを開く右手。

 

 ちょいちょいっとSNSをスクロールしていると、その中の一人のライバーの切り抜きで自然と指が止まった。

 

 

「あ、ヤチヨだ……ヤッチョやっぱ可愛いな〜」

 

 

 月見(るなみ)ヤチヨ。

 

 巨大プラットフォーム的仮想空間「ツクヨミ」の管理AIにして、そこのトップライバー。

 

 歌えるし踊れるし分身も出来る自称8000歳。

 

 SNSやインターネットというものにはあまり聡くない私にとっては一番の、そして唯一と言って良い「推し」だった。

 

 

「でもそう! 後4時間、今日だけ頑張れば……!! ようやく私のスマコンが届く……!! 生ヤッチョ拝める……!!!」

 

 

 考えただけでテンションが跳ね上がる。

 

 一目惚れして、それ以来ずっと追いかけてきた彼女を、ようやく同じ世界から眺められるという、もうどれだけ待ち望んだかというこの瞬間。

 

 あれもこれも、大会優勝だって成績トップ10だって全てはこれのため……!!

 

 

「っっっっしゃぁぁぁぁ…………!!!!」

 

「……」

 

「……アッスイマセン」

 

 

 隣のおばあさんの視線で、ようやく私は自らの口から漏れ出ていたことに気がついた。

 

 

 

 

「ただいま!!」

 

「おかえり、桜楽」

 

「ただいまただいまただいま!!!!」

 

「もう、そんな焦らなくたって……ちゃんと部屋に置いてあるわよ」

 

「ありがと!!!!」

 

 

 最低限の手洗いうがいだけを済ませ、私はWカップのスライディングもかくやという姿勢で部屋に滑り込む。

 

 

「〜〜〜〜〜ぁぁ!!!! これこれ!!!! 待ってました!!!!」

 

 

 シュレッダーの如き手捌きで包装を剥ぐと、中から出てきたのは平べったいけど少し重いプラケース。

 

 私はウキウキワクワク、まさしく人生の最高潮といった感じで勢いよくケースを開け、そしてものすっごく慎重に、スマコンをはめ込んだ。

 

 

 

 

「────っ」

 

 

 次に目を開いた時、私を包んでいたのは巨大な鳥居と、鏡のような水面に浮かぶ無数の灯籠だった。

 

 そしてもう一度瞬きした、その瞬間。

 

 

「──太陽が沈んで、夜がやってきます」

 

 

 満天の空、廻天し軌跡を描く星々。

 

 金のかんざしが光る、特徴的な髪型の白髪。

 

 ちょこんと乗った、もふもふのウミウシのようなマスコット。

 

 

「……ヤチヨ……?」

 

 

 間違いなく、それは目の前。

 

 そこに彼女──月見ヤチヨはいた。

 

 戸惑い、驚き、歓喜……あらゆる感情が私の中でごちゃまぜになっていく中、ヤッチョは着物風スカートの裾を濡れないようにつまみ、それから無邪気に駆け寄ってくる。

 

 そして彼女は、私の手を握った。

 

 

「仮想空間「ツクヨミ」へようこそ〜! 管理人の月見ヤチヨで〜す! このもふもふは「FUSHI」!」

 

「ヤチヨがツクヨミと僕を作ったんだ!」

 

「あ、えと……私──」

 

「おおっと、自己紹介はナンセンス! ここでは「何者か」じゃなくて「何者になりたいか」の方がずっと大事なんだから!」

 

 

 ヤッチョがパチンと指を鳴らすと、無からプシュゥン、プシュゥンといくつもの画面が開かれる。

 

 名前、見た目、設定……「面倒なのは飛ばしちゃって、好きなのだけ埋めていこ!」と楽しそうに教えてくれる彼女。

 

 龍の角、銀髪、和装メイド……気の向くままに選び取ると、「準備はいい?」とヤッチョが私の顔を覗き込む。

 

 

「はい! いつでもいけます!」

 

「うん、いい返事! それじゃあ、ツクヨミを楽しもう!」

 

 

 私の手を取り、鳥居へ向けて駆け出すヤッチョ。

 

 気付けば鳥居の間には水面のような、多分ツクヨミへ続いているのであろうワープゲートが開いている。

 

 そして「いってらっしゃ~い!」と彼女が私を投げ入れ、指先がそれに触れた瞬間だった。

 

 

「……あれ」

 

 

 私はなんで、F()U()S()H()I()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 時が止まる。

 

 限りなく遅くなった時間の中で、私の思考だけが動いてる。

 

 

「かぐやは──」

 

 

 それは、あなたの話。

 

 

「いろはが──」

 

 

 それは、あなたが好きな人。

 

 

「月はね──」

 

 

 それは、あなたがやってきた場所。

 

 

「それでね、ツクヨミは──!」

 

 

 それは、あなたが一番好きな場所。

 

 なんでだろ、なんで今、あの夢を思い出してるんだろ。

 

 なんで、こんなに思い出せるんだろ。

 

 なんで、こんなに……涙が出てくるんだろ。

 

 目を閉じる。

 

 目を閉じて、思い出す。

 

 私の夢にずっといた、彼女の姿を。

 

 たった今私の手を引いた、その肩に乗っていた彼女の姿を。

 

 思い出を結びつけて、ずっと忘れていたそれを思い出す。

 

 

「何度生まれ変わっても、必ずあなたに……あなた達に、会いに行くって」

 

 

 もしそうなら、私は……私は、もう一度彼女に……ヤチヨに会うために、生まれてきたのかもしれない。

 

 そして──今度こそ、ハッピーエンドにするために。

 

 


 

 

今は昔、竹取の翁という者ありけり。

 

「竹取物語」9■■年、酒寄桃華

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