超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
「ごめんね、あの続きは……もう書けなさそう」
「おしゃべりだけで精一杯だから……最後に、聞いてほしいんだ」
「あの子のこと、いっぱい話してくれたよね。……でも、あなたがその子を好きなくらい、私もあなたが好き。だからきっと──」
「……うん、約束する」
「何度生まれ変わっても、必ずあなたに……あなた達に、会いに行くって」
それで……一緒に、ハッピーエンドを──
▽
「──っ、またこの夢……」
近頃、変な夢を見る。
私は白い着物を着て、重くてだるい体を起こして、もふもふのウミウシみたいな生き物と話してる夢。
話してる内容は毎回違うけど、どれもデジャヴみたいな、どこかで聞いたような記憶があって、ずっと心にこびりついてるみたいだった。
でも、いつも怖いくらいに丸い月が出てたことだけは、はっきりと覚えてる。
「
そんなもやもやを躊躇なく薙ぎ払うママの声。
私は慌てて布団を丸め、毎日のように披露している特技の早着替えの後に部屋を飛び出す。
「ほら、バスに遅れちゃ」
「いただきますいってきます!!」
「……もう、あの子ったら……」
頬張ったハムチーズサンドを手も使わずに無理矢理喉奥へ押し込み、キジバトの鳴き声が響く住宅街を全力疾走する私。
出発寸前の市営バスの運転手は今にも扉を閉めようとしていたが、サイドミラーに映る爆速女子中学生にギョッと驚くと、慌てて扉を開放した。
「ふー……ギリギリセーフ……」
息を整えながら吊り革を握る左手と、スマートフォンを開く右手。
ちょいちょいっとSNSをスクロールしていると、その中の一人のライバーの切り抜きで自然と指が止まった。
「あ、ヤチヨだ……ヤッチョやっぱ可愛いな〜」
巨大プラットフォーム的仮想空間「ツクヨミ」の管理AIにして、そこのトップライバー。
歌えるし踊れるし分身も出来る自称8000歳。
SNSやインターネットというものにはあまり聡くない私にとっては一番の、そして唯一と言って良い「推し」だった。
「でもそう! 後4時間、今日だけ頑張れば……!! ようやく私のスマコンが届く……!! 生ヤッチョ拝める……!!!」
考えただけでテンションが跳ね上がる。
一目惚れして、それ以来ずっと追いかけてきた彼女を、ようやく同じ世界から眺められるという、もうどれだけ待ち望んだかというこの瞬間。
あれもこれも、大会優勝だって成績トップ10だって全てはこれのため……!!
「っっっっしゃぁぁぁぁ…………!!!!」
「……」
「……アッスイマセン」
隣のおばあさんの視線で、ようやく私は自らの口から漏れ出ていたことに気がついた。
▽
「ただいま!!」
「おかえり、桜楽」
「ただいまただいまただいま!!!!」
「もう、そんな焦らなくたって……ちゃんと部屋に置いてあるわよ」
「ありがと!!!!」
最低限の手洗いうがいだけを済ませ、私はWカップのスライディングもかくやという姿勢で部屋に滑り込む。
「〜〜〜〜〜ぁぁ!!!! これこれ!!!! 待ってました!!!!」
シュレッダーの如き手捌きで包装を剥ぐと、中から出てきたのは平べったいけど少し重いプラケース。
私はウキウキワクワク、まさしく人生の最高潮といった感じで勢いよくケースを開け、そしてものすっごく慎重に、スマコンをはめ込んだ。
▽
「────っ」
次に目を開いた時、私を包んでいたのは巨大な鳥居と、鏡のような水面に浮かぶ無数の灯籠だった。
そしてもう一度瞬きした、その瞬間。
「──太陽が沈んで、夜がやってきます」
満天の空、廻天し軌跡を描く星々。
金のかんざしが光る、特徴的な髪型の白髪。
ちょこんと乗った、もふもふのウミウシのようなマスコット。
「……ヤチヨ……?」
間違いなく、それは目の前。
そこに彼女──月見ヤチヨはいた。
戸惑い、驚き、歓喜……あらゆる感情が私の中でごちゃまぜになっていく中、ヤッチョは着物風スカートの裾を濡れないようにつまみ、それから無邪気に駆け寄ってくる。
そして彼女は、私の手を握った。
「仮想空間「ツクヨミ」へようこそ〜! 管理人の月見ヤチヨで〜す! このもふもふは「FUSHI」!」
「ヤチヨがツクヨミと僕を作ったんだ!」
「あ、えと……私──」
「おおっと、自己紹介はナンセンス! ここでは「何者か」じゃなくて「何者になりたいか」の方がずっと大事なんだから!」
ヤッチョがパチンと指を鳴らすと、無からプシュゥン、プシュゥンといくつもの画面が開かれる。
名前、見た目、設定……「面倒なのは飛ばしちゃって、好きなのだけ埋めていこ!」と楽しそうに教えてくれる彼女。
龍の角、銀髪、和装メイド……気の向くままに選び取ると、「準備はいい?」とヤッチョが私の顔を覗き込む。
「はい! いつでもいけます!」
「うん、いい返事! それじゃあ、ツクヨミを楽しもう!」
私の手を取り、鳥居へ向けて駆け出すヤッチョ。
気付けば鳥居の間には水面のような、多分ツクヨミへ続いているのであろうワープゲートが開いている。
そして「いってらっしゃ~い!」と彼女が私を投げ入れ、指先がそれに触れた瞬間だった。
「……あれ」
私はなんで、
時が止まる。
限りなく遅くなった時間の中で、私の思考だけが動いてる。
「かぐやは──」
それは、あなたの話。
「いろはが──」
それは、あなたが好きな人。
「月はね──」
それは、あなたがやってきた場所。
「それでね、ツクヨミは──!」
それは、あなたが一番好きな場所。
なんでだろ、なんで今、あの夢を思い出してるんだろ。
なんで、こんなに思い出せるんだろ。
なんで、こんなに……涙が出てくるんだろ。
目を閉じる。
目を閉じて、思い出す。
私の夢にずっといた、彼女の姿を。
たった今私の手を引いた、その肩に乗っていた彼女の姿を。
思い出を結びつけて、ずっと忘れていたそれを思い出す。
「何度生まれ変わっても、必ずあなたに……あなた達に、会いに行くって」
もしそうなら、私は……私は、もう一度彼女に……ヤチヨに会うために、生まれてきたのかもしれない。
そして──今度こそ、ハッピーエンドにするために。
今は昔、竹取の翁という者ありけり。
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