超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
夏休みも中盤に入った8月はじめ。
勉強もバイトもぎっしり詰め込み、完璧なものとなるはずだった私の40日は、全く以て想定通りにはいかなかった。
勿論原因は──
「ぶぁ゛ん゛がだり゛な゛い゛よ゛ーーーー!!!!」
……砂浜で大暴れしているこの宇宙人である。
かぐやに溢れんばかりのバイタリティにゴリ押しされる形で私の鉄壁の予定はグイグイと侵食され、それに応じて「かぐや・いろP・さくD」の配信の注目度はどんどん上がっていく。
ファン数は20万を優に超え、累計ふじゅ〜も75万、私のバイト代の半年分くらいを稼ぎ、ヤチヨカップの順位は現在255位。
無名の素人を3人集めた文殊の知恵もどきにしては上々にも程があるだろう。
「ねえ足りない足りない!! これじゃヤチヨとコラボできないよー!!」
まあ、この程度じゃわがまま欲張りかぐや姫の欲望は一向に満たせないらしい。
浮き輪を抱えたままレジャーシートに寝転がり、じたじたばたばたと四肢を振り回して不条理な世の中に抗議する彼女を「髪型崩れちゃうよ?」と桜楽が優しくなだめた。
「でもでもー!!」
「かぐや、暴れない」
「でもーー!!」
一向に折れないかぐやにため息を吐きつつ、私はクーポンで手に入れたオレンジジュースを啜る。
夏休みたった一度の休養日、今日は5人で湘南の方まで遊びに来ていた。
いつの間にかかぐやは芦花、真実と水着を買いに行っていたらしく、おそらくエイリアン生初であろう水着はオレンジ色のワンピースタイプ、編み込みでツインテールにまとめた長い金髪も相まって常夏仕様の太陽のよう。まあそれが暴れてると余計幼く見えるというのもまた事実である。
桜楽は去年と変わらず、ホルタータイプの黒ビキニ。それほど自己主張が強いというタイプではない彼女にしては珍しいくらいの露出であり、これも夏の魔物とやらの仕業だろうか。というか、去年は余裕があったはずの胸元が随分と窮屈になっている。まだ成長期かよ。
私も去年の今頃、4人で買いに行ったパステルグリーンのセパレートタイプを引き続き使用。セール中でお求めやすくなっていたとはいえ、年に着る回数は片手で事足りる程度の服にこんな金額を払うものなのか、ついでに布面積が小さいのに普通の服より高いのは一体どういう了見だと憤慨していたのを覚えている。しかし、この装いに合わせて芦花が編み込みをやってくれたりっていうのを考えると、かなり悪くないなと思っている自分もいた。私は成長期の予定もないし、後3年は頼んだぞ。
「……そうだ! 彩葉と桜楽が着ぐるみ脱げば大バズ間違い無しじゃない!?」
「却下」
「それは……流石に、かな……」
「え、なんで!? 2人ともヤチヨカップ優勝のためならなんでもやるって誓い合った仲じゃん!!」
「そんな誓い立ててない」
「ぐぬぬ〜〜」
「まあまあ、こないだの歌配信もめちゃくちゃ盛り上がってたじゃん」
「かぐやちゃんゲームも歌もなんでも出来ちゃうからな〜」
ぶーたれたところにすかさずメンタルケアをかます真実と芦花。
先程まではイヤイヤ顔で天を仰いでいたはずが、気がつけばかぐやの伸びた鼻が夏空に浮かぶ入道雲を貫きそうになっている。
ピノキオか何かですか?
「まあ? かぐやは? 天才? 超絶天才歌姫ですから?」
「てかオリジナル曲も良かったな〜。毎日リピートしてるもん私」
「あー私も。あれ2人が作ったやつでしょ?」
すっごいナチュラルに褒めの暴力の矛先が私と彩葉の方に来るが、「違う違う。99%彩葉だって」と炸裂する桜楽のジャパニーズ謙遜受け流しによって「やっぱ彩葉様か〜」とターゲットは完全にこちらの方へ誘導される。
ガーリーなチェックのオフショルに水色のスカートとパッと見ではおしゃれな普段着のようにも見える真実はうれうれと的確に私のすねにパンチを仕掛け、ツクヨミのアバターと同じような三つ編みアレンジに大人っぽい黒のワンピースタイプの水着を纏った芦花は真実のヘアアレンジをやりつつも「可愛い上に天才とか彩葉さいきょ〜」といつものように褒めまくってくる。
というか2人とも、特に芦花は服を自分に合わせられるというか、何を着ても自分らしく似合っちゃうようなタイプ。去年は今年とはぜんぜん違う白いワンピースタイプにシースルーのボレロを合わせてたけれど、それも完璧に着こなしてたし。
そして真実の編み込みお団子を終わらせた芦花はこれで全員分のヘアアレンジをコンプリート。
どうやら彼女の中では空前の編み込みブームらしく、三つ編みカチューシャの桜楽に編み込みポニーテールの私、編み込みツインテールのかぐや、お団子編み込みの真実に三つ編みの芦花自身とポーカーであればフラッシュ以上は固いといった感じ。
「というかあれ、彩葉の年齢が一桁だったころに作ったやつだから本当に圧倒的な彩葉クオリティだよ」
「うわすげ〜」
「酒寄彩葉伝説がまた更新されちゃうじゃん」
そんなことを考えている間も一向に話題は更新されず、ニヤつく親友達と凶悪な真夏の太陽の挟み撃ち。
しかし、やっぱり来てよかったなと心底実感していた。
勉強、バイト、そして配信と私の時間のうちの大半をそれらが飲み込んでいく中でこの一日を捻出するためにどれだけのノンレム睡眠を失ったかは言うに及ばず。
肉体に蓄積された疲れはビーチの賑やかな空気によって回復へと反転され、だいぶ心が楽になっていくのを感じる。
「エリートは遊びも疎かにしない」というまだ楽しそうだった頃の母の言葉の意味が少しは分かったような気がした。
「でもでもでもでも! やっぱりまだまだ優勝には程遠いんだよ〜〜!!」
「やっぱいろ」
「却下」
「うわ早押しクイズじゃん。もう良いんじゃない? あの着ぐるみだって見る人が見たら速攻で2人だってバレるっしょ」
「……でも、流石に自分からバラしてくのは絶対違うし……」
そうだ、よく言った桜楽。
最近桜楽はかぐやに甘かったからな、せめてこれくらいは──
「じゃあその時! その時が来たら!?」
「その時は……まあ、仕方ないけど……ね、彩葉?」
「お願い……かぐやのこと助けて……」
無駄だ、屈するものか。
いくら危うく世帯人員と錯覚しそうな2人であってもこの酒寄彩葉は決して折れたりしない。
さあ、答えてやれ私。
3、2、1……
「……本当に、必要になったらね」
なんだこの使えない口は。
くそ、くそぅ……私はどうしてここで安請け合いしてしまうんだ……どうしてそういう星の下なんだ……
「やったーーーー!!!!」
「ちょろはー」
「ちょろはだねぇ」
「ちょろはだよね、やっぱり」
「おっちょろさくのお墨付きだ」
ぐぬぬ……ただでさえ桜楽が甘やかすから私はしっかりしないといけないのに……
まさに勝利宣言といった感じで大はしゃぎするかぐやとその傍らでパチパチ拍手する桜楽、それと対称的に白砂を握り手応えのない砂浜に拳を打ち付ける私。
そんな様子を眺めながら、芦花はくすっと笑った。
「なんかいいかも、今の彩葉」
「……え?」
「ほら、前の彩葉って1人でどこまでも行っちゃいそうだったけど、今は3人でわちゃわちゃしながらどこまで行けるか、って感じじゃん? すごい楽しそう」
だとしたら……それは桜楽と、悔しいながらかぐやのおかげだろう。
まあ口に出したら調子に乗るし──
「多分、かぐやのおかげなんじゃないかな」
これだから桜楽は駄目だ。
察しが良いくせに隠さない。
「え〜、じゃあますますかぐやちゃん応援しないとじゃん。悔しいけど、彩葉にこんな顔させられるのかぐやちゃんだけだし」
「じゃあコラボやろコラボ!」
おっと、潮の目が変わった。
芦花もとい美容系インフルエンサー「ROKA」(ファン数17万)も、真実もといグルメインフルエンサー「まみまみ」(ファン数12万)も、その人気はさることながらかぐやにとって一番大きいのは視聴者層がほぼ被っていないこと。
すなわち、これらの数字が丸々新規ファン数として転がり込んでくる可能性があるのだ。
「やる! かぐやコラボやる!!」
岩場の裏のカニを追いかけ回しながら、わがままかぐや姫は大きな笑顔で返事した。
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