超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!   作:あるふぁせんとーり

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第十四帖 かぐや1stライブ「月の国から」

 気付けば街中にはかぐやぬいをカバンに付けた学生をちらほらと見かけ、一週間限定のコラボカフェも大盛況、ショート動画にはかぐやを真似たダンスが毎日のように流れてくる。

 

 たった数週間かそこらで今やかぐやは世間知らずのわがまま宇宙人ではなく、急上昇中、人気爆発な天才歌姫なのだ。

 

 そんな中、これ以上に適切な表現も見当たらないということでこう言ってしまうが……とある夕暮れ、大事な用を控えた私と彩葉、そして渦中の人であるかぐやの3人はますます狭苦しくなった一室で「家族会議」に臨んでいた。

 

 それも結構、本当にこの部屋の勢力図に関わりかねない重要な会議。

 

 ……さて、ツクヨミで配信が伸びてくると、どうしても切り離せなくなるものがある。

 

 一体何か。

 

 

「うへへへ……まさかこんなふじゅ〜を目にすることになるなんて……うへへへ」

 

 

 そう、お金である。

 

 ツクヨミは一昔前の動画投稿サイトのように広告収入などといったものはあまりメジャーではないが、その代わりにユーザーからの投げ銭はダイレクトに配信者まで全額届くというシステム。

 

 それに加えてスマコンによる脈拍や脳波の測定によって人の感情をポジティブにしたと判断されれば、さらに運営からもふじゅ〜が支払われるという仕組みによってツクヨミは上に行けば行くほど収益が上げやすいようになっている。

 

 そしてこの度その恩恵を被ることとなったかぐやの口座は──

 

 

「いち、じゅう、ひゃく、せん──うわぁ……」

 

「うぇへへ、大判小判が大量だぁ……」

 

「……いい? かぐや。そんな大金は泡銭。あっという間になくなっちゃうものなんだよ。そんなお金に頼ったら生活壊れるに決まってるんから」

 

「でもでも合法だよ? かぐやハッキングも数字書き換えもやってないよ? これってつまり……うへへへ」

 

 

 百均のパーティ用サングラス越しに口座画面を覗くかぐやの顔はかつてないほどにニヤけている。

 

 まあ、正直分からなくもない。

 

 増えた数字は彼女自身の努力によるものっていうのも大前提。

 

 だけど──

 

 

「本当に、無駄遣いしない?」

 

「しないって! かぐやそんなに信用ないかな〜〜」

 

「はぁ……逆に聞くけど、この惨状で信用できると思う?」

 

 

 まあ、それについては完全に私も彩葉側。

 

 だって私の四畳半どころかお隣彩葉の四畳半さえ今や殆どの空間が古今東西……とまでは行かない近所の百均やらジャンクショップから蒐集されたかぐやの配信用グッズに埋め尽くされているのだから。

 

 足の踏み場も無いって表現がピンとこない人達は、この部屋を見れば一発で理解できると思う。

 

 

「物多すぎ持ち込みすぎ。そろそろぬいぐるみに埋もれて寝るのも飽きてきたんだけど」

 

「え〜〜? てかこの部屋が狭すぎるんだって。せっかくだしそろそろ引っ越さない? かぐやいい物件見つけたからさ」

 

「引っ越し……ちょっと良いかも」

 

「桜楽まで……でも、確かになぁ……」

 

「あれ? これもしやかぐや優勢?」

 

 

カランカラーン、カランカラーン

 

 

 そんなことを話している内に鳴り響くスマホのアラーム音。

 

 ああ、もう時間だ。

 

 彩葉は胸に手を当てて大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。

 

 

「良かった、彩葉も緊張してるんだ。私、朝からずっと頭のどっかでこのこと考えてたかも」

 

「私もそんなもん。……まさか、こんなとこまで来るなんて……」

 

「どっせーい!!」

 

 

 心臓をバクバク鳴らす私を尻目に、かぐやは散らばった小道具をまるでブルドーザーのように部屋の隅まで押し退けてウォーミングアップのためのスペースを作り上げる。

 

 それからパッと私直伝の早着替えで動きやすい服へとフォルムチェンジすると、柔軟、発声、気合い入れの一連の流れを終わらせた後、私達はさらに小道具をどかして辛うじて出来たスペースでスマコンを装着する。

 

 まあこれくらいあればかぐやは歌って踊れて、私達は演奏が出来るだろうか。

 

 

「……よし、行こ!」

 

 

 かぐやの声に合わせて、私達は目を瞑った。

 

 

 

 

「わ……めっちゃ並んでる……」

 

 

 ライブハウスの関係者口の方から僅かに見える入口前はかぐやの初ソロライブのために詰め寄せた観客ですし詰め状態。

 

 私は自分の緊張を誤魔化すみたいに前髪を耳にかけた。

 

 ツクヨミ内ではあるけど、歌枠配信みたいな、今日はそんなレベルの話じゃない。

 

 ライブハウスを手配し、宣伝をして、スタッフさんも雇って、チケットの抽選もして……お客さんの前で歌って踊る、正真正銘のソロライブ。

 

 伴奏に指名されたのは当然キーボードのいろPと、ギターのさくD。

 

 着ぐるみでいいし、ちゃんと「かぐや」としてギャラも出す、だから2人に手伝ってほしい。

 

 いつものおねだりじゃない、ちゃんとした頼み事。

 

 私も彩葉も、それを断る理由は一つもなかった。

 

 

「ほらほら、2人とも置いてっちゃうよ〜!」

 

 

 かぐやだって全く緊張してないわけではないだろうけど、輝かんばかりの彼女の笑顔を見ると自然と緊張は解けていく。

 

 私はかぐやを追いかけるように、ドラゴンの着ぐるみを抱えたまま急ぎ足で階段を登った。

 

 かぐやの記念すべき初ステージ。

 

 その舞台は大きな湖に張り出した釣殿。

 

 船に、空に、そして周りに。

 

 ファンはかぐやの登場を今か今かと待ち望んでいる。

 

 そして開幕まであと数分というところで、かぐやは朗らかなピースをこちらへ向けた。

 

 

「ほら、やろ。「仲良しのやつ」」

 

「はいはい」

 

「うん」

 

 

 彼女に頷き、私達もピースを向ける。

 

 それから指先を合わせて角が3つの星を作り、指を重ねてペンローズの三角形みたいにして、最後は三匹の狐がコンと鼻先を合わせる。

 

 「ピースに星に三角コーン」が彩葉流の覚え方。

 

 

「忘れないでね。これが3人の合図、スーパー仲良しのやつ」

 

「わんっ!」

 

 

 僕も混ぜて、と言わんばかりに鳴き声を上げる犬DOGE。

 

 最後に私達は顔を見合わせ、こくっと同時に頷く。

 

 3……じゃなくて4人、正確に言えば2人と、1宇宙人と1匹は、力強くステージに向かう。

 

 彩葉は意味分かんないことに巻き込まれて、私は漠然とした手がかりとハッピーエンドを追いかけてこんなところまで来ちゃったけど、今は間違いなく、かぐやの隣にいれることが嬉しい。

 

 かぐやが見ている景色、ヤチヨが見ていたかもしれない景色を、私は今共有している。

 

 

「五秒前!」

 

 

 スタッフさんの合図とともに、じりじりと簾が捲り上がっていく。

 

 歓声が届く。

 

 空気が熱を帯びている。

 

 隣で息を吸い込む音が、わずかに聞こえた。

 

 

「ああ、始まるんだ」

 

 

 着ぐるみの中で、私は笑った。




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