超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
『かぐやライブ、控えめに言って神とさせてください #かぐや1stライブ #月の国から』
『現地 #かぐや1stライブ』
『かぐや、かぐやライブだよ。かぐやライブ、かぐやだよ』
『月の国行ってきました〜 #かぐや #かぐや1stライブ #月の国から』
ありがたいことにかぐやのソロライブは超がつくほどの大盛況で終わり、TLには数日経った今なお感想やレポが飛び交っている。
誰がどう見たって大成功だと認めてくれる、そんなライブの勢いのままかぐやのランキングは跳ね上がり、本当に、冗談抜きでトップ層の背中も見えてきた。
「ねーねー、彩葉起きないねー。起きたらマンション見に行こうと思ってたのにー」
「ここ最近、疲れてるみたいだったから。今日は休みみたいだし、ゆっくり寝かせてあげて」
「分かった! ところで桜楽はお出かけ?」
「うん。もう少ししたらね。ちょっと新しいアンプでも見ようと思って」
かぐやが作ってくれたフレンチトーストと、ライブの次の日に一緒に作ったデトックスウォーターが今日の朝ご飯。
数ヶ月前からは考えられないくらい食生活が良くなり、ここ最近は以前と比べ物にならないくらい快適な……いや、お金に余裕は出来たけど時間の余裕はさらになくなったからトントンかな。
そんなことを思いつつ食べ終わったお皿を下げていると、かぐやは「そういえば……」と何か思いついたように口を開いた。
「どうかした? かぐや」
「……あ、ううん、やっぱ大丈夫」
「そっか、もし大丈夫じゃなかったらまた言って」
そうこうしている間に時刻は九時手前。
このままじゃ目的地行きの市営バスに乗り遅れる。
「……あれ、桜楽、出かけるの?」
「おはよ、彩葉。ちょっと機材とか見てくる」
「了解。気をつけて」
「もちろん。それじゃ、行ってきます」
「いってらっしゃーい!」
寝起きの彩葉の顔が少し不調気味に見えたことだけを僅かな気掛かりとしながらも、私は急ぎ足で家を出た。
……大丈夫かな、彩葉。
▽
電話が掛かってきたのは、お目当ての電機屋で店員さんの話を聞いていた時のことだった。
「──、ですので、こちらのモデルが大変コストパフォーマンスの良い──」
リリリリリーン、リリリリリーン
「ごめんなさい」と話を遮り、私は素早く着信を取る。
発信元の名前は「酒寄彩葉」。
一瞬その場を離れようともしたが、そんなことをしている余裕があるような連絡ではないと直感が告げる。
肝心な時にちゃんと仕事を果たしてくれるそれ通り、スマホを耳に当てるなり聞こえてきたのは大慌て、それでいて必死なかぐやの声だった。
「『……桜楽?』」
「かぐや、どうした? そっちで何かあった?」
「『お出かけしてたら、不動産屋さんで彩葉が倒れちゃって、すごい熱出してるの。今タクシーで家まで帰ってる』」
「っと……了解。大丈夫? 部屋の鍵はある?」
「『それはあるけど……彩葉、大丈夫かな……』」
「彩葉、今どんな状況?」
「『えっと……熱がすごくて、意識はなくて、息も荒くて……後は後は……』」
夏風邪かな……
というかずっと無理してたし、正直いつ体調崩してもおかしい状況じゃなかった。
ああもう、なんで朝ちゃんと確認しなかったんだろ私……
「取り敢えず部屋で寝かしてあげて。布団とか重ねて、とにかく温めて。私は薬とか、氷枕とか買って帰るから……他に何か必要なのある?」
「『えっと……えっと……じゃあ卵としょうが、にんにく……ネギはあったから、あと鰹節。風邪の時って、おじやとか食べるといいんだよね?』」
「そう。さすがかぐや。なるべく早く戻るから、彩葉のことよろしく」
「『……うん、かぐや頑張る』」
そして少し申し訳ないながら店員さんの営業トークを速攻切り上げ、私はその脚で近くの薬局へ。
解熱剤、胃腸薬、風邪薬、氷枕、冷えピタ……必要そうなものをありったけ買い物かごに投げ入れ、かぐやの前では冷静ぶって見たものの内心は大焦り。
それからかぐやのお使いをコンプリートすると、普段の節約のことなんてすっかり忘れた私は駅前でタクシーに飛び乗った。
▽
カー、カー、カー……
遠くに聞こえるカラスの声で私は気がついた。
身体はだるくて、重くて、それでいて熱い。
最後の記憶を思い出す。
えっと……ええっと……ああ、不動産屋の前で、かぐやが「ここがいい」って、月35万のタワマン指差して……で、倒れたのか。
「……あ、良かった、彩葉。ちゃんと無事だったんだね」
目を開くと、青みがかった瞳が私を覗き込んでいた。
桜楽は私の頬に手を当てると、「だいぶ下がってきたね」と安心した表情を見せる。
これで下がったって、どんだけ熱出してたんだ私……って、そうだ今日は──
「バイト! ヤバ、どうしよ、もうとっくに時間過ぎて──」
「大丈夫。かぐやが連絡入れてくれたよ。「彩葉熱出しちゃったから、今日は休ませてほしい」って」
言葉の通り、スマホを確認すると店長との電話の履歴が増えている。
「可愛い妹さんですね」という言葉とともに病欠は無事に受理されていた。
「……ありがと、かぐや」
「あとあと、今晩ご飯作ってるし、ふかふかもいっぱい置いといたから、今はいっぱいふかふかして、それでゆっくり、ちゃんと休んで」
「ふかふか……」
ぼやけたままの視界で辺りを見回すと、かぐやとっておきのビッグサイズふかふかぬいぐるみが私を励ますように囲んでいる。
手の寂しさにそのうち1つ、ステゴサウルスのぬいぐるみを抱き締めた。
「……ちょっと待って。今冷えピタ張り替えるから。氷枕も替えよっか」
「桜楽も、ごめん……」
「あれ、かぐやにはお礼なのに私には謝罪? なーんて、お礼は身体治してからね」
「あと、あとは……あ、病院! 病院行こ! ほら、ちゃんとお医者さんに診てもらうとすぐ治るんでしょ?」
病院、病院か……
「……やだ。……お金、かかっちゃうし」
「今そんなこと言ってる場合じゃないよ! かぐや今お金持ちだから、その辺は全部任しとき!!」
私を勇気づけようとしてくれてるのか、少しコミカルに、マッスルポーズで力こぶを作ってみせるかぐや。
けれど身体が弱ってる時は心も弱りがちで、私の思考は自分でも分かるくらいにネガティブな連鎖を続けていた。
……ああ、やっぱり……
「……? 彩葉? 大丈夫?」
「……やっぱり、無理だよ……」
病院行ったら、もしかしたら入院になるかもしれない。
そしたらすごい額飛ぶし、夏休みに何日も空白が空いたらもう追いつけない。
そしたら必死に維持してきた完璧だって、奨学金だって、お母さんにだって……
「なんで、なんで……っ」
「彩葉? 大丈夫?」
おたまを持ったまま、潤んだ目で私を見つめるかぐや。
少しの間をおいて、なんでそっちがそうなってるのかも分からない弱々しい声で彼女は私に尋ねた。
「なんで彩葉は……そんなに頑張ってるの? なんでそんなに、頑張らないといけないの?」
答えるのをためらっている間にも、次第にその声には嗚咽が混じり、かぐやは傍らの桜楽に泣きついた。
「ねえ桜楽……彩葉死なないよね……? かぐやいい子になるから、もう無理とかわがままとか言わないから……そしたら彩葉死なない? ねえ彩葉ぁ、お願いだからお願い、死んだらやだぁ〜〜……」
「大丈夫大丈夫、彩葉は死なないよ。ね?」
「……当たり前。まだまだ、やることいっぱいあるし……」
「でもでも、映画とかってすぐ人間死ぬじゃん! この前なんて死んだらモンスターに取り込まれて宇宙まで行っちゃって……」
「はいはい。B級映画を当てにしないようにね」
泣きじゃくるかぐやと、それをなだめる桜楽。
それを見て、初めて私は申し訳なさを覚えた。
こんなに人に迷惑かけて、なのにさっき思いついたのは自分のことばっかで……
「……2人とも、ごめん」
「謝るならせめてお礼にして。ほら、早く治さないと置いてかれる、でしょ?」
そう言って私に再び布団をかけ、マスクをくれた桜楽。
上半身は起こしたままだけど、視線は下に沈む。
泣き止んだかぐやが、もう一度口を開いた。
「……彩葉は、なんでそんなに頑張るの?」
すごく、難しいと思った。
気付いた時にはこれが当たり前で、じゃあどうして当たり前になったのかというと──母の話を、しないといけなかった。
半年くらい前、同じような状況で桜楽に打ち明けたきり。
私は考えて、考えて、唾を呑み込んで、それからやっと口を開いた。
「……私さ、お父さん、死んじゃったんだ」
それからは堤防が決壊したみたいに、何も隠すことなく私は全部吐いた。
事故で死んじゃったお父さんのこと、家を出たお兄ちゃんのこと、変わっちゃった母のこと、母に認めてほしくて全部背負ってずっと潰れかけな私のこと……
「体調管理は全ての基本、それを失敗するようならそれは最低の結果」、母はそんなことを言っていた。
実際そうなんだろう。
目の前のかぐやにも桜楽にも、馬鹿らしくなるくらいの迷惑をかけている真っ最中だ。
母が体調を崩してるところなんて、私は人生で一度も覚えがない。
弟妹4人を1人で養いながら大学を出て、弁護士になった彼女は私の人生の登場人物で一番強くて、賢くて、正しくて、それでいて完璧。
だからこそそれを追いかける私は余計に欠点まみれに見えて、それを補ったつもりになるために、私は家を出た。
母が辿ってきた道を1人で歩いて、それでようやく対等になれると思ったから。
「……それが、全部一人でやる理由? 学校も、バイトも……」
「まあ、結局駄目だったけどね。1年くらい前、同じように体調崩して、そっから桜楽といろいろやるようになって……」
「……てかさ、ふっつーに言ってるし桜楽もそうだけど、彩葉めちゃめちゃヤバいことしてない? だって2人とも学生でしょ? 子供でしょ? 芦花も真実もそんなことしてないじゃん」
「でもお母さんはやってたし」
「だからお母さんが激ヤバなんだって! 宇宙人調べでも超絶おかしい! 話聞いてるとちゃんと話してすらなさそうだし、絶対それ正規ルートじゃないよ! お〜か〜し〜い〜!」
「でも……」
……そんなの、言われなくたって分かってる。
これは私が変な意地を通そうとして、勝手に折れて、勝手に負けてるだけ。
お母さんはこんな私を見たって「そやさかい言うたやないの?」としか言ってくれないだろう。
「……ううん、何でもない」
少し熱に浮かされすぎた。
……早く寝て、早く治さないと。
「もうお話は終わった?」
いつの間にか台所に立っていた桜楽は、お盆の上におじやとお味噌汁を乗せて戻って来る。
「どうぞ。かぐやシェフ特製のスペシャルおじやとスーパーお味噌汁。説明は──」
「合点承知の助! こっちのスーパーお味噌汁が赤味噌に生姜とネギ、鰹節と刻みみょうがたっぷりと練り込んで調味料最小限ながら熱々濃厚に仕上げたやつ。こっちのおじやはにんにくも卵もたっぷり使って本だし仕立てに、余ったしょうがもネギも容赦なくぶち込んだから風邪の特効薬状態! どれも熱々だから、ちゃんとふーふーしてね!」
そして説明が終わると私はマスクを外し、レンゲで掬ったそれにふーふーと必死に息を吹きかける。
「あつっ」
それでも舌先はやけどしそうなくらいピリッと熱かったけど──
「……超美味い」
「だってさ、かぐや」
「うぇ〜い!!」
その無邪気な笑顔は、病人には少しまぶしすぎた。
▽
「桜楽、彩葉寝ちゃったみたい。一応着替え置いといたけど……」
「そっか。ありがと、かぐや」
足りなくなりそうだった冷えピタやドリンクゼリーなんかを買いに行った10時前。
部屋に戻ると、出迎えてくれたかぐやはそう教えてくれた。
部屋の奥には申し訳程度にぬいぐるみをバリケードとして彩葉の布団と私、かぐやが寝るスペースが分断されている。
私は「彩葉風邪対策ボックス」と書かれた段ボールにレジ袋を入れた。
「……そう言えば、昼間私に聞きたいことあるって言ってたけど……何? かぐや」
「いや、少し気になっちゃったんだよね。……なんで桜楽は、彩葉と一緒にいるんだろって。彩葉言ってたよ。桜楽、最初は普通の、芦花とか真実みたいな生活してたんでしょ? 桜楽もママと仲悪いの?」
「ううん、むしろ甘やかされて育った方」
「じゃあなんで?」
「うーん……かぐやと同じかも。彩葉と一緒に、ハッピーエンドが見たいから」
「ハッピーエンド?」
聞き返すかぐやに、私は静かに肯定した。
「昔……ちょっとしたお話を書いたことがあってね。知らない内に有名になって、沢山の人が読んでくれるようになったんだ。でもそのお話は本当は未完成で、途中までしかなくて……私、誰も幸せにならないところで、書くのをやめちゃったの」
「え、なんで……?」
「その頃は……すごく身体が弱かったから。でも、今は違う。私はその続きが書きたくて、彩葉と一緒ならその続きが書ける。ハッピーエンドに出来る。そう思ってるから、私は彩葉と一緒にいるし、彩葉と同じ目線で世界を見たいから、彩葉に憧れてるから、こんな感じで、自分で頑張るようになった。まあ、彩葉には敵わないけどね」
「なんかロマンチック……」
「そう? ……ふふっ、少し話しすぎたかな。ほら、寝る準備するよ」
そう言ってかぐやの手を取り、風呂場へ向かう。
見上げた窓から覗く月は、今日も無慈悲なくらい綺麗だった。
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