超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
『さあ、今宵も祭りの幕が上がる! 今大注目のこの対決がとうとう叶いました! なんとなんと、絶対王者ブラックオニキスが超新星チームかぐやに果し状を、そして帝がかぐやにプロポーズを叩きつけた!』
『一瞬ファンクラブヤバいことになってましたね。まあノリで言ってる感じなんでご安心を〜』
『今まさに! このツクヨミ特設スタジアムでかぐやの未来とヤチヨカップの運命を占う神戦が始まろうとしています!』
モニター席で会場の熱を煽る元プロゲーマーの実況、
私は着ぐるみの中で冷や汗を書きながらそれに耳を傾ける。
あれよあれよという間に決まったかぐやVS帝のKASSEN対決は「世紀の竹取神戦」なんてツクヨミ全土を巻き込んだ大企画へと膨張し、会場はオーディエンスの押し寄せる超満員。
芦花と真実も席が取れたらしく、今頃この広い観客席のどこかで2人仲良く座っているんだろう。
『後1時間にヤチヨカップの結果発表が迫る中行われるこの勝負、そういった意味でも全く目が離せません!』
『現在は37位だが、結果次第ではチームかぐやの大逆転も!? 両者、最高のエンターテインメントを見せてくれ!!』
『ルールはSENGOKU、3対3の三番勝負! レギュレーションは──』
「……大丈夫、かなぁ……」
少し不安そうに呟く同じく着ぐるみに入った桜楽。
メンテとかバランス調整、後はデータベースの入力なんかのアルバイトをしていた彼女はオンライン?ナニソレオイシイノのトレモ勢、対人戦に関してはほぼ未知数のまま今日を迎えてしまっている。
まあ事前練習の感じなら……勝ち目は0ではない、可能性が0ではないといったところ。
「でも……ちょっとくらい、カッコいいところも見せるよ」
「期待してる。それでかぐやは──」
「ま〜〜〜だ〜〜〜???」
……未だ来ない黒鬼に対して、駄々をこねるように手足を動かしていた。
改めて確認すると、かぐやがハンマー職でサブがランチャーキャノン、近接戦闘に強い典型的なファイターに支援火力を組み合わせた人気のセット。ご機嫌斜めで竹製のハンマーをブンブンと振り回している。ついでに犬DOGEも一緒である。
桜楽はアックス職、サブにレールガンと、どちらも機動力に欠けた火力一辺倒の脳筋セット。ギターを模した大斧に、持ち手にはクワーティ配列があしらわれている。対戦環境的にはどちらもかなり不遇、というかアックスに関しては距離を詰める手段が完全にプレイヤーに依存するため、ファイター、タンク、アサシンなど諸々含めた近接最弱候補に名前が上がるほど。桜楽がネット対戦をやってない弊害がこんなとこに……
そして私は双剣職にブーメランという王道の組み合わせ。キーボードを模した双剣にはワイヤーを仕込むことでさらに機動力を向上させている。近距離はスカーミッシャーとして凌ぎ、ブーメランの一撃を狙うというシンプルながら奥の深いセットで使い手も多いが、その分上位勢はかなり対策してくるはず。正直……黒鬼戦ではかなり不利になるかもしれない。
『来ました! ブラックオニキス、入場です!』
アナウンスがして振り向くと、会場前方の岩壁がド派手に爆破されていた。
そしてその奥からは皆さんおなじみ、独特なセンスの虎バイクに乗ったメンバーが無数の子鬼を蹴散らしながら登場する。
子鬼の群れの最後に待ち構えていた巨大な鬼は棍棒型の鞘から引き抜かれた刀によって一閃、一際派手な爆発を起こし会場の中心で花火のように大きく爆ぜる。
いつも通りの前座、キャーキャーと観客席から上がる黄色い歓声の中で帝が、それに続いて雷と乃依もスマートに降り立った。
目論見通り、会場のボルテージは最高潮だ。
『黒鬼、御来臨──!!』
本当にこれに勝つとかぐやは言ってるんだろうか。
なんで桜楽も了承しちゃったんだろうか。
なんで私は断らなかったんだろうか。
あらゆる後悔が渦巻く中、帝は軽々と口を開いた。
「どーも。今日は対戦受けてくれてありがとね、かぐやちゃん」
「この勝負、かぐやが勝つ!! で、ヤチヨカップもかぐやが勝つ!!」
「いーね。そういう娘ドストライク。もっと好きになった。……俺が勝ったら、結婚でいいんだよね?」
んなわけ──
「──ねえだろうがよ!!」
ファーストコンタクトと言わんばかりに、私はブーメランモードを大剣のように叩きつける。
だが計算ずくと言わんばかりにすんでのところで躱した帝は「おー、こわ」と笑った。
「ダメ! 彩葉がダメって言ったからダメ!」
「な、あんたその名前は──」
「桜楽もダメだよね! 私が結婚するの嫌だよね!」
「んー、まあね」
「さくD!?」
もう駄目だ、路線変更は出来ない。
本名が割れた。
それも2人分。
幸先わろしとしか言いようがなかったその瞬間──
「ヤオヨロ〜〜☆」
聞き慣れた声の、見慣れたアバターがそこに姿を現した。
「や、ヤチヨ!?」
「せっかくのヤチヨカップもクライマックス! この世紀の大一番、現場リポーターは月見ヤチヨがお送りしちゃいま〜す!」
『おおっとここで存在しない役職を管理者権限で仕立て上げたヤチヨの参戦だ! ツクヨミのファンはヤチヨのファン、カッコ悪いところはますます見せられなくなった!』
『ヤチヨの解説は半年前のCRcup決勝まで遡りますね。奇しくもその時優勝したのはブラックオニキス……ですが中継となると史上初、これがどのように影響を与えるのか想像もつきません』
よく考えたらリポーターが対戦結果に影響を与えるなど対戦ゲームにあってはいけないはずだが、影響を及ぼしてしまうほどにヤチヨの空間支配力は凄まじい。
実際、ついさっきまで完全に黒鬼ムードだった空気はあっという間にある意味中立とも言えるヤチヨフィールドによって上書きされている。
「それじゃ、頑張ってね」
「おいおい、こっちにはくれないのか?」
「不利な方を応援したくなるのが日本人の性、判官贔屓というやつなのです」
「大丈夫、見てるだけだから結果には関係ないよ」とガラスのような和傘を差し、ふわりと会場上空へと飛んでいったヤチヨ。
彼女のおかげか、さっきまで抱えていた後悔やら不安やらはどこかにポイと捨てられて、残ったのは純粋な感情。
本気で、勝ちたくなってきた。
▽
「……で、どうしよっか。作戦」
1人のかぐや姫と2体の着ぐるみが並ぶスタート地点。
桜楽の問いかけにかぐやはドヤ顔で答えた。
「ガーッといって、シュタタタター! そんでバァーン! 勝ち!」
「了解」
よくそれで伝わったな、なんて思いつつ、私もなんとなくのイントネーションは取れてしまう。
素人の適当な作戦がプロゲーマー集団のガチのマクロに勝てる可能性なんて限りなく低いだろうに、今の私にはなぜかやれる気がしていた。
SENGOKUモードは先述の通り3対3の三番勝負であり、黒鬼が最も得意とするルール。
円形のKASSENステージを左右に大きく分け、左右の両端にAチームBチームそれぞれの拠点となる天守閣があり、そこからは敵陣へ向かう3本の道が伸びている。
上からトップレーン、ミドルレーン、そしてボトムレーン。
目的は天守閣を落とすことだが、落とすにもいくつかの手順が。
まず両チームはトップ、ボトムそれぞれにある櫓へ向かい、そこにいる中ボスの「牛鬼」という巨大なヤシガニのようなモンスターを倒して櫓を占拠しないといけない。
櫓を占拠すると相手の天守閣前の拠点に「大将落とし」と呼ばれる巨大なだるま落としが出現する。そしてそれを相手の天守閣に撃ち込むことでゲームセット、一本先取となる……というのがSENGOKUのゲーム性だ。
各プレイヤーには残機が3つまで与えられており、倒されてもその分は復活できるし、味方がその間に櫓を取ってくれれば櫓まで10秒ほどで向かえるジャンプ台も拠点に出現する。
また地上には無数の「中立ミニオン」と呼ばれる雑魚敵が配置されており、プレイヤーに攻撃してダメージを与えてくるが、代わりに倒せばゲージが溜まり、ウルトと呼ばれる強力なスキルを発動できるようになる。
今はなるべくミニオンを倒し、打開に備えてウルトを抱えておく、というのが主流の戦術だ。
『それでは──試合開始〜〜!!』
ヤチヨの掛け声とともに、私達は拠点を飛び出した。
ハンマーのジェットエンジンに点火したかぐやと巨大な黒いオオタカに飛び乗った私はトップレーンへ、お掃除ロボットのような滑走する円盤に乗った桜楽はボトムレーンへ。
彼女を1人でボトムに向かわせたのは、黒鬼相手じゃ1人側はまず死ぬこと、そしてアックス職は距離さえ詰めればある程度戦えるため、最弱候補と言えど時間稼ぎに関してはそこそこの性能を誇っていることの2つ。
はっきり言えば、少なくともこの回は私達2人が勝たなければどうしようもない試合ということだ。
『チームかぐやは安定のV軸、それに対して黒鬼は──トライデント! トライデントで来ました!』
「彩葉、トライデントって?」
「トップミドルボトムに1人ずつ。要は舐めプ。格上が圧倒的格下に負けないための陣形かな」
「なにそれ腹立つ〜〜!!」
そうこうしている間にミニオンの湧きポイント到着。
私やかぐやのような空中を移動する高速型はミニオンからめちゃくちゃ狙われやすいというデメリットがあるため、どうしても降りる必要がある。
逆に黒鬼の虎バイクや桜楽のお掃除ロボットは特に制限なしで使えるため一長一短。
『ここでかぐやといろPが一足先にミニオン狩り! いろPナイスエイム!』
着弾地点のミニオンを一掃し、ゲージもそこそこ溜まってきたところで──
「──来た!」
隣をかすめる弾丸。
私はかぐやに合図を送る。
間違いない、お早い到着だ。
私は岩陰に隠れ、ブーメランモードに切り替えた双剣をぶん投げる。
ガキィン、と重い金属音がそれを弾き、銃声の主……帝アキラは姿を現した。
私は戻ってきた双剣をキャッチし、ブーメランモードのまま一気に距離を詰めて斬り掛かった。
再び鳴り響く金属音。
火花を散らす鍔迫り合い。
互いに力を込める度、刃の擦れる音がなる。
だが随分と余裕そうに帝は口を開いた。
「……お前、彩葉だろ」
「チガウ。オレ、イロハ、チガウ」
バシュゥゥゥン
「彩葉ー!」
「だから名前を呼ぶな!」
内蔵のうなぎ砲でのありがたい援護射撃とともに飛んでくるありがたくない本名開示。
私は思わずかぐやの方を見てしまう。
「──ぐっ」
いくらなんでもその隙を帝が見逃すはずはなく、「ほれ、ほれほれ」とまるであしらうかのように棍棒でぽこぽこ小突かれる。
「着ぐるみスキンはヒットボックスデカいもんなー。ほらほら、どんどんHP削れてくぞ?」
悔しいがおっしゃる通り。
それに今は顔を出したくない気持ちよりも勝ちたいという気持ちの方が強い。
意を決し、私は着ぐるみを脱いだ。
『い、いろPが……いろPが着ぐるみを脱いだ〜〜〜!!?』
「やっぱ彩葉じゃん。じゃああのドラゴンちゃんは? 友達?」
「その話は──また後で!!」
ゲージを消費し、ブーメランから飛ばすエネルギー波。
帝はそれをさらっと受け流すと、代わりに背後の丸い大岩が半月切りにカットされた。
「おいおい、積もる話なんていくらでもあるだろ? 聞かせてくれよ──お兄ちゃんにさ」
「え、お兄ちゃん!?」
『ふふ、そうそう。みんな知らなかったんだもんね』
『おっとおっとぉぉっっ!!? ここで衝撃の告白!! 帝といろP、兄妹だった────!!!?』
驚きに満ちた大歓声が、スタジアムを包みこんだ。
▽
「……あ、やっぱそうだったんだ……」
彩葉、プロゲーマーのお兄ちゃんいるって言ってたし、何故か帝露骨に避けてたし──
「──っと!」
キィィンッ──
私はお掃除ロボットを飛び降り、斧の頬の部分で飛んできた矢を弾く。
甲高い音が鳴り響いて、鋭い矢が竹藪の一本に突き刺さった。
「へえ、初心者って聞いてたんだけど……ちゃんと練習してきてるじゃん」
「夏休みは時間がありますから」
どこからともなく聞こえる声に、私はそう返事した。
他には勝てないけど……あれにだけは、私にも勝算を作れる。
「アックス職の評価──少しだけ、上げて見せます」
この一週間の仮想敵──乃依に、私は宣言した。
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