超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
もうそれどころじゃなくなって、ツクヨミからログアウトしてから数時間ほど。
ようやく涙が止まってから、私は一心不乱にノートに書き綴った。
内容は今まで繰り返し見ていた、千年前の私とヤチヨの夢。
「夢日記はよくない」、だの巷では言われているけど、そんなもんじゃもう止められないくらいに私の感情は駆り立てられていた。
あの日、あの時、あの夜、私はヤチヨと何を話してたのか、ヤチヨは何を私に教えてくれたのか……それを必死に思い出しては、ボールペンを走らせる。
どうすれば「ハッピーエンド」に辿り着けるのか、あの夢、あの記憶が教えてくれるような気がした。
「……それでヤチヨ=かぐやで、いろはがそれを拾った子だから──」
そこまで書いて、手が止まった。
一つ目の明確な目標、それが多分、いろはっていう子だ。
ヤチヨとかぐやが好きな子で、この物語の始まり。
いわば、光る竹を切り落とした「竹取の翁」。
なら……この子と会わないと、何も始まらないのかも。
「いろは、いろは、いろは……」
目を瞑り、私は脳と記憶を絞り出す。
宛もなく辞書をめくるような、ストーリーも覚えてないマンガの一コマを探すような、そんな作業。
部屋にはヤチヨの歌声と、ノートをリズムよく叩くペン先の音だけが響く。
それから決して短くない空白を挟んで、私はハッと目を開けた。
「そうだ、制服……! 青いリボン、セーラー服、都内……」
キーボードに指を躍らせると、間もなく見つかった。
都立武蔵川高校、偏差値71。
後一年あったら……多分、間に合う。
▽
「あら、辞めちゃうの?」
「はい。受験、頑張りたいんで」
ギターは続けるけど、軽音部は辞めた。
多分、足りないから。
勉強は好きってわけじゃないけど、スマコンを買ってもらうための学年10位の延長線上、今更苦にするものでもない。
ましてやそれがハッピーエンドのために必要で、私が今頑張るための最大のモチベーションになってくれるっていうんだから、尚更。
軽音部に退部届を出した帰りでそれっぽい参考書と過去問を買い、その流れで両親との交渉の席についた。
「武蔵川か……僕は良いと思うよ。上を目指せば目指すほど選択肢も広がるさ」
「でも家からだと通いにくいじゃない? 乗り換えも増えるし、2時間以上掛かっちゃうんじゃないかしら」
「だから、その……一人暮らし、したいなって。私」
「一人暮らし……!? 桜楽、それは流石に……」
「……分かった。なら父さんと約束をしよう」
「約束?」
「ああ。ここから定期テストの総合順位で全部5位以上、さらにそのうち1回は学年1位。評定は平均で9.5以上。そんなしっかりものの娘だったら、父さんも母さんも安心して送り出せる。どうだ、やってみるか?」
「もちろん! 条件クリアしたら、ほんとに一人暮らしさせてくれるんだよね!?」
「ああ。……あ、流石にお小遣いは減らすから、そこはバイトで補うようにね」
「はーい!!」
それから1年間、私は走り続けた。
英数国理社、おまけに副教科、何一つ手を抜くことはなく、けれど頑張りすぎず、丁度「100」を狙えるように。
それに、ある意味そんな生活も都合が良かった。
ヤチヨが夢で教えてくれたけど、いろはっていう子は全科目10の完璧超人、私がパパに課せられた条件だって突破しちゃうような子だという。
なら、私だって突破できなきゃ意味がない。
考え方を変えれば、今私がやろうとしていることは彼女の人生への介入でもあるんだから、絶対、足を引っ張るのだけは駄目。
そう考えると、ますますやる気が湧いてくる。
ヤチヨがもう一度私を見てくれた時、なるべくすごい私でいたいから。
「……待っててね、ヤチヨ」
呟く私の横を、涼しい夜風が駆け抜けていった。
▽
2029年、3月。
「……本当に行っちゃうのね、桜楽……」
「あれ、今更駄目とか?」
「違うよ。親っていうのはね、子供が巣立つのをそう簡単には認められないのさ」
既に段ボールは送り付け、転がしているのは最後の荷物の入ったスーツケース。
パパは私の方へ手を伸ばすと、ワシャワシャと強く頭を撫でた。
「本当……よく育ってくれたな」
「何、泣きそうじゃん、パパ。今生の別れでもあるまいし」
「……そうだな。これは父さんの持論だ。……人間、別れはいくらでも悲しんでいいし、再会はどれだけ喜んでもいい。人生はそんな波の繰り返しなんだ。……頑張れよ、桜楽」
「パパこそ」
そして玄関の扉を開ける前に、私はぐっと息を吸い込む。
「……行ってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
「身体には気をつけてね、本当に」
家から一歩目を踏み出した時、私は高校生になった気がした。
新居は東京の立川、ここからだと2時間弱くらいは掛かるだろうか。
だが、ヤチヨの歌声を聞きながら、電車に身を揺られていると案外あっという間。
そろそろトラックも着く頃だろうか、なんて考えながら歩いていると、入居予定のアパートには丁度引っ越し業者のトラックが2台……2台?
あれ、そんな荷物頼んでないような……
「……もしやトラブル……?」
慌てて駆け寄ると、そこには業者とやり取りしてる先客が1人。
やっぱり軽くトラブってるみたいで、私は少し聞き耳を立てた。
「だから、私が頼んだ荷物はこっちだけでそっちは知らないんですって!」
「ですが──」
あ、私が遅れたからっぽい。
少し申し訳なさそうな雰囲気を作ってから、私はやり取りに口を挟みに行った。
「……もしかしたら、片方私かもです。このアパート、引っ越してきたんで……」
「あ、はい、お名前は……」
「花栄。
「……確認できました。202号室の方ですね。ではこちらは──」
「私は201です」
「っていうことは……申し訳ありません。こちらの手違いでした。今から荷物運び入れますね」
問題は解決したのか、ぞろぞろと私の部屋と、私のお隣に段ボールを運び込んでいく業者さん。
その傍らで作業が終わるのを待ってると、先に業者とやり取りしていた彼女……それも、私と同い年くらいの女の子と、意図せず目が合った。
「……? ……学生さん……ですか?」
「はい。もしかして、そっちも……?」
「そうなんです。神奈川の足柄から来て、春からそこの武蔵川で……」
「じゃあ同級生だ! 私も上京してきて、武蔵川で……」
「え、ほんと!?」
「はい! えっと……花栄さん、だっけ」
「同級生だし、下の名前で。桜楽で大丈夫だよ」
「じゃあそれで。私は──」
運命のいたずらっていうのは、本当にあるのかもしれない。
そんなことを、考えずにはいられなかった。
「──
これから先、一緒にヤチヨを推し、一緒にかぐやと出会い、一緒にハッピーエンドを描き、長い時間を過ごす友達。
いろは、もとい彩葉との出会いは、春先の昼下がりのことだった。
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