超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
『これは、これは──一体何が起きたんだ!!?』
『かぐやが雷の地雷トラップで退場、帝がチームかぐやを強襲するもこっちもさくDの地雷で妨害、最終的にはいろPと帝が同時に……てか初めて見た、天守どっちもぶっ飛んでんの』
会場を包む歓声とどよめき。
私は檻の隣でめちゃくちゃ狼狽えてて超可愛いヤチヨに問いかけた。
「このゲームって、引き分けとかあるんですか?」
「えっと……そのぉ……ヤッチョこんなリアルタイムバトルで引き分けとか起こると思ってなくてぇ……てか引き分けの場面とか知らなくてぇ……」
あー、かわい。
もう可愛すぎるなヤチヨ。
とはいえこの場合の判定がどうなるのか、私も完全に理解不能。
多分引き分けの設定はなかった気もするし、この結果がヤチヨカップにどう影響を及ぼすのかも分からない。
あの地雷だって奥の手も奥の手、使わずに済んだら良いなと思いながら念には念を入れてと仕込んでおいただけのものだ。
ぶっちゃけヤチヨの前だから張り切ってただけで、あんなカッコつけたメンタルじゃない。
「えっと……取り敢えず、お疲れ様? ──ってヤチヨ!?」
「だからさっき言ったじゃん、彩葉。取り敢えずおかえり」
判定が待たれる中、拠点まで帰還してきた2人。
彩葉の顔は戸惑い気味で、それに対してかぐやは決着はまだかと何とももどかしい様子。
「ねーねーヤチヨ、結局どっちの勝ち? かぐや? それとも帝?」
「ヨヨヨ〜、実はヤッチョもお悩み中でして……」
「だったらその悩み、俺達に預けてもらおうか」
聞き慣れた……というわけではないけど、一連の流れでちょっとだけ聞き飽きた声が響く。
振り向くとそこにはブラックオニキスの3人、帝、乃依、雷が揃っていた。
「雁首揃えて何しに来たの? 再戦のお誘い? 試合続行? それとも勝利宣言?」
「え〜、心外♡ 俺達そんなダサいやつだと思われてたの?」
「どれでもないさ。この勝負──俺達の負けだ」
飛び出した敗北宣言。
余裕綽々といった表情の裏の声色には、確かな悔しさが滲んでいる。
「良いんですか?」
私が尋ねると、帝は「ああ」と静かに頷いた。
「元よりこの勝負、俺達に求められてたのは「圧勝」だ。当然だよな、相手はプロゲーマーじゃないんだから。波に乗ってる新人配信者にそのアシスタント2人、しかもそのうち1人は対人戦ビギナークラスと来たもんだ、本当なら2セット速攻で取って終わる勝負だった。でも──」
帝の瞳が私達を1人ずつ捉え直す。
やっぱり兄妹だ、その視線はすごく似ている。
そして彼は少し目を瞑ってから、「はっ」と歯を見せて笑った。
「……お前達は本当に強かった。奇策、隠し玉、連携……何でも駆使して、圧倒的格上相手に見せ場作りまくった。舐めプして、格下に根性見せられて、その上で判定勝負にまで持ち込まれて……仮に勝ったとて、そんなブラックオニキスに
それから帝はボイスチャットを内部通信用から配信用に切り替え、観客席から見守るオーディエンスに向けて声を張り上げる。
『悪いな子ウサギ達!! この勝負、かぐやの勝ちだ!! ……本当に強かった!! かぐやも、いろPも、さくDも本当に!! 俺達は真正面からぶつかって、真正面から負けた!! 今宵の夢はここで終わり──』
そう言いながら帝はもう一度、かぐやの方をちらっと見る。
目が合うと同時に頷き合い、彼はかぐやの手首を掴み、その拳を高く掲げてみせた。
『……だから、この続きはこいつらに託す!! 俺達に勝ったかぐや達と、ヤチヨの最高のコラボライブ……どうかお前達も、精一杯応援してやってくれ!!』
「……かーぐーや」
「「かーぐーや」」
「「「かーぐーや!」」」
「「「「かーぐーや!!」」」」
帝の声に答えるように、あるいはかぐやを祝福するように、観客席から轟く大喝采とかぐやコール。
「いろPサイコー!!」
「さくD愛してる〜!!」
その中には、ちゃんと私達の名前も聞こえてきた。
いつの間にかツクヨミの夕焼けを照らしていたチョウチンアンコウの光は消え、暗い空を星々が彩っている。
『さあ、皆さんもうお分かりでしょうが──ヤチヨカップ、結果発表だー!!』
オタ公の声とともにもう一度沸き起こる大歓声。
そして見慣れた鳥居のステージ上にはついさっきまで隣りにいたはずのヤチヨの姿。
「いや〜、大義大義☆ ヤチヨカップのクライマックスに相応しいもの、見せてもらっちゃいました!」
相変わらず宙をふわりふわりと舞う姿はクラゲかエイかのよう。
無数のスポットライトに照らされた彼女は「近くで見れてよかった〜」と無邪気な笑顔で笑っている。
「みんなもう分かっちゃってると思うけど……ちゃんとヤッチョの言葉で伝えないとね☆ ヤッチョとコラボる人は──」
鳥居の上、巨大な巻物のようなディスプレイの中で数え切れないほどの棒グラフが伸びていく。
最初に突き抜けた1本のグラフと、少し遅れてそれを猛追するもう1本。
競って、競って、競り合って。
そうなのだと分かっていても、その場の誰もが固唾を呑んで見守っている。
そしてドラムロールのクライマックス、最後の最後の瞬間──
「──かぐやいろPさくD!!」
うさ耳生やしたかぐや姫が、お先にぴょんと失礼した。
第二位 ブラックオニキス 新規獲得ファン数117万1334人
第一位 かぐや・いろP・さくD 新規獲得ファン数117万5540人
「めでたしや〜☆」
スポットライトが今日一番の輝きを見せ、私達を盛大に照らす。
宙を舞うのはファンからのコメントを宿した魚の群れ。
『今一番熱い3人』『夫婦と娘wこれ実質家族だろw』『46:22 中からDKPIイケメン出てきて焦った』『インカメから追ってる』『いろPにあこがれてもっかいピアノ始めた!』『ライブ中のファンサマジで神だった』『ここスカイラブハリケーン』『しっぽブンブンのアシコンビ好きすぎる』『妹相手なら帝様も浮気許してくれるやろなぁ…』『脳筋セットほんま草』『いろさくの身長差で白米3杯行ける』『かぐやの顔芸ヤバすぎ笑』『14:33 まずいですよ!』『この美少女がわざわざ着ぐるみってマジ?』『ほんとに、3人で夢叶えてほしい』『かぐや画伯すき』『待って泣いた』『美少女が3人揃うとどうなる? 知らんのか 俺が得する』『グルメ配信はちゃんといただきますから始まるのほんといい』『KISは箱推し以外無理』『1:23:01 ここさくD全受け』『かぐやちゃんいっつも楽しそうでこっちまで楽しい』『…雨が降ってきたな』『おめでとー!!』『3人とも楽しそうなのが一番最高!!』
万雷の喝采、割れんばかりの大歓声。
宙を舞うオブジェクト、人混みをすり抜ける夜風。
その全てが私達を祝福しているみたいだった。
「や……や…………、……やっっったあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
そしてかぐやは、月にも届きそうなくらい盛大に跳ねた。
ああ、なんて幸せなんだろう。
今だけは余計な全部を頭の隅に追いやって、彩葉と互いの顔へ手を伸ばす。
「……」
「……」
「「……痛っ」」
スマコンを付けたまま、私達はその痛みでこれが現実なことを再確認した。
「彩葉! 桜楽! ほんっっとうにありがと!! おかげで、おかげでほんとに勝てちゃった!!」
「違うよ。誰のおかげとかじゃなくて、みんなの力。私達が最強ってこと」
「桜楽までそんなこと言って……でも、私も、2人とここまで来れて、すごく良かった……」
「おおっと、お取り込み中?」
人混みを掻き分けて姿を現すブラックオニキ……あれ、乃依の姿がない。
「帝、乃依は?」
「あいつなら帰ったよ。「次は通らない」ってさ」
「じゃ、また新しいのを探してきます」
「……で、何の用? お兄ちゃん」
「何って、可愛い妹との約束を守りに来たんだよ。「なんでもお願い叶えてやる」、だろ?」
「え、ほんとにいいの?」
聞き返した彩葉の、モッフモフの尻尾が左右に揺れる。
楽しそう。
本当は、お兄ちゃんの前ではこんな感じなんだろうな。
「えっと、その……引っ越ししたくて、お兄ちゃんに、保証人を……」
「……え、それだけ? ビル買うとかじゃなくて?」
「かぐやビル欲しい!」
「桜楽ちゃんは?」
「私は……大丈夫です。かぐやの教育にもちょっと悪影響が出そうなので」
「あちゃー、ママが駄目ってんなら駄目だな。悪い、彩葉」
「別に桜楽とはそういう関係じゃ……じゃなくて! とにかく保証人お願いします!」
「了解。んじゃ、俺らはもう行くわ。……おめでとう、彩葉」
それだけ言い残し、帝と雷は軽やかにログアウトする。
最後に残した雷のピースにグーを出したかぐやはドヤ顔で勝ち誇っていた。
「てか、ほんとに引っ越し!? あのマンション!?」
「仕方ないでしょ、3人で暮らすってなったら流石に手狭だし、かぐやどんどん物増やすし……」
「やったー!!」
「一度上がったら下げられないものってな〜んだ。正解は生活水準」
「……それ、怖いから言わないで……」
「3人ともおっめでと〜〜!! さささ、優勝者インタビュー……じゃなくて、ヤチヨが個人的にお話しちゃうぞのコーナーだよ〜〜☆」
結果発表が終わって、まだ熱も冷めやらぬユーザー達も次第に普段のツクヨミへと戻っていく中、出番の終わってちびと化したヤチヨがふんわりと私達の元へ降りてくる。
もう普通じゃ味わえないくらい話せてるのに、未だに目の前に来るだけでビクッとしてしまうのはやはり圧倒的なヤチヨの美少女パワー故なんだろうか。
隣の彩葉なんて今更着ぐるみスキンを着けようか葛藤してるし。
「へっ、うっすいとこ引いたなお前ら。まぐれに関しちゃ右に出るもの──や、やめろ!!」
相変わらずの憎まれ口を炸裂させるFUSHIを躊躇なく捉え、お手玉の一つにしてしまうかぐや。
ひょいひょいとぶん回されるFUSHIの悲鳴が響く中、ちびヤチヨは「たいへんよくできました!」と頑張って背伸びして3人の頭を撫でてくる。
流石に届かなそうだったから、私は少ししゃがんでちびヤチヨのちまっこいてのひらを堪能していた。
「そう言えばさ、ヤチヨもたまにKASSENやってるけど超強いよね。もしかぐやがヤチヨくらい強かったら今日はもっと楽勝だったんだろうな〜」
「いやいや、分かんないよ〜? いくら月見ヤチヨが日々の努力を欠かさないお姫様の鑑もちガールとはいえ3戦目でふつ〜に負けちゃってたかも。今日は3人だったから3人で勝てたんだと私は思うな」
「えー、なんか曖昧」
「ヨヨヨ〜、ヤッチョは日本人歴8000年、優柔不断なテンプレジャパニーズなのです〜〜」
「てきとーじゃない? なんか」
あっ、気を付けてかぐや。
彩葉が「敬語くらい使えよビーム」を目から発射してるから。
「……さて」
あ、ノーマルヤチヨに戻った。
「ここからは超ハードなクライマックス行き。3人とも、運命の大波、嵐みたいなお話に飛び込む覚悟は出来た?」
「もちろん」
ねえ、ヤチヨ。
まだ言えないから、言わないけどさ。
私は、そのお話をハッピーエンドにしに来たんだよ。
「いい返事」
そう言って、ヤチヨは笑った。
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