超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!   作:あるふぁせんとーり

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第二十一帖 新生活

「……いくら使ったんだろうね、私達」

 

「その話今はしないで……」

 

 

 二部屋分の荷物を運び終えたトラックが視界の遥か下で発進する。

 

 随分と広くなったアイランドキッチン、買い替えた最新規格の冷蔵庫、ほんの数週間前には考えてもいなかった高級インテリア……気絶しそうなくらいの出費だったが、何故か口座の数字はそれ以上に増えている。

 

 人気が人気を呼ぶインターネットの定めか、無名からヤチヨカップ優勝まで一気に駆け上がった私達のファン数はただでさえ素人からすれば大成功過ぎる100万人達成からも一切止まることなく右肩上がりで爆増し、それに伴って案件やらコラボ依頼やらもわんさかわんさか。

 

 そんな激動の一週間を乗り越え、迎えたビッグイベント。

 

 

「うおおおおおお!! すごすごすごすご、すっげー!!」

 

 

 そう、引っ越しである。

 

 それも駅前の高級デザイナーマンション。

 

 駅徒歩1分、32階、部屋そのものは2階建て、オートロックに宅配ボックス、加えてコンシェルジュまでついた、あのアパートでのバイト暮らしからは想像もつかなかったような環境のお値段は月35万。

 

 初期費用やら家具代家電代まで諸々込みでまあ軽く3桁万円は吹っ飛んだが、それでも全然余裕がある今の私達が一番意味不明かもしれない。

 

 まあ顔バレしたというセキュリティ面とか、かぐやの物がどんどん増えていくとか、2人で一つの部屋借りた方が楽なんじゃないか、とか諸々の理由が重なり、そして無事に帝……もとい彩葉のお兄ちゃんに保証人を頼めたことで無事決行へと至ったわけである。

 

 

「やっば! 眺めすご! てか風強すぎ!」

 

「かぐや、落ちないようにだけ気をつけてね」

 

「はーい!」

 

「ちょっ、ほんとに気をつけてね……!?」

 

 

 バルコニーに飛び出し、身を乗り出して風を浴びるかぐや。

 

 少し不安そうな目で眺める彩葉の隣で、私はタブレットをポチポチと住所変更のためのうんぬんかんぬんを進めていた。

 

 そして地上100mの空気を満喫したかぐやはどっと、買いたてほやほやのふかふかソファーに飛び込んだ。

 

 

「あー……なんかかぐや最強になっちゃったかも……」

 

「ふふっ、確かに。彩葉もそうでしょ? 顔、すごく明るくなってる」

 

「え? まあ、悪い気はしないけど……でも全然落ち着かないよ」

 

 

 そんなことを言いながら彼女の開けた段ボールの中身は東大受験のための参考書。

 

 食費を切り詰めて古本屋巡ったりした数ヶ月前のことを思い出す。

 

 来るとこまで来たなぁ、私達。

 

 

「彩葉、買い物ある? 私今から降りるけど」

 

「だったら──いいや、私も一緒に行く」

 

「了解」

 

「かぐや! かぐやも行く!」

 

「かぐやは荷解き! 段ボール大半あんたのだからね!」

 

「ゔぇ〜」

 

「お土産買ってくるから、それまで頑張って」

 

 

 やだやだと言いつつも渋々段ボールを開け始めるかぐや。

 

 あの調子だと出てきちゃうかな、なんて考えながら部屋を出ると目の前はそのままエレベーターホール。

 

 ルームキーを登録したスマホをかざすと、ふっとボタンに光がついた。

 

 

「なんか楽しいね、彩葉」

 

「楽しい?」

 

「うん。生活ガラッと変わって、配信なんかやっちゃって、でも頑張って勉強もバイトもやって……あっという間の夏休みもそろそろ終わっちゃう。でも、「これでよかったなぁ」って思ったりしちゃってさ。彩葉はどう? 楽しかった?」

 

「そりゃ……楽しかったけど……」

 

「かぐやも楽しかった!」

 

「はいはい、そりゃ何よりで──かぐや!?」

 

「ふふっ、やっぱり出てきちゃったか」

 

「もう桜楽甘すぎだって……」

 

 

 彩葉がため息を吐くと同時に、僅かなモーター音だけで開くエレベーターのドア。

 

 右手に私の、左手に彩葉の手を握りながらかぐやはるんるんで歩き出す。

 

 

「そーれーでーさー、2人はかぐやのこと置いてどこ行くつもりだったのかな?」

 

「かぐやの買い物。シャンプー切れてたでしょ。化粧水も残り少ないし」

 

「そうだ、せっかくだしホットケーキミックスも買っちゃお。あとお昼は……どうしよっか」

 

「かぐやパスタ作りたい! 生地からジェノベーゼ!」

 

「じゃあそれで決まり」

 

「もう……このままじゃ財布の紐緩み切っちゃうじゃん……」

 

 

 

 

「やっぱかぐやもそっちやる! 桜楽、ソースお願い!」

 

「はいはい」

 

 

 彩葉の担当のはずの製麺機がお気に召したのか、私に昨日買ったばかりのミキサーを押し付けて製麺機の方へ駆けつけるかぐや。

 

 ふたりで仲良くハンドルを回す度、生地のシートが巻き込まれて細切りのパスタ麺に変わっていく。

 

 

「桜楽、これ超面白いよ! やってみなって!」

 

「そう? じゃあ私も少しだけ」

 

 

 そっからは3人で交代交代でハンドルを回して麺を量産し、それを塩水で満たしたフライパンでさっと茹でて、作りたてのジェノベーゼソースにからめてお皿に盛り付ける。

 

 ふわっといい匂いが辺りを満たし、かぐやはなんともご機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 

「じゃじゃーん! チーズ削り器! とう! やー!」

 

「楽しいからって双剣にしない。ほら、はやくかけちゃいな」

 

「私、チーズ大盛りでお願い」

 

 

 それからかぐやが何とも楽しげに買ってきたモッツァレラチーズをすりおろして準備万端。

 

 光の当たり方もテーブルも、随分と高級感にあふれるようになってはじめてのお昼ご飯。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

 私達は揃って手を合わせ──

 

 

「うっっっみゃぁ〜〜〜♡♡」

 

 

 頬張ったかぐやは、満面の笑みで頬を押さえた。

 

 まだ一口も食べてないのに、私と彩葉は顔を見合わせて笑った。




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