超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
『今日午後十時頃から、東京都立川市全域にて大規模な通信障害が発生しました。被害は市内の通信機器やモニター、サイネージなど無差別かつ同時多発的に発生し、警視庁は原因究明を進めていると──』
いつになく静かなリビングは、テレビの音声と、随分と静かになったドライヤーの音だけが響いている。
桜楽の膝の上で、まるでそのポーズに定められたフィギュアみたいに大人しく体育座りするかぐやと、その髪を乾かし、丁寧に梳かす桜楽。
私はテーブルの上のマグカップに冷えた緑茶を注ぎながら口を開いた。
「……コラボライブ、終わっちゃったね」
主語は付けなかった。
もし「かぐや」と言ってしまったら、返事が帰ってこなかった時に壊れてしまいそうだったから。
「でもね、まだやりたいこといっぱいあるんだー、かぐや」
良かった、応えてくれた。
ドライヤーをかけ終えた長い金髪をわしゃわしゃと揺すりながら「例えば?」と桜楽は問いかける。
「例えば……ほら、明日もまた食材届くし! 2人にもっと美味しいもの食べさせたいな〜」
「本当? 嬉しいな」
「とーぜん! かぐやは超優等生の天才歌姫だかんね!」
そうドヤってみせるその顔もどこか虚勢を張っているようで、いつものかぐやとはめっきり違う。
ツクヨミから帰ったかぐやは意識こそ戻ってきたものの、まだ夢心地というか、ぼんやりと考え事をしているような状態で自ら声を発したり、なにかに反応しようとはしない。
やっぱりおかしい。
けれど、それは本人にも分かってるようで、
「んー、かぐやちょっと疲れちゃったのかも。先寝るね〜」
そう言い残し、ゆっくりと螺旋階段を上って部屋に戻っていくかぐや。
私達より先に寝ると言い出したのも、同じ部屋で寝たいと言い出さなかったのも、手摺を使って階段を上るのも今日が初めてのことだった。
きっかけとして思いつくのは……やっぱり、あの人型。
「不安?」
桜楽が私へ尋ねる。
答えるのをためらっていると、彼女はぽんぽんと自らの膝を叩く。
私は湿った髪を揺らしたまま、彼女の膝の上に座った。
「綺麗に伸びたね。最後に切ったの、何ヶ月前だっけ」
「かぐやを拾う一週間前とかだったと思う。2人でお風呂に新聞引いてさ」
「ああ、もうそんなに経ったんだ。懐かしい。この一ヶ月、あっという間だったもんね」
私の髪を櫛とドライヤーで整えながら笑う彼女。
触れる手、触れる身体の全てが柔らかくて、ゆっくりと不安を和らげてくれる。
その上で、私は彼女に切り出した。
「……かぐやに、何が起きたと思う?」
「……少し、一緒に考えてみる?」
そう言って、私の髪を乾かしながら桜楽は指折り数え始める。
黒い血を撒き散らした人型、市内全域にもたらされた通信障害、「2030/09/12」、巨大な月……
「もしかして、あの日付──」
一瞬、調べようという考えが浮かんで、スマートフォンを手にとって、それからすぐにふっと上書きされた。
『母 不在着信(10件)』
声を聞かずとも、彼女が不機嫌なことは十二分に分かった。
ああ、ここで気が狂って電話してしまったら、私はどれだけの言葉を吐かれるのだろう。
電話に出るのが遅い、折り返しがない、近況報告、同棲、配信、桜楽、かぐや……
想像するだけでも気分が悪くなるくらいに母の小言は止まらない。
仕方ない、あれはそういう人間だ。
高校を首席で卒業して、東大に首席で合格して、院を出て、誰もが知る有名企業に就職して、なんて理想的な人生を送ったって──
……理想的?
こんなのが、理想的だって?
私を俯瞰で眺めていた私は、その言葉にゾッとした。
そして、ゾッとしたことにまたゾッとした。
これが私の目標だった。
揺るぎない、完璧なものとして目指していたはずの目標。
「……彩葉は、なんでそんなに頑張るの?」
いつかの日のかぐやの言葉が、脳をよぎる。
駄目だ、今はこんなの考えてたら──
「大丈夫だよ、ゆっくり考えよう」
桜楽は背中から覆い被さるように私の身体を抱き締めた。
その温もりで私はようやく現実に返ってくる。
悪い考え事が進むといっつも母がしゃしゃり出てくる、私の悪い癖だ。
桜楽も画面を覗き込む中、私はあの日付を入力して虫眼鏡のマークを指先で弾く。
数秒の時間を待って、私は画面に指を滑らせる。
答えはその中に、まるでガラクタのように転がっていた。
「9月12日は中秋の名月」
その文字を見て、私はハッとした。
どこから来たのか、その質問にかぐやは窓の外を指差した。
「迎え」と度々口にした。
恭しく頭を下げた人型は、一体誰に頭を下げていたのか。
その答え合わせをするように、桜楽は言った。
「かぐや姫の最後は、月に帰るんだよ」
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