超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!   作:あるふぁせんとーり

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第二十六帖 約束

 次の日、彩葉が起きるのは普段と比べても随分と遅かった。

 

 とはいっても普通に学校の夏期講習には間に合う程度だから、そこは流石の彩葉。

 

 私はキッチンで白甘鯛を捌くかぐやを見守りながら、ダイニングテーブルの上でノートPCを叩いていた。

 

 

「おはよう、彩葉」

 

「……あ、おはよ、桜楽」

 

 

 パソコンを閉じてから私は声を掛ける。

 

 何か考え事でもしていたのか、彩葉は少し遅れて挨拶を返した。

 

 言いたいことを無数に押し込めているような、そんな取り繕った顔をしている。

 

 私も何事もない、いつもの朝みたいな感じで「今日は寝坊だね」なんて笑うと、彼女は「ライブ疲れ」と苦笑した。

 

 

「んでこっちは──」

 

「シラカワ! あ、白甘鯛ってお魚で、あとで三枚おろし配信やるの! 板前衣装も桜楽に買ってもらったんだ〜!」

 

「桜楽……」

 

「いいでしょ、ライブのご褒美」

 

「そういうことー。ところで、なんで制服着てるの? 彩葉もだし、今更だけど桜楽も。今日土曜だし」

 

「夏期講習。っていうかかぐやこそ──」

 

 

 何かを言おうとして、彩葉はそっと口をつぐむ。

 

 見ると目の下にはクマを化粧で誤魔化した後があり、かぐやを見る目はわずかに潤んでいる。

 

 私はキッチン横の籠から菓子パンとドリンクゼリーを2つずつ取ると、彩葉の方へひょいと投げ渡した。

 

 

「それじゃ、いってきます」

 

「いってきま〜す」

 

「いってら〜」

 

 

 いつからか、かぐやが学校へ行くのを引き止める癖はすっかりなくなっていた。

 

 彩葉は少し履きづらそうに、履き慣れたはずのローファーに足を通した。

 

 その時、ふっと冷たい、異物感のある何かが隣をすり抜ける。

 

 かぐやの方へ慌てて振り向いた彼女に「先、行ってるね」と私は何も知らない振りをして家を出た。

 

 

「……あ、やっぱりそうだ」

 

 

 歩きながらようやくそれを見つけて、私は小さく呟いた。

 

 ライブを襲撃し、かぐやをさらおうとした彼らを構成するコード。

 

 それはツクヨミ内におけるヤチヨの、そしてかぐやのものと酷似していた。

 

 じゃあもう、私一人がそう見做すのにこれ以上の証拠は必要ない。

 

 後は勝ち方を探すだけだ。

 

 月に帰ったかぐや姫を、取り戻す方法を。

 

 

 

 

『2人とも夏期講習終わった? 帰ったらツクヨミの川床集合で!』

 

『ごめん、私仕事入っちゃってる』

 

『りょ〜、彩葉は?』

 

『私は大丈夫』

 

 

 連絡を閉じ、一足先に家についた私は、部屋に引きこもってスマコンを起動する。

 

 約束の時間は15時で、今は14時30分。

 

 待ち合わせの料亭の個室に到着した私は、少し早いかな、とか思いつつ彼女が来るまで作業を進めようとその場にキーボードを開く。

 

 そしてカタカタと数分間コードを打ち込んでいると、ガララっと背後で引き戸を開ける音が響いた。

 

 

「おつかれ。元気そうだね、ヤチヨ」

 

「あらま。ヤッチョ一番乗りだと思ったんだけどな〜、おまたせ失礼歌姫になっちゃったか〜」

 

「大丈夫、全然待ってないから」

 

 

 書きかけのコードを保存し、画面を閉じる。

 

 振り向くと、そこではヤチヨが少し申し訳なさそうに頭を掻いていた。

 

 

「頼まれてたの、作っといたよ。バランス調整はまだやってないから、そこはテストプレイを経て、って感じかな」

 

 

 そう言って開いたのは、ヤチヨから依頼を受けていたKASSENの新モード開発。

 

 アイテムやプレイヤーの追加程度のものだったから、そう時間はかからなかった。

 

 どっちかと言うと「タメ口で〜☆」って依頼の方がキツい。

 

 そして渡したファイルを「仕事が早くて助かるにゃ〜」とヤチヨはパッと保存し、亜空間な袖口に収納した。

 

 

「いくらメンテとかバランス調整は外注してるっていっても基本ヤッチョのワンオペなので、新しいシステムを作るにはこうしてヤッチョ以外の誰かの意見も欲しいんだよね〜。だから、さくDに依頼する必要があったんですね」

 

「こっちこそ、意外と書きやすいフォーマットで助かった。ツクヨミのコードって奥に行くほど難しくなるイメージあったからさ」

 

「ふふふ、ヤッチョの日々の翻訳作業の賜物なのです。とはいえこんなに早くツクヨミ語覚えてくれるとは思わなかったし、こりゃ次のステージ行っちゃってもいいかもな〜」

 

「次のステージ……それが、今日の「本題」?」

 

 

 私が問いかけるとヤチヨはこくりと頷いた。

 

 

「さくDに、ツクヨミのシステムを手伝ってほしいんだ」

 

「……私に? なんで?」

 

「んー、2人のそばにいたいから、かな。卒業ライブが終わってかぐやが引退しちゃった後、彩葉も桜楽もすごく大変だと思うから。ヤッチョは少しでもお力添えしたいのです」

 

 

 まるで見せつけるように、言葉の端々に違和感を積み重ねていくヤチヨ。

 

 その声はいつものように明るいものを装いながらも、どうしてもいくらかの不安が混ざっている。

 

 少しの沈黙を挟んでから、私は口を開いた。

 

 

「……私、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あれ、そうだったんだ? ヤチヨ、かぐやに卒業ライブのプロデュース頼まれちゃってね、もしかしたら2人にはまだ話してなかったのかも?」

 

「嘘。今のかぐやは私達に何も言わずにヤチヨの方に突撃できるほどの悪い子じゃなくなっちゃったから」

 

「……」

 

「ねえ、聞かせて、ヤチヨ。ヤチヨが話してるのは「さくD」? 「花栄 桜楽」? それとも──「酒寄 桃華」?」

 

 

 その名前が出た瞬間、ヤチヨはその目を大きく見開いた。

 

 やたらとリアルに作ったのだろう、口の中に溜まった唾を飲み込む動作が何回も挟まる。

 

 その目が、身体が、声が震える。

 

 

「じゃあ、本当に? 桜楽は、本当に……本当に、そうなの?」

 

「……1000年振り、だね」

 

 

 私は電子の海の中で、彼女の手を握った。

 

 

「久しぶり、ヤチヨ。ちゃんと……覚えてて、くれたんだ」

 

「それは、こっちのセリフで……桃華と彩葉が一緒にいた時なんて、心臓、止まりそうで……」

 

「心配させてごめんね。……でも大丈夫、私はここにいるよ。桃華はちゃんと生まれ変わって、桜楽として──最高のハッピーエンドを書きに来たんだよ」




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