超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
『超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!』開幕です。
初めて彼女と出会ったのは、タイムトラベルに失敗してから7000年ほど経った、現代においては「平安」と呼ばれる時代の、とても寒い春先のことだった。
温かい火鉢と共に藁に包まれて運ばれた先は大きなお屋敷。
「病弱な娘の話し相手になってやってほしい」、という偉い人からのお願いだった。
「ふふっ、はじめまして」
細い指が藁を外し、青い目が私を覗き込んだ。
肌も髪も真っ白で、現代だったらアルビノと診断されるんだろうな、なんて考えつつ私は部屋を見回す。
上流貴族の娘さんってこともあって、調度品はどれも一流の品で揃えられていて、あの漆塗りの机に乗った未使用の紙束なんて、現代じゃ百万円くらいするかも。
「私は桃華。
考えている内に、私は少し体温の低い手のひらに乗せられてゆっくりと持ち上げられる。
近くで見ると、同じ苗字ということもあって、少し彩葉に似ているような気がした。
でも、あと100年と少し、鎌倉時代にも入らないうちにこの家の血は途絶え、酒寄家は一旦終了してしまう。
だから、それは他人の空似だった。
この頃にはもう、私がヤチヨになることはなんとなく分かっていたから、私もそう名乗っていた。
これが彼女、桃華の死ぬ半年ほど前の話。
▽
桃華は文を書くのが上手だった。
昔から布団から離れられないから、歌集なんかを読むのが好きで、地方から集めた民話なんかをよく諳んじていた。
私が未来の話や過去の話をしてあげると、パチパチと手を叩いて喜んでくれた。
「ヤチヨは物知りだね。いいなぁ、私も家から出れたらもっと色んな物を見れるのに」
「いやいや、未来もっとすごいかんね! 家から出なくても何でも見れるしなんでも手に入る! 桃華なんて文章超上手だし、小説家にでもなればガッポガッポだよ!」
「小説家? 何それ」
「あ、小説家ってのは……物語を書く人?」
「物、語……?」
あ、そっか。
そこでようやく思い出した。
まだこの国には、物語って概念が生まれてないっていうことに。
私は少し考え、桃華が用意してくれた綿の敷布団に絹の掛け布団の入った籠の中を転げ回る。
そして、一つの答えを出した。
「物語ってのは、超楽しいハッピーエンドで終わるめっちゃ面白いお話! お姫様が出てきたり、王子様が出てきたり、あとはドラゴンとか! もう寝る前の子供に読み聞かせなんてしようものならその日はぐっすり快眠って感じ!」
「じゃあ、おとぎ話だ。……いいなぁ、そういうの。私にも、書けないかな」
「書ける書ける! やってみなよ!」
私が勧めると、彼女は引きずるように文机を布団の傍らに動かし、細い腕で懸命に墨を磨り始めた。
病弱な桃華は、何か書いている時だけはまるで子供のようなとめどない生命力に溢れ、次々と美しい文字を紙の上へ散らしていく。
横からそれに口を出していると、なんだか漫画雑誌の編集者になった気分だった。
そんな執筆が彼女の寿命を削っていたのか、あるいは伸ばしていたのか。
今でも時々考えてしまう。
▽
「最後は、ヤチヨから聞いたお話を書こうと思って」
春が終わり、夏が終わり、鈴虫が鳴き始めた頃。
彼女は毎日のように布団に血を吐くようになっていた。
それでも筆を持つ時だけは意地で堪え、紙の上には決して血をこぼさない。
私はそんな彼女のために、私達の物語を語った。
月からやってきた私を彩葉という女の子が拾ってくれたこと、すくすく育つ内にめちゃくちゃ大人気美少女になり求婚されまくったこと、帝っていう超すごいやつからも求婚されたこと、そして最後はみんなで月に立ち向かうも敵わず、月に帰るしかなかったこと。
「……バットエンド、ってやつじゃないの? 続きは?」
「ないよ」
「……そっか」
彼女はそれを上手いこと平安テイストに仕立て上げた。
今にも死にそうな身体で、必死になって。
ようやく月に帰るシーンまで書き上げたのは、彼女が死ぬ前の夜だった。
「大丈夫? ちゃんと書けてる?」
「うん。少なくとも千年残るねこれは」
「そんなに? でも、まだ続きがあるんだ」
彼女はそう笑って、そのまま意識を失った。
次に目覚めた頃には、もう後何分、何秒持つか、そんなところまで彼女の身体は陥っていた。
「ごめんね、あの続きは……もう書けなさそう」
「……! 桃華? 意識、戻って……」
「おしゃべりだけで精一杯だから……最後に、聞いてほしいんだ」
「……うん、聞くよ。何でも聞く」
「彩葉──あの子のこと、いっぱい話してくれたよね。すごく大好きで、ヤチヨが数千年生きてる理由だって。……でも、あなたがその子を好きなくらい、私もあなたが好き。だからきっと──」
「じゃあ、会いに来て! 彩葉も私も、千年後で待ってるから!」
「……うん、約束する」
最後に、彼女の真っ白な指が私を撫でる。
「何度生まれ変わっても、必ずあなたに……あなた達に、会いに行くって」
「一緒に、ハッピーエンドを書こう」、そんな言葉を出そうとした彼女は、それを出す前にこときれた。
満月の夜、空には中秋の名月が浮かぶ、そんな夜だった。
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