超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
それから、さらに千年間。
沢山の人と会って、沢山の人に助けられて、沢山の人とお別れした。
琵琶の上手な貴族、戦国時代のお姫様、遊郭で引っ張りだこの太夫、焼け野原で花を売る少女、正倉院から「もと光る竹」を盗み出してくれたCIA……
誰もが懸命に、笑って、泣いて……やっぱり、月よりずっと「生きている」
そんな彼らの様子を見る度に私は救われて、それから彼女達を思い出した。
最初の七千年は彩葉と会うために、最後の千年はそれに加えて桃華を探すために。
彩葉は気付いてくれるかな、桃華は会いに来てくれるかな。
そんな思いがウミウシの身体を突き動かし、沢山の災い、沢山の血、沢山の火を越えさせた。
▽
「……本当はさ、怖かったんだぁ」
自分でも分かるくらいの涙声で、私は言った。
ああ、こんなんだったら涙腺調節しとくんだった。
桃華の顔、ぐちゃぐちゃで上手く見えないや。
「……私は、「桜楽」を知らなかったから。私がかぐやだった時は、一緒にいたのは彩葉だけで、2人で一緒に頑張ってたんだ。だから、2人を見つけた時……すごくびっくりした。「あ、これは私の知ってるお話じゃないんだな」って」
「そっか」
相槌を打つ桃華……ううん、桜楽の声は優しくて、すごく温かい。
綺麗な青い目や少し色の薄い灰色の髪はあの頃の面影を残していたけど、身体は病気の気配なんて一切ないくらい健康的に育っていた。
ちょっとえっちだな、なんて気持ちもないと言えば嘘になるけど、そんなのかき消せるくらいに彼女が無事でいてくれていることが私には嬉しかった。
でも──
「……私は、この先を知らない。みんなの頼れるスーパー歌姫、月見ヤチヨじゃいられないんだ。ヤチヨも……ううん、かぐやも、月に帰っておしまいだったから。こうして今桃華に会えてるだけでも、ヤチヨは万々歳なのです」
そう。
本当に嬉しかった。
桜楽が初めてツクヨミにログインしたのは今から3年と少し前。
彩葉よりは1年くらい後だったっけ。
彩葉と会えた、舞い上がるような嬉しさもあったからこそ、私は桃華とは二度と会えないと思ってた。
そりゃそうだ。
月から来た私が言うのも何だけど、生まれ変わりなんておとぎ話みたいなことがあっさり起こってくれるはずがない。
そう諦めて、「ヤチヨ」が私達にそうしてくれたみたいに私も彩葉と「かぐや」を助けようと、準備をしていた、そんな日のことだった。
「……待って、あの子──」
日本人離れした、青い瞳の女の子がログインした。
私はチュートリアルのフリをして、彼女の方へ駆け寄る。
でも、全部が全部上手くいく、なんてことはあり得なくて。
私を見ても、手を握っても、彼女は1人の「月見ヤチヨ」のファンとして喜ぶだけだった。
けれど、まあそんなもんだよね、と淡い期待を砕かれ、もう一度諦めの方へ意識を引き戻そうとしたその瞬間。
「……ヤチヨ……?」
彼女は、私の名前を呼んだ。
呼んでくれたのだ、
本当は叫びたかった。
今すぐ抱きついて、あの頃よりもずっと温かくなった体温を感じたかった。
けれど、そうする勇気もそれが出来る身体もなかった私は、ツクヨミの街並みへ桜楽を送り出してから、1人で泣いていた。
それだけで、すごく幸せだった。
それから少し経って、高校生になった桜楽が彩葉と同じアパートで暮らすようになったことを知った。
ツクヨミ内でも2人だったり、芦花と真実とで4人だったり、彩葉と桜楽が仲良くしてるのを見るのはすごく楽しくて、私まで救われるみたいだった。
けれどそれが、少しずつ怖くなっていた自分もいた。
「……私が竹取神戦やった時はね、ヤチヨが入ってくれたんだ。私と彩葉、それからヤチヨ。3人で黒鬼と戦ったんだけど、最後は負けちゃった。桜楽達よく勝ったよね〜」
「あれは……奥の手がハマっただけですって」
「それにしてもだよ〜! 桜楽がいてくれたからライブのギターサウンドも超かっこよかったし、他にも──」
彼女がいない世界の話を、彼女は楽しそうに聞いてくれる。
でも八千年のことを話す勇気はまだなくて、それを尋ねた桜楽の言葉には「色々だよ、色々」と誤魔化すことしか出来なかった。
そんな私のことを察してくれたのか、「元気だったならそれでいいよ」と彼女は笑ってくれた。
「……それで、桃華はこの先どうするつもりなの? かぐやが月に帰っちゃったら、その後は……?」
「どうもこうも、言ったでしょ? 私はハッピーエンドを書きに来たって。ハッピーエンドになるまで、物語を続けるよ。方法はまだ考えてる最中だけどね」
「まずは月人への対抗手段探さないと」と尻尾を揺らす桜楽。
その声には桃華だった頃と変わらない、文机に向かっているような力強い生命力に溢れていた。
「……うん、ヤッチョ安心しちゃった。ごめんね〜、1人でビビり散らかして」
……そうだよね、あんなに頑張ってた彩葉と同じくらい頑張ってるんだもん。
2人だったら、もっとすごくなるに決まってるよね。
勝手に納得して、勝手に笑う。
「あ、今更だけど突然呼び出しちゃってごめんね。お詫びにお姉さんからアドバイス! 明日の夕方くらいに着付けの予約をしておくといいよ! 3人分!」
「着付け……了解。覚えておく」
そうして「そろそろ行くね」と席を立つ桜楽。
一瞬引き留めようと右手を伸ばしかけて、私はそれを慌てて引っ込める。
「頑張ってね! ヤッチョ応援してる!」
彼女達の方へ踏み出す勇気は、八千年の間になくなってしまったから。
消えてく彼女のアバターを、私は1人見送った。
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