超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
「……あ、彩葉」
私がノックしようとした矢先、桜楽はドアを開けて顔を出す。
よほど作業に熱が入っていたのか、少し疲れ気味で顔は赤い。
「もしかして忙しかった?」
「ううん、ちょうど終わったところ。ところでそんなに楽しそうな顔して、何かあった?」
やっぱり桜楽にはお見通しか。
私は頬を掻きながら彼女に一枚の電子チラシを見せた。
「郷美サマーフェスティバル? いいね、花火大会なんて久々かも。教えてくれたの、芦花達?」
「そう。3人で行ってくれば、って」
「明日の19時から……ふふっ、ジャストタイミングだ。ちょうどお休みだったし」
部屋の隅に貼られたカレンダーを見ながら桜楽はそう笑った。
もうちょっと前だったら◯で埋め尽くされていたはずの勉強やバイトなんかの予定の進捗は今やほとんどが✕、たまに△といった具合まで悪化している。
私もマジで笑い事ではなく、ここ一ヶ月で予定通りのスケジュールをこなせた日は片手で数えられる程度しかない。
理由は勿論ヤチヨカップやコラボライブ、かぐやのライバー活動諸々。
もう今さら後悔するつもりもないが、されど危機感的なものはバッチリ抱いている8月終わり夕暮れの今日である。
……でも、そんな生活も──
「……じゃあ、かぐやは桜楽の方から誘ってあげて。私は部屋で予習するから」
「えー、たまには彩葉から誘ってあげれば? 私は甘やかしまくってるし、そっちの方が特別感あるよ」
「でも──」
言いかけたところで桜楽の手が私の肩を捕らえ、くるっと180°回転させる。
そしてそのまま押し出されるように、私はキッチンのかぐやの方へ向かわされた。
「……かぐやさん、絶好調っすか?」
「すかー?」
とはいえ色々重なりすぎてるせいか妙に気恥ずかしくて、変なキャラ作りで話しかける私と楽しげに語尾を繰り返す桜楽。
金髪ギャルい寿司職人は「あ、ジャストタイミング!」と楽しそうな声を上げ、手元で量産していた甘鯛の握りにさっと醤油を塗ると、二刀流で私と桜楽の口にそれを押し込んだ。
「……なにこれ」
「美味し〜!」
「そんな2人にグッドニュース! 明日は麺からラーメンです!」
すげぇ……
……っていうかドヤ顔Vサインを決める彼女は、もうすっかり悪い夢から抜け出したみたいに元のかぐやへと戻っている。
今なら、目を見て言えるかも。
「……か、かぐや……」
思い出せ。
散々勉強の邪魔をしてきたかぐやを。
あんなことを自分がやる勇気を出せ。
私は意を決し、スマホに花火大会の画面を開きながら──
「……あ、遊ぼ〜?」
下手くそなかぐやの真似で、彼女を誘った。
「……やた。やった。やった! やたやた! やったやったー!! やった!! やっっったああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
過去一デカい叫び声が、部屋にこだました。
▽
そして翌日。
朝から大はしゃぎしまくりのかぐやを宥めつつ、私達は駅前の着物のレンタル屋さんを訪れていた。
「良かった。一応予約取っといたんだ」
一体桜楽には何が見えていたんだろうか。
「ねーねー、3人で選び合いっこしようよ! 彩葉のはかぐやと桜楽で、桜楽のはかぐやと彩葉で、かぐやのは2人が選んで!」
「賛成。なんか楽しそうだし」
「んじゃ決まり! 桜楽、彩葉のやつ選び行こ!」
「はーい」
駆け足で奥に向かうかぐやと、彼女に手を引かれる桜楽。
そんな2人を尻目に、私も着物コーナーを見て回る。
「……鈴蘭、花言葉は──」
いや、やめとこう。
そういうのばっか気にしてちゃつまらない。
あ、この黒地のやつ、かぐやに似合いそう。
でもこっちもいいな、これも着てほしいな、これは桜楽──
色々考えている内に時間はあっという間に経って、2人が私を呼びに来た。
▽
「どう? よき? めっちゃよき?」
最後に出てきたかぐやは、着物の長い袖をブンブンと振りながら店の前の階段を駆け下りてくる。
私と桜楽が選んだ彼女の着物は、満月と天の川、軽やかに跳ねるまるで鳥獣戯画のようなうさぎがあしらわれた黒地のもの。
かぐやだから月、月だからうさぎとめちゃくちゃ安直なチョイスではあったものの、楽しそうに飛び跳ねるうさぎがあまりにもかぐやみたいで2人で笑ってしまった。
「似合ってる似合ってる。流石天才歌姫」
パチパチと手を叩いて褒める桜楽は水色の流水にカラフルな金魚の泳ぐ、金魚鉢モチーフの水色の着物に身を包んでいる。
白い肌は寒色系に映えるという店員さんのアドバイス通り、唯一体力テストで私を下せる長い手足が生地を揺らすその姿はさながら水面を眺めているように綺麗で見飽きない。
そう言えば、桜の花は水に落ちると「花筏」なんて呼ぶことがあるのだと古典の授業で先生が言っていた。
「あれー? 彩葉は褒めてくれないのー?」
「あ、いや……すごく、似合ってる……と、思う」
ああ、何を照れてるんだ私は。
昨日から調子狂いっぱなしだ。
私は2人が選んでくれた睡蓮の白い着物を纏い、顔を赤くして頬を掻く。
鏡の中の3人の髪には、お揃いの朝顔の飾りが添えられていた。
「……大丈夫? 私だけなんか変だったり……」
「それ、本気で言ってる?」
「彩葉、何着ても似合うって! かぐやが保証しちゃう!」
人間とはなんともチョロいもので、2人にそう後押しされると途端になんだか鏡に映る自分もいい感じに見えてくる。
私は僅かに目を逸らし、うつむきながら、下ろした髪を耳に掛けた。
「あー、彩葉照れてる」
「照れてる照れてるぅ!」
「もう行くよ!」
私はため息を吐きながら、かぐやの手を引いて駅へと向かう。
桜楽がいつものように彼女のもう片手を握ると、かぐやはブンブンと、両親と出かける子供のように繋がれた両手を振った。
▽
会場へは電車で一時間程だったが、既に車内にはちらほらと私達のような浴衣姿の乗客が何人も乗っている。
乗るまでは少し照れくさいような気もしていたが、同じように浴衣で楽しそうにしている子を見つけるとなんだか安心できた。
「桜楽、彩葉、あの建物何? あのお城みたいなやつ!」
「んー、私達にはまだ早いよー」
桜楽、よく流してくれた。
今まで電車なんて何度も乗ってるのに、今日のかぐやのはしゃぎようはいつにも増してすごい。
電車の座席に膝を乗せ、窓に張り付いて外の景色を眺めている。
一瞬注意しようかとも思ったが、人に迷惑をかけているならともかく、こんな元気なかぐやは久々で、どうしても注意する気にはならなかった。
「今はいいけど、もう少し人が増えてきたらちゃんと前向いて座ること。いい?」
「はーい」
「窓の外もいいけど、今のうちに屋台で買うものとか考えておきなね」
街中の親子連れの気持ちが、また少し分かったような気がした。
▽
駅を降りると、もう浴衣姿が多数派になっていた。
会場へ続く道はもう屋台が並んでいて、やれベビーカステラだの、やれチョコバナナだの、花火の前にお腹いっぱいになっちゃうんじゃないかと思うくらいおねだりしてくるかぐやと、なんやかんや応えてしまう私と桜楽。
けれど不思議なことに楽しさが勝ってしまって、屋台グルメはいくらでも食べれるかのようだった。
……あ、もしかしたら初めてかも。
値段を見ずに買い物するの。
それから花火大会が始まるまで、私達は屋台を見て回ることにした。
「おっ、嬢ちゃん大当たり! 商店街で使えるギフト券1万円分だ!」
「桜楽すごいすごい!」
「ふふっ、帰りにお土産も買って帰れるね」
くじ引きで桜楽が神引きしたり、
「おっ、また当たった! 彩葉のエイム越しちゃったかも〜?」
「──っ、もう一回!」
射的でちょっとムキになっちゃったり、
「連れた連れた! 蟹3匹の大収穫!」
「あ、桜楽。指挟まれるよ」
「っ、ぶなぁ……」
かぐやが蟹釣りの才能を発揮したり、とにかく色々。
「やっぱり現実って最高だなぁ〜〜!」
「そうだね。こうしてみると、ツクヨミと同じくらい楽しいかも」
「ま、確かにね」
「あっ、次次! かぐや屋台グルメ編パート2! 唐揚げでしょ、たこ焼きでしょ、焼きそば、お好み焼き、じゃがバタ、焼き鳥、牛串──」
「大丈夫? 持ち切れなくなっちゃうよ!」
「だったら2人も持って! みんなで一緒に食べよ!」
「はいはい」
それから私達は、本当にほぼ全種類回ることになっちゃって、予約のレジャーシートについた頃には、まさに花火が始まろうとしていた。
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