超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
「おはよ、彩葉」
「あ、おはよー!」
▽
「おはよ」
「おっはよー!!」
▽
「おは」
「おは……」
▽
私が上京し、彩葉の隣の部屋で暮らし始めてから数ヶ月が経った。
彩葉は半ば家出同然で京都の実家を飛び出してきたらしく、学費も家賃も、生活費まで全部自分のバイトで賄っているみたいで、わがまま言って一人暮らしさせてもらってる自分が情けなくなってくる。
でもそれじゃ駄目だ。
それじゃ彼女達の物語、ヤチヨ達のハッピーエンドには並べない。
そう決心し、私は実家のパパの方へ電話をかけた。
「『……お、久々だな。どうした? 桜楽』」
「その……仕送りの話なんだけど……」
「『それは成績次第だな。中間はどうだったんだ?』」
「ううん、そうじゃなくて……仕送りを、減らしてほしいんだ」
「『それはまた……予想外の相談だな』」
「……隣の部屋の子がさ、同級生で。勉強もすっごく出来るのに、生活費とか、全部自分で稼いでて……私、その子に少しでも追いつきたくて。……今、プログラミングの勉強もしててね。この前、それでバイトも見つけたから」
「『……そうか。分かった。家賃と学費だけは引き続き出すけど、生活費はもう出さない。ただ──無理はしないように』」
「うん、じゃあね」
電話を切り、ふと鏡を見る。
とうとう言っちゃった。
ヤバい、ミスったらどうしよ。
てかホントに稼げんの?
色んな感情、主に不安とアクセルを見境なく踏み込んだ自らへの自嘲が混ざった私と目が合う。
「でも彩葉は……もっと頑張ってる」
そう思うだけで、自然と勇気が湧いてくる。
最近は少しあの夢も少なくなってきて、今は彩葉とヤチヨが心の支え。
「……よし、頑張ろ」
パシっと頬を叩き、私は気合を入れ直した。
▽
夏休みも明ける頃には、私と彩葉は度々安い晩ご飯を食べたり、もらった銭湯のクーポンを使いに行ったり、割り勘で業務用スーパーに買い物に行くような仲に。
ようやくシステム系のアルバイトも軌道に乗り、前よりちょっとキツいけど節約すれば、くらいで暮らせるようにはなってきて、成績も込みで少し彼女に追いつけたような気がした。
「え、何それ〜!」
「それ実質同棲じゃん!」
通学路の途中、そんな話になってキャッキャキャッキャと騒ぐイツメンの
生粋の陽キャという感じで、いつでも華やかな雰囲気を纏った2人の魅力はツクヨミでも存分に発揮されており、芦花は美容系、真実はグルメで今ぐんぐんと伸びてきている人気インフルエンサーだ。
「そういや彩葉のくまは見慣れたんだけどさ」
「あんま見慣れてほしくないんだけど……というかちゃんと寝てるし」
「おうおう何時間か言ってみたまえ彩葉くん」
ニヤケ顔の真実に詰められ、目を逸らしながら指を4本立てる彩葉。
「いつも通りが過ぎるって」と私は笑った。
「……で、彩葉のくまは別にいいんだけど」
「良くはないけどね」
「いや、桜楽がくま作ってるの珍しいなって。彩葉よりはまだマシなイメージあったから」
「あー、やっぱそう見える? 実は仕事用のパソコン逝っちゃってさぁ、買い替えたから元取んないといけないんだよね」
「わー、そりゃキツいわ」
「桜楽のバイトってなんだっけ、プログラマー?」
「一応システムエンジニア……的な? まあ全然真似事だし、最近はツクヨミでアバターのパーツ作って小銭稼ぐ方が割良いかも、とか思ったり……」
「え、いいじゃんいいじゃん! 今度買い行こー」
「私も私も! ちなみにオーダーメイドとかって出来たりする?」
ここが2人の良いところ。
良い意味でガンガン首を突っ込んできてくれる。
彩葉はともかく、あんまり人に話しかけるのが得意じゃない私に入学初日に2人が話しかけてきてくれて、そっからは登下校とかお昼とかも一緒に過ごすようになった。
芦花が手を引いてくれるタイプで、真実が背中を押してくれるタイプ。
私がこうして楽しい高校生活を遅れているのはこの2人と、目標になってくれる彩葉のおかげだ。
それにしたって、彩葉の頑張りは尋常じゃないレベルだけど。
「おはよう、酒寄さん!」
「ささ、酒寄さん! お、おはようございます!」
「この前は助かったよ、酒寄」
「酒寄さーん! 昨日はありがとー!」
控えめに言って完璧超人、成績表に片っ端から10を並べる彩葉は学校の誰もが一目どころか二、三目くらい置く存在。
本人の途方もない努力によって、彩葉の「完璧な女子高生」というテクスチャは維持されている。
「なあ、お前酒寄と花栄どっちが好み?」
「俺は割と花栄の方がタイプだけどなぁ」
……たまに、その恩恵を受けることもあるけど。
「──って、今日って朝テストじゃなかったっけ」
「あ、そうじゃん! ヤバい早く行かないと!」
「助けてさく様いろは様〜!」
「私も別に、彩葉に教わってるだけだって!」
「はいはい、早く教室行くよ!」
こうして4人は駆け足で、教室へ向けて足音を響かせるのだった。
▽
そんな高校生活も二年目に入って、そろそろ夏休み。
私はどうにかプログラミングと、アバター用の服や武器のデザイン、販売なんかで生計を立てながら上手くやっていた。
食費は上手いこと大容量のパスタなんかを彩葉とシェアしたり、なんとか切り詰めてエアコンを買えたから、熱くてヤバい日は私の部屋でお泊りしたり……そんなふうに助け合って、一緒に勉強して、なんとか彩葉の背中を追う日々もかれこれ1年以上が経っている。
「最近、あの夢見なくなったな……」
月明かりの下でノートを捲りながら、私は独り言を零す。
夢を見る度、出来る限り鮮明にそれを記録したノートはもうすぐ一冊が終わりそうだった。
「結局、ヤチヨが本当は「かぐや」って子で、かぐやって子が彩葉に拾われて……」
駄目だ。
書いたは良いものの、肝心なところとか本質のようなものは自分じゃ理解できてない。
多分まだ、思い出せてないことがある。
じゃあ、それって何なんだろ。
「ハッピーエンド……か」
ふと見上げた月は、驚くほどに丸くて、吸い込まれそうな程に綺麗。
夢で見た月も、あんな感じだったっけ。
そう思い出したところで、ふええええええ、と赤ちゃんの鳴き声?のようなものが響き、少し遅れてドンドンドン、と激しく部屋のドアがノックされた。
「どうかした──って、彩葉?」
「桜楽手伝って!!」
「手伝うって何を──」
「たぁい♡」
なんとも珍しい、「1人じゃヤバいかもです」という彩葉の顔色。
そして目線を落とした瞬間、かぐや姫のような赤ちゃんと目が合ってしまう。
「──、────────!!??!!??」
声にならない叫びが、閑静な住宅街の夜に響いた。
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