超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!   作:あるふぁせんとーり

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第三十二帖 お迎え

「この一瞬を──最高のパーティーにしよ──」

 

 

 ワンコーラスまで書き上げられた彩葉が初めて作ったメロディは、私がギターを添え、かぐやが歌詞と歌声を載せたことで一つの形になった。

 

 私はベランダで1人夜風を浴びながらそれを口ずさむ。

 

 ……うん、すごく馴染む。

 

 ベランダから見上げる夜空は恐ろしく綺麗で、浮かぶ月は手を伸ばせば届きそうで、一歩間違えれば吸い込まれそうで。

 

 これしかないと何度も再確認し、再計算し、辿り着いた一つの解答……いや、途中経過。

 

 それを自らに言い聞かせるように、私は同じメロディを、違う歌詞で再生する。

 

 

「──大切な──メロディは流れてるよ──」

 

 

 ……ああ、やっぱりそうだ。

 

 私達に希望をくれ、初めてかぐやをあやしたあの旋律。

 

 ヤチヨ、ちゃんと見ててね。

 

 私達の──()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「あ、桜楽も準備できた?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 

 2030年、9月12日、20時58分。

 

 ツクヨミライバー「かぐや」引退ライブ、その2分前。

 

 グリーンバックの敷かれた配信部屋の隅でキーボードに指を這わせる彩葉と、ギターの弦をなぞる私。

 

 かぐやはいつものようにネコミミヘッドホンを着け、機嫌よく身体を揺らしている。

 

 そんな中でふと、カランカランと音が鳴った。

 

 何かと思ってみると、かぐやの腕から銀のブレスレットが抜け落ちた音。

 

 かぐやは机の下に潜り込み、それを取ろうと手を伸ばす。

 

 その次の瞬間。

 

 

「かぐや──!?」

 

 

 彩葉は叫んだ。

 

 まるでかぐやがフライングで連れて行かれてしまったかのように。

 

 さっきから何度も目を瞑って深呼吸していたから、多分それで見逃したんだろう。

 

 

「どったの、そんなに焦って」

 

 

 ブレスレット片手に机の下から顔を出し、きょとんと首を傾げるかぐや。

 

 彼女は安堵のため息を吐く彩葉と私の顔を交互に見比べてから、手に握ったそれをパッと2つに分けて私達の方へ差し出す。

 

 

「え、これって──」

 

「……いいの?」

 

「大切な人に渡すんだって、ヤチヨが教えてくれたの。かぐやにとっては、彩葉も桜楽もどっちもだから、2人にあげる! かぐやに思い出をくれてありがと!」

 

 

 そう言って笑うかぐやの笑顔は、「かぐや」から「ヤチヨ」になる過渡期のような、そんなものを感じさせる。

 

 別れる覚悟と、旅立つ決意。

 

 私達は顔を見合わせてから、「ありがと」とそれを受け取った。

 

 

「ほら、笑顔笑顔! ……行こ、2人とも」

 

 

 そして左手には彩葉の、右手には私の手を握るかぐや。

 

 三角形になるように私も彩葉と手を繋ぐ。

 

 またいつか、かぐや。

 

 心の中で呟いて、私達は決戦の地へ飛び込んだ。

 

 

 

 

「……ここでライブ?」

 

 

 天守閣の一番上で、かぐやはフィールドを見回して呟いた。

 

 ついこの前黒鬼と彼女達が戦い、()()()()()()あの舞台。

 

 私の知らないはずの物語はまるで糸を束ねるように、この日へと収束した。

 

 

「そうだよ、ヤッチョの特注〜☆」

 

「そうなの? ありがと、ヤチヨ」

 

 

 ううん、私も「ヤチヨ」にそうしてもらったから。

 

 

「わんっ!」

 

「君には本当、ご迷惑をかけますなぁ」

 

「へっ、犬ころ風情が調子に乗るなよ!」

 

 

 8000年前の自分に対して悪態をつくFUSHI。

 

 本当、迷惑かけちゃうよなぁ。

 

 でも、本当に迷惑かけちゃうのは──

 

 

「……ごめんね」

 

「……あれ、何か言った?」

 

「ううん、ヤッチョは何にも」

 

「そっか。……私がヤチヨだったら、もっと上手いことやれたのかなぁ。彩葉も、桜楽も……」

 

 

 ……駄目だよ、そんな顔しちゃ。

 

 

「まっさか! かぐやが一番上手くやれるし、上手くやれたんだよ。かぐやにしか出来なかった!」

 

 

 そう、きっと大丈夫。

 

 だって、私はここにいるんだから。

 

 かぐやには彩葉も桜楽もついてるんだから、私よりもっと上手くやれる。

 

 きっと桃華が桜楽で、桜楽が桃華だってもっと早く気付いて、もっと早く救ってあげられる。

 

 だから──

 

 

「……いってらっしゃい、かぐや。かぐやならぜーんぶ大丈夫! ヤッチョが保証しちゃう!」

 

「何をさ〜! やっぱヤチヨって超無責任だよね! でも──」

 

 

 ただでは帰ってやらないぞ、そんな()()()()()()()彼女は満月を不敵に狙う。

 

 

「……そのノリも、かぐやの好きな思い出だから!」

 

 

 

 

「ただいま〜☆」

 

「あ、ヤチヨ」

 

「お疲れ様」

 

 

 特設ライブ会場の、これまた特設控え室。

 

 2人ともすごく神妙な面持ちというか、まさに最終決戦手前という感じ。

 

 

「……かぐや、どんな顔してた?」

 

「喜んでたよー、まさに準備万端って感じ!」

 

「そっか、なら良かった」

 

「ありがとね、ヤチヨ」

 

 

 2人からのお礼は嬉しいはずなのに、その表情がすごく物悲しくて。

 

 なんというか、悲痛な覚悟、みたいなのを宿してるようだった。

 

 そして彩葉はすごく言いづらそうなことを言うように、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……もし私達じゃなくて、ヤチヨがかぐやとずっといたら……かぐやは、残ってくれたのかな」

 

「私が……?」

 

「……あ、ごめん、意味分かんないよね。ごめん」

 

 

 やっぱりおんなじこと言うんだ、彩葉は。

 

 桜楽は……ただ、目を瞑って、細長い指で宙を叩いている。

 

 私は答えに迷って、でも、一つ間違いないことを伝えた。

 

 

「彩葉達の方が、ずっと上手くやってるよ」

 

『各所、準備OKです』

 

 

 その会話は、一つの業務連絡によって遮られた。

 

 

「じゃあ、いってらっしゃい。ヤッチョはそっちにいけないけど……ここから応援してるよ」

 

「……そういう運命?」

 

「大丈夫、彩葉なら上手くやれるよ」

 

 

 その言葉を受け流し、彩葉を最終決戦へと送り出す。

 

 そして最後に、私は彩葉に続こうとする桜楽へと声を掛けた。

 

 

「桜楽には、この戦いの結末が分かってるでしょ? なのに、なんで行くの?」

 

「……今ある情報じゃ、手詰まりになったから。この先にあるものが答えだったとしても、無意味な何かだったとしても──進まないとハッピーエンドにはならない」

 

 

 その笑顔に、あの頃のような死の気配は付きまとっていない。

 

 本当に、綺麗になった。

 

 気付いてるかな。

 

 私の髪、「ヤチヨ」より少し暗いんだ。

 

 私の目、「ヤチヨ」より少し青いんだ。

 

 あなたと、お揃いにしたかったから。

 

 

「……なーんて、カッコつけては見たけどさ。もう少しで思いつきそうなんだ、答え。だから、それまではなんでもやるよ。限界まで足掻いて、続きはその後考える」

 

「……そうだね、それも桜楽らしいや」

 

「でしょ? ……それじゃ、いってきます」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 2人を送り出し、私は外の月を見上げる。

 

 ……本当、憎いほどに綺麗だった。

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