超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
「この一瞬を──最高のパーティーにしよ──」
ワンコーラスまで書き上げられた彩葉が初めて作ったメロディは、私がギターを添え、かぐやが歌詞と歌声を載せたことで一つの形になった。
私はベランダで1人夜風を浴びながらそれを口ずさむ。
……うん、すごく馴染む。
ベランダから見上げる夜空は恐ろしく綺麗で、浮かぶ月は手を伸ばせば届きそうで、一歩間違えれば吸い込まれそうで。
これしかないと何度も再確認し、再計算し、辿り着いた一つの解答……いや、途中経過。
それを自らに言い聞かせるように、私は同じメロディを、違う歌詞で再生する。
「──大切な──メロディは流れてるよ──」
……ああ、やっぱりそうだ。
私達に希望をくれ、初めてかぐやをあやしたあの旋律。
ヤチヨ、ちゃんと見ててね。
私達の──
▽
「あ、桜楽も準備できた?」
「うん、大丈夫だよ」
2030年、9月12日、20時58分。
ツクヨミライバー「かぐや」引退ライブ、その2分前。
グリーンバックの敷かれた配信部屋の隅でキーボードに指を這わせる彩葉と、ギターの弦をなぞる私。
かぐやはいつものようにネコミミヘッドホンを着け、機嫌よく身体を揺らしている。
そんな中でふと、カランカランと音が鳴った。
何かと思ってみると、かぐやの腕から銀のブレスレットが抜け落ちた音。
かぐやは机の下に潜り込み、それを取ろうと手を伸ばす。
その次の瞬間。
「かぐや──!?」
彩葉は叫んだ。
まるでかぐやがフライングで連れて行かれてしまったかのように。
さっきから何度も目を瞑って深呼吸していたから、多分それで見逃したんだろう。
「どったの、そんなに焦って」
ブレスレット片手に机の下から顔を出し、きょとんと首を傾げるかぐや。
彼女は安堵のため息を吐く彩葉と私の顔を交互に見比べてから、手に握ったそれをパッと2つに分けて私達の方へ差し出す。
「え、これって──」
「……いいの?」
「大切な人に渡すんだって、ヤチヨが教えてくれたの。かぐやにとっては、彩葉も桜楽もどっちもだから、2人にあげる! かぐやに思い出をくれてありがと!」
そう言って笑うかぐやの笑顔は、「かぐや」から「ヤチヨ」になる過渡期のような、そんなものを感じさせる。
別れる覚悟と、旅立つ決意。
私達は顔を見合わせてから、「ありがと」とそれを受け取った。
「ほら、笑顔笑顔! ……行こ、2人とも」
そして左手には彩葉の、右手には私の手を握るかぐや。
三角形になるように私も彩葉と手を繋ぐ。
またいつか、かぐや。
心の中で呟いて、私達は決戦の地へ飛び込んだ。
▽
「……ここでライブ?」
天守閣の一番上で、かぐやはフィールドを見回して呟いた。
ついこの前黒鬼と彼女達が戦い、
私の知らないはずの物語はまるで糸を束ねるように、この日へと収束した。
「そうだよ、ヤッチョの特注〜☆」
「そうなの? ありがと、ヤチヨ」
ううん、私も「ヤチヨ」にそうしてもらったから。
「わんっ!」
「君には本当、ご迷惑をかけますなぁ」
「へっ、犬ころ風情が調子に乗るなよ!」
8000年前の自分に対して悪態をつくFUSHI。
本当、迷惑かけちゃうよなぁ。
でも、本当に迷惑かけちゃうのは──
「……ごめんね」
「……あれ、何か言った?」
「ううん、ヤッチョは何にも」
「そっか。……私がヤチヨだったら、もっと上手いことやれたのかなぁ。彩葉も、桜楽も……」
……駄目だよ、そんな顔しちゃ。
「まっさか! かぐやが一番上手くやれるし、上手くやれたんだよ。かぐやにしか出来なかった!」
そう、きっと大丈夫。
だって、私はここにいるんだから。
かぐやには彩葉も桜楽もついてるんだから、私よりもっと上手くやれる。
きっと桃華が桜楽で、桜楽が桃華だってもっと早く気付いて、もっと早く救ってあげられる。
だから──
「……いってらっしゃい、かぐや。かぐやならぜーんぶ大丈夫! ヤッチョが保証しちゃう!」
「何をさ〜! やっぱヤチヨって超無責任だよね! でも──」
ただでは帰ってやらないぞ、そんな
「……そのノリも、かぐやの好きな思い出だから!」
▽
「ただいま〜☆」
「あ、ヤチヨ」
「お疲れ様」
特設ライブ会場の、これまた特設控え室。
2人ともすごく神妙な面持ちというか、まさに最終決戦手前という感じ。
「……かぐや、どんな顔してた?」
「喜んでたよー、まさに準備万端って感じ!」
「そっか、なら良かった」
「ありがとね、ヤチヨ」
2人からのお礼は嬉しいはずなのに、その表情がすごく物悲しくて。
なんというか、悲痛な覚悟、みたいなのを宿してるようだった。
そして彩葉はすごく言いづらそうなことを言うように、ゆっくりと口を開いた。
「……もし私達じゃなくて、ヤチヨがかぐやとずっといたら……かぐやは、残ってくれたのかな」
「私が……?」
「……あ、ごめん、意味分かんないよね。ごめん」
やっぱりおんなじこと言うんだ、彩葉は。
桜楽は……ただ、目を瞑って、細長い指で宙を叩いている。
私は答えに迷って、でも、一つ間違いないことを伝えた。
「彩葉達の方が、ずっと上手くやってるよ」
『各所、準備OKです』
その会話は、一つの業務連絡によって遮られた。
「じゃあ、いってらっしゃい。ヤッチョはそっちにいけないけど……ここから応援してるよ」
「……そういう運命?」
「大丈夫、彩葉なら上手くやれるよ」
その言葉を受け流し、彩葉を最終決戦へと送り出す。
そして最後に、私は彩葉に続こうとする桜楽へと声を掛けた。
「桜楽には、この戦いの結末が分かってるでしょ? なのに、なんで行くの?」
「……今ある情報じゃ、手詰まりになったから。この先にあるものが答えだったとしても、無意味な何かだったとしても──進まないとハッピーエンドにはならない」
その笑顔に、あの頃のような死の気配は付きまとっていない。
本当に、綺麗になった。
気付いてるかな。
私の髪、「ヤチヨ」より少し暗いんだ。
私の目、「ヤチヨ」より少し青いんだ。
あなたと、お揃いにしたかったから。
「……なーんて、カッコつけては見たけどさ。もう少しで思いつきそうなんだ、答え。だから、それまではなんでもやるよ。限界まで足掻いて、続きはその後考える」
「……そうだね、それも桜楽らしいや」
「でしょ? ……それじゃ、いってきます」
「うん、いってらっしゃい」
2人を送り出し、私は外の月を見上げる。
……本当、憎いほどに綺麗だった。
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