超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!   作:あるふぁせんとーり

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体調を崩していました


最終帖 めでたし、めでたし

 分かっていた。

 

 分かっていたはずだった。

 

 なのに、なのに、なのに……

 

 ああ、涙止まんない。

 

 手、震えてる。

 

 触れていたはずの温もりが、名残を残したまま消え失せる。

 

 分かっててこれ、知っててこれ。

 

 なら彩葉は──

 

 

「……みんなありがとう、本当にありがとう。……お先に、失礼」

 

 

 まともに言えた自信はないけどそう言ったつもりで、皆の反応を見る間もなく私はツクヨミをログアウトし、隣の彩葉を現実へ引き戻す。

 

 そこはいつしか見慣れた配信部屋。

 

 グリーンバックが敷かれ、その脇には演奏スペース。

 

 彩葉がキーボードを、私がギターを弾き、かぐやが歌って踊る。

 

 けれど目を開けたそこに映っていたのは、同じように立ち竦む彩葉の姿と、地面に落ちた、ついさっきまでかぐやが着けていたはずのネコミミヘッドホンとTシャツ。

 

 触れると僅かにその温もりが残っている。

 

 確かにいた、確かにいたはずだった。

 

 私達の手首には彼女の残した銀のブレスレットが残っている。

 

 私達の手には、彼女の残した体温が残っている。

 

 なのに、彼女だけがいない。

 

 かぐやが存在したことを示すあらゆる証拠が残され、ただかぐやそのものだけが世界から消えてしまったかのよう。

 

 彩葉は何も言わず、俯いたままスマコンを抜き取る。

 

 そして数秒止まった後、骨を抜かれたみたいに膝から崩れ落ちた。

 

 

「彩葉……」

 

「……」

 

 

 彼女は何も言わず、私の手を握る。

 

 私の頬に触れる。

 

 ぼんやりと開かれた目を向けながら、私がちゃんとそこにいるのか必死に確かめようとする。

 

 私はその上から手を重ねた。

 

 

「私はここにいるよ。……大丈夫、ずっと一緒にいる」

 

「……桜楽……さくら……さく……らぁ……っ……」

 

 

 吐き出すように、彩葉は泣いた。

 

 私の胸に頭をうずめて、「逃げないで」って縋るように泣いた。

 

 自分だって泣いてるのに、私は寝間着を濡らすその涙を受け止めながら背中を擦り、頭を撫でる。

 

 ああ、そういうことだったんだ。

 

 彩葉は──()()()()()()()()()()()()

 

 きっと1人だったら、こんなに声を出して泣かなかったんだろう。

 

 誰にも頼らず、1人で頑張れたのだろう。

 

 でも、私がいたから。

 

 ヤチヨでさえ知らなかった、「花栄 桜楽」のいる物語になってしまったから。

 

 甘えることも、頼ることも、助け合うことも知ってしまったから。

 

 

「……いなくならないで……おねがい、だから……」

 

「彩葉──」

 

 

 私、どうしたらよかったのかな。

 

 「負け戦」って最初から言えばよかったのかな。

 

 全部話したら信じてくれたのかな。

 

 どうしたら……「かぐや姫」は、ハッピーエンドになったのかな。

 

 

「……ごめんね、彩葉」

 

 

 聞いてほしくて、聞こえないでほしくて。

 

 でも、堪えきれなくて。

 

 必死に堪らえようとして。

 

 

カランカラーン

 

 

 スマートフォンの通知が鳴る。

 

 ウォレットの入金だった。

 

 現実から逃げるように、それを開く。

 

 

『使っちゃった分返すね! こっちが桜楽の分! 2人とも、ご迷惑おかけしました』

 

 6、7、8桁。

 

 立つ鳥、跡を濁さず。

 

 なんでさ。

 

 なんでなの。

 

 

「……かぐや、かぐやっ……かぐやぁ……っ」

 

 

 嗚咽が2つ、暗い部屋に響き合っていた。

 

 

 

 

 真夜中、雨音で目を覚ました。

 

 別に煩かったわけじゃない。

 

 眠りが浅かっただけ。

 

 うずくまって眠る彩葉にブランケットを被せ、私は暗い部屋でパソコンを開く。

 

 『卒業ライブめっちゃよかった』『演出気合い入ってた』『あのルール楽しみかも』なんてTLを埋め尽くす感想。

 

 意味の分からないため息を吐いてから、私は部屋を出ようとした。

 

 

「……さくらぁ……どこいくの……?」

 

「ベランダ。すぐ戻ってくるから」

 

「……わたしも、いく……」

 

 

 まだ赤い目を擦りながら、彩葉は私の服の裾を掴む。

 

 パチン、パチンと電気を付けた。

 

 どこを見ても、必ずかぐやの残滓が目に入る。

 

 弾き語りがしたいと買ってきた安物のアコギ、ヲタ芸用の強烈なペンライト、カラフルなリコーダー……何か見つける度に、一瞬脚が止まる。

 

 分かっててなお、かぐやを探してしまう。

 

 ここから先は、本当に何も知らない話。

 

 夢もヤチヨも、何一つとして教えてくれなかった話。

 

 

「……私、もう少し休むね」

 

「うん、そうしなそうしな」

 

 

 俯いたまま部屋に戻る彩葉。

 

 私は彼女が扉を閉じるのを見届けてから、雨模様のベランダに出た。

 

 

「……ズルいね、本当」

 

 

 かぐやを連れ去った月はあっという間に黒くて分厚い雲の奥に消えて、どこに浮かんでいるかすらも分からない。

 

 それ自体は責められない。

 

 仕事から逃げたから連れ帰る、その論理に間違ってるところはない。

 

 でも、どうしても納得できない。

 

 もう会えないのもそうだけど、それ以上にかぐやのことが気掛かり……いや、気掛かり、なんて4文字に押し込めていいものではない、あらゆる感情がそこにあった。

 

 この数ヶ月を「楽しかった」と心の底から笑えるからこそ……たまらなく怖かった。

 

 

「月の時間の流れはこの世界とは全く違うんだよね。昨日もなく、明日もなく、終わらない今日だけが永遠に続いていく……すごく、退屈な世界なんだ」

 

 

 いつかのヤチヨの話を思い出す。

 

 同じ時間を過ごしてしまったかぐやが、本当に月の退屈な日々に戻れるんだろうか。

 

 寂しくないかな。

 

 悲しくないかな。

 

 泣いて、叫んで、八つ当たりして、最後は、死にたくなったりしないかな。

 

 ……やっぱり、嫌だ。

 

 私は彩葉と、かぐやと同じ時間を──

 

 

「……、……ああ、そっか」

 

 

 そうすればよかったんだ、そうすればいいんだ。

 

 雨雲の向こう、隠れた月に私は手を伸ばす。

 

 

「……大丈夫だよ、かぐや。何があっても──必ず、2人で迎えに行くから」

 

 

 

 

 朝が来て、夜が来て、朝が来て、夜が来て、そして朝が来る。

 

 私を放っておいてくれたのか、その間桜楽は一度も姿を見せることなく、気付かない内にエナドリやゼリーだけが置かれていた。

 

 それは数ヶ月で感覚麻痺した私にはあまりにも味気なくて、夢から醒めるには丁度良かった。

 

 

「……髪、伸びたな」

 

 

 シャワーを浴びながら考える。

 

 そう言えば、かぐやがスタイリストか何かの記事を読んで、私とか桜楽の髪を切りたがっていたことがあった。

 

 ……切らせてあげればよかった。

 

 

「おはよう、彩葉」

 

 

 準備を終えて、今まで通りの完璧女子高生を作ってからリビングに行くと、菓子パン片手にキーボードを叩く桜楽の姿があった。

 

 彼女もそうしていたのだろう、隣に置かれたゴミ箱には惣菜パンやコンビニ弁当なんかのゴミが積み上がり、足元にはペットボトルが散乱している。

 

 けれど制服に乱れはなく、髪も化粧もいつも通り。

 

 桜楽は「あ、もう時間か」と少し目を見開くと私にキャラクターの描かれた蒸しパンを投げ渡し、そして手を引いた。

 

 

「ほら、行くよ、彩葉。学校遅れちゃう」

 

「……あ、うん」

 

「「行ってきます」」

 

 

 二人の声が、酷く暗く見える廊下に響いた。

 

 

 

 

「酒寄も花栄も、元気そうで何より。2人とも頑張ってたからな、たまには休みも必要さ」

 

 

 職員室を訪ねると、立花先生はそう笑って迎えてくれた。

 

 登校中に思い出した、何としても学校に行かなければならなかった理由。

 

 進路希望調査票の提出を先延ばしにしてしまっていたのだ。

 

 ずっと鞄に入れたままだったそれを手渡すと、先生は一通り目を通してから頷いた。

 

 

「やっぱり法学部からの法科大学院か。酒寄なら予備試験からでも十分狙えると思うけど……もう弁護士一本に絞る感じ?」

 

「はい。色々あったんですけど、やっぱり私にはそれが一番合ってるかなって。法学部、目指します。色々これから、相談とかもお願いするかもしれないんですけど……」

 

「ははっ、それが先生の仕事だからな。喜んで乗るよ」

 

 

 それから先生は諸々の欠席連絡やらは桜楽から来ていたから大丈夫だと教えてくれた。

 

 やっぱ桜楽は強いな、なんてことを考えながら職員室を出る直前、ふと画面に映った提出状況が目に入った。

 

 ほとんどがチェックで埋まっている中、「綾紬 芦花」と書かれた欄だけが空白になっていた。

 

 

 

 

 教室に戻ると、そこには一足先に進路希望を出し終えた桜楽と、芦花達が話していた。

 

 

「あ、そうこう言ってる内に〜」

 

「元凶とうちゃ〜く」

 

「いやもうマジでそれについては何の言い訳もないというかマジで面目ないというか……」

 

 

 休んでいた数日間、私は一度も連絡を見ていなかった。

 

 それはつまり彼女達からの心配なども全部無視していたということで……

 

 

「本当にごめん! マジごめん! 一生ごめん!」

 

「いいって。2人は無事だったんだから。……あ、でも次無視されたら家殴り込むかんね」

 

「ほれほれ、何他人事みたいな顔してんのさ桜楽〜」

 

「え、私も?」

 

 

 ひたすら謝り倒す私と、しれっとその頭を押さえてくる桜楽。

 

 身勝手だった私を2人はあっさりと許し、またいつものようなじゃれ合いになる。

 

 ……そっか、そういうことだったんだ。

 

 かぐやが私のいない世界を選んだんだから、私もかぐやがいない世界で生きてかないといけないんだ。

 

 芦花も真実も、桜楽だっている。

 

 「1人で生きていける」なんてことは、本当は「1人でしか生きていけない」って弱点で、誰かと生きていくことの楽しさをかぐやは私に再確認させてくれた。

 

 そうだ、私はずっとかぐやのことが好きだったんだ。

 

 初めて見た笑顔から、最後に抱き締めた温もりまで。

 

 大枚はたいて養って、無駄遣いされて、でも美味しいご飯を作ってくれて……あんな日々、この先一生忘れるはずがない。

 

 かぐや、聞こえてるかな。

 

 私、かぐやの思い出と一緒に……みんなで、生きていくよ。

 

 

 

 

 こうして一夏の狂騒、おとぎ話のような日々は終わりを告げ、彩葉と桜楽には、かぐやのいない日常が戻ってきました。

 

 この先どうなるかは分からないけれど、もう2人が離れることも、自らを見失うこともありません。

 

 これが彩葉と、桜楽と、かぐや姫の物語。

 

 めでたし、めでたし。

 

 

超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!

 

 終

──

KGY

 

 

 

 

「……なんて終わり方──出来るかっつーのっ!!」

 

 

 桜楽の手を引いて、私はかつてのボロアパートから学校へ走り出した。

 

 クッソ、なんだこの腹の立つ青空は。

 

 なんだこのエモい空気は。

 

 無理、無理、そんなの絶対お断り。

 

 フツーのエンドいらない、ハッピーエンド以外お断り!

 

 受け入れて覚悟?

 

 そんなのまっぴら御免!

 

 何が思い出だ、何が忘れないだ。

 

 かぐやのいない日常なんてもう日常じゃない。

 

 私はもっと……もっとハッピーエンドがいい!!

 

 

「ごめんね桜楽! もう少し……ううん、最悪一生付き合って!!」

 

「ふふっ、いいよ、喜んで!!」

 

 


 

 

最終帖 めでたし、めでたし

 

 

Ex-第1話 決めた! 絶対ハッピーエンドにする!




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