超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
もう何度かの夜を超えた。
食べる時間と寝る時間、それ以外は全てキーボードと向き合った。
「……でき、た」
それが生まれたのは、丁度月が高く上った頃だった。
苦しんで、食いしばって、悩んで、もがいて……最後はまるで、自ら生み出されるかのようにすんなりと。
……お父さん、やっと出来たよ。
私、お父さんがいなくても作れたよ。
私の……ううん、私達3人の歌。
「……桜楽、一緒に歌ってくれる?」
「うん、喜んで」
そして私達は月明かりに照らされたバルコニーへ。
風はなく、僅かに滲んだ季節外れの朧月。
かぐや、待たせちゃってごめんね。
まだまだ足りないけど、それでも沢山詰め込んだんだ。
かぐやほど上手く歌えないかもだけど……2人で歌うから、聞いてくれるかな。
「──昨日の続き──」
「──喋りたかった──」
「──くだらなくても──」
「──ちょうどよかった──」
「「──本音を聞かせて──ただ叶えてみたいから──」」
2つに分かれた銀のブレスレット越しに手を繋ぎ、私達は歌った。
かぐやのために、私達のために、何度も、何度も。
重なり合った2つの歌声は、いつしかもう1つ加わって、
──この一瞬を──最高のパーティーにしよう──
──そしてそっと──同じ明日へ地図をつなごう──
相変わらず覚えるの早いんだから。
大丈夫、今度はかぐやでも覚えきれないくらい作るから。
──ねぇ──心揺らして──笑顔もシェアして──
歌い続ける。
私達の気が済むまで、かぐやが飽きてしまうほど。
そうして奏で続ける中で、3つの歌声が重なる中で、もう1つの声が旋律の中に現れた。
誰のもの、なんて問うまでもない……私達が、何よりも知った声。
──ありふれてる──好きな物に──ずっとまみれて──
メロディが忘れてた記憶をつなげていく。
ささやかな違和感を埋めていく。
ありふれた疑問符がほどけていく。
どうして私は彼女の曲に救われたのか。
どうして彼女はいつもその先を知っているかのようだったのか。
どうして彼女と私は同じメロディを奏でたのか。
「……ヤチヨ……?」
ようやく歌い終えた時、私はその名を口にしていた。
▽
「……やっぱ駄目か」
翌朝、私は一本のメールを打っていた。
宛先はツクヨミ管理人、月見ヤチヨ。
コラボライブの時に恐れ多くも交換したプライベートのアドレスだ。
「どうかした?」
朝食ののむヨーグルトを差し出しながら尋ねてくる桜楽。
「ヤチヨ、連絡繋がらないんだ。今やってるどじょうすくい配信も再放送だし……何かあったのかな」
そう伝えると、彼女は少し考えた後に口を開いた。
「じゃあ、会いに行く?」
「え、いや、会いに行くって……ヤチヨは現実には──」
「会えるよ。私、調べたから」
いつもの桜楽らしくなかった。
まるで、コラボライブを終えた後のかぐやのような……そんな、優しい疎外感。
それを察したのか、彼女はいつも通りの笑顔を作ってから言い訳した。
「……ごめんね、彩葉。変な言い方になっちゃって。私が迷ってるのは……彩葉に、知られたくないことを知られちゃうから」
「待って、なんでヤチヨの話が桜楽に繋がるの……?」
「……行こう。スマコンとイヤホンは忘れずに。少し遠いから──それまで、昔話をしてあげる」
▽
昔々、今では平安と呼ばれる時代、あるところに1人の女の子がいました。
名前は
しかし成長するにつれ彼女は病に冒され、一日のほとんどを部屋の中で過ごすようになりました。
「胸の病」……今で言う結核に罹っていた桃華でしたが、当時は治療法も存在せず、彼女は緩やかに死を待つだけの日々を送っていました。
そんな彼女は、とある噂を知りました。
「人の言葉を話す奇妙なウミウシがいる」、それは歌や民話を好む好奇心旺盛な彼女の興味を強く惹きました。
そして「ヤチヨ」と名乗るウミウシが家を訪れて半年間、彼女は様々な話をウミウシから聞き、徐々に元気を取り戻していきました。
けれどそれは精神のお話、身体はどんどん病に冒されて弱っていきます。
そして最後、桃華はウミウシから聞いたお話を一本の物語として書くことに決めました。
それはウミウシの過去の話。
赤子だった彼女を拾い、「かぐや」と名付けてくれた「いろは」という女の子。
美しく育ったかぐやが人気者となり、帝に求婚までされたこと。
最後は月のお迎えに皆で立ち向かうも敗れてしまい、大人しく月に帰ったこと。
桃華はそれをおとぎ話として記し、月に帰るまでが一つの物語として伝わりました。
名を竹取物語という、日本最古の物語。
現代においては──「かぐや姫」と呼ばれています。
▽
「……ほら、もう着くよ」
一時間ほど乗った電車を降りながら、桜楽は言った。
「待って」と私は足を止めた。
「……やっぱり、理解できない。聞きたいこといっぱいあるよ。なんでヤチヨの場所を知ってるの? ねえ、さっきの話は何? あれは……桜楽の、記憶なの?」
「ヤチヨの場所は頑張って割り出した。ちょっとだけ苦労したけど、そんなに難しくなかった。……って、こんなのは興味ないよね。……ねえ、彩葉。彩葉は、「前世」って、信じる?」
何でそんな顔するの?
そんな顔されたら……信じないなんて言えないのに。
「私は前世で貴族の娘で、ヤチヨから彩葉達の話を聞いて「かぐや姫」を書いた。私に分かってるのも、彩葉に伝えたかったのもそれだけ。それに……彩葉も、気付いてるでしょ? ヤチヨは、本当は──」
「……かぐや、なんでしょ?」
でも、なんで──
そう言いかけた時、桜楽はいつものように笑った。
「だからさ、聞きに行こう。ヤチヨに何があったのか、かぐやに何があったのか」
やがて辿り着いたのはそんなに大きくない、こじんまりとしたマンション。
階段を駆け上がると、桜楽はとある一部屋で足を止めた。
コンコン、と軽いノックが響いた。
反応はない。
代わりにポケットに入れていたスマコンとイヤホンが仄かに温かくなる。
それを付けると、
「入っていいぞ」
FUSHIの声がした。
鍵はかかっていないようで、桜楽はゆっくりと扉を開ける。
隙間からはじっとりと、淀んだ熱が私達を迎えた。
「……何、これ……」
「ツクヨミのサーバールーム」
「はっ、迎えに行ってやろうと思ったらまさか古典的な不正アクセスで住所抜くとはな。これだから行動力のあるバカは困る」
FUSHIの叩く憎まれ口を気にしてる余裕なんて、私にはなかった。
無数のPCと機材が乱雑に詰め込まれたその空間は、かぐやが部屋を汚す様とよく似ていて、その中央に置かれた水槽には電解液のようなものに沈められた、タケノコのような何かに無数の電極が繋がれている。
意味不明だけど、目を引き付ける。
……そうだ、初めて月人を見た時、こんな感覚を覚えたはずだ。
「ここから入れ」
そんな思考をFUSHIの一言が切り捨てる。
桜楽の方をちらっと見ると、彼女は「大丈夫」といつもの笑顔で笑う。
私達は頷き合い、目を閉じた。
いつもとは明らかに違う感覚。
明らかに長い暗闇を、握った手の感覚を頼りに潜り続ける。
「……ここ……」
次に目を開いた時、私達は高い塔の上にいた。
少し冷たい風が吹き抜ける部屋を、並んだ灯籠が鈍く照らす。
特別だけど、少し寂しい部屋。
そんなところにずっといたであろう彼女が、目の前で背を向けて座っていた。
「ヤチヨ? それとも……」
彼女は、電子の海の歌姫は私と、桜楽の顔を見比べる。
桜楽が小さく頷くと、彼女はおもむろに立ち上がり、語り出した。
彼女の話を、ヤチヨの言葉で。
「今は昔──」
後ろの屏風が、ディスプレイのように絵巻風のアニメーションを映し出す。
「月に帰ってバリバリ社畜してた、それはそれはバリえらかぐや姫。別に死にはしないけどデスマーチではあった彼女のところに地球から歌が届きました。それはかつてかぐや姫が歌ったメロディの続き、かぐや姫のために作られた、かぐや姫だけの歌」
……あの歌だ。
桜楽と一緒に歌った、あの。
「かぐや姫はそれはそれはエモく感じ、んじゃもっかい地球に行こ〜って溜まってたお仕事爆速で片付け、引き継ぎのかぐやロボもバッチリ用意して準備万端。ですが地球換算では数十年の大遅刻。そんな時こそ月の超テクノロジーの出番ということで時間も越え、お供のワンコと一緒にお別れしたあの瞬間へ向かうかぐや姫。だけど残念、もう少しのところでで〜っかい石みたいなのに当たっちゃったんだ」
何の話を、して──
「いや〜やっぱタイムトラベルって超テクノロジー前提でもゲキムズでね。タイムマシンは致命的なダメージ、まさにフェイタルエラーって感じでへろっへろ。そんな中で頑張って不時着したのは……なんと八千年も昔の地球でした」
……
「壊れたマシンに最後の無理をさせ、お供していた犬DOGEだけが身体を得ることが出来ました。たまたま近くを泳いでいたウミウシになることで、なんとか舟の外へ出られたのです。かぐやはウミウシの身体を借り、世界へ飛び出しました」
……なんで、こんなに悲しいんだ。
私、何も分かってないのに。
「時は経ち、人は見えないものを形にし、誰とでも繋がる力を作り出しました。それは月の世界ともよく似ていて、かぐやは魂だけになりながら、ようやくウミウシじゃない一つの存在として世界と関わることが出来ました。そして仮想世界ツクヨミを創り上げ、電子の海の歌姫として、再び彩葉と、大事な約束をした女の子と再会することが出来たのです。めでたしめでたし──」
私と、桜楽。
でも、それって──
「──なわけないか! いや〜、失敬失敬、大失敗! こんなんじゃ、めでたくもなんともないよね〜」
おちゃらけた調子でヤチヨ……あるいは「かぐや」は笑った。
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