超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!   作:あるふぁせんとーり

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Ex-第5話 feat.「かぐや」

……あれ、どこだろ、ここ?

 

 

 目が覚めた時、私は誰もいない、何もない砂浜の上だった。

 

 あれ、何でだっけ。

 

 頭を真っ白にして、もう一回最初から思い出す。

 

 ……そうだ、彩葉の歌が聞こえた。

 

 あの曲の続きを作ってくれて、それが聞こえて、全部思い出して、お仕事片付けて、引き継ぎ用の複製作って、それから姫と一緒に舟作って……

 

 ……あ、出発した後隕石にぶつかったんだ。

 

 そのせいで計器類が諸々バグって、アルゴリズムもバグり散らかして……ああもうあんなやわなプログラム組んだの誰さ!

 

 まあかぐやなんだけど。

 

 ……なんて、言えればよかった。

 

 

彩葉、彩葉?

 

ねえ、彩葉……?

 

彩葉……!

 

彩葉っ!!

 

彩葉ぁっ!!!

 

 

 叫ぼうとも、駆けようとも、身体は全く答えなかった。

 

 水面を見ると、そこに映っていたのは青い空だけ。

 

 そこにない何かが覗き込んでいるのだと気がついた。

 

 どうしよ、「擬態」に失敗したんだ。

 

 月人は実体を持たない思念体、ツクヨミの中にしか存在できないアバターのような存在だ。

 

 だから月の外に出る時は月製の舟「もと光る竹」を使って着陸した星の環境を調べ上げ、最適化された肉体を構築する必要がある。

 

 けれど、その機能は今や完全にお亡くなり。

 

 

ねえ、「もと光る竹」、応答して。

 

応答してよ。

 

応えてよ。

 

……ねえ、これじゃあ本当に失敗しちゃったみたいじゃん。

 

あんなに頑張って、全部シュミレートして、なのにかぐやちゃん力及ばず?

 

ねえ、ねえってば。

 

なんか言ってよ、動いてよ。

 

 

 ……なんて、動かないのは自分が一番よく分かってる。

 

 ほら、一番頑丈な扉って、一番開けにくい扉でしょ?

 

 このシステムもそういうこと。

 

 ああ、これだから冷静になるのは嫌だった。

 

 だって、この状況がどれだけ絶望的か分かっちゃうから。

 

 死に至る病は私を殺すことなく、体の隅から隅までを余すことなく、長い、長い時間を掛けて呑み込んでいった。

 

 

ああ、ドジっちゃった。

 

 

 たったそれだけの後悔一つが、何十、何百、何千、何万、あるいは何十万の夜を越えた。

 

 

……この一瞬を、最高の、パーティーにしよ……

 

 

 そして何百万と、私達のためのメロディを口ずさみながら、彩葉とツクヨミのことを思い出す。

 

 めっちゃ頑張ったヤチヨカップ、超強かった黒鬼、めっちゃくちゃ楽しかったコラボライブ、悲しかったけど、それでも笑ってお別れできた卒業ライブ……

 

 あの日々がまだ私を私でいさせてくれる、楽しかった記憶が足元を照らしてくれる。

 

 そして、ようやくそれを受け入れる決心がついた。

 

 違和感があった。

 

 地球は他の技術に比べて明らかに、ツクヨミ絡みの、インターネット技術だけがずば抜けて発展していたから。

 

 あの時、ツクヨミは月に似てるって言った。

 

 でも、それは当たり前だったんだ。

 

 だって、ツクヨミは月の技術で作られていたんだから。

 

 

じゃあ、誰が作ったのか。

 

 

 疑問符じゃない。

 

 それが、そうだと認めるために。

 

 自分を納得させるために。

 

 そして私は、一つ、心に決めた。

 

 もう、「かぐや」としての時間はおしまい。

 

 この先、奇跡的に誰かに出会えたとしたら、その時はこう名乗ろう。

 

 ──「ヤチヨ」、と。

 

 

 

 

──現地知的生命体の接触を確認。活動体を構築します──

 

 

 そんなアナウンスが唐突に響いたのは、多分二千年くらい経ってからのことだった。

 

 不完全で故障済みなプログラムは近くを泳いでいたウミウシを読み込むと、犬DOGEとしてそれを出力する。

 

 間違いなく、それが最後のチャンス。

 

 私はそれに相乗りする形で、ウミウシの身体に意識を移した。

 

 彩葉に会うための、長い旅がようやく始まった。

 

 

「なんと電柱から、それはそれは可愛い女の子が! それを拾った彩葉は──」

 

 

 物語を語ってあげた女の子も、

 

 

(いまし)は吉兆に違いなし、妾とともに行かぬか?」

 

 

 私を釣り上げた女王様も、

 

 

 「罪ある者も、それを償う余裕がない者も、みな等しく救われなければならないのです」

 

 

 村を渡り歩いたお坊さんも、

 

 

「だってさ、すごく素敵なことじゃない? 自分とは違う誰かを好きになるって」

 

 

 恋多き乙女な歌人も、

 

 

「作らなければ。貴族のためじゃない、人が人を支える時代を」

 

 

 初めて武士の世界を作った若武者も、

 

 

「生きよ、生きよ、たんと生きよ。……会いたい者が、いるのだろう?」

 

 

 燃え盛る城の中で別れを告げたお姫様も、

 

 

「だからさ、ムカついた時ほど笑ってやるんだよ。嫌なことに負けないようにさ!」

 

 

 二人三脚でトップの太夫を目指した花魁も、

 

 

「今日より明日、明日より明後日は必ずいい日になる。……君の活躍する時代を、俺も見てみたかった」

 

 

 浪漫を求めた文豪も、

 

 

「私にはここなの。これまでの素敵な時間も、これからの素敵な時間もあるから」

 

 

 空襲が薙ぎ払った街跡で美しい花を売り続けた女の子も……みんな、みんな全力で生きて、懸命に走って、時間の中に消えていく。

 

 沢山の人と出会って、沢山の人と別れて、思い出す度に私の内側に消えない傷が増えていく。

 

 助けられたかもしれない人、まだ続きがあったはずの人、死んでほしくなかった人。

 

 思い出すと、いつも彼女の顔が頭に浮かんだ。

 

 たった十数年の人生を賭して、私のために「かぐや姫」を書き上げてくれた女の子。

 

 最期は結核で毎日のように血を吐きながらも、あの綺麗な顔は綺麗なままで亡くなった。

 

 ……ああ、そうだ。

 

 桃華は、彩葉と同じ表情(かお)をしてたんだ。

 

 だから、すぐに好きになった。

 

 「かぐや」ではなく、「ヤチヨ」として。

 

 

──Hello,World!

 

 

 人の歴史は血と戦争の赤で真っ赤に染まっているけど、そのお陰で技術はどんどん進み続けた。

 

 電話、ラジオ、映画、テレビ、そしてワールドワイドウェブ……つまり、インターネット。

 

 ウミウシの身体で、必死にキーボードを打つ。

 

 何千年と思い続けてきたあの日常が少しずつ、本当に少しずつ迫ってきている。

 

 もっと技術が進歩して、あの「もと光る竹」をつなげたら……本当に、ツクヨミが作れるかもしれない。

 

 あの日々の記憶を必死に思い出しながら、「月見ヤチヨ」を創っていく。

 

 彩葉に気付いてもらえるように、桃華に気付いてもらえるように。

 

 そんなラストスパートの中で、私はウミウシとして最後の友人となる人間と出会った。

 

 男はワイングラスを揺らしながら、私を一切疑うことなく、自らがCIAの人間だと告げた。

 

 天のめぐり合わせだと思い、私は意を決して素性と、やりたいことをありったけ打ち明けた。

 

 青い目を向ける彼は笑ったが、嗤わなかった。

 

 

「……なるほど。正倉院の国宝を盗み出してほしい、そういうことだね」

 

「うん。でも──」

 

「いいとも。この国で出会った、もっとも小さい友人のためにね」

 

 

 彼は底抜けの快男児だったのか、あるいは狂人だったのか、二つ返事でそれを引き受けた。

 

 「ノルマは上司を誤魔化してどうにかするさ」なんて少し癖のある、けれど爽やかな笑みを浮かべて、彼はそのために時間を使ってくれた。

 

 

「一緒に来ないか?」

 

 

 全てが終わった後、彼は私に持ち掛けた。

 

 「やりたいことがある」と断ると、彼は「もと光る竹」の入ったトランクケースを私に託し、また笑った。

 

 歯を見せ、伊達男のようにウィンクしながら。

 

 

「極上のワインは時間が経つほど深まる。悪いことばかりじゃないさ。……どこかで、また飲もう」

 

 

 そう、別れを告げて。

 

 それから、さらに数十年が経った。

 

 仮想世界ツクヨミのプロトタイプが出来上がり、「月見ヤチヨ」が出来上がる。

 

 デビュー曲は……もちろん、何万回何億回と歌い続け、変奏し続けた、彩葉達と一緒に戦って、お別れしたあの曲。

 

 

「──大切なメロディは──流れてるよ──」

 

 

 ああ、楽しい。

 

 八千年ぶりに自らの言葉で歌える。

 

 覚えてるヤチヨのライブよりはずっとお客さんも少ないけれど、それでも、本当に楽しかった。

 

 それから何度も、何度もライブを開いた。

 

 飽きることも、嫌になることだって、たった一回すらなかった。

 

 今日は来るかな、今日こそ来るかな、歌って踊りながら、ステージの上からあの子達を探す。

 

 狐耳を探し、あの子はどんなアバターを選ぶかなと心を躍らせる。

 

 お客さんの中に彼女達の面影を見つけては、そこへ向けて歌声を届ける。

 

 それを繰り返して、あっという間に時間は経って、とうとうその日は訪れた。

 

 泣くのかな、泣いちゃうのかな、そう思っていたけれど、私はずっと、ずっとずっと……精一杯の笑顔で歌って、踊って、輝いていた。

 

 

ああ、そっか、そうだったんだ。だから「ヤチヨ」は……ずっと、いつもあんな楽しそうに……笑ってたんだね。

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