超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!!   作:あるふぁせんとーり

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Ex-第6話 feat.彩葉 スーパーフォルテッシモ!!

「彩葉……? 桜楽……?」

 

 

 私の声だ。

 

 私があの子と、桃華を呼んでいる。

 

 

「ねえ……ねえってば!」

 

 

 違う、違う。

 

 そうじゃない。

 

 揺さぶられて、私はようやく気がついた。

 

 ゆっくりと開いた目を、ヤチヨが覗き込んだ。

 

 いつのまに握っていた手に僅かに力が籠もり、桜楽もそれを握り返す。

 

 私達はテクスチャの剥がれた、無限に広がる水面の上で目を覚ました。

 

 

「ヤチヨ……?」

 

「……おは、よう」

 

「お馬鹿……2人とも、死んじゃうよ……」

 

 

 前もこんなことあったっけ。

 

 体調崩して、ぶっ倒れて。

 

 また心配かけちゃったな。

 

 

「……ありがとう、かぐや、ヤチヨ」

 

 

 私は彼女の知る彩葉ではないし、彼女も私達のかぐやじゃないけれど。

 

 それでも私達は彼女を包むように、ぎゅっと2人で抱き締めた。

 

 

「……私ね、前の彩葉よりずっとすごいんだよ。お母さんとも話せたし、バイトだって休めたし、学校だってサボれるようになったよ。……だから、もう大丈夫。私も、桜楽もいる。2人ともヤチヨに見守られて、立派に育ったよ」

 

「……」

 

「探してくれてありがとう。待っててくれてありがとう。……お疲れ様、すごく頑張ったね」

 

 

 そう言って、桜楽はヤチヨの頭を撫でた。

 

 ヤチヨは私達の顔を、もう一度真っ直ぐ見る。

 

 彼女の目の中には、確かにかぐやがいる。

 

 

「──もう、これで終わったってよかったのに──」

 

 

 まるで迷子が両親に見つけてもらったみたいに、彼女は私達の胸元で泣いた。

 

 待たせちゃってごめんね。

 

 私達、やっと追いついたよ。

 

 いつかの日、初めての日のように、あの旋律を2人で口ずさんだ。

 

 

──大切なメロディは──流れてるよ──あなたのハートに──

 

 

 それに重ねるように、震える声で彼女は紡ぐ。

 

 

──この一瞬を──最高のパーティーにしよ──

 

 

 そして、桜楽がヤチヨの手を取った。

 

 ピースして、星を作って、三角に重ねて、最後は狐でコーン。

 

 なかよしのやつ。

 

 慣れてない、まだ知らない不器用な指先を2人で支えて。

 

 そして3匹の狐が頭を合わせると、ヤチヨは溢れ出そうな感情を抑えながら、笑顔を作った。

 

 

「……ずっと、思い出すんだ。彩葉の手って、あったかかったなって」

 

 

 ……そっか。

 

 

「また彩葉とパンケーキ食べたいなぁ。……私も桜楽と食べ歩き、してみたかったぁ……」

 

「……ならさ」

 

 

 ボサボサに乱れた髪を耳に掛けながら、桜楽は私とヤチヨの顔を覗き込む。

 

 

「もっと、先に行こ。ハッピーエンドも、超ハッピーエンドだって越えて……もっと、もっといいゴールに」

 

「もっと……?」

 

「だってこのままだと、またかぐやは1人で泣くことになっちゃう。たとえヤチヨとして彩葉と再会できるとしても、……もしかしたら、次は私はいないかもしれない。……そんな思い、かぐやにしてほしくない」

 

 

 そうだ。

 

 ここで終わらせる、ここでハッピーエンドにするっていうのはそういうことだ。

 

 私達2人のかぐやは、まだ月に残されたまま。

 

 また……あの耐え難い八千年が始まってしまう。

 

 

「だから、もう一度書き直そう。パンケーキも食べて、食べ歩きもして……もう誰も泣かなくていい、もう繰り返さなくていい……そんな、最高の結末」

 

 

 ヤチヨは目を見開いた。

 

 存在していない宝物を、見つけたみたいに。

 

 「そんなの、あるの?」と震える声で彼女は桜楽へ問いかける。

 

 

 「……桃華はね、ずっと考えてたんだ。ヤチヨと一緒にかぐや姫を書いてた、あの時から。どうやったら、ハッピーエンドになったのかなって」

 

「でも、桃華は……」

 

「うん、それを書く前に亡くなった。だからきっと……私が引き継いだんだよ。かぐやが、ヤチヨがそうしたみたいに。桃華の物語、桃華の思いを、私が」

 

 

 そうして息を吸い込んで、桜楽は強く、強く言った。

 

 

「……かぐやを、月から取り返そう」

 

 

 不可能だと思った。

 

 絵空事だと思った。

 

 当然だ。

 

 相手はツクヨミを自らの庭のように踏み荒らし、なす術なくかぐやを連れ帰ったこの世ならざるもの。

 

 いくら桜楽だって、ヤチヨがいたって勝てるはずがない。

 

 そんなネガティブが頭を埋め尽くす。

 

 一度瞬きして、もう一度彼女の目を見るまでは。

 

 

「……勝てるの?」

 

「勝つよ。絶対に勝つ。きっと私は……そのために、かぐやと彩葉の物語に追いついたんだから」

 

 

 縋るようなヤチヨの言葉に、桜楽はそう言い切った。

 

 「輪廻からは逃れられない」とヤチヨは言った。

 

 でも、それが出来るなら話は別だ。

 

 月から八千年前に飛ぶ前のかぐやを取り戻す。

 

 一周前の「かぐや」とこの世界の「かぐや」が重なっている今なら、輪廻を終わらせるチャンスがある。

 

 

「……やろう」

 

 

 私は頷いた。

 

 

「ヤチヨ、手伝って。私は桜楽を信じる、桜楽も私を信じてくれる。そして私達はヤチヨを信じてる。だから……ヤチヨも、私達を信じて!」

 

 

 言葉のつっかえたヤチヨに、私達は手を伸ばす。

 

 

「……、……敵わないなぁ、2人には」

 

 

 泣きながら、笑いながらヤチヨはその上に手を重ねる。

 

 

「「「最高の、ハッピーエンドにする!!!」」」

 

 

 そう誓って、私達はヤチヨの下を後にした。

 

 2人して寝間着のまま駆けた夕暮れの街は、びっくりするくらい明るく見えた。

 

 

 

 

「ストップ」

 

 

 マンションのエントランスまで戻ってきた私達の背中を、聞き慣れた声が呼び止めた。

 

 

「……芦花?」

 

「……私言ったよね、次未読無視したら凸るって。……分かってるよ、2人がかぐやちゃんのために色々やってるの。でも──」

 

 

 泣き顔と怒り顔を混ぜたような、そんな表情で芦花は私達に訴える。

 

 

「……もっと、頼ってよ。私だってかぐやちゃんが好きだった。桜楽のことも、彩葉のことも大好き。 ……お願い、私にも手伝わせて。私、2人の力になりたい。……もう、見てるだけじゃ嫌なの」

 

 

 そう言って、芦花は一枚の紙を取り出した。

 

 進路希望調査表。

 

 第一志望は──「東京大学 文科二類」。

 

 

「……追いかけても、いい?」

 

 

 僅かな沈黙を挟んでから、桜楽は微笑んだ。

 

 

「ありがとう、芦花。私達のこと、好きでいてくれて」

 

 

 それから、彼女は私の答えを待つようにこちらへ視線を向ける。

 

 私は、芦花の黒い、明るい瞳に目を合わせた。

 

 

「……芦花。私も、芦花のことが好き。友達としてか、女の子としてかは分からないけど……それでも芦花が好き。それでいいなら、芦花の気持ちに応えたい。……全部話すよ。今まで何があったか、これから何をするのか。だから……私達と、一緒に来て」

 

「……もちろんっ……!」

 

 

 泣きそうな顔で、芦花は応えてくれた。

 

 目標は2年後、2032/09/19の満月。

 

 かぐやを取り戻す、最後の戦い。

 

 ……そうだ、歌を作ろう。

 

 かぐやが、私達が迎えに来たって、すぐに分かるような。

 

 ハッピーエンドさえ飛び越えちゃう、そんな最強の歌を。

 

 タイトルは──

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