超かぐや姫 スーパーフォルテッシモ!! 作:あるふぁせんとーり
『なんとなんと、今日からヤチヨの配信に新しいメンバーが増えちゃいま〜す! 2人とも自己紹介どうぞ〜☆』
『さk……いろPです。かぐやの作曲と、キーボードやってました』
『さくDで〜す。ギターとグラ、あとシステム作ってました〜』
かぐやが帰ってから数ヶ月、間もなく一年が終わるという12月。
私達は相変わらず、忙しい日々を送っていた。
芦花のことといい、かぐやは私達の考えていた以上にかぐやがいなくなった後のことを考えていたようで、私達がヤチヨの方に移ることになってからも、こういうのにありがちな「踏み台にした」だの「乗り換えた」だの「結局金」などといった批判もほとんどない。
『ヤチヨ、いろPとさくDはまかせたかんな!!』
そんなことを、卒業寸前のインタビューで答えていた。
「何立派に終活してくれちゃってんだ」とムカつく気持ちと、1人で帰る準備をしていたことが寂しい気持ちと、子供の成長は早いという親の気持ちが混ざって、それを見る度何とも言えない複雑な気分になっていたが、今となっては「何言ってんだお前も帰ってくるんだよ」と気合を注入してくれる魔法の動画だ。
身の回りの話で言うと、ついこの前バイトをやめた。
バイトをしないと生きていけない生活じゃなくなったということ、バイトの時間が勿体ないと思うようになってしまったこと、色々重なって辞める方向で決心がついたのだ。
もちろん私は完璧女子高生、引き継ぎは完璧に済ませた上で私のありったけのノウハウを詰め込んだ新人教育マニュアルまで用意してからの円満退職である。
空いた時間は今まで通り……よりは少しだけ余裕を持った勉強と作曲、そして配信活動。
ヤチヨの手伝いをしたいというのがまず1つ、ピアノの演奏がすごく楽しいと思えるようになったのが1つ、そしてもう1つ……かぐやの復活ライブまで、みんなにかぐやのことを忘れないでほしかったから。
「いろP」や「さくD」が活躍する度、リスナーは「かぐや」のことを思い出す。
それがヤチヨと組んで、あるいは1人でだって私達の活躍はかぐやの活躍になる。
私はそれが何より嬉しくて、誇らしかった。
「桜楽〜、お給料振り込んどいたから確認しといてね〜」
「りょうかーい」
桜楽は同じようにヤチヨや私の配信を手伝ったりしながら自分のチャンネルで趣味のRANSEをやったり、ヤチヨにツクヨミ運営に誘われて新機能を作っていたりと充実しているみたいで、最近は競技プログラミングなんかでも結果を出しているらしい。
その甲斐あってと言うべきか、長らく守り続けてきた数学学年1位の座がとうとう陥落してしまった。
「おめでとう」と祝福一辺倒というには少し悔しかった反面、かえって肩の荷が少しだけ下りたような気もした。
……いや、やっぱ悔しいな、マジで。
でもそう考えると、一番生活が変わったのは芦花かもしれない。
「彩葉、ご飯できたよ」
「オッケー、桜楽呼んでくる」
最初は週一くらいだったのが次第に週二、週三と頻度を増していき、今では「目離したらご飯抜くでしょ?」と学校帰りのほとんど、それどころか週末でさえ作りに来てくれるほど。
流石に一方的じゃ申し訳なさすぎるのでこちらで一部屋用意し、お泊り用の日用品を買い揃えるくらいはして、実質的な半同棲状態になっている。
向こうの親御さんに芦花が悪い男でも作ってるのではと思われている可能性を考えるとかなりドキドキする。
やっぱ一度挨拶に……って、そんなのは今はよくて。
芦花の変化はそれだけにとどまらず、インフルエンサーとしての活動はSNSから配信や動画投稿メインに、学校の成績もここ数ヶ月で目を見張るほどの右肩上がりと、元々要領のいい彼女は今まで以上の躍進を見せていた。
「いつか自力で3人とコラボできるようになる」
そんな目標を掲げてひた走る芦花はヤチヨカップの頃のかぐやとどこか重なって、今まで通り美容系の発信をしつつもゲームや料理など様々なジャンルに挑戦するようになった芦花のことをリスナーは好意的に受け止め、また芦花自身も度々かぐやの配信に顔を出していたこともあって伸びる土台も十分であり、この数ヶ月でファン数は数倍、間もなく80万にもなろうというところ。
最近ではブランドコラボの話なんかもあったみたいで、あちこちで今の注目株として名前が上がる程度には芦花も大活躍中というところで、私達は一大イベントを迎えようとしていた。
何を隠そう、冬休み直前三者面談である。
私は芦花特製の海鮮ゴロゴロ絶品クリームパスタを頬張りながら、面談で見せる予定のお互いの将来設計書を確認していた。
「まず、私と桜楽が東大理一、それぞれ機械情報工学科と物理工学科を目指す。それで
芦花は──」
「うん。私は文二から経営学科。それが一番、2人の力になれると思うから」
「今回のテスト、上手く行ってよかった〜」と芦花は胸を撫で下ろしながら笑う。
元々進学校の武蔵川で中の上くらいの成績があった芦花はこの前の期末で大爆発、どの科目も9割越えをマークし、どう計算しても難易度的に30位は下回らないほどの結果を叩き出した。
これなら先生やご両親も、芦花の東大受験を現実的な選択肢として認めてくれるだろうとご飯のお礼に勉強を手伝っていた私も思わずガッツポーズ。
この数ヶ月、もっと具体的に言うとコラボライブ以降、私は一つ気付いたことがある。
それは簡単、「私が死ぬほど頑張ればどうにかなりそうな問題は手伝ってもらえば死にかけなくてももっと良い感じに片付く」ということ。
自分が末っ子だということを思い出し、甘えること、頼ることを覚えた今の私は史上最強の酒寄彩葉である。
なにせ2人や真実、ヤチヨに帝どころかお母さんにすら頼る覚悟がある──なんて考えていたところで、ちょうどスマートフォンの着信が鳴り響く。
私は一瞬席を外し、今度は躊躇うことなく電話を取った。
「もしもし、お母さん?」
『よろし。電話はワンコール、社会人の基本や』
「そりゃどうも。んで、今日は何の用? まさか、明後日の面談来れなくなったとか?」
『逆や逆。面談の後、夕飯でもどうか思たんやけど。いかつい寿司かごっつい肉でも連れてったるわ。えらいべっぴんさん2人も囲うとるみたいやし、連れてきてもかまへんで』
何か憑き物でも落ちたのか、あの夜以来のお母さんの声は大昔の記憶、お父さんが生きていた頃のようだった。
躊躇うものじゃないと、私は意を決して口にした。
「お母さん、明るくなったなぁ」
『あんたと同じや。怖くて目ぇ逸らしてたもんも、いざ見てみればあっけなく受け入れれることもある。寂しい思いさせてすまんかったな、彩葉』
驚くほどスムーズで、自然で、あり得なくて、逆にスルーしてしまった。
謝った?
あの、お母さんが?
『んで、あんたどっちがいい? 寿司と焼肉、どっちでもええけど』
……いや、これでいいか。
「……だったら、私回転寿司がいい。一回行ってみたかってん、お母さんと」
『ええで。用はこんだけや、ほな』
そう言って、彼女はあっさりと電話を切った。
ふと窓の外を見ると、ちらほらと舞い踊る雪。
ここ数日は優しい雪が降ると、天気予報が告げていた。。